奴隷契約と生きる目的
盗賊から戦利品を漁りながら二人の護衛をする時にお互いの自己紹介を簡単に済ました。二時間の時が過ぎると、漸く二人は動けるようになってきた。わざわざ助けた二人である。そのまま放置すれば新たな盗賊が少ないながらも来るかもしれない。いや、それよりも今あの二人は奴隷の隷属の首輪が装着されている。動けない二人に通行人が首輪に気がついて、主のいない二人に血を一滴首輪に垂らすだけで、契約完了である。たたでさえ見た目の優れた二人である。
フランは肩より長いブロンドの綺麗な髪で、美人と可愛いの間をとったような顔をしている。しかも遠目からでも分かる巨乳の持ち主だ!
マリーは茶髪のショートヘアーで目元パッチリした可愛い顔をしたスレンダーな体型だ。
どちらも奴隷館ではトップクラスの値段で売買されることだろう。
「二人ともこの後どうするつもりだ。貴族じゃないって言ってたけど、その首輪外せるあてはあるのか?」
首輪は外すのに 沢山の金がかかる、普通の人が20年は遊んで暮らせるだけの金がいるはずだ。このため一度奴隷の首輪をつけられた者は一生奴隷として生活する者がほとんどだ。主人が奴隷の為にそれだけの金を出す奴は基本的に居ない。奴隷がいくら仕事をしても金は主人の物だ。余程全うな金持ちでも無ければ奴隷にちゃんとした給金など出さない。
「私は元伯爵の娘だけど、位の高い貴族の悪事の濡れ衣を被せられて‥‥父と母は殺されてしまったの」
フランは悔しさで悲しさで震えていた。
「それでも‥‥それでも父と母は私達二人を逃がしてくれた」
「急いで護衛もつけれずこの森で盗賊に襲われて居たのはそのせいよ」
「だから、私達には身寄りもあてもない」
ふむ、貴族に嵌められて家族を失ったかぁ、俺の人生に似てるな、同情はするが俺には首輪を外す金は無いし、仮に金が有ったとしても、そこまでする義理は流石に無い。
「まぁ、お前らの容姿ならすぐ奴隷として買い手がつくだろうな、愛玩用奴隷だろうけど運が良ければ全うな主人が買ってくれるかもしれないぞ。こんな世の中じゃ確率は5%も無いだろうが」
「‥‥他人事だと思って」
フランに睨まれた。
「まぁ実際、他人事だからな。それとも二人であてもなく逃げ続けるのか?」
「分かってるわよ!逃げ続けるのが無理なことくらい、首輪をつけられた時点で八方塞がりって事は!」
フランがまた泣き出してしまった。全く話が進まない。だから面倒くさい事は嫌なんだ。そんな事を思っていたらマリーが口を開いた。
「‥‥図々しい様ですけどラスティー様が私達の主になっていただけませんか?」
また面倒くさい提案してきたな~この子、よりによって俺に主になってくれとはね。
「何言ってるのよマリー!なんでこいつに主になってなんて頼むのよ!」
フランは言葉遣いが段々悪くなってきたな、こっちが素か?まぁ、あんなことしたからただ単に嫌われたか?どうでもいいけど。
「ですがフランお嬢様、見ず知らずの人に買われて酷い目に合うよりは、盗賊20人を1人で討伐出来るラスティー様に主になってもらうのが一番の選択だと思うのです」
「分からないわよ!奴隷を良いことに私達にイヤらしい事するかもしれないわ!」
フランは自分の胸を手で隠してこっちを睨んだ。はははっ余程いきなり胸を揉みし抱かれたのが嫌だったらしい。
「フランお嬢様、私達を奴隷にしてイヤらしい事をしたいなら、動けなかったこの二時間いくらでも出来たはずです。それこそ奴隷として契約するチャンスはいくらでも有りました。それをせず彼は護衛して下さりました。彼は信用に足る誠実な人だと私は思います」
「う~ん!それはそうだけど‥‥」
フランが悔しそうにしている。ちょっと面白い。
「相談してるとこ悪いが、俺がお前らの主になるメリットは無いぞ」
そう言われて二人はうつ向いてしまった。俺は間違ったことは言ってない、まあ一縷の希望を絶った発言だったのは否定しないが。
「転生して‥‥二度目の人生でも‥‥こんな終わり方かぁ‥はぁ‥‥」
フランが独り言でぶつぶつ言っている。転生?二度目の人生?
