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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第一章【オリオンコンピュータ】
3/41

3、初任務(ファーストミッション)

 柿崎組の一派たる、管田達の掃討に向かうというミッションを与えられた王雅、春、清司の三人は、それぞれ別の場所に潜伏していた。王雅の前方には、肉眼で五人ほどの生徒が周囲を警戒している。しかし、何故か彼らからはやる気は感じられなかった。まるで、仕方なくしたがっているような――。

『王雅君。準備はいい?』

通信端末を無線型にした小型スピーカーから春の声が聞こえてくる。間もなく作戦開始時刻だ。

「ああ。いつでもいける。清司も大丈夫か?」

『おぅ、問題ない』

威勢のいい返答が返ってくる。後一分で作戦が開始される。

 長く感じた一分に、遂に達した。

『作戦開始!』

三人の無線機に二菜からの指示が出されると同時に、三人は飛び出した。


 清司は前方の者達へとゆっくりと近づいていった。すでに向こうはこちらの足音に気がつき、こちらへと接近してきていた。向こうの生徒のうちの一人が清司に向かってドスを聞かせた声で迫ってきた。

「君ぃ、こんなとこで何してんの? この辺からはさっさと立ち去れよ」

「俺、この先に用があるんで」

清司がその生徒の話を流すように横に進もうとすると、別の生徒が立ちふさがった。当たり前だが、これ以上先へと通す気はないらしい。

「あんまりなめた口は利かないほうがいいぜ、兄ちゃん。ここは強い者に従うっていう――」

その生徒の言葉は、ポケットに手を突っ込んだままの清司の蹴りによって遮られた。生徒達は驚愕とともに、一般人から敵となった清司へと臨戦態勢を取る。向こうの生徒達は、全員が同様の旧パイプ型の黒棒を腕の中から取り出して握り締める。

「てめぇの力がどの程度かはしらねぇが、俺達が強いのは、確かだよなぁ!!」

向こうの二人が、その黒棒が振り下ろしてくる。清司はポケットに手を突っ込み、目を瞑ったままでその二つの黒棒を受けとめる。しかし、それらを受け止めたのは清司の腕ではなく、彼の背後から出現した機械の触手とでもいうべきものだった。

 千本触手テンタクル。それが、中機械化スタンダード中操作者ベターたる清司の能力。

「黒棒はその先端の色によってその能力値を測ることができる――」

それを言うと同時に、清司は黒棒を持っていた二人の前まで接近すると、両拳を握り締めた。

「――お前らは弱操作者ウィークだ」

それと同時に更に二つの触手を背面から出現させた清司は、それを正面で黒棒を掴まれている生徒二人へと突き出した。向こうの機械がエラーを起こし、体の自由が利かなくなった。清司は三人の腹部に職種を突っ込んで追撃を加えると、すぐに走り出した。


 一方の春は、五人ほどの生徒達に囲まれていた。さすがに数の差がある。

 春は両手首から銃口を出現させると、拳を握ったまま、彼女をかこっていた生徒達に向けた。

 そこからの展開は速かった。

 その銃口から各一発ずつミサイルが発射されると同時に、春は振り返って右手首の銃口から背後の生徒へとエネルギー弾を発射する。そのエネルギー弾にあたった生徒の機械は暴走し、後に小さな爆炎を上げた。そして、間髪入れずに前方の二人に鉛の銃弾を浴びせかけ、その四肢に一発ずつ、計八発を狙い違わず撃ち抜いた。

 これが中機械化スタンダード弱操作者ウィークの春の能力、森羅射撃メニーショットであった。


 王雅は、敵の排除にそこまで苦労することはなかった。ただ雷の力を解放することによって集まって来たものを、一瞬にして戦闘不能にしていたからだ。だからこそ、彼は一番早く、管田達の拠点の倉庫までたどり着いた。王雅は部室の方へと通信を飛ばした。

