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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第一章【オリオンコンピュータ】
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5、合戦前夜

 柿崎組からの宣戦布告があった日の大まかな時間帯は放課後に位置していた。そのこと自体は何の意味も待たない。問題は、宣戦布告され、それをこちらが受けたということだ。相手の戦力がどの程度のなのかは、まったく予想がつかなかった。向こうはどうあっても一つの組という巨大な組織の頂点で指示を出す者達だ。数としては、こちらを圧倒するには十分な兵力は所持しているだろう。

「明日からか・・・・・・」

帰り道、王雅は清司とその帰路を共にしていた。といっても、王雅が誘ったわけではなく、清司の方が、「いっしょに帰らないか」と持ち出してきたからだが。

「咲河、大丈夫かな・・・・・・」

由衣の前であそこまで口論したとはいえ、実際に作戦を行っていたのは自分たちだ。清司もまた、自分にも責任の一端があるのではと思っているのだろう――それはつまり、曲りなりにも由衣との口論に白旗を上げることになっているなどと場違いな諦観がよぎったのだが――下を向いたまま、少し気持ちが沈んでいた。

「責任が俺らにあるなら、俺らで責任・・・・・・責務を果たしゃいいだろ」

王雅は清司を見ないままそう言った。今の言葉には嘘もないし、無駄に言葉を増やしたりはしていなかった。

「昨日だって、初めてなのにあそこまでできたんだ。不可能じゃあないだろ?」

「・・・・・・まぁ、やるだけやってみるか」

清司は顔を上げ、やる気を見せるように笑った顔を作りながらそう言った。

「じゃあな。また明日」

「ああ。明日な」

 そう、明日だ。

 王雅は別れ際に軽く手を挙げて別れの言葉を告げた。


「では、今日はこれで。お疲れ様でした」

最後まで残って情報収集、解析を行っていた緑が自分の仕事を終えて部屋を出て行った。残っていたのは、リーダーの広と副リーダーの由衣の二人だけだった。二人もまた、夜六時を過ぎても尚、黙々と情報を整理していたのだ。

「由衣」

広が由衣に向かって声を掛けてきた。由衣は黙って顔を上げた。広はまっすぐにこちらを見ていた。

「怖いのか?」

今、自分の中に渦巻いている、恐怖という実に単純な感情を当てられて、そんな動揺を覆い隠すために、わざととぼけた。それが自他ともに見えすぎている虚勢であると知りながら。

「な、何のこと?」

「この度の合戦」

どうしてこの男は、こちらの気持ちを考えずに発言して、人の気持ちという領域に踏み込んでくるのだろう。自分には、踏み込んでくることはできても、踏みしめる場所などないのに。

「わ・・・・・・私が怖がってると思ってるの?」

「まだあの時のことを気にしてるのか」

その声には、こちらを追及するというよりは、こちらを包み込むような声だった。それでも、優しく包み込まれても、自分は暴れるに決まってる。そんな自分が嫌いだった。

「あんたには・・・・・・関係ないでしょ・・・・・・」

「苗子を守れなかったのは俺も同じだ。関係ある」

広は断言してきた。一年前。自分たちが前三年から現在の地位を授かって初めての大きな作戦。あの時は信濃組との戦いだった。

 由衣は立ち上がり、広に向かって叫んだ。

「私は守れなかった! だから私には関わらないでよ!」

更に言葉をつなげようとしたが、それはあっけなく防がれた。広が自分の懐に由衣を引き寄せたからだ。

「俺は守れなかった。だから・・・・・・みんなを、お前を守りたい!!」

由衣はすでにどう答えればいいか分からなかった。本当は言いたかった。守ると言ってくれてありがとう、と。だが、今の自分の心境と、性格が邪魔して、出てきた言葉は別のものだった。

「もっと言葉選びなさいよ・・・・・・バカ」

「・・・・・・ごめん」

広らしく、そこは素直に謝ってきた。でも、今の言葉を否定はしなかった。広自身口下手であることを知っていながら、それでも言葉を探して、自分を守りたいという思いを伝えてくれた。それだけは事実であったし、心の中では嬉しかった。でも、そんな甘い部分は見せたくはなかった。守られるだけでなく、守る存在にもなりたいと思っていたから。だから、それ以上は何も言わなかった。


 家で一人、明日からの戦いについてイメージトレーニングにふけっていた王雅の元に電話が来た。電話をかけてきた送り主は空斗からだった。

「もしもし」

『蓮王雅君だね』

空斗の声ではなかった。聞いたことのない声だった。男の声ではあるが、昼の通信のように、声帯変換ボイスチェンジャーによっての電話ではないだろう。

「誰だ・・・・・・お前」

『ただの通りすがりの者です』

人の友達の携帯を奪ってしかも自分のような者に電話をかけてきているような者が、ただの通りすがりなわけがない。だが、無駄に刺激するのはあまり効果的ではない。王雅は向こうの言い分を聞くことにした。

「それで、通りすがりのあなたが、俺に何の用です?」

『あなたの行動を監視させていただく許可が欲しいからです』

(俺を・・・・・・監視?)

