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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第三章【揺らぐ時】
34/41

34、運命享受の是非を問う

 超能力者笠垣将久、及び草部空斗を取り逃がした王雅たちは、ひとまず部室へと撤退することにした。途中で亜那と雹南は、上層部に報告すると言って別れた。

「で? どういうことなのか説明してもらえる?」

現在はOBという肩書きを持つ広と由衣だが、王雅達の直属の先輩であり、少し前までリーダーとその補佐を務めていた人物だ。今回の件に関して、話を通しておいても問題はないだろう。

「発端となったのは、王雅と愛が超能力者と思われる人物に襲われた、というものです」

口火を切ったのはバックアップチームの花だった。こういうことは、情報をきちんと整理しているバックアップ要員の方が言いやすいものだろう。王雅は、今は控えるべきだと、開こうとしていた口を閉じた。

「それに対して、執行部隊と協力して哨戒任務についていたんですけど、慎吾と貞治がやられてしまって」

「あいつらもまぁ、勝手なことを……」

広が呆れたように頭を掻いてみせた。確かに二人だけで将久に挑んだというだけでもなかなか無謀なことであるのに、もしあの場に空斗もいたとしたら、二人が負けたというのも納得できる。

 ただ、もし超能力者の目的が自分だったとしたら、と王雅は思う。先日、初めて戦闘になった時から、将久にはやけに狙われていた節があった。超能力者は、自分の出生の秘密を知っている。ただ、それも空斗の存在があればそれにも合点がいく。そして、愛や慎吾や貞治、雹南や亜那を狙ったのも、王雅を誘い出すための餌だったとしたら。

「狙いは俺なのかもしれません――」

王雅は、ぽつり、呟いた。もし、自分が狙われているのだとすれば、皆を巻き込んだということになる。

「王雅、どういうこと?」

先ほどの戦闘データの処理を行っていた緑が、訝しげに王雅に問うてきた。王雅が自分の狙われている理由を述べるということは、自分の出生の秘密を明かすことになる。何よりもまずその王雅の話を信じてくれるかどうかが謎だが、今まで積み上げてきた信頼と積み重なった魔法絡みの怪奇な世界をもってすれば、あるいは信じてくれるかもしれない。

「今日発覚したことなんですが――暁紅という、超能力者の対抗組織。俺はどうやら、その組織のある計画によって生まれたらしいのです」

王雅は個人的にものすごく真剣に発言したつもりだったのだが、部室の全員が凍りついたような感覚があったのは、嫌でも分かった。信じるにしても信じていないにしても、王雅の言ったことを受け入れるのには多少なりとも時間がかかるのはしょうがない。問題はその後だ。

「意図的に生み出されたってこと……?」

二菜が王雅の言ったこと、その概要について返してきた。王雅はそれに対して一つ、頷いてみせた。

「俺も、ある意味では作られた――リボットなやつだったってことです」

「……とにかく、先方の目的は、対超能力者として生まれた王雅を潰すために動いてるってことか……?」

「その可能性が一番高いかもしれません」

今の王雅にできることなんて限られている。暁紅に憎しみを抱いている空斗を、どうにかして説得して、超能力者から引き剥がすことだ。暁紅の思うような道を進めと言うつもりはない。ただ、わざわざ戦うような道に進んでほしくはない。それは、数ヶ月とは一緒に過ごしてきた友に対する情であったことは間違いない。

「どうにかして、笠垣将久を倒して、この一件は終息させなきゃいけません」

「でも、王雅。王雅の知り合いのあの人はどうするの?」

春が言うのは、間違いなく空斗のことだ。王雅の中ではすでに答えは出ていた。

「空斗は、なんとかして説得してみせる。あいつはあんな場所にいるべきじゃない――」

確かに暁紅のやり方は、子供の運命をほぼ強制的に決めてしまう時点で人道さに欠けるものがある。だが、その全てが間違っているとは思えない。超能力者という抑圧者に対する唯一の反抗者レジスタンスである以上、その存在は魔術師にとっても魔導師にとっても、忌み嫌っても完全弾圧はできないのだ。

