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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第一章【オリオンコンピュータ】
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8、音と炎

 王雅と恵菜の戦いは、一向に終わる気配を見せてはいなかった。それはつまり、王雅は全く打開策を見いだせず。進めていないということであり、戦況が変わっていない、という意味ではなかった。むしろこれは消耗戦と言っても過言ではない。向こうはこちらの攻撃を完全に防ぐと同時に攻撃を仕掛けてくるのだ。

 しかし、ここまで王雅は近距離戦しか挑んでいなかった。近づくことがままならないことは分かっていた。だが、近接戦で決定打を与えることで突破口を開こうとしたが、駄目だった。

「なら!」

王雅は右手から炎を溢れさせ、それを前方に放つ。王雅の掌を放射点とした火炎放射は、恵美には届かなかった。それは王雅の火炎放射の力が弱いためではなかった。

 恵菜が爆音を発生させる。すると、彼女に到達する前に炎は弱まり、不発に終わるのだ。

「種明かし、してほしい?」

恵菜がいたずらっぽく笑みを振りまいてくる。王雅はどこまでも熱くなって戦い方や理性を失うほど落ちぶれてはいなかった。自身を落ち着かせ、冷静なままで答えを返す。

「俺も答えたんです。あなたからも教えてほしいものですね」

「簡単な話。空気を震撼させることで空気を不規則に循環させて、私の前の空気に二酸化炭素の濃度を多くしただけの話」

向こうは先ほどの王雅をまねて言ったということは、見ていればいちいち確認せずとも認識できた。

「雷でも利かないからね?」

恵菜のその言葉は、ハッタリの可能性もある。元々の性格からして、あの口が嘘を言わないとは限らないのだ。

「この口が嘘を言うと思う?」

むしろ、思わない方がどうかしている。今までこの少女の放つ声によって騙されてきているのだ。

「あんたは、そうやって嘘ばかり言って生きてきたのかよ。どうせその言葉も嘘だろう」

「人っていうのは、そうやってどんどん人を信用しなくなって、どんどん独りになっていくものなのよ」

恵菜が呆れたように首を振って見せた。だが、王雅はここで引き下がるつもりは微塵にもなかった。

「人は疑うだけじゃなく、信じることができる。もし人が自分を、まわりを信じられなくなったら、人は人ではなくなる! あんたは柿崎の下についているんだろ!? その忠誠心も嘘なのか!」

「いいこと教えてあげる」

結構だ、と言いかけた口を、王雅は敢えて閉じた。

「そういうカッコつけ、嫌われるよ?」

出てきたのは、今の話の流れには全く関係ないものだった。だが王雅はそれを気にしたところでどうにかなるものではないと分かっていたから、それに関しては完全にスルーした。

「忠誠は、嘘の元には成り立たない。それはあんたが一番分かっているはずだろう!! なんでそれを忘れてるんだよ!」

「私には忠誠以前に、私がある!」

ここに来て恵菜が反論する。王雅はその答えにさえ、嘘があるのではと疑ってしまう。だが、疑いの意が先ほどの王雅自身の言葉と矛盾することも、口に出す前から熟知していた。

「あんたが嘘も真実も言えるのは、その忠誠があるからだろう!!」

王雅は見つけた。この会話の中で乱れつつある、恵菜の感覚を。揺らぎ、平穏の元にない精神は、まともな判断力を損なう。

 王雅は左手を突きだし、先ほどのように雷に速さだけを重視させる。精神的に不安定となっていた恵菜は、その王雅の挙動に対応しきれなかった。まともに雷を受け、恵菜の体から自由が奪い取られる。王雅は瞬く間に恵菜まで接近した。右手に炎を纏わせながら。

「だから――」

王雅は、その右拳を恵菜の腹部に突き出した。

「その忠誠に、嘘はつくな!!!!!」

彼女の忠誠がどれほどのものなのか、王雅は分からない。

 だが、その忠誠そのものに、嘘はつけないし、彼女も本当はその忠誠自体に嘘はついていないだろう。もし、その忠誠が嘘であるなら、こうまで自分の道を拒んだりはしない。それは紛れもない忠の証だろう。

 恵菜の各部は、オーバーヒートを起こしたことによる急速排熱を行ったが、その加熱速度、加熱速度が膨大になってしまっていることもあり、急速排熱は間に合わなかった。

 王雅は、ちらりと恵菜の顔を一度だけ見て、更に奥へと進んでいった。


 王雅と恵菜の戦いが決着したころ、広をはじめとする、各所で戦いを終えた都市事件解決専門部シティヘルパーの面々がそろっていた。誰もが目の前にいる光景に息を呑んでいた。

 由衣がひれ伏している。精神的にも、その瞳にはまだ反抗の色が残っているが、少なくとも肉体的にはひれ伏していた。

「由衣!!」

広が叫んだと同時に、檀上の女性が無表情のままに突然の乱入者を出迎えた。

 恐らく、ここに来ることは、事前に分かっていたのかもしれない。自身の部下がやられてしまうことも、その先も道を長い時間拒まれることなく来ることも。

「意外と早かったわね」

柿崎はさして表情を変えたりはしていなかった。

「彼女には物理的に倒したわ」

つまり、それは由衣は柿崎に負けたということをその言葉と光景によって表現しているのだった。

「五対一でも構わないか?」

「もちろん」

柿崎がわずかに笑みを見せた。それは決して友好関係を結ぼうとする笑みではなく、戦いに対する悦びの表現と同時に、こちらへの挑戦を露骨に表している証拠だった。

「フォーメーションCで対応!!」

「了解!」

フォーメーションCは、遠距離攻撃を主な攻撃として使うことのできる者が前方で先制攻撃をかけ、それによってその動きを封じられた相手を一気に別方向から叩くという包囲殲滅に近いフォーメーションだ。

