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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第二章【交錯する画策】
24/41

24、風林火山

 亮人と爪紗の模擬戦から数日が経った頃に、王雅達はそれぞれが配置についていた。しかし、通常の都市事件解決専門部シティヘルパーでは決してありえない人物が、そこにはいた。

「ここに本当に来るんでしょうか・・・・・・」

学園平和維持執行部隊の田野木亜那は不信の視線を広と真弥に向けながらやや投げやりに言った。

「ええ。間違いなく来るわ」

それに答えたのは、階村真弥。桃陽家の前には、都市事件解決専門部所属の王雅と広、そして苗子。学園平和維持執行部隊スクールピースフルを代表して出てきた宮下雹南、田野木亜那。そしてそれらに所属していない階村真弥と愛。愛は王雅や専門部の方から要請を受けて来たのだが、真弥の方は特に要請を受けたわけではなく、自主的にこの場に来たのだ。元々魔術師ということより魔導師の手中に落ちることを防ぐため、という大義名分は口に出さずとも持っているとはいえ、それはきっと理由の半分も占めておらず、本命は愛の様子見だろう。

 愛と真弥は客観的に見る限りは仲が悪い。(愛が一方的に嫌っている、という節もあるが)

 そして、王雅の前で少なくとも一回は、愛は真弥に負けている。愛はこの戦いで真弥に対して自分の力を見せつけたいという気持ちを多かれ少なかれ持っていることだろう。自分はお前が思っている程弱くはないと。いつでもお前に勝てるほどの力を、自分は持っているのだと。

 遠くに肉眼で魔導師を確認すると同時に、桃陽家におかれていたESRが十数人ほど一気に頭に岩弾をくらって倒れる。

 その岩弾の発射地点が魔導師の位置と一致し、その投擲者が重力制御グラビティリモートを持つ山牙爪紗であると特定するのに一秒の必要もなかった。完全に先手を打たれた形にはなってしまったが、少なくとも数においては、こちらの方に大きな有利要素アドバンテージがある。この油断は命取りになる可能性はあるが、状況を冷静に判断する必要がある。戦場では特に、予測そのものはもっと悪い方向に考えなければならないのは、常識の範疇ではあるが、そんな常識をあてはめるだけの後ろ向きな戦いでは確実にこちらが付け込まれる。それもまた、「冷静な判断」をしたうえで下した決断だった。

「散開して敵小隊を迎撃する!」

広の声と共に、王雅達は散開し、向かい来る四人へとそれぞれ向かっていく。王雅は愛と共に風鳴亮人へ、真弥は林木静夜へ、広と雹南、亜那は火攻侵炎へ、苗子は山牙爪紗へ。人数比が若干不安定であるが、これは元より決められていた割り当てであった。


 亮人と対峙すると同時に先制攻撃を行ったのは王雅達ではなく、亮人の方であった。亮人は周囲の空気に干渉して風を起こし、それを王雅と愛へと叩きつけてくる。まだ実力を出し切っていないのだろう。前進する足が重くなっただけである。王雅は右手を突き出すと同時に炎を溢れさせる。しかし、その炎は一瞬のうちに消せざるを得なくなった。亮人の巻き起こした風が、炎の軌道を強引に変化させ、王雅自身へと向かわせてきたのだ。王雅は炎を避ける形で体を捻ると同時に炎を止める。しかし、それが不味かった。その回避行動によってバランスを失った体は、いとも簡単に風に流される。その風で体勢が崩れ、それを確認した瞬間、亮人が王雅目掛けて暴風を巻き起こす。いや、これは暴風の域を超えているだろう。何せ、その風によって王雅の体は宙に浮きあがったからである。

「王雅君!」

体の制御が利かない。仰向けの状態で王雅は地上五メートルほどの場所に留められた。もがくことすら無意味であることを無言のうちに示されていた。それでも無意識に、人間の、否、生物の本能的にもがく。しかし、両手足は虚しく宙を殴り、蹴るだけで、何も生み出さない。愛が王雅を救出するために雷を生成し、亮人へと撃ち放つが、亮人は自らに暴風を吹きつけさせ、上空に飛び上がることでその攻撃を回避する。そして、それと同時に王雅の前面には暴風が、後方には衝撃が走る。亮人が王雅を吹き上げていた風の方向を変更し、地面に叩きつけたのである。

