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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第三章【揺らぐ時】
32/41

32、生まれた意味

 王雅はある意味完全なるアウェーの中で、超能力者による襲撃の事件を話し始めることにした。男の特徴、どういう動きを主としているか。どういう場面で戦闘になったか。王雅が知り得た情報は、ほぼ全て暁紅へと与えられた。暁紅の最高司令官である由香里は小難しい顔をし、隣に控えていた凛子もまた、困ったような顔をしていた。

「この超能力者の目的は不明だが……私たちのところにも、超能力者による作戦行動が行われるという話は掴んでいるわ。あるいは、この襲撃はその予兆的戦闘といっても差し支えないかもしれない」

「つまりは、牽制、ということですか」

「話を掴んでくれるのが早くて助かるわー。たぶん、そういうことだと思うよ」

由香里はともかく、凛子との会話はどうも話のペースを乱されるような感覚がして、王雅は少し苦手意識を早くも持ち始めていた。人柄そのものを否定するつもりはないが、自分の思い通りの話しがしづらいのは、あまり気持ちのいいものではない。

「ところで、王雅君。話は変わってしまうんだが……君は、『対超能力者用魔術導師開発計画』というのを聞いたことはないか?」

由香里が話題を変更したのと、その場にいた暁紅のメンバー達の顔色が変わったのは、ほとんど同時だった。王雅は、今から由香里が話そうとしていると思われるこの話題が、暁紅に大きく関わる、あるいは暁紅の本筋のようなものであると直感した。

「そのような計画は聞いたことがありませんが……その計画名から察するに、超能力者のための人材をつくる、という意味でしょうか?」

「まぁ、簡単に言えばどの通りなんだけど……」

どこか、凛子は濁したような言い方をした。何か、核心的なことに触れてしまったのか、それとも――。

「蓮王雅。所持能力、収束火炎コンバージフレイム及び全方放電コースディスチャージ

由香里が淡々とした口調で王雅の名の後に能力名を重ねてきた。まさか、昨日の連絡から今日このときまでの間に、自分の能力や所属を徹底的に洗い出されたとでもいうのだろうか。もしかしたら、中学時代のあの事件のことも――。

「君は気づかないか。君自身の謎――矛盾点に」

由香里の目は真剣そのものだった。何かを王雅に訴えかけている目だ。何かを、伝えようとしている目。

「俺の……矛盾……」

言われてから王雅は、自らの矛盾に考えを巡らせた。自分自身の、何かが食い違っているはずの相違点。それがどこなのか、王雅は目を閉じて考え始めた。初めにめぐってきたのは、王雅自身の能力についてだ。自分は魔術師で、能力を持っている。だが、今まで会ってきた魔術師、魔導師に、二つの能力を持った者はいなかった。自分の矛盾は、そこにあるというのだろうか。

「答えは出たみたいね」

王雅が目を開くのを確認した凛子が、柔らかい笑みで王雅に確認を取った。王雅は何か言おうかと口を開いたが、それより先に由香里が話し始めた。

「王雅君、君には能力が二つ備わっている。普通なら、魔術師でも魔導師でも、ましてや超能力者でもありえないことだ」

王雅の心臓の鼓動は脈の速度を上げ始めた。まさか、そんなという、無謀にも似た感覚が全身を、脳を、五感を支配している。気持ちの悪い冷や汗を感じた。

「はっきり言わせてもらう。王雅君、君はほぼ間違いなく――」

そこで一瞬の間が空いた。言葉を紡ぐのを躊躇しているのかもしれない。だが、王雅には、その一瞬の間さえも、長くも短くも感じられた。

「――本計画によって生み出された、蓮シリーズ第十五番目の被検体新生児、検体Oよ」

王雅は、やはりかという感覚と、信じられないという驚愕に、目を見開いた。全身から嫌な汗が噴き出している。頭がズキズキと痛み、視界が回っているような感覚に襲われた。このままでは倒れてしまいそうだと、王雅は心中、弱音を吐いていた。