「拠点の前まで来ました。他の二人はまだ戦闘中らしいですが」

王雅の通信に答えたのは、二菜だった。

『予想していたよりも速いわね。とりあえず、そこで待機していて。他の二人と同時に突入するから』

「了解」

そこで王雅は二菜との通信を切った。切ると同時に、清司の姿をみつけた。どうやら敵の一掃が完了したらしい。

「春はまだか?」

王雅は、清司に最後にここに到着することになる春の状況を尋ねた。

「さっき俺のところに、一掃完了したという連絡があった。もうすぐ来ると思うんだが・・・・・・」

しかし、三分以上経っても春はここには来なかった。春は別に天然でもなければ、方向音痴でもない。不審に思った王雅は、二菜へと通信を入れる。

「春はまだ来ないんですか?」

『こっちにはつい二十秒前に連絡があってから消息が途絶えたの。いつ来るかは分からない。二人で突入して』

「・・・・・・了解」

 不安の残る会話のまま、王雅は通信を切断した。王雅と清司は中の様子を確認する。中には作戦前の情報通り、十五人ほどの生徒達がいた。

「準備はいいな?」

「いつでもいいぞ」

清司が合図を出す。王雅は倉庫の正面扉の数メートル前で左拳を握りしめる。すでにそこにはかすかな雷がその磁気を纏っている。

「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

王雅が引いていた左手を開くと同時に扉へと突き出すと、その手のひらから直進的な稲妻とでもいうべき雷が扉を轟音を上げて吹っ飛ばす。その扉によって中にいた二、三人が巻き込まれる。扉が吹っ飛ばされると同時に清司が内部に突撃し、背面から出現させた触手でそのまま四人同時に壁や床にたたきつける。王雅もすぐに内部に侵入し、左手に雷を、右手に炎を纏わせる。

「始めるぞ!」

王雅はその一言と同時に、右手を開いて炎を溢れさせた。


 春の情報を未だに見つけられずにいた二菜は、ようやく彼女の居場所を割り出した。その場所が指し示したのは、柿崎組の本拠地だった。二菜はその目を見開くと共に、近くで雑誌を読み漁っていた信吾を呼びつける。

「何だよ・・・・・・何で・・・・・・!!」

信吾もまた、その事実に驚愕していたが、すぐに部長の広へと連絡を入れる。その行動は迅速だった。

『分かった。俺と由衣で捜査してみる。他の二年にも連絡いれて、バックアップに回せ』

「わかりました」

二十秒にも満たない通信の間にも、信吾は部室内の通信端末から二年全員にあてた緊急集合メールを作成し、通信切断と共に一斉送信した。

「さぁ、大仕事だ!」


 一方、王雅と清司はひとり、またひとりと数を減らしていた。残っているのは数えても五人ほど。向こうの戦力は対して大きい物ではない。

「何だ・・・・・・お前たち・・・・・・執行部隊ピースフルじゃあねぇな・・・・・・なぜここが・・・・・・」

管田と思われるトップらしき男が王雅達へと当然の疑問を投げかける。向こうがこちらの存在を知っているのかどうかわからないが、わざわざ言う日いうようはなかった。

「そういうのは俺たちの先輩にでも聞いてください」

そう言うと同時に清司が触手で周辺の生徒達をほとんど力づくで薙ぎ払う。レベルの高い相手に対しては、こんな力づくの戦い方をしていればいつかはボロが出るだろうが、さして強くもない者達を一層するには十分だろう。

「俺たち、まだ成り行きの新人ですから」

そう言うと同時に大きく加速した王雅は、管田の眼前まで接近する。炎を纏わせたままに突き出した王雅の拳を、管田は身を翻して回避してみせると、そのままかがみこむ。しかし、そうしていたのは一瞬のことで、次の瞬間にはまるで体全体をバネのようにして肩から王雅へと突っ込んできた。

