長い一日と心配事
契約した俺達は俺の暮らしている街まで戻ることにした。
帰り道で分かったことだが、フランは17才、マリーは16才らしい。ちなみに俺はフランと同じ17才だ。
フランは隣街に住んでいたらしい。隣と言っても馬車で三日は掛かるが、良くここまで二人で逃げてきたものだ。
「なぁ二人共、馬車は街に帰ったら売るって事でいいか?」
「良いわよ、持っていても目立つだけで役に立たないだろうし、逃げるためには必要だったけどね」
フランがそう言うとマリーも頷いて了承した。
「ラスティーさん住む場所はどうしましょうか?」
「それなんだよな、俺は宿暮らしだったから経済面から三人で住める家を買わないとなぁ」
街に戻ったらギルドに行って依頼の報酬と馬車の売却を頼まないとなぁ、盗賊の報償金もだな。それから不動産に行って家探しかな。
「ああ、こんなことならシリウスに来てからの2ヶ月もう少し頑張って金を稼いどきゃ良かったな」
「仕方ありません。こんな状況になるとは私達も思ってもいませんでしたから」
「でも住む場所は深刻な問題ね、私達はお金を持ってないし、身分はラスティーの‥‥ど、奴隷だし」
「確かに世間一般からしたらお前らは俺の奴隷だけど、俺はお前らを奴隷扱いするつもりはないぞ」
二人は奴隷扱いするつもりはないと俺が言ったことで笑顔になってくれた。やはり二人の笑顔は可愛いな、改めて言葉にする事で安心したらしい。
「フランお嬢様、ラスティーさんに出会えた事は本当に不幸中の幸いでしたね」
「そうね、マリーの命も救ってくれたし‥‥対価で胸を揉まれたけど‥‥」
そう言うとフランは手で胸を隠してこっちを見てきた。
やはり胸を揉んだことを根にもっていたらしい。しかし、俺は反省はしていない。タダ働きはしない!この考えを俺は変えるつもりはない。だから見つめ返して言ってやった。
「仕方ないだろう、あの時フランは俺に払える対価がそれしか無かったんだから。家族でも仲のいい友人でもないお前らを助ける義理はなかったからな」
「う~、ラスティーの性格は分かったつもりだけど、何か納得いかないわ!」
「フランお嬢様ラスティーさんにも譲れないものがあるんですよ」
「分かってるわよ!あとマリー、お嬢様って言うのは止めなさい。もう貴族じゃないんだし、二人だけの時のようにフランって呼びなさい」
「はい、フラン」
呼ばれたフランは嬉しそうだった。
「二人は本当に仲が良いんだな」
「当然よ!」
フランは二人の仲を自慢気に声を張り上げてきた。
「ラスティー初めて見たときから聞きたかったんだけど、何でそんな瓶底眼鏡してるの?」
何言ってんだ。という顔でフランの質問に答えた。
「眼鏡してるのなんか、目が悪いからに決まってるだろ」
「それぐらい分かってるわよ!そんな瓶底眼鏡を私は見たことなかったから聞いたのよ!」
「ああこれはな、転移してきた時に使ってた眼鏡を壊しちゃってな、こっちの技術で俺の視力だとこんな眼鏡になるんだよ」
「ふ~ん、あともう一つ聞いていい?」
「俺が答えられる事なら何でも聞いてくれ」
「じゃあ何で‥‥ネギで戦ってるの?ていうかネギで人は殴り倒せないし、ナイフの攻撃を防げるのは何故?」
そこを聞いてきたかぁ、まあ初めて見る人には異様な光景だから聞きたくなるのは当たり前っちゃ当たり前だよな。
「俺の得意な魔法は強化魔法だからな、ネギを強化して普通の金属以上の硬度に出来る」
「そんな凄い強化魔法って聞いた事ないけど、目の前で見たら信じるしかないわね」
「しかし、何故ネギなのですか?」
マリーも気になってたのかネギについて聞いてきた。
「魔法の訓練ってのが半分だな、手頃な長さとしっかり強化しないとネギは武器にならないからな、自分以外の物を強化するのは案外難しいんだ」
「普通は自分以外は強化出来ませんよね?」
「ああ普通はな、俺は強化魔法以外の魔法が使う事が出来ないんだ。他の魔法を覚えようと努力したけど、駄目だった。これは俺の考えだけど、俺の魔法を扱う能力は強化魔法に集約されてるんだと思う。だから普通には出来ない強化も俺には出来る」
「そうだったのですね」
「ああ、だから色んな種類の魔法を使って臨機応変に戦う事は俺には出来ない。強化を使ってぶん殴る、これが俺の戦闘方法の基本戦術だ」
「メチャクチャ脳筋な考えね」
