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油断と怒り

 気分転換に向かった広場には沢山の人で賑わっていた。

 近くに出店が出ていて子供達が楽しそうに走り回っている。俺は今だに元気のないフランとマリーに、出店で買った肉と香草を甘辛ダレで炒め、パンに挟んだ物を二人に渡す。


「ほら、これ食って元気出せ!旨いぞ」


「でも・・」


「昨日からあんまり食べてないだろ、空腹じゃ元気でないぞ、リースを見習え、既にあんなに食べてるぞ」


 リースを見ると先程のパンを左手に、右手に串焼きを二本を持ち美味しそうに食べている。

 それを見たフランとマリーは、漸く食べ始めた。


「旨いだろ?」


「はい、美味しいです」


「ええ、美味しいわ」


 やっと少しだけ笑みを浮かべてくれた。

 パンを食べ終わるとステージのある方に人が集まり始めた。俺達もステージでやる催し物を見に向かった。

 ステージを見る席は混雑していた。比較的に空いていた後方の席に座って見ることにした。

 5分ほどすると、催し物が始まった。

 最初の出し物はダンスだった。綺麗なゆったりとした民族衣装の5人組が息の合ったダンスを披露する。次の催し物は様々な楽器を使った演奏だった。

 広場中に聴こえる程、演奏の音は響き渡った。

 問題はその時、起きた!演奏を聞いていたリースを数人の男が襲った。


「きゃっ!」


「なっ!」


 よく見るとリースだけじゃなくフランとマリーも他の男に襲われていた。後方で見ていて音の大きい演奏にフラン達の悲鳴は誰も気づかない。俺は皆を助けようと動き出したとき、焦っていた俺は背後にいた男の存在に気づけなかった。背後から鼻と口に何かを押し付けられ吸い込んでしまった。


「しまっ!・・これ・は・・薬か・・皆・・に・げ・ろ」


 そこで俺の意識は無くなった。



 ◇◆◇◆◇◆◇


「・・ここは」


 寝ていたラスティーは起き上がる。


「目覚めたかね、冒険者君」


 声の聞こえた方に振り返ると、フランの両親の仇の貴族が豪華な椅子に脚を組んで座っていた。どうやらここは、広い大部屋らしい。貴族の横には、捕らえられてしまったらしいフラン達がいた。

 フランとマリーは黒服に後ろ手に拘束されて、リースは猿轡に後ろ手に縛られている様だった。


「貴様・・・」


 その時、ラスティーは首もとの違和感に気づいた。


「気づいた様だね、そうだそれは隷属の首輪だ。勿論主の契約もしてある、主は私だ冒険者君」


「何だと」


(そうか、それで3人とも諦めた様な表情だったのか)


「フランを手に入れたかったなら俺を殺せば直接お前の奴隷に出来た筈だがな」


 ラスティーは疑問を口にした。


「確かに、最初はそうするつもりだった。だが面白い事を思いついてね」


「面白い事?」


「フランを初めて見たときに私はいたく気に入ってね!この顔、スタイル、そして両親といるときの笑顔は最高だった。あの笑顔が私に辱しめられ歪み、喘ぎ泣き叫ぶ姿を想像して、いてもたってもいられなかった」


「ゲスが!」


「ふん、何とでも言うと良い。それでフランの両親にフランを私の側室に迎えるため、フランの両親に打診した。しかし両親からの答えはNOだった。私は諦めきれず何度も打診したが、答えは変わらなかった。私は怒った、私より地位の低い貴族が私の願いを断るなどと、私は考えた、フランの両親を悪事の濡れ衣をきせ殺しフランを引き取れば良いと、だがまたしてもあの夫婦は私の邪魔をした。フランをそこの侍女と一緒に逃がしたのだ」


 貴族の話でフランの顔色がどんどん悪くなっていく。


「それと、俺を殺さず奴隷にしたのに何の関係がある」


「わからんかね?逃げた二人は直ぐに見つかると思っていた。だが探しても全く見つからなかった。半ば諦めを感じていた時に見つけたのだ、嬉しかったよ。君とフランは家族だと言っていただろ?いきなり私の奴隷にして辱しめるより君を奴隷にして間接的にフランに命令して、家族に裏切られた方が、よりフランは絶望するだろう」


「このクズが!」


「何とでも言うと良い、その首輪をつけられた時点で君は私の奴隷だ、逆らうことなど出来ないのだから、さて、君が目覚めるのを待って何もしなかったんだ、早速命令さしてもらうぞ」


 そう言うと貴族は下卑た笑みをこぼした。


「そうだな先ずは、フランに自分で服を脱いで、裸になるよう命令しろ」


 貴族の言葉でフランはビクッと震えた。


「いいぞ!その表情だ。それが見たかった」


 貴族はフランの表情を見て笑みを浮かべた。フランは遂に耐えきれず泣き始めた。


「ふざけるなっ!・・ぐっ、がっ・・あっ」


「ほら、早くフランに命令しろ!痛みは消えないぞ」


 命令に従わなかった事で、首輪が反応した。首輪は装着している者に直接痛覚に働きかけダメージを与えるため、痛覚を遮断することが出来ない俺はダメージを受けていた。

 首輪のダメージに苦しむ中、3人の顔を見るとラスティーは頭が真っ白になった。フランはボロボロ泣いていて、マリーはうつ向いていたが泣いているのが分かる、リースは諦めた顔でこちらを見ていた。


(俺が皆にあんな顔をさせているのか・・・何が俺がお前らを守るからだ・・・・前の世界で家族が殺される時は何も出来ず、力をつけても復讐に失敗し、この世界に来て出来た家族の幸せを俺の手で壊すだと・・・ふざけるな・・・ふざけるなっ!・・・ふざけるなっ!!・・・そんな事があってたまるか!)