「本当にできるのか?」

疑問を提示してきたのは、清司だった。

「あの空斗ってやつ、ちょっとやそっとじゃ動じるような感じはしなかった。戦闘になる可能性だって十二分に考えられる」

「……」

黙る王雅に向かって、清司は続けた。

「王雅。人ってのは感情が高ぶってるほど、人の言葉なんか聞こえやしないんだ。本当に響く言葉じゃなければな」

「ああ……分かってる」

分かっている。分かっているからこそ、挑まなければならない。それは、空斗にでもあり、自分自身に対してもだ。

「今日はもう日が暮れる。各自気をつけて帰ってくれ」

すでに西日は傾きはじめ、部室を窓からオレンジ色に染め上げている。広が帰るよう諭したのも――すでに指揮権はないにしても――当然のことだった。

「はい。先輩方もお気をつけて」

そこで一度、部員は解散することとなった。


 王雅は一人、自宅へと歩いていた。今日一日だけで、いろいろなことがありすぎて、少し混乱してしまっていることは否めない。超能力者の対処について助力を求めようと暁紅に行ったと思ったら自分が対超能力者用に生まれた者であったことを知らされ、暁紅に身を売ったとでも言うように魔術師の愛からは一方的に拒絶され、慎吾と貞治が超能力者にやられ。極めつけには今まで友であったはずの空斗が自分と同じ暁紅による生まれで、しかも超能力者に寝返っていた。

「波乱にも程があるだろ……まったく……」

王雅は半ば呆れてしまっていた。今日は厄日か何か、と疑いたくなってしまう。今日くらいはゆっくり休みたいところだ。明日からまた、何かがずれた日常が始まるのだ。

「明日……明日か……」

本当に、自分の見る明日は、自分の望む明日なのか。空斗がそうであったように、王雅もまた、本当は決められた明日を歩んでしまっているのではないか。いや、空斗のそれはただの思い込みで、本当は自由な明日が待っていたのかもしれない。

「運命によって決められた明日も、悪いもんじゃないよ、王雅」

そこで王雅ははっとして顔をあげた。そこにいたのは一週間以上の時間をあけて姿を見せた羽渡鎖。そして、その隣には――。

「鎖……何故空斗と共にいる……!」

「何故って……さすがに君もそこまで察しは悪くないだろう?」

王雅の中で、一つの思考歯車が噛み合った。間違いない、羽渡鎖は……。

「――超能力者!」

その答えを聞いて、「よくできました」と言わんばかりににんまりと顔を歪めてみせた鎖に対して、王雅はギリギリと鳴り出すのではと思うほどに拳を強く握った。

「そんな怖い顔しないでほしいなぁ、王雅。僕は君のために二度も手助けをしてあげたんだよ?」

「なんだと……!」

この男に助けられた覚えは王雅にはなかった。少なくとも、頼んだ覚えはない。

「最近のだと、そう、桃陽家への風林火山の襲撃事件。桃陽家に攻め込む十色機者リボットカラーズの落ちこぼれ達をやったのは僕さ」

「!!」

桃陽家への風林火山の襲撃は二度に渡って行われたのだが、そのうち一回目は、風林火山が統率した――というよりは支配下にした――十色機者の次男、次女達を中心に行われた。半分脅された形とはいえ、権力に目が眩んだ彼らは、超能力者と思われる者によって戦闘不能に追い込まれた。行われたのは、意図的に、正確に狙って落とされた落雷だった。

「ああいう場面では、僕の能力――天災万象ユニヴェールデザストルが有効に効いてくれたようだからね」

天災万象ユニヴェールデザストルと呼称したその能力は、王雅にはどういうものなのか検討はあまりつかなかった。何せ、超能力の名を聞いたのも初めてだったのだから無理もない。

「僕のこの能力は、ありとあらゆる天候を操る能力さ。遠近全ての戦いもこの能力一つで全てカバーできる」

超能力者は本来、一つの強力な能力と引換に、あまり応用が効かないとされている。だが、鎖はその常識を半ば破ることができるという。王雅は、何か壁のようなものを感じた。超えることのできない壁のようなものを。ある意味では憎悪の対象である目の前のこの男に対してどこか、「勝てない」と思わせられるような何かがあった。

