あり得ない行動と拒絶の言葉
私とリースはラスティーに抱きしめられたまま、1分近く過ぎていた。
「ちょっと、ラ、ラスティー?どうしたのよ、その・・・何で急に抱きしめるのよ」
私は弱々しくもラスティーに聞いた。
「・・・」
しかし、ラスティーからの返事はない。
このままでは良くないと思い私はラスティーから離れようと動いたら、ラスティーは私を抱きしめる手に力を込めて、さっきより引き寄せられて密着度は高くなってしまった。
もう!どうしたら良いのよ!力でラスティーに勝てる筈もなく私はラスティーにされるがまま抱きしめ続けられた。
あっ、因みにリースは抵抗などする事もなく抱きしめられていた。むしろ最初こそは驚いて照れていたが、今では自分からラスティーの背に手を回していた。
この娘はこの状況を打開するのに役に立たないのは目に見えていた。
一緒に抱きしめられているリースは役に立たないので私はマリーに助けを求めた。
「マ、マリー助けて」
「・・・何を助けて欲しいのですか」
マリーが少し冷たかった。
「何をってこの状況よ!」
「状況とはラスティーさんに抱きしめられている事ですか?」
「そうよ!」
う~、改めて抱きしめられていると思うと恥ずかしいわ。
「嫌なのですか?」
「えっ!嫌とかじゃ・・・ってそう言う事じゃなくて!ラスティーの様子がおかしいでしょ!普段彼はこんな事しないじゃない。返事もないし、だから早く何とかしようと貴女に助けを求めたの!」
「つまり嫌ではないんですね」
「何でそんな事聞くのよ!今はそんな場合じゃないでしょ!」
「・・・羨ましいです」
凄い小さな声だったけど、その声は聞き取れた。
そう言えばリースが仲間になる前にマリーはラスティーの事が好きだと私はマリーから聞いていた。でもだからって今嫉妬しなくても良いじゃない!・・・いや、今だから嫉妬したのかな、好きな男が自分じゃない女の子を抱きしめる状況を見て嫉妬したのだろう。
普段リースがラスティーに抱きついてもマリーは嫉妬しない、でも今はラスティーがリースや私を自ら抱きしめているのだ。いつもと状況は似ていても意味が違う。
「はぁ~分かりましたラスティーさんを止めれば良いんですね?」
マリーがため息をつきながら、渋々此方に歩を進めた。
良かったこれでこの状況を何とか出来ると私は思い安堵した。
しかし、私の認識は甘かったのだと思い知らされた、そのあり得ない言葉を聞いて。
「“動くな”」
それは確かにラスティーの口からラスティーの声で発声されていた。ずっと返事すらしてくれなかったラスティーが発した言葉がそれだ。それは間違いなくマリーに向けた【命令】だった。
私とマリーは信じられない者を見る目でラスティーを見た。
あり得ない!ラスティーが命令をした。ラスティーが私達に命令するなんて初めてだ。ゴブリンと初めて戦い討伐証明部位を切り取る作業を嫌がり誤って言ってしまった強い口調を除けば命令した事はない。というかあれ以来ラスティーは間違って命令しないように私達に出来る限り柔らかい口調を心掛けていた。間違って命令してしまっても怒らないわよと前に言ったことがある。でもラスティーは私達を奴隷扱いしたくないからって言っていた。
ラスティーに出会って始めの頃、その言葉を聞いて他人に全く優しくないのに知り合いには優しい不思議な人って、心の中で笑った事があった。
