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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第三章【揺らぐ時】
40/41

40、炎龍乱舞

 火石の空間認識アウェアスペースにより、すでに超能力者の位置は掴んでいた。今までとは違い、今回は笠垣将久一人を確実に狙い、超能力者の戦力を削ぐのが目的だ。将久の相手は基本的に王雅が行い、残る空斗と鎖の足止めは愛、清司、阿留奈、汲歌の四人、状況によってはバックアップ要因の翔斗と真由奈に加勢してもらう形で動くことになっている。すでに慎吾の方には情報を流しており、包囲網は完成しているとの情報を逆輸入済。後は確実に叩くだけだ。

 そして、それを叶えるべく、間違いなく通る道に、王雅は立った。

 前方十数メートル先には、鎖、将久、空斗がこちらの姿を確認し、将久と空斗はすでに臨戦態勢に入っていた。

「どうやら今回は、僕たちが遭遇戦を行わされる、ってところかな?」

鎖はすでに分かっているのだろう。こちらが万全の状態をもって、仕掛けてきた、ということを。たとえこの戦闘が意図的なものでも遭遇戦でも、向こうのやることは変わらない。また誰かを殺しに来るかも分からない。でも、今度はもう迷わない。空斗の説得は、今の王雅には興味がなかった。使命感も、だ。迷うことなく戦い、見紛うことなき勝利を手に入れる。

「……少なくとも、お前と話をするつもりはない」

王雅が鎖に言った言葉は、この戦闘ではこれで最後だった。

「みんな。俺が合図したら、十秒だけ時間を稼いでくれ」

「お前の言う、切り札ってやつか?」

清司の質問に、王雅は一つ頷いて返した。おそらくその切り札は、この戦場の様子を一変させる。タイミングを誤るわけにはいかない。

「できれば最初から使っていきたいが……対抗策を練る時間を与えたくない」

「了解だ。いつでもいいぞ」

「よし――行くぞ!!!」

王雅の叫びに呼応する形で、全員が走り出した。阿留奈と汲歌は、暁紅を目の敵にしている空斗に当て、将久のサポートに徹する予定と思われる鎖に愛と清司を当てて妨害する。王雅は、唯一人、将久との決戦に挑むことになっていた。

 王雅は誰よりも早く飛び出した。前傾姿勢を取り、距離を詰める。最初に王雅の前に立ちはだかったのは空斗である。

「王雅、いい加減に――!」

「悪いな、空斗――お前の目を覚まさせるのは次の機会だ!」

王雅は左手で雷を放ち、空斗をなるべく接近させないような状態を作りながら、そのすぐ横を抜ける。空斗が王雅に追撃しようと振り返ろうとしたところに、一人の少女の声が響 き、雷が迸った。

「あんたの相手、私たちっしょ?」

「暁紅の奴か……!!」

王雅はそのやりとりを聞き流すように走る。これで第一目標はクリア。阿留奈と汲歌が空斗を引きつけてくれるだろう。王雅にとって、残る障害は一つ。

 羽渡鎖。こいつをどうにかしない限り、王雅は将久とはまともに戦うことはできないだろう。

「王雅……君の作戦に、敢えて乗ってあげるよ――ショーグ、王雅に。僕は残りを相手にするよ」

「待ちくたびれたぜ!! このクソ野郎がぁぁ!!」

将久が鎖の指示に呼応する形で突っ込んでくる。王雅はまず突き出されたその槍を受け流す形で回避し、反撃の炎を放つ。が、それは将久の回転によって振り回された槍の恐るべき風圧でその軌道を逸らされる。

「さすがに厄介だな……」

「教えてやんよ。俺の四肢加速リムアクセルは、こんなもんじゃ終わらねぇってなぁ!!」

それと同時に、将久が再び突っ込んでくる。王雅は横方向にそれをよける。が、気づいた時にはすでに将久は方向転換を始めていた。

(体に掛かる相当量のGを無視している……よくあれで体がもつ……!)

