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復讐に失敗した彼は

 悪夢を見ていた。目の前の出来事がそうとしか、私には表現できなかった。20は居たはずの盗賊達が今は、地べたに這いつくばっている。

 少し前まで盗賊達に怯えていた私は今、目の前の彼の異様さに驚きを隠せなかった。

 何故なら彼の持っている物があまりにも場違いだと思ったからだ。

 何度も眼を擦って確認しても、見えている物は変わらなかった。

 彼の持っている物は剣でも槍でもない‥‥‥ネギだった。



  ~~~~~~~~


 男は走っていた。深夜のこの時間人通りはなく街灯の少ない路地を逃げる様に走っていた。


 「ちくしょう!最後の最後で失敗しちまった!」


 俺の家族を私的な理由で殺した自分たちを貴族と呼称する奴等を、皆殺しにするために今日まで力を磨いてきたのに、最後の最後で失敗した。ボスを殺すのは成功したけど、幹部を数名殺し損ねた。貴族のボスは俺の存在に気がつき情報を操作した。犯罪者に仕立てあげられた俺は表からも裏からも指名手配を受けている。捕まれば即処刑されるだろう、それを掻い潜って幹部を殺すのは俺の力をもってしても不可能だ。あんな奴等の思惑通り捕まって死ぬなら、賭けに出る、失敗すればひっそり誰にも見つからない様に死ねば良い。


 「あともう少しの筈だ、奴等の所有する転移魔方陣がある場所は」


 普通の転移魔方陣では、場所を移動するだけだが俺の力を使えばもしかするかも知れない。


 「あったぞこれだ!良し!魔力を流して使うタイプだ」


 俺はすぐに転移魔方陣を起動させ、全力で魔力を転移魔方陣に注ぐ、バチバチと銀色の魔力が魔方陣に満ちる。


 「こんなクソな世界じゃなければ何処でもいい!行っけー!」