「ぐはっ・・・・・・!」

「見たところ、どちらも魔術師だな。たしか、蓮王雅れん おうがとか言ったかな、月影吹雪を倒したのは」

オリオン会との戦いの際、オリオン・ナインのトップに君臨していた魔導師、月影吹雪。月影吹雪が組織内でどれほどの力を持っていたのかは分からないが、エリート組織に知られているということは、全くの無名というわけではないのだろう。だが、そんなことを考えていたのは後の話で、その時の王雅は背中の痛みに耐えながら仰向けの体勢から起き上がろうとしていた。

「まさか、この程度ではないだろうな?」

片膝を立てた状態になった王雅は、亮人へと左手を突き出して雷を放つ。一方の亮人はその雷を風を操って自身の座標を変更することで回避する。続けざまに愛も雷を放つが、それもまた、同様にして回避してみせる。

「王雅君、雷なら風の影響を受けない。交互に撃てば、そのうち当たるはず!」

「了解!」

了承の言葉を愛に返すと同時に、王雅は左手を突き出し、その先から雷を発射する。それをかわした亮人へと、今度は愛の雷が襲い掛かる。亮人はそれも軽々と回避してみせる。その直後にはまた亮人には王雅からの雷が襲い掛かる。それらを先ほどと同様に回避してみせる。このままでは体力を消耗しあうだけの消耗戦になってしまうことは明白だ。ここで戦略を変える他ない。王雅は、かわした亮人に狙いをつけるのではなく、亮人が回避しそうな場所に狙いをつけたのだ。単純明快に言うならば、予測射撃だ。

 今度こそ、王雅の放った雷は亮人に命中した。


 真弥は林木静夜と対峙していた。いや、正確には、対峙しないようにしていた、という方が正しいだろう。真弥の能力は気配霧散ヒントディフション、静夜の能力は静寂幻影クワイエットビジョン。そう、どちらも使っているのは自身の気配を察知させない、いわば潜入、奇襲に特化した能力だ。少しでも気を緩めれば、その気配は剥き出しになってしまい、大きな隙を見せることになってしまう。

 同系統の能力を持っているからといって、相手の能力の効果を打ち消すことはできない。それは気配霧散、静寂幻影の二つの能力も例外に含まれない。真弥は相手の気配を未だ掴み切れていないし、静夜もまた、真弥の気配を完全に掴みきれていないのだろう。

 と、思っていた。

 直後、真弥の腹部に拳がめり込む。衝撃と共に真弥の声からくぐもった声が漏れる。真弥はその腹を押さえながら周囲に注意を払う。しかし、すでに攻撃者の気配は消えてしまっている。おそらくこのままでは、自分は負ける。それは、直感と分析に基づいて出した、戦術予報のようなものだ。

 こちらは気配を掴めないまま、相手に気配を掴まれ続ける。それにどれほどの不利があるのか、真弥は熟知していた。神経を集中させ、まずは自分の気配をさらに薄くしていくところからやり直す。真弥は攻撃よりも、防御を選んだのである。

 その少し後、真弥の脳内に声が響いた。

(階村さん、援護ヘルプしましょうか?)

脳内に響いた声の主が誰なのかははっきり分かっていた。

 会話の中に英語を挟んでくるその口調は、誰にしても印象深い。真弥は脳内に響いた声に脳内で答えた。

(できることならそうして欲しいわね)

右後方ライトバック

指示は唐突だった。恐らく、こちらが頼み込むことを分かっていたのだろう。しかし、指示をくれるのは嬉しい限りなのだが、英語で発音されると、一瞬翻訳に時間が掛かってしまう。簡単な英語だからこそいいものの、これがもっと難しいものになってしまっては意思疎通もできなくなってしまう。日常生活ならともかく、戦闘でそれは全く笑えない上段である。だが、この戦闘において使われる英単語は限られている。前方フロント後方バックライトレフト。斜めの方向なら組み合わせることで応用できる。

 真弥は右後方に振り向いて左拳を突き出す。確かな感触。それと共に、今まで感じ取ることのできなかった気配をはっきりと感じた。視線の先には、気配を隠しきれず、尚且つ痛みに耐えている静夜の姿を捉えた。真弥は続けざまに右拳を突き出すが、静夜はその攻撃を回避し、真弥とすれ違い、それと同時に気配を消す。

「またっ・・・・・・!」

消えた気配。それに対抗するためには真弥自身の気配も消した上で動く必要がある。そして、向こうの動きを察知する力を、手段を、こちらは持っている。

レフト!)

