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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第一章【オリオンコンピュータ】
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4、声帯変換(ボイスチェンジャー)

 春が誘拐されたという事件から一日が経ち、王雅と清司は共に部室に向かった。任務終了後、部室に向かわなかったのは、今日は疲れただろうから来なくてもいい、と言われたからだ.背後で他の先輩達の忙しない声が聞こえてきて、その言葉が「邪魔だから来るな」と遠回しに言ってることがあからさまに分かった。だから、わざわざ律儀に赴いたりはしなかった。

 部室に入った二人を、多くの視線が取り囲んだ。だが、そのうちのバックアップ要因の四人はすぐに自分のやるべき仕事に戻り、信吾と部長の広は自分たちの話に戻った。貞晴は話に興味がないように自分の雑誌を読みふけっていた。ただ一人、二人に向かってきたのは、副部長の由衣だった。

「全くあんたたち! 女の子ひとりにするとかどういう神経してんの?」

完全に二人を責めているのが分かった。後ろで話していた広はあきれたように頭を抱え、信吾は溜息をついていた。

「いや、そういう作戦で・・・・・・」

「ほぉー、春ちゃんをひとりにしてリンチされるのを見る作戦か!」

 どうやらかなり面倒なシチュエーションになっていることはすでに分かっていた。だが、それを解決できる状態ではなかったのも、重々承知していた。

「違いますよ!」

「じゃあ彼女がひとりになってオドオドしてるところを見てニヤニヤする気だったか!」

「もう単なる変態じゃないですか!」

「否定しないのね!」

「しますよ、当然!!」

 清司と由衣の激しい言葉の攻防を横で見ている自分はどうすればいいのだろうか。広がこっちに来い、と手招きで伝えてきたが、ここで抜け出そうものなら目の前で口論真っ最中のこの先輩に何をされるか分かったものではない。

「あの、由衣せんぱ・・・・・・」

「雅君は黙ってて!」

初日に間違えておきながら未だに雅という方の名前で時々呼ばれるが、さすがにそろそろ勘弁してほしかった。どんなやつでも、間違えて覚えているとわかってからは「王雅」と呼ぶようになっていたというのに。

 王雅はすぐに自らの名前を訂正する。

「王雅です!!」

「どっちでもいいから黙ってて!」

 すぐにそう切り返され、王雅は黙り込んでしまった。どっちでもいいわけがないのだが、ここで反論したところで何も変わらないと分かっていたので、黙りこくることしかできない。

「――ですから、分散して各個撃破という作戦指示で・・・・・・」

「一一言い訳して――」

「春ちゃんから通信!?」

「え?」

木村花のその報告に、その部室にいた全員の空気が凍りついた。花はすぐに通信をつなぐ。そのスピーカーから聞こえてきたのは、間違いなく、春の声だった。

「春ちゃん、よかった無事で!」

「無事じゃない。今拘束されてるから」

「え?」

部室は別の意味で凍りついた。拘束されているのに通信を送れるというのは、どう考えても辻褄が合わないことを、部員全員が察知したからだ。

「あなた、本当に春ちゃん?」

「残念、違いまーす」

否定の言葉を、春の声で言われる。すでにその声は部員全員にも聞こえるように設定してあり、こちらの声も随時向こうに伝わるようになっていた。

「あなた、一体・・・・・・」

「私、今現在声だけ咲河春なのよね~」

「声だけ・・・・・・?」

その時、王雅の中で一つの能力が思い浮かんだ。他人の声紋を解析することによって自分自身もその声を発生することのできる能力。声だけというある種の決定的なヒントから、王雅はその能力を発見した。

声帯変換ボイスチェンジャー・・・・・・?」

「おお、正解だよ。偉いね~」

やはり春の声で小馬鹿にしたように言ってきた。もし本当に春からのものなら、こんなことは言ってはこないだろう。春は明るくはあるが、人を見下したりはしない。まだ付き合いは短いが、その程度のことは熟知していた。