「フランどういう事だ?転生とか二度目の人生とかって?」
「どうせ教えても信じないわよ、私はね生前の記憶を持ってこの世界シリウスに転生したの、生前の私は病弱でね十歳で死んで何故かこの世界に転生したのよ。管理者を名乗る存在から幸せを祈られたけど、こんな終わり方ってある?」
フランは悔しそうに泣き始めた。それにつられてマリーも泣き始める。おいおいここまで似てるのかよ!家族を貴族に殺されて転移と転生して家族を貴族に殺されての違いはあるけど、家族を糞な奴らに殺された悲しみは俺には良く分かる。どうやらこの世界もクソな奴らがいるらしい。俺はフランに自分を重ねて悔しさが込み上げてきて、フランに対して同情を隠せなかった。だが俺にはもう一つどうしても聞かなければならない事があった。
それが合ってた場合はもう他人事とは思えないだろうと覚悟を決めて。
「お前の生前いた世界って×××か?」
俺がそう言うとフランはピタッと泣き止んでこっちを見た!その表情を見て俺は確信した。やはり俺と同じ世界から来たんだな。ここまでくれば運命だと思った。俺とフランは辿った人生が似ている。いや、一度病気で死んでる分フランの方が酷いか、他人事とは思えなくなった俺はこいつらを助けたいと強く思った。どうせ生きてるだけで目的も目標も無かったんだ、今の俺がこいつらの人生を絶望から救えるのなら、俺の失敗に終わった復讐のための十年間に意味があったと思えるかも知れない。
「なんで貴方が×××を知ってるのよ?」
「俺もそこから来たからだよ」
「嘘っ!貴方も転生してシリウスに来たの?」
「いや、俺は転移で来た。フランのよう死んで転生したわけじゃない」
「そう」
そのあと二人には俺が向こうで何があってこちらに来て今に至るのかを細かく説明した。フランからも向こうでの話を聞いた。どうやら生前のフランと俺は似たような時代を生きていたらしい。多分シリウスと向こうの時間軸がずれているのだろう。向こうに帰る手段も帰るつもりもないから、どうでもいいけど。
「決めたよっ!俺がお前らの主になってやる!そしていつの日か金を貯めて首輪を外してやるよ」
「本当に?」
「ああっ、約束してやる」
二人の笑顔を初めて見たような気がする。不覚にも可愛いと思ってしまった。これからやることが増えるな、俺は宿暮らしだけど三人も宿暮らしだと経済的によろしくない。ちょっと無理して家を買うしかないかな。
とりあえずまずは、二人と契約しなければならない。
「じゃあ契約するぞ、いいな?」
二人は同時に頷いた。俺は隷属の首輪に血を注ぐ。
「これで契約完了だ、身体に異変はないか?」
「ええ、大丈夫みたい」
「こちらも大丈夫です、ご主人様」
「いや、マリーご主人様は止めてくれ」
「では、ラスティー様」
「様も要らない」
「しかし形式上は奴隷ですし」
何でこうも頭が硬いのかねぇ、様付けなんかされると調子狂うな。
「分かったよ、でも他人の眼がないときは、呼び捨てもしくは、さん付けにしてくれよ」
「畏まりましたラスティーさん」
「言わなくても大丈夫だと思うけどフランもだぞ、様付けなんかするなよ」
フランはニヤリと笑いながら言いやがった。
「ラスティー・さ・ま」
背筋が寒くなった。完全にわざと言いやがったクソ!
復讐に失敗して生き延びた俺は、目的もなくこの世界シリウスで2ヶ月生きてきたが、やっと明確な目的が出来た。
今まで、ランクも上げずにその日、その日を生きれるだけの楽な依頼ばっかり受けてたけど、これからは三人になるし、金も貯めなきゃいけないからなぁ。色々考えていると、マリーから意見が出た。
「ラスティーさん、私も冒険者として依頼を受けます」
「マリー危ないわよ!」
「でもフランお嬢様、ラスティーさんだけに負担は掛けられません。奴隷は家事か戦闘か愛玩用でしか働けません。他者の奴隷を雇ってくれる仕事などありません」
「加えて言うならラスティーさんは屋敷のような家事を必要としていません。そうなると役に立つには戦闘か愛玩用しかありません」
「それともフランお嬢様は、ラスティーさんが依頼から帰って来た後に愛玩用として役に立ちますか?」
フランが愛玩用としてと聞いて、顔を真っ赤にした。
「あっ!愛玩用なんてっ!しっ!しっ!しないわよ!」
「では残るはラスティーさんと一緒に依頼を受けてお金を稼ぐしかありません」
マリーの言ってる事は正しいが、あの程度の盗賊に普通に捕まったとすると、二人はほぼ素人だと思った方がいい、俺が護りながら戦えば大丈夫だとは思う。安全マージンしっかり取らなければ危ないな、フランが回復魔法を使えるから致命傷さえ避ければなんとかなるかな。それにソロで受けられる依頼には限界がある。三人以上の依頼も受けられるようになるしな。
「分かったよ!フランとマリーにも一緒に依頼を受けてもらうよ」
「はい、ありがとうございます!」
フランは愛玩用の言葉で、顔を真っ赤にしたきりぶつぶつ言っていた。気にしすぎだろ。