フランは呆れていた。
「でもシリウスに来て2ヶ月で覚えたなら凄い力ね」
「俺は×××にいたときから使えたぞ」
フランが余程驚いたのか、固まっている。
「‥‥だって×××には魔法なんてファンタジーな力は無かったじゃない!」
「あっちでは、魔法は秘匿されていたからな、こっちみたいに誰でも魔法が使える様な環境じゃなかっただけだ」
「そうだったんだ‥‥」
シリウスに来てから魔法を調べたがあっちと少し魔法の系態は違うが、俺は新しい魔法を覚えることは出来なかった。
「半分はと言われましたけど、もう半分の理由はなんですか?」
「ああそれはな、俺自身に強化出来る力と、他の物を強化出来る力の割合が違うのが理由だ」
「どういう事ですか?」
「さっきも言った通り他の物を強化するのは難しいんだ。割合的には俺自身を100%とするなら、他の物を強化する力は20~25%でしかない」
「そうなのですか?フランお嬢さ‥‥フランを強化した時は凄い力でした。初級の回復魔法を上級魔法の威力まで強化した、その力がラスティーさんの強化の二割位だと?」
「そうだ、他の物を強化出来る力が低いと問題点があるんだ」
「なんですか?」
「俺が全力で自身に強化を使うと一振りするだけで武器が壊れて使い物にならない」
「「えっ」」
二人の声が重なった。
「どうせ本気を出せない武器なら訓練になるネギを使う。だから本気の時は俺は素手だ」
二人は俺の答えが衝撃的だったのか固まって動かない。
暫くするとフランが正気を取り戻した。
「いや、流石にそれは盛りすぎじゃない?」
「信じようが信じまいが勝手だ。まぁ本気で戦う事なんて滅多にないからな、それでも二人が想像してるより俺は強いぞ」
話が一段落した時に街が見えてきた。やっと帰ってきたな何だか色々あったせいか今日は疲れたな。街の検問を通り賑やかな街の中に入る。ギルド近くで馬車を止め中に入る、時間も夕方から夜になる位だが人は沢山居た。
受け付けに並ぼうと進むと朝居た常連の酒飲みのオッサンがまだいた。
「おう、ラスティーまた会ったな」
「オッサン朝からずっと居たのか?」
「ああそうだ‥‥後ろの二人は誰だ?ソロのお前さんが女を連れてるなんて珍しいな」
そう言うとオッサンは目を大きく開いて固まった。
「ああ、この二人は色々あって‥‥」
俺が言い終わるまえにとんでもない事を言い放った。
「その首輪は奴隷だな!ラスティーいくら我慢出来ないからって若いんだから普通に彼女作れ!その歳で愛玩用奴隷買う奴があるか!はっ!‥‥普段から装備に金を掛けないのは奴隷を買うためだったんだな」
オッサンが大声で言うもんだからギルドにいる人たちに注目されてしまった。
フランとマリーは顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。
「違げぇよ!事情が色々あるんだよ!」
詳しい事情を言えないためオッサンはぶつぶつ言っていた。
俺はオッサンの説得を諦めて受け付けに並び順番を待つ。その間、周りからチラチラ見られた。
「本日はご用はなんですか?」
やっと順番待ちが終わり受付嬢に答える。
「依頼の達成と居合わせた盗賊の討伐、あと馬車を売る手続きをしたいんだが?」
「分かりました。こちらの紙に記入してお待ち下さい」
それから待つこと一時間で全部の報酬が手に入った。オッサンのせいで酷い目にあった。俺達は近くの安くて旨いと評判の店で食事を済ませ宿を取ることにした。
「いらっしゃいませー!」
宿の受付嬢が元気良く出迎えてくれた。
「三名様ですね?部屋割りはどうしますか?」
「えーと、二部屋で‥‥」
俺が答えているとマリーが割り込んできた。
「三人泊まれる一部屋でお願いします」
「いや、マリー何で‥‥」
「ご主人様、奴隷の私達のために二部屋にする必要はありません。二部屋より一部屋の方が経済的です。いずれ家を購入して一緒に住むのです。お気に為さらずお願いします」
人目がある時の言葉遣いを変えるのは流石だがやっぱりご主人様は言われて背中がムズムズする。結局マリーのいうことに納得して一部屋で宿をとった。その夜は慣れない三人での宿泊に俺とフランは余り眠れなかった。俺の事を信頼してるのか、襲うことが出来ないヘタレだと思われているのかマリーだけ熟睡していて少し心配になった。