デイブレイク
私は森にいた。
高台になっている崖から、自分の村を見るのが好きだった。特に、月明かりで照らされた村を見るのが好きで、わざわざ夜に来ていた。
村に近いし、火のつく物を持っていけばそこまで危険はない。一人で森に言った私を、母は笑って見送った。父は、あまり遅くなるなら迎えに行くと言った。
「な、何あれ…。」
いつもと何も変わらないはずのその日私は、目を疑うような物を視た。
黒。
黒い大きなもの。
そうとしか言えない鳥に近い何かが、村の上空に飛んでいた。
「………竜…!」
私は立ち上がり、走った。
崖を飛び降りれば一番早いのだが、そんな事は出来ない。
思ったように進められない足が腹立つ。息が詰まる。内側から聞こえる自分の鼓動がやかましかった。
真っ赤な、世界の中生きているのは自分だけだった。
何も考えられない。ただ、どうしてと呟いていた気がする。
どうして、こうなったのか。
どうして、今日だったのか。
どうして、自分は生きているのだろうか。
どうして、今だったのだろうか。
どうして、この村だったのだろうか。
どうして、殺したのか。
否。
そんなのはもうどうでも良くなってしまった。何もかもを無くした自分だからこそ、真っ赤な何かに染められた。
絶対、殺してやる。同じ目に合わせる。
それまでは、絶対に死ぬものか。