「危ねぇなぁ、オーバーヒートしちまうだろ?」

肩打突進ショルダータックル・・・・・・」

清司がその能力名をつぶやくと同時に背面の触手を管田へと伸ばす。しかし、管田は、その場で回転し、触手へと自らの肩を打ち付け、触手の直進方向を逸らした。

「この肩はタックルのためだけの代物じゃないんでね」

管田はこちらの動揺を見透かしたかのような笑みを見せると、あっという間に清司の目の前まで接近し、ショルダータックルを食らわせる。かなりの加速をつけてのタックルだったらしく、清司は大きく吹っ飛ぶが、触手を上手いこと操って、地面にそのまま叩きつけられることは回避したようだ。

「繊細だな・・・・・・」

今の加速は恐らく、強化されたその肩を最前線にすることによって、風を受け流し、空気抵抗を少なくしたことによるものだ。大胆そうな能力と動きだが、その実、空気の流れもある程度理解する必要もある。どうやら、空気循環エアサイクルの目利きも少しかじってるのだろう。

「次はお前だ!」

管田がこちらを見やると同時に走り出す。王雅は真正面へと炎を噴出させて足止めすると、管田の横方向にも炎を噴出させ、空気の流れをこちらから強制的に変更させる。先ほどのような加速がなくなったが、それでも威力が完全に消えるわけではなく、その肩は王雅を捉えた。

 今度は簡単に吹っ飛ばさず、あえて肩で押し続け、そのまま壁に押し付けた。

「がはっ・・・・・・!」

「王雅!!」

清司が触手を伸ばして管田を圧そうとしたが、それも片方の肩でいとも簡単に弾かれる。

 だが、このとき管田は、今押さえつけている者の力を見限っていた。

零距離雷ゼロ・ライ

王雅は管田の右肩を、雷を纏った左手で触れ、雷を放出した。もちろん、その雷で管田の肩はエラー反応を起こす。管田の動きが著しく鈍る。王雅は縛るものがなくなった体、その右手を管田へと突き出した。炎によって再び管田の肩がエラーを起こす。

「清司、行け!!」

「了解!!」

清司が背面の触手を挙動制御できなくなった管田へと直進させる。今度は軌道を逸らされることはなかった。触手は正確に管田の体を捉え、そのまま地面へと勢いよく叩きつけた。

 王雅は動かなくなった――死んではおらず、気絶しているだけだが――管田に視線を少しやった後、二菜へと通信を入れる。

「吉葉先輩、任務完了です」

『ご苦労さまだけど、いつまでも腰を下ろしているわけにはいかないわ』

「何かあったんですか?」

『春ちゃん、柿崎組の本部に行ったみたいなの』

その言葉には驚愕しか表情として出すことはできなかった。王雅は半ば信じがたいを抱えながらも二菜に聞き返す。

「柿崎組・・・・・・」

『正確には、『連れて行かれた』らしいけど』

「誘拐ってことですか・・・・・・」

「誘拐・・・・・・?」

そばで聞いていた清司がその言葉に反応する。王雅は清司に一度視線をやったが、気まずい思いを抱いてすぐに視線を逸らした。

『今、部長と由衣先輩が調査に向かってる』

「――分かりました。すぐ戻ります」

そこで通信は切れた。向こうから通信を切断したのだ。どうやらかなり忙しいらしい。そこまであえて踏み込む気はなかったし、踏み込んでいける状況でもないだろう。

「行こう、清司。春を助けるぞ」

「情報が少ないが、いきさつは理解した」

おそらく、本当に理解しているだろう。まだ数日しか一緒にいないが、冗談は言っても嘘は言わない。そんな男であると、王雅は認識していた。

 王雅と清司は当初の支持通り、専用の拘束具を管田に取り付けた。リボットを取り入れない警察も、数世紀前から使用されている手錠の改良型、もしくは、リボット専用の拘束具を使用している。リボット内の機械に直接干渉することで動けなくするという、いたって単純なつくりではあるが、本格的な運用は、リボットによる犯罪が増加したここ数十年からだ。

「とにかく、こっちの方は任務完了だな」

清司がにかっと笑ってみせた。王雅も小さく笑みをつくり、その場を立ち去った。


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