第四話
なかなか、思うように話が進みません。
「先輩!先輩!起きてください!!」
アイの声が聞こえる。ほんのひと月ほど前に知り合い、躰道部にも入ってくれた後輩の女の子。そういえば、昨日泊まったんだな、と思い出し、大胆なことをしたとも思ってしまった。いろいろショックなことが多すぎたため、昨日はすぐに眠れたことは幸運だったと思う。後輩の可愛い女の子と一つ屋根の下、考えただけでも理性を抑える自信はない。
「おはよう。アイちゃん。どうしたの?」
さすがに、そんなことを考えているなど見せるわけにはいかないと、どうにか平常心を装いながら答える。
「お、おはようございます。……って、違います。大変なんですよ。女の子が!」
アイのそんな言葉に、がばっと上半身を起こす。そして、女の子を寝かしていた方を見る。そこには寝ていたはずの女の子は、もとい敷いていたはずの布団すらなくなっていた。
「その…女の子はどこに?」
「今、シャワー浴びてますよ」
即答で返ってきた答えに、はぁ?と返してしまった。
「起きたなの?なんでシャワーに?」
とりあえず、疑問をぶつける。
「はい、少し前に起きまして、お姉ちゃん誰?って聞かれたんです。ビックリしましたよ!お茶飲もうと思ったところで、お姉ちゃん、誰?ですから、びっくりしましたけどなんとか自己紹介できましたよ。名前はシアリィちゃん!可愛いですよね!気持ち悪いっていうから、シャワーに使ってもらってます」
怒涛の言葉に、はぁ…としか答えられなかった。
「アイ!アイ!」
風呂場の方から見知らぬ声が聞こえる。そちらを向くと裸の女の子がこちらに走ってくる。
「どうしたら、水浴びできる!?」
「シ、シアリィちゃん!?ふ、ふく!?先輩は見ちゃダメです!!」
「ん?水浴びするのに服は邪魔だよ?」
「あ、あうぅ、とりあえず、お風呂場にいきましょ!ねっ!」
とにかく後ろを向き、シアリィから目を逸らす甲児、後ろではアイがシアリィをお風呂場に連れて行ったのだろう。シャワーの流れる音が聞こえてくる。それと同時に、すごい!すごい!だとか、こら!じっとして、など黄色い声が聞こえてくる。
「心臓に悪いな……とりあえず、テレビでも付けよう」
気持ちを紛らわすためにテレビを付け、音量を少し大きめにする。そこで、お腹がすいていることに気づく。
「朝飯でも作るか」
色んなことは頭の片隅に置いといて、冷蔵庫との会議に入る。
「味噌汁、卵焼きに納豆でいいかな。食材買い込んどいてよかった。あっ、シアリィちゃんだっけ?納豆大丈夫かな?ま、ダメな時ように食パンも用意しとこう」
実に主夫な献立を考える甲児、そこでふと、不思議な感覚が襲う。
「シアリィ……」
なぜか聞いたことがあるような、それでいて懐かしいような、何とも言えない気持ちが湧き上がる。が、すぐにそんな気持ちも消え、いつもどおりに戻る。とにかく食事の準備をし、あとは盛りつけだけという状況になると、お風呂場から二人が出てくる。
「こら!ちゃんと服を着なさい!」
「いい匂いがする!ご飯の香りが!」
なんとも仲のいい姉妹のような二人、シアリィは両手を上げながらこちらに小走りで走ってくる。その後ろをタオルを持って追ってくるアイ。そこでシアリィは、甲児がいることに気づいたように目を見開く。
「お兄ちゃん!誰!?」
シアリィの一言に、ああ、そういえば自己紹介してなかったと思い出し、口を開く。
「相田甲児って言うんだ。シアリィちゃんだっけ?」
名前を言うと、シアリィは満面の笑みを浮かべる。
「うん!お兄ちゃん!シアって呼んで!」
「よろしく!シアちゃん」
「私もいれてください~。よろしくね!シアちゃん」
笑い合う三人、そこでシアリィのお腹から可愛らしい音が聞こえてくる。
甲児は微笑みながら言う。
「とりあえずご飯にしようか」
甲児の言葉に、二人が、うん!と元気よく答える。
色んな疑問は残っているが、とりあえず腹ごしらえをしてからだ。