プロローグ
「ひっ……っんぐ……」
少女の鳴き声が木霊する。
響いている場所は、西洋の神殿を思わせるような造りをしている。普段なら神々しい雰囲気を醸し出すであろうそこは、今はその欠片も見せることはない。なぜなら、床はえぐれ、柱は折れ、壁は破壊されていると見るも無残なことになっているからだ。
その中央にこんな殺伐とした場所とは似つかわしくない少女がいた。歳は10ぐらい、黒色のショートヘアーに栗色の目、整った顔立ちと白色のワンピース、あと10年もすれば、それは見目麗しい美女になれるだろう。だが、そんな彼女の眼には涙が浮かぶ。だれも止めるものはいないその場所に、彼女のものではない言葉が飛ぶ。
「泣くのはおやめください」
「でも…っふぐ」
彼女に話しかけるその声は、彼女の前に佇む大鏡……正確に鏡に映る白馬からだった。白馬というのも、実は正確ではない。なぜなら、その頭からは一本の角が生えていたからだ。ユニコーン……それが声の主の正体、この世で最も美しい、最も誇り高い、最も恐ろしい、最も優しい動物といわれている。
「シアリィ様、とにかく今は逃げることを考えてください」
「ユニも一緒がいい」
ユニコーンのユニの言葉に、シアリィが嗚咽をこらえながら答える。
「それは無理です。シアリィ様を送る分の魔力しか残っていませんし、どのみちこの状況では……」
顔を俯かせながらユニは答える。鏡の中にいる状況を指しているのであろうその言葉に、何もできないと理解したのであろうシアリィは、さらに顔をゆがめる。
「心配しないでください。必ずや、お迎えに行きます。だから、今は逃げるという気持ちだけで頭をいっぱいにしてください」
「絶対…絶対だよ。約束だからね。破ったら怒るから」
ユニの言葉に反応するシアリィに、ユニは愛しいわが子を見るかのように優しい眼で見つめる。
「はい、必ずお迎えに上がります」
そういうと、ユニの角が光り輝く、それに反応するかのように、シアリィの体も光に包まれていく。そして、周りを覆い尽くすかのような光を一瞬発したとおもったら、シアリィの姿はどこにもなかった。
「必ずや、約束は守ります……姫様」
これは、一人の青年と不思議な少女の物語。