第36話:桜先輩の能力
なんとか討伐団の連中を巻いたおれだったが、まだ危機が終わったわけではなかった。
「よし。討伐団から逃げ切ることができたし、あの魔物も逃すこともできたし、帰ろうか。」
「そうですね。」
俺とリリムは家へ帰ろうとした。だが、その時…
「そこのあなた、待ちなさい。」
背後から呼び止められた。しかも、聞き覚えがある声だ。俺はまさかと思い振り返ると……
そのまさかが的中した。声の主は桜先輩だった。
♦︎♢♦︎
「班長!あの巫女を見逃してもいいのですか?」
先ほどの班長に部下らしい少年団員が尋ねた。
「手は打ってある。桜班長に来てもらうことにした。」
「桜班長ってまさか、あの桜班長ですか?」
その少年は驚いたように聞き直した。
「あぁ、そうだ。この討伐団でトップクラスの力を持つ桜班長なら、あの巫女も逃げ切ることは不可能だろう。」
班長は不適な笑みを浮かべた。
そう。桜班長はこの討伐団でトップクラスの力を持ち、絶大な信頼があるのだ。そして、一部の団員は知っているが、彼女にはある能力があるという。彼女はこれまで、一度も魔物から攻撃を受けずに無傷で勝ち続けた実力を持ち、一度もにがしたこともない。まさに魔物の天敵と言っても良いくらいの実力者なのだ。
そのことをルナはまだ知らない。
♦︎♢♦︎
「そんな変装をしても無駄よ。私はあなたが姿を変えるとこを見ていた。あなたがさっきの巫女だということはわかっているのよ。」
ルナは焦った。桜先輩は本当に見ていたのだろう。ココで言い訳は通じない。それに幸い自分がルナだっていうことには気づいていないはず。
ここも逃げ切れれば…
「逃げるよ、リリム!」
巫女の姿に戻し、俺は空へ急いで飛び上がった。
「逃がさない。あなたの噂は聞いてるわ。なかなか強いみたいだし。始めから全力でいく‼︎」
そう言った桜先輩の身体に異変が起き始めた。
桜先輩の身長が少し伸び、長く、毛でフッカフカしている、動物のような耳が頭から生えた。手からは細く、長い爪が伸び始めた。とにかく、身体全体が動物のようになっていくのだ。
「グルルルルル…………アオーーーーーーン。」
この声はまさしく、狼だった。そう、桜先輩は狼に変身したのだ。
「これが私の能力。私は人間、獣人、獣の3つの形態に変化することができる。今の状態は獣人、人と狼の良さを足した形態。」
桜先輩が言っている通りだった。今の桜先輩の身体は人間と狼の半々という感じだった。確かに討伐団に入った時に桜先輩から、「私もある能力を持っているの。」とは言われていたが、見るのは今が初めてだった。
「ルナさん、ここは逃げたほうがいいと思います。そうしないと、殺されます。」
そう言った、猫の姿のリリムは毛が逆立っていた。
「なんで、そう思うの、リリム?」
「それはなんというか、うまく説明できないんですけど、そう感じたんです。」
もしかするとリリムは猫の姿だから、動物の本能で同じく動物?の相手の強さがわかるのかもしれない。そうなると、リリムの言った通りに逃げるのが一番いいだろう。
俺はそう決めると全速力で空を飛んだ。
「逃がさない。『塵衝爪』。」
桜先輩は鋭く尖った爪を大きく振りかざした。すると、爪の斬撃が衝撃波としてこちらに飛んできたのだ。
俺は、避けることが出来ず、その攻撃を腕に喰らってしまった。
「これであなたは攻撃ができなくなったわね。どうする?今降参すればいいけど、しなかったら、粉々に切り裂いてもいいんだよ^_^」
えっ!何、最後の笑み。怖っ‼︎
桜先輩の言う通りだ。腕をやられたので、俺は攻撃ができなくなった。できたとしても、片手しか使えない。これはピンチだ。
「ルナさん、大丈夫ですか?血がたくさん出てる。」
リリムが心配そうに俺の傷をみている。
「うん、大丈夫!と言いたいところだけど、正直言って痛い…」
リリムにはあまり心配をかけさせたくなかったが、痛いものは痛い。
「ルナさんは帰っていてください。私が戦います!」
リリムは俺の方から飛び降りると、建物の屋根に着地した。そして、なんと!リリムも獣人形態になったのだ。驚いたが、よく考えてみると、同じ動物になれる能力なら同じく獣人形態にもなれるはずなので、納得した。
だが、狼と猫は力に差がありすぎる。間違いなくリリムが負けるだろう。
「早く逃げてください!ルナさん‼︎」
「でも…リリムが…」
「お願いします。ルナさん。私を信じてください。」
「分かった。でも、絶対に無事に帰ってきてね。」
俺はリリムに任せた。ココで断ってはリリムに申し訳ない気がした。
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