~~~~~~~~~


 白く靄のかかった場所で目を覚ました。


 「何処だここは、成功したのか?」


 『こっちの方が聞きたいね君は誰だ?無理矢理この世界に侵入しようとして』


頭の中に直接響くこの声はなんだ?何処を探しても誰もいない。


 「誰だあんたは?姿を見せろ」


 『君の目の前にいるよ、こうすれば分かるかな?』


 その声の終わりと同時に目の前に光輝く珠が出現した。


 「あんたは誰だ?ここは何処なんだ?」


 『私はこの世界シリウスの管理者だ。君の侵入を確認して君を一時的に私の力で隔離した。君の侵入の目的を聞こうか』


 「管理者?この世界の神みたいなものか?」


 『その様な者だ』


 「俺がこの世界に来たのは偶然だ、元いた世界じゃなければ、どこに行っても良かったんだ」


 『ふむ、少し記憶を読ましてもらうよ』


 そう言うと光の珠は俺の額に触れてきた。


 『なるほど、数奇な運命だね』


 「触れただけで分かるのか?」


 『これでも1つの世界の管理者だからね』


 「俺はどうなる?」


 『そうだね無茶苦茶な手段で侵入しようとしたのはよくないけど、事情があったのは知ってるし特に問題は無さそうだね』


 俺は安堵した、失敗すれば死ぬしかないと覚悟していたけど、生きられるなら生きたい。


 『君をこの世界シリウスに歓迎しよう』


 『問題を起こされても困るし、シリウスの言語、一般的な知識を与えよう』


 「そんな事が簡単に出来るのか?」


 『管理者権限みたいなもので割りと簡単だよ』


 そう言うと光の珠は再度俺の額に触れてきた。


 『よし、これで君に言語と知識が脳に刻まれたはずだよ』


 「ああ、どうやったかまるで分からないが言語と知識が分かるようになったみたいだ」


 『さて私の役目はここまでだね、君がここシリウスでは幸せを掴むことを祈ってるよ』


 そう言うと光の珠は消えてしまった。徐々にこの空間は消えていった。気がつくと俺は大きな街の近くの森に立っていた。


 ~~~~~~


「よう、ラスティーお前さんまだそんな装備で冒険者やってるのか?少しは装備に金使ったらどうだ?」

 

「うるさいな、こんな朝っぱらから酒飲んでる中年オヤジに装備がどうとか言われたくないな」


「はははっ、そう言うなよ冒険者の先輩としてアドバイスをだな~、お前さんだってもう少しマシな装備すりゃ高ランクに上がれるのに勿体ねぇ」


「いいんだよ、俺は高ランクなんか目指してないから、高ランクは面倒くさい制約や依頼が多いからな」


 「出たよラスティーの口癖、面倒くさい。お前さん若いんだからもっと野心や夢に向かって頑張ればいいのによ」


  (10年掛けた復讐に失敗して夢や目的なんてあるはずないだろ‥‥)


「俺は頑張ってるぞ、夢のグータラ生活に向かって楽して老後の貯金」


「それは夢って言うのか?」


 飲んべえのオヤジに呆れられてしまった。だが、こんな時間からギルドで酒飲んでるオヤジに何言われても説得力の欠片もない。

 俺はこれ以上絡まれない内に依頼を決めてギルドを後にした。

  毎日必ず来る場所がある。


 「おばちゃーん、いつもの1本頂戴」


 「はいよ、ラスティーいつもの長ネギね」


 そう毎日俺は八百屋に長ネギを買いに来る。何故ならばこれが俺のメイン装備だからだ。


 (あれから2ヶ月か早いもんだな黒髪に瓶底眼鏡、黒のローブで背中に長ネギ背負って、どっからどう見ても怪しい人物だな。)


 太陽が昇りきった後、俺は街から少し離れた森に来ていた。

 今日の依頼は珍しい薬草や香草の採取だ。あまり依頼料の高くない依頼だ。いつもなら討伐依頼メインに仕事しているが、割のいい討伐依頼が出てなかったので、採取の仕事を引き受けた。

 この辺の森の道は、魔物の出現率も少なく交易の街道として使われてもいる。それ故に荷馬車を狙った盗賊もたまに出るらしい。


「っていうか盗賊出て来てくれないかなぁ」


 名の売れた盗賊なら討伐したら報償金が出るから寧ろありがたい。なんて不謹慎な事考えていたら森の先から大人数の気配がした。


「イヤァー!」


 ふむ、当たりかな。気配を殺して急いで悲鳴のした方に駆けた。現場に到着すると、身なりの良い女性が盗賊に囲まれていた。

 女性は肩より長いブロンドの髪で美人と可愛いの間をとった顔をしていた。

 何より眼を引くのは遠目からでも分かる素晴らしい巨乳の持ち主だった。高そうな馬車に乗ってたとなると、貴族の令嬢かね?


 「まぁいいや、採取の依頼は終わってるし、さっさと盗賊倒して帰りますか」


 ~~~~~


 「おい、傷付けるなって言ったろ」


 「すみません、お頭この侍女があまりに抵抗するもんだからつい力が入っちまった」


 「折角の上玉が1人減っちまったじゃねえか」


  彼女は膝から崩れ落ちた。


 「イヤァ!‥‥マリー返事をしてお願い、貴女までいなくなってしまったら私は‥‥私は‥‥」


彼女は泣きながら返事を求めたが反応はなかった。


 「彼の者を癒したまえ『ヒール』」


 彼女は初級の回復呪文を唱えたが、マリーと呼ばれた侍女は回復する事はなかった。マリーは盗賊の凶刃によって致命傷を受けてしまったから、彼女はそれでも何度も初級の回復呪文を唱えた。


 「諦めろ、初級の回復呪文じゃそいつは助からねえよ、せめて上級の回復呪文じゃなきゃ傷は治らねぇよ」


 盗賊のお頭から無慈悲な言葉が紡がれた、この世界で上級呪文が使える魔法の使い手など、全体の10%が良いところだろう。しかも回復呪文はそのなかでも希少だ。


 「誰か助けて‥‥‥」




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