初めての実戦
俺達は依頼の森に来ていた。街道からすぐ近くの強い魔物の発見例のない自然豊かな森だ。
「ねぇ、こんな広い森からどうやってゴブリンを見つけるの?」
フランは疑問をそのまま口にした。
「俺には強化の魔法がある。聴力や気配を感じる力を強化すれば、遠い範囲まで知覚出来る」
「そんな事も出来るのね、てっきり罠かなんか仕掛けて待つのかと思ったわ」
「依頼の期間に余裕があるから、罠を仕掛けるのも悪くはないが、ゴブリンだけを狙える訳じゃないからな」
「強化しか使えないのに、ラスティーの場合はその幅が広くて割りと何でもありね」
「そうでもないさ、俺一人ではマリーの致命傷を治す事は出来ないし、敵の弱点の属性の魔法を使う事も出来ない。俺は戦う事位しか出来ないさ」
(そうだ、俺は家族が奴等に致命傷を受けて死ぬまで何も出来なかった)
「そんな事ない!ラスティーがいなかったら今もマリーと一緒にいられなかった!貴方は私達の命の恩人だし、素晴らしい力の持ち主だわ!」
俺が悲観的な意見を言うと、興奮気味に俺の意見を否定した。
俺はフランの言葉に少し心が暖かくなるのを感じた。二人を助けられて良かったと思った。
「ふっ、そこまで言うなら、その素晴らしい物を揉まさせてくれ」
俺は手をイヤらしくワシャワシャした。
「なっ!・・・貴方は人が真面目に感謝してることを伝えてる時に!」
フランは顔を赤くして、胸を手で隠した。マリーは笑っていたがフランは冗談に捉えなかったのか、ぶつぶつ文句を言ってきた。そんな冗談を言ってたらゴブリンの気配を捉えた。
「このスケベ!本当はそれが目的で私達を奴隷にしたのかしら?」
「おい!」
「何よ!」
「ゴブリンの気配を捉えた、冗談言ってないで行くぞ!ここから東に500メートル位だ」
俺はゴブリンのいる東に歩き出した。
「冗談・・だったの?・・・」
「フランが感謝を間近で述べたので、ラスティーさんなりの照れ隠しですよ」
フランは冗談に気付かず本気で怒ってしまったことに、微妙な顔をしていた。しかしマリーよ、照れ隠しまで伝えなくても良かったのに、出来るだけゴブリン共に気づかれない様に、残り100メートル迄近づいた。
「どうやら依頼の十体と同じ数のようだな」
「この距離で数まで分かるの?凄いわね」
「ここまで近づけばな、俺が七体仕留めるから二人は残り三体を頼む」
「分かりました」
「分かったわ」
二人は顔を緊張で、強張らせながら了承した。
「もうすぐゴブリンが見えてくるはずだ。俺が突っ込むから、二人は距離をとって魔法で狙え」
ゴブリンが見えてくると、俺は駆けた!ゴブリンは俺の接近に驚き、慌て出した。俺はネギを抜き戦闘体勢に入ってない二体を瞬く間に殴り倒した。残りの八体は漸く俺を敵だと理解したのか戦闘体勢になり襲い掛かって来た。ナイフを防ぎ殴り付け、棍棒をかわして、また殴る。俺の基本戦術だ。ゴブリンは残り三体になると、勝てないと分かりフラン達の方に逃げ出した。
俺はお手並みを拝見するため、ゆっくりゴブリンを追った。
ゴブリンはフラン達に気付くと武器を振り上げ接近した。二人はゴブリンに魔法を唱えた。
「火よ敵を焼け『火球』」
「氷よ敵を撃て『氷球』」
二人の魔法はゴブリン一体ずつに命中してゴブリンを倒した。残り一体は雄叫びとともに二人に接近した。
「ガアァァァ!」
二人は雄叫びに萎縮していた。ゴブリンはマリーにナイフを振り下ろした。マリーは何とかナイフで防いだが力で押しきられ転ばされた。素早く立つがゴブリンは狙いをフランに切り替えていた。フランは萎縮して何も出来なかった。
「いや、来ないでぇー!」
フランは目を瞑り動けなかった。マリーはフランを助けようと駆けたが間に合わない。今にもゴブリンのナイフはフランを切り裂こうと、振り下ろす所だった。
その時ゴブリンはダダダという擬音とともに何かに貫かれ絶命した。
二人には何が起きたのか分からなかった。
「大丈夫か二人とも」
俺は二人が怪我してない事は分かっていたが一様聞いた。
「ラスティーが助けてくれたの?どうやって?」
フランは余程怖かったのか涙目だった。
「これを使った」
俺はそう言うと手に握っていた小石を見せた。
「石?そんな物でどうやって?」
「俺の魔法は強化だって教えたろ、石を強化して硬度を上げて、身体強化した力で弾くとこうなる」
俺は拳を握り片手で人差し指の上に置いた小石を親指で弾いた。
狙った木がバン!という音ともに抉れた。
「いわゆる指弾ってやつだ」
二人は目を大きく開いて固まった。
「メチャクチャねそんなの見たことないわ」
「私の知っている指弾と全然違いますね」
二人とも呆れていた。
「でもそんな事出来たならもっと早く助けてくれても良かったじゃない!」
ふむ、確かにもっと早く助けることは出来た。
「それじゃあ、成長出来ないだろ?これからパーティーを組むんだから、依頼によっては危険も伴う。自分の身は自分で守れるようになってほしい。勿論本当に二人が危なくなったら、さっき見たいに俺は助ける」
「う~、分かったわ」
「まぁ初めての実戦でゴブリン二体倒したし、そこまで悪くはなかったぞ」
さて、ゴブリンも討伐したし片付けて帰るかな。
「ゴブリンの討伐を証明するのは耳だ。今から一緒に削ぎ落とすぞ」
そう言うと二人の反応は違った。
「分かりました」
「えっ、アレの耳を削ぎ落とすの?嫌よ!」
元貴族の女の子には少しハードルが高いのかねぇ。でもこれからは冒険者の仕事に馴れてもらわないと困る。そんな考えで俺は言葉を発したが言葉遣いを間違えた。
「駄目だ!これからは冒険者をやるんだから『やれ!』」
「え~、でも・・・ぐっ・・あっ!」
フランは急に首輪を握り苦しみ出した。
しまった!俺の命令口調の言葉に否定したフランに首輪が反応した。俺は急いで命令を否定した。
「フラン今の命令は無しだ!」
すると首輪は、フランを苦しめるのを止めた。
「済まない、命令するつもりじゃ無かったんだ!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、分かってるわ」
苦しかったのだろう、フランの息づかいは荒い。首輪は、主の命令を否定する返事、動きに反応して激痛を与える。
「大丈夫かフラン、本当に済まない」
「大丈夫よ、改めて自分が奴隷なんだと認識したわ」
「俺はお前らをそんな風に見たことはない!」
「ありがとう」
その後は、少し気まずいながらも、俺達はゴブリンの耳を削ぎ落とす事にした。
削ぎ落としを終わらせた俺達は森をあとにすべく街道に向かった。街道に近づくと悲鳴が聴こえて来た。
「キャァー!」
俺達は悲鳴の聴こえて来た方に走った。
現場に着くと、高級そうな荷馬車が盗賊に襲われていた。昨日といい今日といい盗賊に良く会うな。良く見ると護衛を雇っているようだが、盗賊の方が人数も実力も上みたいだ。
それにしても昨日の盗賊と違って統率のとれた盗賊達だった。余程お頭の能力が高いのだろう。
このままでは、護衛が殺られるのは時間の問題だろう。
次回はフラン視点になります。