率直なところ、意味が分からないというのが実際の心境だった。なぜ自分が監視される必要があるのだろうか。

「普通に考えて、許可する人がいると思いますか?」

『実はすでに監視は始めているんですけどね』

それはもう許可を取る前からすでに監視を始めているということになる。言う前から動いているのと同じことだ。

「つまり、お前はすぐ近くにいると、そういうことだな」

すでに王雅の中で、電話相手の第二人称はすでに「お前」に変化していた。

『残念、あなたにとっては遠い遠い場所にいます。私はある『力』によって監視することができます』

会話からの推測の域を超えないが、通話相手はリボット。能力としては、貞晴が持っているような望遠視力テレフォトサイトの能力が一番納得いくだろう。

『言っておきますが、私はリボットではありません』

それでは辻褄が合わない。先ほどの力があるならば、リボットであることを自白しているのと同じことだ。だが、そうではないと言い張るのであれば、一体・・・・・・。

『私はあなたと同類――簡単に言えば、魔術師ですかね』

「魔術師・・・・・・!」

『監視するのも、リボットのように視界を最大望遠するのではなく、精神的、空間的に見ることができるわけです』

自分以外にも、自分のように力を持つ者がいる。予想していなかったわけではないが、まさか向こうがこちらに接触してくるとは微塵にも思っていなかった。

『今回、柿崎組との戦闘データを取らせていただきます。まぁ、がんばってください』

「待て! お前の名前は・・・・・・!」

空間認識アウェアスペース、とでも名乗っておきますよ』

そこで電話は切れた。王雅は体の力が抜けたように、ドサッと倒れこんだ。心境は複雑だったが、その意識が眠りに閉ざされるまで、さして時間はかからなかった。


 王雅が空間認識アウェアスペースと会話をしていた時、信吾は二菜からの電話に応答していた。

『やっぱり、私のせいだよね・・・・・・』

話をいいかと問われ、それを了承した信吾に向かって放たれた第一声がそれだった。

「どうしてそう思う?」

信吾は、あえて肯定も否定もしなかった。どっちにしても、二菜が傷つくことは分かっていたからだ。向こうがそんな心遣いに気づいているかどうかは別だが、そうしていることは、別に気を引こうとか、そういう意味ではなかった。

『私が・・・・・・ちゃんと位置情報を割り出していれば・・・・・・声帯変換ボイスチェンジャーに騙されたりしなければ・・・・・・』

自分自身に嫌気がさしたり、自分自身に苛立ちを覚えることは、むろん信吾にもあった。だが、それを抱えてばかりでは前に進まないことも、信吾は心得ていた。

「なら、次で騙されなければいい。みんなの手助けをすればいい」

信吾は、それ以上余計なことを言おうとはしなかった。自分が言うべきことは全て言ったのでは、と自己満足に浸ってもいた。

『うん・・・・・・ごめんね。ありがとう――明日は、絶対、みんなの力になるから』

「ああ。がんばれよ」

『信吾もね』

「もちろん」

そこで、二人の電話は終わった。かなり短い時間の通話ではあったが、伝えるべきことは伝えた。

 それぞれが決意を固めた宣戦布告の翌日。都市事件解決専門部シティヘルパーは、部室内に、春を除く全員が集合していた。全員が、それぞれが戦う者としての目をしていた。

「全員いるな・・・・・・いくぞ」

むろん、その広の言葉は矛盾に変わりない。なにせ、これから全員をそろえるために残る一人を連れ出すことも、今から始まる戦いの大きな目的の一つであることは、誰もが分かっていることだった。


『間もなく柿崎組の領内です。任務ミッションを開始してください』

全員の通信端末を介しての無線に、緑の冷静さが保たれた声が鼓膜を振動させる。実働部隊として動いているのは、広、由衣、将、慎吾、貞晴、清司、そして王雅。

 四月十五日、都市事件解決専門部シティヘルパーと柿崎組の戦いは幕を開けた。


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