 自分自身の不甲斐なさにラスティーは怒りでうち震えていた。


「アアアァァァァーーーー!」


 ラスティーの体が銀の魔力で輝き出す。


「何だ、この魔力は!」


 貴族の男は驚いていた。


「どれだけ魔力を上げようと無駄だ!首輪のダメージは絶対だ、装着者の魔力と周囲の魔力で、永久に働き続ける首輪は無理に外そうとすれば、その力で爆発する。これだけの魔力だ、亡骸も残らんぞ」


「アアアァァァァ、アアアァァァァーーーー!」


 ラスティーは雄叫びと共に首輪を引き千切ろうとする、その瞬間、首輪が爆発した。

 物凄い爆音と共に大部屋は半壊していた。


「バカがっ!自滅しやがった、全く折角の見世物が台無しだ。仕方ない私が直接主になって凌辱の限りを尽くしてやる」


 貴族は下卑た笑みを浮かべてフランに手を伸ばした。


「イヤッ!ラスティー!」


 フランの悲鳴が鳴り響く。


「死んだ奴の名前を叫んでもどうにもならんぞ、お前はこれから私に・・・」


 貴族はフランの首輪を見て固まった。


「何故だ?何故まだ主の契約が残っている?首輪が壊れたか?」


 爆煙と瓦礫の中からハッキリとした声がする。


「当たり前だ」


 貴族は声のした方に振り返る。


「俺が生きているんだからな」


 爆発で眼鏡は吹き飛び、首から血を流していたがラスティーは五体満足でそこにいた。その姿を見て3人の瞳に希望の光が戻りラスティーの名を呼ぶ。


「ラスティー!」

「ラスティーさん!」

「ラスティー!」


 貴族は信じられないものを見て動けなかった。

 ラスティーは距離にして10メートルを一瞬でつめて、貴族の近くにいる黒服を殴り飛ばし、フランの首輪に手をかけている、貴族の手を外し握り潰して言う。


「薄汚い手で俺の家族に触るな!」


「グッ!ガッ!化け物め、何なんだ貴様は!」


「タダの冒険者・・いや、魔導師だよ」


「魔導師?・・おい、お前らこいつを何とかしろ!」


 呆気にとられていた、黒服たちに貴族は命令する。

 黒服は命令に正気を取り戻して、ラスティーを無力化しようと襲いかかってきた。しかし、最初に襲いかかってきた黒服を殴り飛ばし壁をぶち抜くと、黒服達は力の差に怯んだ。


「クソッ!使えない奴等め、なら人質だ!奴隷を捕まえろ!」


 ラスティーは瓦礫を砕き、普段使う小石より大きめの瓦礫を持って、黒服に命令する。


「動くな!これ以上俺の家族に近づけば殺す!」


 黒服はラスティーの気迫に立ち止まる。


「ハッタリだ!人質さえいればこっちのものだ!早くしろ!」


 貴族が黒服に再度命令する。

 貴族の言葉に一人の黒服がリースに近づいた。ラスティーはその黒服に全力の指弾を放った。

『バンッ!』という変な擬音が響き渡り、黒服の腹から上が消し飛んで壁の先も風穴が空いていた。


「なっ!なっ!なっ!」


 貴族は尻餅を着き股間を濡らし、それしか言えなかった。黒服共は戦意喪失して、膝をついていた。

 ラスティーが貴族に近づくと貴族は命乞いをし出した。


「たっ、助けてくれ!金ならいくらでもやる、もう、お前らに近づかない、頼む!何でもするから命だけは・・・」


 涙と鼻水でボロクソになった貴族を見てラスティーは思った。


(殺す価値もない、クズだな)


「そうだな、では隷属の首輪を一つよこせ!」


「はっ、隷属の首輪?」


 ラスティーは反応の悪い貴族に更に近づいた。


「はっ、はい、隷属の首輪ならそこの引き出しに」


 貴族は脅えながら棚の引き出しを指差した。

 ラスティーは棚の引き出しから隷属の首輪を取り出し、確認する。


「これで・・命だけは・・・」


 貴族は震える声でラスティーに言う。


「ああ、命だけはな」


 そう言ってラスティーは、素早く貴族に近づき、ガチャンと首輪をかけた。


「えっ!」


「命だけは助けてやる、これでもう貴族でも何でもない、お前の言う薄汚い奴隷として生きて行くんだな。次に俺達の前に姿を現したら殺す!」


「・・奴隷・・私が・・奴隷・・」


 それきり元貴族は動くことも喋る事もせず天井を見上げていた。











 

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