「死ねぇ!!!」

「ちっ!」

王雅はまだ諦めてはいなかった。接近してきた将久の握る槍を、左手で受け止める。その左手からは、強力な電流を流している。

「がぁぁぁっ!!!」

電流を流したことにより、体が一時的に停止し、攻撃を中断させる。だが、その代わりのように、王雅の左手も少なからず裂傷していた。

 同じ手は使えない。ある意味、潮時だ。

「アブソリュート!!」

それは、王雅の合図。絶対専守の命令。

 王雅は、痺れが残ってはいるが、一瞬のうちにやられかねない将久から距離をとる。向こうの四肢加速をもってすれば、こちらの勝機が、敗因になる可能性もあり得たからだ。

「信じてるよ、王雅!」

「春の仇、お前に預けるぞ!」

愛と清司が、王雅を守るような形で陣形を組む。その間、阿留奈は一人で空斗に対応し、マークが外れた鎖に、汲歌が攻撃を仕掛ける。

 王雅は限られたその時間を無駄にするわけにはいかなかった。固く握りしめた右手を突出し、その拳を、血の滴る左手で覆う。そして、視界を塞ぐ。全神経を、拳に集中させる。

 王雅は、詠唱を開始した。

「我、この手に炎を収束せし者。ここに、魔導をもって龍の炎を解き放つ――目覚めよ、収束火炎コンバージフレイム爆龍煉獄ドラゴニックバースト!!!」

詠唱が完了した次の瞬間。

 王雅の足元、正確には足の裏から、炎が溢れ始める。その炎は次第に王雅の体を下半身から包み込んでいき、瞬く間に全身を包み込む。炎はそれで終わらず、そのまま天空へと突き抜けていき、詠唱完了から十秒も経たぬうちに、天をも貫く炎の柱が誕生していた。

「ふふ……ようやくだね、王雅……!!」

「これは……一体?」

「何をしたか知らねぇが――」

三者三様に驚きを隠せない様子の超能力者達だったが、その内の一人は構わずに接近してきた。王雅はその感覚を炎の中から感じ取っていた。この炎柱はある意味自分の一部のようなものに等しい。炎が感じ取った感覚が、気配が、王雅にイメージとして流れ込んでくる。

 だからこそ王雅も、動き出すことを躊躇わなかった。まるで絶対王が通り抜けるが如く開かれた炎柱の穴から、勢いよく地面を蹴って走り出す。それを見た将久は待ってましたとばかりに槍を突き出す。だが、その槍のスピードは、四肢加速を使っているはずなのに、どこか遅く感じられた。これが炎の見せる感覚の賜物なのか、それとも王雅自身の力の変わりようなのか。

「終わりだぁぁ!!」

「……見える」

槍の軌道を見切った王雅は、そのまま将久との距離をゼロにする。将久は回避のために別方向に四肢加速を掛けようとしたが、王雅が右腕の肘を曲げた状態でも触れることができるほどに接近した状態では、それは無意味な回避行動に等しいものがあった。

「アグニ!!」

王雅が神の名を言い放つと同時に王雅の右手から爆発的な炎が撃ち放たれる。現れた炎は、将久の懐で、将久後方に向かう強力な炎の衝撃波を作り出した。将久がそれを回避できるはずもなく、直撃を食らって数十メートル後方へと吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、転がる将久を見ても、王雅には微塵にも良心の痛むところはなかった。同じ人間。同じように魔法を使う、ある意味では同類。だが、こいつには借りがある。

「春は俺を庇って死んだ――春を殺したお前と、春を守れなかった俺に、俺はここで決着をつける!!!」

「上等じゃねぇか……」

並ではない衝撃を食らったはずなのに、まるで不死身かと思わせるかのように立ち上がった。その顔は、苦痛に歪めた――というよりは、戦うことに喜びを感じているそれだった。

「やれるもんならやってみろ!!!」

「ヒノカグツチ」

その言葉と共に王雅は一気に飛び出す。走るというよりは、地面すれすれを低空飛行しているという方が正しいだろう。強く踏み出された右足に炎の力が付加され、圧倒的脚力を実現しているのである。たった一歩で残り十メートルほどにまで距離を詰める。左足で着地と制動、姿勢制御を同時に行っていく。二、三メートル左足で地面を滑っていき、左足でトン、と地面を蹴る。そして、次は右足で放物線を描く軌道で跳躍する。その放物線の軌道の先には、むろん将久がいる。

「はぁぁぁ!!!」

王雅は右手に炎を溢れさせ、それを叩きつける。将久はそれを四肢加速による緊急回避で難を逃れる。王雅は追撃の炎を撃ち放つ。将久はそれをかわし、ジグザグな移動をしながら接近してくる。

「ヴォルカヌス」

その名と共に両手を地面にむけて伸ばす。それを認識した世界が、王雅の周囲を赤い膜で覆う。そして、将久がそれに対応するよりも早く、王雅は次の一手を繰り出す。その膜が衝撃と熱量をもって膨張し、接近していた将久に激突したのだ。