マリーは動かない、首輪が命令を聞いて作用してるのだろう。命令されると首輪から変な感覚が伝わって来るのよね。作業を嫌がって間違って命令された時、変な感覚があった。首輪をしてるからって命令されたらそうなる訳じゃない。自分の意思は勿論あるし、命令に反して動く事は出来る。でも結局は意味はない、命令に反して動くと首輪からあの痛みが!あの絶望的な痛みがくるのだ!身体を引き裂かれたような、貫かれた様な激痛が絶え間なく与え続けられる。意識を失うことも出来ないそんな状態は心が直ぐに折れてしまう。あんな痛みを少しでも味わうくらいなら嫌な事でも命令に従う方がマシよ!と私は思う。実際私は男の主に体を弄ばれる様な命令をされた事はないけど、世の女奴隷は男の主に大体その手の命令を受けて従っているところをみるに、やはりあの激痛の方が辛いのだろう。それを分かって命令してるのだから最低なのだ。だからこそ隷属の首輪をされた時点で自殺しようとするものもいる。リースがそうだったわね。主を得た奴隷は命令がなくても、自殺は出来なくなる。それは奴隷が主の所有物になるからだ。主の許可なく自ら死ぬ事は出来ない。それと奴隷は主を殺すような行為も出来なくなる。どういう原理かは分からないけど、この二つはやる前に首輪が察知して激痛が走り出来なくなる。死んでしまいたいのに死ぬより辛い痛みが来て死ねないとは酷い話よね。
「ちょっと!ラスティー本当に変よ!貴方らしくない」
「ラスティーさん、何故私に命令するのですか?」
私達は思った事を口にしたが、ラスティーから返事はなかった。
ヤバい、どうしよう、ラスティーが奴隷に命令するなんて想像もしていなかった事が起きた。動くなと言ったからマリーはあの場から動けない。期間を決めてない命令は二十四時間続く、命令を解除しない限りマリーは自らの意思では動く事は出来なくなった。逆に言えば期間さえ言えば命令は続く。例えば三日間何々をしろと言えば命令は三日間続く。達成出来る命令ならば達成した時点で命令は終わる。どうしたら良いか分からず考えていると、ラスティーは私とリースをクルっと回してラスティーに背を預ける感じで抱きしめる形をとった。
「ちょっ!えっ!何?」
訳が分からない何なのよ。
「“抵抗するな”」
しまった!今度は私と多分リースにも命令してきた。しかも抵抗するなとは動くなより幅が広い命令だ。この場から逃げる事は勿論、ラスティーが私達に何しても抗えない事になる。
どうしたら、この言葉を今日何回使っただろうか。そう思っていたとき、ラスティーが動き出した。
私のお腹辺りにあった手が徐々に上に登り始めたのだ。
嫌な予感がするラスティーを止めなくては。
「ラ、ラスティーこんな事は止めて!冗談にしては質が悪いわ」
ラスティーに変化はなかった。
激痛が来ないということは言葉を発する事はどうやら抵抗するなの命令に反しないようね。
ラスティーの手は止まらず遂に私の胸まできた。その手は通り過ぎる事はなく私の胸を揉みだした。
「んっ!ラス・・ティー!あっ!もうっ!止め・・て!本気なの・・・」
ラスティーの手は止まらなかった。それだけではない、最初は服の上からだったが、遂には私の服の中に手を突っ込み直接揉みだしたのだ。
「あんっ!・・・そこは!んっ!」
隣から艶やかな声が聞こえて隣を見ると、鎧の中に手を突っ込まれて胸を揉まれている頬を紅く染めたリースがいた。
マリーも私とリースも何も出来ない。どうしたらと思っていたときサクラが目に入った。相変わらず手で目を覆っているがVの字に開いているためこっちをおもいっきり見ていた。
「サ、サクラ見てないで助けて!貴女しか動ける人がいないのよ!貴女はラスティーの奴隷じゃないし命令されないから動けるでしょ!」
『で、でも今のラスティーに近づいて大丈夫?』
サクラが弱腰だった。大丈夫と言われれば大丈夫よと、はっきりと言えないのが今の状況だ。でも何とかしないと、いつまで胸を揉まれているかも分からない。それだけじゃない胸で満足せず、その先も・・・って私何想像してるのよっ!