声帯変換ボイスチェンジャー・・・・・・柿崎組、鐘原恵菜かねはら えな!」

部室の隅で尚も雑誌を右手に持ったままの貞晴が立ち上がりながらその能力を持つ者の名を言った。

学園平和維持執行部隊スクールピースフルへのみせしめに俺らを叩く気か?」

「ま、それもあるかな」

恵菜が貞晴にそう言い返すと、見かねて広が核心的なことを突いた。

「それは、柿崎組の、俺たち都市事件解決専門部シティヘルパーへの宣戦布告ととらえていいんだな?」

「ま、そういうことにしとくよ♪」

そこで通信は途絶えた。

「聞いたな。お前ら」

広が全員の顔が見える位置へと移動しながらも部員に言った。そこには、いつもの爽やかな感じはなかった。それはまさしく、人をまとめるリーダーとしての顔と声だった。

「一年には辛いかもしれないがな」

その瞳には一切の迷いや躊躇はなかった。

「――柿崎組との、全面戦争だ」

この時、王雅達一年の入部から一週間という間もおかずに、新たな任務を受けることとなった。初任務がこんな形になるとは予想もしなかったが、こうなった以上は、しっかりと成功して終わらせなければならない。由衣の肩を持つわけではないが、心配して春を探しにいかなかった自分たちにも、責任の一端がないわけではないのだ。ならば、それを少しでも自分たちで払拭する必要がある。

「――はい!!」

 一、二年はそう返事をしてそのやる気を見せる。由衣は望むところだとでもいうように笑みを作って見せた。茂はアメを加えたまま歯を見せ、親指を立てた。将は無表情のままだったが頷き、たしかな戦意を見せた。

 この日、都市事件解決専門部シティヘルパーは一つにまとまった。


「恵菜」

「御用でしょうか、姉さん」

目の前に自らの部下たる鐘原恵菜が跪く。こういうシチュエーションは嫌いではないが、好きでもない。

「人質の所属組織に勝手に宣戦布告するな」

「そんなことでは、リーダーは務まりませんよ。柿崎組総長、柿崎風音かきざき かぜね様」

 わざわざこういう時だけフルネームで呼んできて、こちらがぶち切れる少し前でかわしてくる。それが恵菜の性格であり、持ち味でもある。

 そんな二人の下へ別の部下が入ってくる。男一人と女一人。どちらも見知った顔だ。

「風音様、鐘原恵菜は・・・・・・」

そう言いだした男の目が恵菜の姿を捉えた。と同時に、ずかずかと進んでいき、恵菜の前でいきなり怒鳴りだした。

「貴様! 勝手に宣戦布告など! オリオン会にも報告を検討する必要があるな!」

「三番手が偉そうに!」

「何だと!」

いがみ合う二人の横で対して意味もないと分かっていながらも仲裁の声が小さく入る。

「やめなよ。姉さんの前だよ」

しかし、聞こえていないのか、聞いていないのか、二人は口論をやめようとはしなかった。

「声をかえるだけの貴様があーだこーだ言う権利はないんじゃないか?」

そこで恵菜が声を変更し、今現在口論している目の前の男の声に変換する。

『声をかえるだけの貴様が、あーだこーだ言う権利はないんじゃないか? ふっ、ぼくってイケメン』

「マネをするな! しかも最後の言葉は生涯言い放ったことはないぞ!!」

「いい加減にしなさい、恵菜、能生人!!」

風音の一括で、恵菜、そして木勢能生人きぜ のおとは黙りこくった。ほとんど口出しせずに二人の口論を隣で見ていた井ノ川梨いのかわ なしが溜息をつく。

「こっちが売った喧嘩だ。棚の商品は戻したらもったいないだろ?」

「風音様、しかし・・・・・・」

異論を持ってこようとした能生人へと鋭い目で視線を送る。その視線に怖気づいたのか、それ以上言葉は発しようとはしなかった。

「売り出したんなら売り切る。向かってくるなら、叩くまでだ」

「さすが、姉さん! 話が分かる~」

甘えるように恵菜が体をくねくねとしてくる。風音はそばにあったナイフを『直接触れず』に持ち上げると、恵菜の左耳横数ミリのところに投げつけた。後ろのコンクリートにナイフが弾かれて床に落ちる。

「もともとはあなたのせいです。自覚を持っていただけますか? 鐘原恵菜さん」

きれいすぎる標準語は、風音の怒りの証拠だった。その標準語を聞いた恵菜は、すぐにその態度と口調を一遍させて、直立した。

「申し訳ありませんでした。以後気をつけます!」

直立した恵菜に、嘘がないことを確認した風音は、梨の方を向いた。

「それで、梨は何の用だ?」

「はい。我々の傘下である、管田の一派が壊滅しました」

「犯人は?」

「人質の所属組織です」

どうやら、向こうもいつかは、こちらに攻め込む気だったのかもしれない。風音は床に落ちたナイフを引き寄せると、元あった場所に戻した。

「梨、能生人、恵菜。傘下の者達を全員ここに集合させ、こう伝えろ」

真ん中にいた恵菜に視線をやると、戦いへの悦びを抑えられなくなったように顔に笑みを作った。

「合戦の始まりだとな!」


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