真弥は、その言葉に従って自身の左方へと握りしめた右手を真っ直ぐに突き出した。


 火攻侵炎と対峙していた広、雹南、亜那であったが、その実、三人は苦戦を強いられていた。火攻侵炎の攻撃方法、行動パターン、能力の作動範囲、人数差からして、分析していけば不利になる可能性は限りなくゼロに近い。それでも苦戦しているのは、ただ一人、亜那が連携を崩しているところにあった。

 元々組む予定であった連携攻撃、それは、広を攻撃、雹南を補助、亜那を防御とした三段構造での攻撃であった。火攻侵炎が使う能力、酸素爆熱ブラストオキシゲンは、大気中に含まれる酸素の温度を急速に上昇、即ち瞬間加熱することで爆発と同様の現象を引き起こすものである。これを防御するのは亜那の役目だ。亜那は、リボットとしての排熱機能を最大まで強化し、体にかかる内部からの温度上昇をものともしないのを利用した能力、熱物吸引ヒートサクションを持っている。気温上昇した酸素を取り込めば、爆発を防ぐ、それができずとも爆発の縮小化が可能になるのだ。その理由は、侵炎が酸素の温度上昇を行うことを脳内イメージしてからそれが実行されるまでの僅かなタイムラグだ。その間に亜那が能力を行使すれば、酸素が完全な温度上昇をする前に吸収し、それによって取り込んだ熱を体外に排出することで、それこそ何事もなかったかのような状態にすることができるのだ。

 しかし。

「田野木! しっかりしろ!」

「分かってますけど・・・・・・私はそもそも、専門部ヘルパーと組むこと自体、反対なんです!」

そう、精神的な反発もあって、能力の行使が普段よりもスムーズに行えないのである。もちろん、いつも通りならば何の問題もなく高温の酸素を容易に取り込むことができたのだが、敵対(というよりは、対立)している組織と手を組んでまで戦闘に出たくはないというマイナスな感情が、少なからずリボットとしての機能そのものに影響を与えていたのだ。ロボットが大脳ともいえるコンピュータが狂った際に、取るべき正しき行動ができなくなるように、リボットもまた、精神や脳に狂いが生じると、普段出せるはずの力、使えるはずの能力を上手く制御できなくなってしまうのである。

 攻撃と補助に回るはずである広と雹南は、その対立の壁を越えて動こうとしているのに対し、亜那だけが、まだその壁を越えられずに(むしろ壁を高くして)いた。


 苗子は、風林火山の山、山牙爪紗との戦闘に入っていた。二人の間にできている距離は三十メートル前後。それくらいの距離の方が、苗子にとっては戦いやすい距離であったからだ。圧力反射ストレスリフレクトの性質上、やはり実体のあるものを相手にした方がやりやすい。ただ、少しばかり厄介なのが、岩弾の発射地点が、必ずしも爪紗がいる場所とは限らない、むしろ、そうではない確率が高いということだ。今までの相手ならば、向かってきた軌道そのままに反射すれば、自動的に発射地点ターゲットまで向かってくれていた。しかし、爪紗を相手にするとなれば、脳内での演算時に細かな修正を加えた上で反射しなければならない。そうなれば、多少なりとも時間を取られてしまうのだ。それが決定的な隙にこそなっていないとはいえ、このままではジリ貧になる可能性も、完全に否定することはできない。

(近づいた方がいいのかもしれないけど・・・・・・)

そんな考えも幾度となく過ったが、相手との距離が近くなるということは、飛んでくる岩弾の数も増えるということだ。それをどれほど捌けるのか、苗子には分からなかった。苗子はリボットとはいえ、機械化段階リサイクレベル一というポジションだ。肉体は、他の十色機者リボットカラーズのリボット達と比べても、悪く言えば「頼りない」の一言に尽きるのだ。もし演算が間に合わず、反射できないまま岩弾を食らった時のダメージは大きい。

「え・・・・・・?」

 爪紗自身から意識がそれたほんの数秒だ。

 岩弾を全て弾き返したと思ったころ、すでに爪紗は苗子との距離を十五メートルほどまで詰めてきていた。


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