「お願いサクラ今貴女しか頼れないの!助けて!」
『う、うん』
私の必死のお願いにサクラは此方に恐る恐る歩き出した。
しかし、ラスティーがサクラの方に目を向けた。
『ひっ!』
サクラは足がすくんで膝をついてしまった。
『無理よ!今絶対にこっちを睨んだわ!ラスティーがその気になったら私なんて一瞬で殺されるわよ・・・ごめんフラン恐くてそっち行けない』
ラスティーがその気になったら一瞬で殺されるなんて私達だけじゃなくて大多数の人に言えることだ。それよりも問題なのはサクラを睨んだ事だ。家族として生活してる女の子を無理やり命令して胸を揉んだり、理由もなく睨んで怖がらすなんてラスティーは絶対にしない!する訳がないわ!そんなのっ!そんなの“私の”ラスティーじゃない!
「貴方誰よ!ラスティーは何処!」
私は怒ってそう叫んでしまった。
「フラン何を言ってるんですか?」
「だってそうじゃない!こんな事をラスティーはしない!する人じゃない」
「それは・・・そうですが、ラスティーさん以外に命令は出来ない筈ですよ」
確かにマリーの言うことは正しい。主以外の人が命令しても首輪は反応しない筈だ。でも!
「そ、そうだけど、そうとしか考えられない!今のラスティーと私達と生活してたラスティーが同一人物とマリーは認めるの!」
「そう言う訳では・・・」
マリーも今のラスティーが明らかにおかしいのは分かってるのだろう。
今私に触れている手がラスティーじゃないと思うと急に気持ち悪い事をされている様な感じがしてきた。
「イヤ!止めて!」
体で拒否出来ないけど、私は精一杯言葉で拒絶の意志を伝えた。
すると、今まで何度ラスティーに呼び掛けても反応を示さなかったラスティーがピクッと反応して、胸を揉む手が止まった。
何故かは分からないけどチャンスだ。拒絶の言葉が伝わり手が止まるならもっと強く言えばラスティーは止めるかも知れない。
少しすると、また胸を揉みだした。
「んっ!ラスティー!あっ!正気に戻って!んっ!」
揉まれながらもラスティーに呼び掛けても反応はなかった。さっきは反応したのに何で?
「んっ!イヤ!止めて!」
すると、またピクッとなりラスティーの手は止まった。嫌がると止まる?のかな。
「リース!ラスティーを止めるために精一杯嫌がって声をかけるわよ!」
「んっ!はぁっ!でもラスティーがやりたいなら私は・・・」
この娘は~もうっ!今のラスティーを肯定するつもりなの!
「今のラスティーは私の・・・私達のラスティーとは別人よ!そんな人にそんなことされて嬉しいの!」
すると、リースは目を見開いてラスティーを見た。
「別人?・・・本当?」
「そうよ!首輪の力でこんな事をする人が貴女の好きになった人なのかしら!」
「違う!私は・・・私の大好きなラスティーは・・・」
「でしょ!貴女の好きになったラスティーはこんな事をする人じゃない!命令出来るから体は本当のラスティーだと思うけど、心は絶対ラスティーじゃない!どういう訳か分からないけど、嫌がる言葉で手が止まるのよ、もしかしたら本当のラスティーに聞こえてるのかも知れない。だから二人で嫌がってラスティーを正気に戻すのよ!」
「う、うん分かったわ!私もラスティーじゃない人に触られるのは嫌だもの」
やっとリースが理解してくれた。私達は二人で嫌がる言葉をラスティーに伝えた。
「イヤ!止めて!ラスティーを返して!」
「ラスティーになら何されてもいいけど、ラスティーじゃないなら止めて、私はラスティー以外の男に触られるのはイヤ!」
ラスティーの手は止まって動かなくなった。もう人押しだ!
「「助けて!ラスティー!」」
私とリースの言葉が重なった。すると、ラスティーの体から銀の魔力が溢れ出した。




