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自衛隊、ダンジョンを制圧せり  作者: ヴァーリ
ロキのダンジョン編
6/7

Stage1輪廻の草原

ダンジョンへの入り口へ続く海域は、海上自衛隊の護衛艦によって完全に封鎖されていた。昼夜問わず哨戒ヘリのSH-60Kがひっきりなしに飛んでいるのは、恐らく某国の特殊部隊による水中潜入や潜水艦の接近を探知するためだろう。今や、東京湾に出現した迷宮は、世界的な注目の的となっており、各国の諜報機関が迷宮への侵入を試みているという噂もある。そう言う輩に対しては、警視庁公安部や国家警察省の国家警察隊によって制裁が行われている。噂では、海上自衛隊の特殊部隊SEALsが水中に待機しているとか。


迷宮の周りは埋め立てられ、装甲車などの武装車両が周りを囲んで警戒していた。トラックに乗り込む第一部隊の面々は、緊張しているのか何も口にせず、ただ黙々と武器の整備をしていた。


「そういや、まだ自己紹介してなかったな。自分は陸上自衛隊、東部方面普通科連隊所属の桐生圭太二等陸尉。第一部隊の隊長も勤めてる、お前らも挨拶しろ」

「副長の白木誠陸曹長です」

「狙撃手の倉田仁矢一曹」

「重火器担当の吉田元樹三曹だ」

「通信担当の宮野卓三曹と言います」

「双頭の鷲、ハンターのライカ・フランチェスカよ」

「同じく双頭の鷲、シオン・アルケミスと言います」

「あの、双頭の鷲ってなんですか?」


副長の白木が二人に質問する。


「私たちの通り名みたいなものね。本名を言わずともこれで通ったりするから便利なの。別に私たちが決めたわけでもないけど」

「そうなんですか。お二人はダンジョンってどんなものかご存じですか?」


その言葉に、隊員全員が耳を傾ける。ダンジョンの詳細を聞いたのは桐生だけであり、あの場に居なかった隊員たちは興味を示す。


「ダンジョンにはモンスターがたくさんいるの、ドラゴンだったりスライムだったり」

「なぁんだ、怪獣退治は自衛隊の伝統じゃないか」

「それならパラボラアンテナ付きの戦車なんかも欲しいな!」


自衛官たちは少し安寿したのか軽口をたたきあうが、ライカとシオンの表情は一切変わらない。


「そろそろ到着だ!」


トラックの運転手からの声で、隊員たち口を閉じてとあるボディスーツを着込む。FFW(先進歩兵装備)フューチャー・フォース・ウォーリアーと呼ばれるボディアーマーである。アメリカ軍歩兵部隊の21世紀主要装備として開発された。その基本的なコプセントは、歩兵部隊をデジタル化することで、兵士の生存性と戦闘能力の向上を目指すものである。


陸上自衛隊仕様は、ガスマスクの様な形のゴーグルにフルフェイス型の統合型防護ヘルメット。右目の前に有機ディスプレイに各種タクティカル情報を映し出せる仮想網膜表示装置を装着し、戦闘服の上には軽くて従来のボディアーマーを凌ぐ新型ボディアーマーを装着する。関節部には運動機能補助器をはめ込むと、その姿はまるで近未来の兵士であった。


「総員降車!」


トラックの荷台から飛び降りた第一部隊は、警戒に当たっていた第一空挺団と中央即応集団を中心として編成されたα大隊と合流し、その場に待機する。無人偵察機を入り口から侵入させ、中の様子をくまなく観察する。異常が見られなかったため、部隊は第一部隊を先頭として、ゆっくりと中へ歩み入る。


「クリア!」

「前方を警戒しろ!」


部隊は縦一列になって全周囲を警戒する。そして、五畳ほどのワープポイントへと移動する。


「第一部隊、前へ」

「ラジャー」


桐生以下四名の隊員とライカとシオンは、ワープポイントを使ってダンジョンの中へと入る。


「こ、ここは?」


一瞬の暗闇を経て、目の前には草原が広がっていた。空は青く、なぜか得体の知れないクラゲの様な生物も飛んでいる。


「下手に動くなよ!」


桐生はポケットから検知器を取り出す。空気の濃度や危険な病原体が無いかチェックするためだった。幸い、未知のウイルスによる感染症の危険はなく、空気も地球の大気とあまり変わらなかった。