「王雅、大丈夫か?」

翔斗が心配そうな顔で王雅に声を掛けるが、そんなのに構っていられるほど、王雅の精神状態は安定してはいなかった。

「少し……外の風に当たってきます……」

ここから外に出ても路地裏だが、特有の風は吹き抜けているだろうと踏んでのことだった。

「あ、私、付き添います!」

翔斗の後ろで同じく心配そうな顔で様子を見ていた真由奈が王雅に駆け寄り、背中を支えながら二人で外に出た。

 外は、王雅が思っていた以上に風が吹いていた。王雅にとっては何よりもありがたいことだったが、まださっきの言葉が離れなかった。

「俺は……作られた人間ってことか……」

王雅は苦虫を噛み潰したような顔になっていた。歯を食いしばり、朦朧としていた意識をぎりぎりで保ち続ける。

「王雅さん、確かに私たち暁紅は、あなたを超能力者に対しての有効利用を考えましたし、たぶん今もそう思っています。でも、王雅さんはちゃんと人から生まれた、ちゃんとした人間ですよ……!」

説得、というよりは慰めている真由奈は真由奈でまた、泣きそうな顔で王雅に連れ添っていた。王雅と真由奈の考えや精神状態は同じではない。だから王雅は、真由奈のそんな言葉も、どこか聞き流し気味に聞くしかなかった。今の王雅には、人の言葉を聞いている余裕などなかったのだ。

 だが、運命というのは時に残酷さをもって襲いかかる。

「あら、どうしたんですか真由奈さん。その方は?」

「あ、えっと、お客様ですよ」

朦朧とした意識が少しずつはっきりしてきた時、王雅の正面には真由奈とは別に二人の少女が立っていた。

「もしかして、この方が王雅様?」

「え、あ、はい……」

「あは! やっぱりぃ! 私、検体Rの蓮阿留奈れん・あるな! よろしくね、お兄様!」

「同じく、検体Qの蓮汲歌れん・きゅうかです。よろしくお願いしますね、お兄様」

二人の妹。もう王雅には何も理解する力が残されなかった。混乱が先ほど沈みかけていた症状を再発し、今度こそ王雅は意識を失った。


 王雅が暁紅で話し始めたころ、慎吾と貞治は哨戒任務についていた。

 先日、王雅と愛が襲われたという謎の男の存在を警戒してだったが、それらしい人影は今のところ確認できていない。襲われたのは事実だし、超能力者などという魔法サイドの人間が絡んでいる可能性がある以上、魔術師と関わりのある自分たちも無関係ではいられないのが現状だ。

「おい慎吾ぉ、いつになったらそのクズ野郎は出てくんだよ? 一回きりの通り魔で終わりかぁ?」

「日を置いて出てくる可能性もあるし、今鉢合うかもわかんないんだぞ? 見慣れた道だからって気ぃ抜くなよ」

「へいへい、部長どの」

ただ――と、慎吾は思った。

 直接的な関わりは王雅たち以外にいない自分たち。もしかしたら、その例の超能力者は初めに王雅を襲ったのは偶然ではないのかもしれない。今、おそらく王雅は魔術師の中でも名の知れた存在だろう。オリオンコンピュータの守護していた月影吹雪の撃破、桃陽家を初め、十色機者リボットカラーズ次期代表の暗殺を目論んだ「風林火山」の撃破。超能力者に目をつけられ、襲われても不思議じゃない。それにもし、王雅を狙ったその男が愛を狙ったのも、偶然ではなかったとしたら――。

「おい慎吾、どうやらお前の言う通りみてぇだぞ」

貞治のその言葉に、慎吾ははっとして考えに下げていた頭をあげた。

 目の前には、巨大な槍のようなものを携えた男が立っていた。


 王雅が再び目を覚ました時、目の前には天井が見えた。白で統一された部屋の天井は、王雅に、自分が目を覚ましたのだと自覚させるには十分の明度の差があった。

 ふと頭の方向を変えると、そこには誰のか分からない頭があった。まだ寝起きの状態のせいか、それとも先ほどの頭痛その他の症状のせいか、まだ意識があまりはっきりしない。王雅はぴくりとも動かないその頭に向かってとりあえず声を掛けることにした。

「あの……」

「ほえ?」

そんな間の抜けた声と共に、頭が上がった。その顔は眠気に負けて少し歪んでいるが、間違いなく連真由奈のそれだった。そして、王雅は一拍遅れて気がつく。

 顔が近い。

 二人の顔は二十センチにも満たない距離にあり、今にも鼻先がついてしまいそうであった。その事実を認識して、二人が驚きの声と共に互いに顔を慌てて離したのはほぼ同時のことであった。