「私の周辺磁力スキルトマグネッティック、受けてみればいいわ」


 周辺磁力スキルトマグネティック。端的に言えば、周辺の磁力関係を操作する能力だ。自身の機械化した部分そのものに磁力を持たせ、周辺の金属や鉄に影響を与える。刃物を磁力で浮かせたり引き寄せたりしたのち、相手に向かって発射する。相手がリボットなら、確実に命中する。理由は簡単だ。

 磁石に触れた釘が別の釘とつながるのと同じ。一度彼女の磁力圏内に侵入した金属や鉄は、それ自身が磁力を持つ。つまり、それに対して別に金属を内臓しているリボットの方へと自動追尾されるのだ。

 先ほど、由衣が倒されたのは、磁力を帯びた刃物などを触れさせることによって金属式の地面に張り付かざるを得なくなったのだろう。

「行くぞ!」

広の言葉と共に、将が大量の銃弾を柿崎へと撃ちこんだ。しかし、そのどれもが柿崎本人には当たらなかった。柿崎の磁力圏に、弾丸が捕まる。

千本触手テンタクル!!」

清司の伸ばした触手に向かって、柿崎から銃弾の一つが跳ね返される。その銃弾が命中した清司の触手が、その弾丸に影響されて磁力を帯び、別の触手とくっつく。瞬く間にそれは清司自身にも伝達し、清司は、地面にひれ伏した。

「清司!」

「余所見は命取だぞ!!」

その柿崎の言葉と共に、清司の身を案じた慎吾に向かって銃弾が放たれる。慎吾はまともに応戦することすら敵わずに、左肩を銃弾が掠めた。あくまで軽傷の範囲内だ。銃弾は本当に掠めただけで、肩口から血を噴出させはしたが、その傷だけだったら、別に戦闘続行は可能だ。だが、向こうの能力により、慎吾もまた、地面にひれ伏せざるを得なかった。

(厄介だな・・・・・・)

広は自身の持つ反射神経でどうにか銃弾を回避し続けていた、しかし、それもぎりぎりだ。磁力によって追尾接近してくるのを予測した上で、ぎりぎりで避けなければならない。壁に当たった銃弾は、再びこちらへと接近してくる。

 将は銃弾を撃ちあぐねている。もし発射すれば、それは向こうの弾数を増やすことには変わりない。向こうには元より所有しているナイフがあるのだ。こちらが不利に追い込まれるくらいなら、いっそ銃口を向けるだけに留まった方がいいのだ。

「上か!」

広が気づいたときには、頭上に銃弾があった。広はどうにか直進してきたその銃弾を回避した。銃弾は勢いよく床にぶつかるが、貫通も弾かれもせず、反射するように広へと向かってきた。

 硬化鉄拳ハーデンフィストを使えば、銃弾を弾いて無効化することは可能だろう。だが、それをすれば銃弾は拳に当たる。それはつまり、広の敗北を意味する。

「しまった――」

床から反射するように飛んできた銃弾を回避した際に崩した体勢のところへ、銃弾が接近する、どうにか回転しながら回避しようとしたが、その右手に、銃弾が掠めた。

「ここまでか――」

広はそのまま回転し、二回転したところで、力なく床に倒れた。

 一瞬、広に意識がそれた将の足を、柿崎の放った銃弾が掠める。将は足の痛みと逆らえぬ磁力と重力によって仰向けに倒れた。

 唯一銃弾を回避し続けていたのは貞晴だった。自身の空蹴変換キックチェンジによって床を幾度となく蹴り続けた貞晴は、その銃弾から逃げ続けていた。もちろん、ただ逃げていただけではなかった。あの銃弾の弾数がなくなるとき。それが唯一のチャンス。

「逃げ腰では勝てない。それくらいわかるだろう!!」

銃弾を一斉に全弾放ってきた。貞晴はその瞬間を当たり前のように見逃さなかった。降り注ぐ銃弾は、貞晴の走り抜けた後の空間に降り注いだ。

「調子こいてんじゃ――」

貞晴は柿崎へと続く階段を連続で蹴った。五段近く飛ばしながら、たった数歩で貞晴は柿崎の目の前まで接近していた。

「――ねぇぞ!!!」

貞晴はその右足を柿崎へと突き出した。

 しかし、貞晴はその時になって気づいた。

 否、正確には柿崎の磁力圏に捕まった時だった。

「こっちが君の作戦を探っていないと思った?」

柿崎が貞晴をわしづかみにすると、前方へと突き飛ばした。

 はじめに貞晴と自身の左手の磁力、というよりは、磁極を別にしてくっつけ、その後、左手を突き出すと同時に柿崎の左手と貞晴の体の磁極を同一にすることで、反発によって吹き飛ばしたのだ。柿崎自身が吹き飛ばなかったのは、両足に磁力を持たせることによって、床に足を固定したからだ。

「こちらの磁力圏に突っ込んでくるのは、ただのバカ、ということなんだがな」

柿崎は表情一つ変えずにひれ伏す六人を見つめた。

 柿崎は、この部屋のドアが開けられるのを確認した。数は一人だったが、少なくとも柿崎組の者ではなかった。

「誰だ!」

この柿崎の部屋に乱入してきたのは、この部屋で柿崎以外の全員が知っている者だった。

 ドアの前に立った王雅は表情を変えぬまま、柿崎を見据えた。


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