「ぬぅうああ!!!」

その熱量と物理的圧力に、将久は再び弾き飛ばされる。

「お前には借りがある」

王雅はただ真っ直ぐ、将久だけを見ていた。その目は、仲間に向ける優しい目でもなく、有象無象の不良に向ける呆れの色のある目でもなく、ただ敵を狙う獣の如き黒い眼光だった。その視線にただ一人対峙している将久もまた、戦うことを、勝つことを諦めた様子は微塵にも感じられなかった。

「ただ必死に、生きることよりも、仲間を思って、春は死んだ。俺は今、決着をつける――春を殺したお前と、迷い戸惑ったことで春を見殺しにした俺自身に!!!」

王雅は両腕を横に広げた。右手から炎が放たれ、その炎が王雅の周囲を球状に包みだす。そして、それと同時に、将久の周囲もまた、王雅同様、球状に炎が展開し、一瞬のうちに、戦場に二つの炎の球体が出現した。王雅は、更に右手から炎を放つ。その炎は王雅を包む炎に混ざり、リンクするかのように、将久の方へと一瞬のうちに移動する。そして、その炎は鋭い槍となって、将久へと突き出される。将久はたちまち四肢を炎の槍によって固定され、その動きを封じこめられる。だが、王雅の動きは止まらない。

「――我、この悪の炎をもって、あるまじき悪を討つ。闇を照らして悪を穿つ――」

王雅は横に伸ばしていた腕――その先の掌を、正面に――将久の方へと向ける。その目が細くなり、同時に王雅を囲っていた炎が王雅の視界を戻さんと四散する。そして、王雅は言い放つ。

「――焼き払え、ヴリトラ!!!!」

その言葉と同時に、王雅の右手から膨大な量の炎が溢れだす。それは、翔斗との訓練で放った炎のそれとは比べものにならないほどの熱量と物量を持って、将久へと突進していった。将久がその炎から逃げ切れるはずもなく、次の瞬間には、将久はヴリトラの炎に飲み込まれていた。


 辺り一面を、夕焼けのオレンジが覆い尽くしていた。その場に残っていたのは、王雅、清司、愛、阿留奈、汲歌、バックアップに回っていた翔斗と真由奈、そして、戦闘終了を聞いて駆け付けた慎吾と貞晴、苗子だった。鎖と空斗は、将久がやられたのを見て、撤退を開始した。空斗はまさかという驚愕の表情をしていたが、鎖の顔にそんな様子は見られなかった。王雅の錯覚かもしれないが――口元が笑っていたような気がした。

「終わったんだよな、これで」

清司が、静寂の夕焼けの中で、そう呟いた。その声に、怒りや勇ましさ、力強さは感じられなかった。これで全てが終わったのだと、安心しきっているようにも感じられた。

「……春の仇は取った」

そう、それだけは紛れもない事実だ。だが、清司の考えていると思われるように、これで全てが終わった、とは考えられなかった。王雅がそう考える最大の理由は、王雅が暁紅に足を運ぶきっかけとなった人物――風鳴亮人の言葉だった。

 ――超能力者による大規模な魔術師、魔導師への駆逐攻撃。

 王雅は本当にそれが起こるのか、確証がない。だが、現実として、鎖は王雅の前に再び姿を現し、超能力者との戦闘が起こった。はるか昔のように、いがみ合う魔術師と魔導師の両陣営を蹂躙して、改めて威厳を見せつけるつもりなのだろうか。だが、今さらになったそんなことをする必要があるとは思えない。それを実現できるかも、力をつけた魔術師や魔導師の前には定かではない。もしあるとすれば、何かしらの策があるのか。

(それに、理由は一つじゃない――)

最大ではないが、最大となりえる理由。

 羽渡鎖は、まだ生きている。そして鎖の目的は、王雅の人生を狂わせること。

 王雅の人生を引っ掻き回すために動いているとすれば、鎖が、超能力者がそのような駆逐行動に移ってもおかしくない。

(まだ、終わっていない)


 王雅は、オレンジの空を見上げた。こみあげてくる汗は、戦闘後の疲れからなのか、夏という季節のせいなのか、照りつける西日からなのか、王雅自身の炎のせいなのかは分からない。だが、その汗を拭いながら、王雅は実感していた。


「俺達は、生きている。生き残った」

王雅は思う。自分が生き、鎖が生きている以上、戦い続けると。今度は、鎖との因縁と、避けられぬ過去の自分に、決着をつけるために。


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