「不思議だな。ダンジョンって地下街みたいなもんだろ?ここは大気も存在するし何より生命感が溢れている」

「ダンジョンの階層は一つ一つ違う世界に繋がっているの」

「そうなのか。宮野、本隊に通信開け。安全確保、侵入に問題なし、送れ」

「了解」


数分後、ワープしてきたα大隊と再び合流する。α大隊はこの平原を最前線基地として利用する。安全が確保された後に、施設科の車両が到着し、簡易ながら橋頭堡が建設されることになる。今は、積み上げた土嚢に機関銃を設置してMGバンカーを組み立て、鉄条網を三重に張る。こうすることで、橋頭堡が完成するまで最前線の即席陣地として防衛の役目を担うことになる。


「敵襲!」


見張りをしていた自衛隊員が声を張り上げる。そこには、平野を群れで突っ走る闘牛たちがいた。桐生はライカにすぐさま情報を聞き出す。


「あれはクロタウロスだわ!」

「ライカさん!クロタウロスとは!?」

「ランクCのモンスター!注意するところはすごく獰猛で群れるところ!早く倒さないとやばいわ!」

「総員戦闘準備!各個に自由射撃!」


桐生の号令で、手の空いている隊員が射撃を開始する。クロタウロスと呼ばれたモンスターは、無数の銃弾に倒れて行くが、数が多く、仲間の死体を踏みにじりながら自衛隊陣地へと向かってくる。


「擲弾用意!」


後方に待機していた隊員が、八九式自動小銃の先端に擲弾を押し込み、クロタウロスの群れへ向けて発射する。倉田の持つアンチマテリアルライフルが群れを吹き飛ばし、重機関銃が薙ぎ払う。数分後、平原はクロタウロスの死骸と池の様な血で溢れかえっていた。


先導隊員ポイントマン前へ、確認しろ」

「了解」


八九式自動小銃を構えた二人の自衛隊員が、死体の山に近づきクロタウロスが死亡しているか確認する。どの死体も足や頭部がもげていたり、大半が瞳孔を閉じていたため、死亡が確認された。


「クリア!」

「よし、死体は損傷の軽いものを選んで運び出せ!」


隊員たちによって、異世界のモンスターが運び出されて行く。運び出された死体は主につくば遺伝子研究所に運ばれるが、半分は米国だったりする。今回の事件で陸軍を派遣できなかった米国への見返り、いわゆる「情報を渡しますから見守っててください」という状況を作っているのだ。


そんな様子を見ていたライカとシオンは、ハンターでありながら異世界の軍隊である自衛隊の実力に感心していた。鉄壁の守備、そして敵を粉砕する圧倒的な火力、戦略、規律ともにどれも自分たちの世界の軍隊では到底追いつくことはできないだろう。特に、銃と呼ばれる兵器は敵を寄せ付けることなく、一方的なワンサイドゲームの様な戦いを見せる。


「隊長、新垣三佐がお呼びですよ?」

「俺?」

「隊長、ライカさんとシオンさんも同行済みでと」

「は、はぁ……」


宮野にそう言われた桐生は、二人を連れて前線司令部となっている天幕の下へ向かう。そこには、手を組み椅子に座るサングラスの男が座っていた。彼は、桐生の本来の所属である特殊作戦群チーム1の部隊長である新垣にいがき孝義たかよし三等陸佐であった。


「桐生二尉、君たち第一小隊に命令が下った」

「な、何でしょうか?」

「特殊作戦用高機動車を一台貸してやる、もっと下を偵察してこい。武器は連絡すればその都度送ってやる」

「自分たちだけですか?」

「そうだ」


命令を聞き、前線司令部を出てきた桐生は、自然とため息を付くのだった。

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