「わああっ、ごごごごめんなさい、私、その……」

「ああ、いや、俺の方こそ……ごめん」

互いに謝罪の言葉を言い合う。真由奈の方は顔を赤くして下を向いてしまい、目も合わせられないような感じであった。

 王雅は、気持ちを落ち着けると、まだ下を向いたままの真由奈の頭に手をやった。わしゃわしゃと少し乱暴に撫でる。それに驚いた真由奈の顔が反射的にあがる。

「ありがとな。わざわざ付き添ってくれて」

「い、いえ――と、当然のこと、ですから……」

今度は、少し照れくさそうにして真由奈は斜め下を向いた。

「真由奈――詳しく教えてくれないか。俺と――あの妹たちのこと」

「――いいんですか?」

真由奈の心配も無理はない話だ。何せ先ほど、王雅は自らの存在の事実を突きつけられた時に計り知れないショックを受けたのだ。頭痛や目眩もそれに付随したものだし、ぶっ倒れたのもその延長線上だ。だが、突きつけられるのと語られるのは違う、と王雅は個人的に考えるようにしていた。今はちゃんと、心の準備ができている。

 王雅は、一つ頷いた。それは、全てを受け入れる準備ができたと、そういうことだった。

「分かりました。では、順を追って話しますね」

そう言うと、真由奈は一つ、呼吸をして、王雅に問いかけるように話し始めた。

「魔術師や魔導師の成り立ち、というのは理解していますか?」

「一言で言えば、超能力者による指導、みたいなものだろう?」

「はい。私たち魔導師、魔術師が生まれた時から、超能力者は常に上位の存在として私たちを見下す、というよりは支配下に置くという形をとってきました。そんな超能力者に反旗を翻すために、私たち暁紅は結成されました。そして、そこで最たる活動として行われてきたのが、対超能力者用魔術導師開発計画です」

「その計画は、そもそもどういうものなんだ」

「魔術師と魔導師の間に子供を産ませることで、魔術、魔導両方の力を与えるための計画です。王雅さんを含む蓮シリーズは、魔導師の『つらなり』と、暁から炎の象徴を表すための『紅蓮』から生み出されたものです」

「なるほど、『蓮』という苗字は連に炎の意味を持たせたものか」

「はい。そして、王雅さんは十五人目にして、初めて暁家の「収束火炎」と連家の「全方放電」を同時に会得した子供として生まれてきたと聞いています」

「待て、じゃあ俺が生まれるまでに生まれてきた奴らはどうなったんだ」

王雅の中に嫌な予感が過ぎていくのが感じられた。

「ほとんどは、戦闘には不向きな体質の子や、奇形児だったりして、ほとんどは暁紅専用の育児施設で育てられました。奇形児として生まれてしまった子には、自分で命の選択をさせて、戦闘に不向きな体質に生まれてしまった子には、戦闘訓練を積ませて、常人レベルまで育てた上で、素性を明かさず、リボットとして生活させています」

「そうか……」

「王雅さんは、初めての成功体として、普通の子供のように育てられましたが、十三歳を越えても、能力は実用レベルには達していませんでした」

「確かに、そういう感覚は……」

そこで王雅は思い出す。自らが封じてきた過去を。中学時代、何十人ものクラスメイト全員を傷つけた、あの事件を。

「私たちにとって、嬉しくも悲しくもある誤算が、王雅さんが暴走と同時に、能力を完全に自分のものにした、ということです。ですが、王雅さんが計画によって生まれたことに関しての記憶を喪失したのと、再び暴走することで、計画に支障を来たす可能性を鑑み、私たちは一度、あなたを手放しました」

事件の終息後、王雅の両親は姿を消していた。それは王雅を見捨てたという理由ではなく、計画の遂行を第一に考えた上での結果ということだったのだ。

「そして、何の因果か因縁か、王雅さんは自分の出生の秘密を忘れたまま、魔術師として接触してきた。暁紅――私たちとしては、手放した成功体が自立して帰ってきたんですから、戦力に取り込みたいと思っています」

「――真由奈。悪いけど、俺は暁紅の戦力の一員としては動かないと思う」

「え……」

そうだ。自分にはもう――。

「俺にはもう、居場所があるから」

最後の一言は、少し申し訳なく感じながらの言葉だった。その言葉を聞いて真由奈はがっかりしたように俯いて見せたが、王雅にはそれに同情することもできなかった。

 その時、王雅の携帯端末が着信を告げた。王雅のベッドからは少し離れている場所にあったため、真由奈にとってもらう。

 発信者は春だった。

「どうした、春」

『王雅君、慎吾先輩と貞治先輩が、男に襲われて負傷したって……!!』

「な――!!」

それは、新たな悲劇への幕開けを知らせる着信だった。


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