 それは、全てという単語に由来するものなのか。

 人は万能ではない。神もまた、それは同じだ。万能の神がいるのならば、今までの歴史、伝説の上に、複数の神が存在しているはずがない。

 だから王雅は、全てをカバーしうる力を持った目の前の男に、激しい嫌悪感を抱いた。

「万能な人間なんていない。人はみな、何処かで欠陥を抱えた不完全なものだ。だから、全てをカバーしうることなんてできない」

「――試してみるかい?」

その言葉に、王雅ははっとした。それは、今このとき、鎖と戦うということだ。余計な戦闘は避けるべきではあるが、好奇心がないわけではなかった。

 だが、まだ・・王雅には理性が残っていた。

「そんな分かりやすい挑発に乗るとでも思ったか」

「ま、さすがに動機もなければ戦う必要もないか……じゃあ、動機を与えてあげよう。僕が君を手助けした、最初のこと」

「最初の――手助け……」

王雅は一度そこで口を閉じた。この男が何を言い出すのかは分からないが、まともなことではないだろうことは、王雅はなんとなく察していた。

「君のその能力、覚醒させてあげたのは――この僕なんだよ?」

「何……!?」

王雅には理解できなかった。確かに、王雅の能力は暴走と同時に実戦で扱えるほどのレベルにたたき起こされた。その暴走の際、確かに鎖は王雅のそばにいた。だが、そこに何の因果関係があるとは、王雅には考えられなかった。

「暴走のショックで君は記憶が一部飛んでしまっているようだから教えてあげるよ。君のその二つの重福能力は、対超能力者用のために生まれたと言ってもおかしくない。そして君は暴走のその時まで、僕以外に、超能力者と接したことがない」

王雅は、唾を飲んだ。この男が狂言を吐いている可能性はあるが、妙に真実味、現実味を帯びている。そんな気がしていた。

「だから僕は、あえて自分が超能力者であることを、君に伝えた。君の、その定められた運命に沿って生まれた身体は、超能力者を殲滅すべく力を解き放った。君はその時、力を制御しきれず、暴走した――さすがに、僕もひどい傷を負わされたものだけどね。幸い、傷はとある筋に直してもらったから、なんとかなったけどね」

「そして、高校に進学したお前の監視のため、俺はお前に接触した。俺が超能力者だと気づいてくれなかったのは、ほんとにラッキーだったよ」

鎖に続いて、空斗は口を開いた。王雅は、何を言えばいいのかしばらく迷った。ずっと、自分の力の暴走は、自分のせいだけだと思い続けていた。だが、あの事件の原因は自分ではなく、鎖にあった。その事実に驚きを隠しきることはできなかった。

「鎖、どうしてだ。俺が対超能力者用に生まれたと分かっていたなら、俺の力が発動する前に始末すればよかっただろう。わざわざ力に目覚めさせるようなことをするメリットがどこにある」

「僕はね、王雅――君の運命を最っ――高に狂わせたかったのさ!」

「な……!」

「運命に縛られた俺を解放してくれた超能力者のために、成功例であるお前のことを、全て話した」

鎖の宣言に呆気に取られた王雅に、空斗から追い打ちがかかった。

「君は暴走のショックで、自分が対超能力者用の兵器として生まれたことも、暁紅という組織のことも、更には魔法という概念そのものも忘れてしまった。僕は最高に嬉しかったよ。君が次々に事実に気づいていくことで、恐怖と絶望、そして憎しみや怒りを感じてくれると思うとね!!」

今まで王雅が歩んできた道、人生、運命。それらは全て、この男によって大まかなものを決められてしまっていたということなのか。何処までも自分の意志で決め、自分の意志で戦ってきたのは、間違いだったとでも言うのか。

「お前……!」

「さあ、戦おうよ王雅!! 君の今までの決意と、力と、思いを、僕にぶつけなよ!!!」

「うおおおおおおおお!!!!!」

王雅は、力の限り叫びながら、両手それぞれに炎と雷を纏った。


 今、王雅の因縁をかけた戦いが始まった。それが、新たな波乱と戦いの先駆けになるとも知らずに。


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