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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第二章【交錯する画策】
22/41

22、強者と絶対者

 超能力者。この世界の表で活躍の場を広げている近代型の戦士であるリボットに対し、裏で互いに権力を主張しあっている魔法の世界における種族のうちの一つ。魔術師や魔導師と決定的に違うことは、その能力の応用、所持数の少なさと、所持する能力の特殊性だろう。魔術師が五種以内の魔法同時行使可能、簡潔なイメージを具現化することによって魔法を発動する速攻型、呪文詠唱という若干時間がかかるものの、多複数の魔法同時行使や複雑な魔法行使が可能な技術型の魔導師。多かれ少なかれ、一つの種類の能力をある程度応用を利かせられる魔術師、魔導師に対して、異質な存在である超能力者は、硬系な能力の概念の影響で応用力が利かないかわりに、絶対的な硬さで勝負する。魔術師や魔導師の使う所謂『魔法』が、創造性の高く、長時間その形を維持できない粘土だとすれば、超能力者が使う『魔法』はほとんど形をかえることの(でき)ない超合金とでもいうところだろう。

犯人達ーー支配下に置かれていた十色機者リボットが超能力者の雷によって打たれた今、向こうに残された戦力は、魔導師、風林火山の四人のみだ。ここまでくれば、もう勝負はほぼ決定的と言っても問題はないだろう。こちらにはそれを可能とするだけの戦力がある。向こうの戦力が四人でどの程度になるのかは分からないが、最悪でも互角で戦えるだろう。現在のメンバー以外にも、現在要請されている応援メンバーも駆けつける。

 王雅のそう頭の中で立てた予測は的中、というよりは、そうなることを想定したのであろう敵方は撤退を開始した。風林火山の面々が再び桃陽家に、桃陽苗子に向かってくるのかは分からないが、当面は安心できるだろう。

「撤退したか・・・・・・」

風林火山が撤退を開始して最初に口を開いたのは広だった。犯人達が倒れて動かなくなり、風林火山の四人がいなくなった今、桃陽家前は静寂に包まれていた。すでに日警総の方に犯人たちの後始末を任せることにしている。日警総といえど、十色機者の直系の者達を拘束、逮捕するのは気が進まない、というよりは恐れ多いかもしれないが、仕事だと割り切ってほしいものだ。

「手駒を失った以上、奴らも表面的には動けないはずですが・・・・・・」

愛が俯き気味に自らの推測論を立てたが、その言葉を深くまで汲み取ったり、過剰に反応したりする者はいなかった。

「いや、むしろ問題はこれからだ」

愛の言葉を、王雅は完全な否定の形で補足した。

「これで完全に向こうの尻尾は掴めない。いつどこに現れるのか分からなくなってしまったからな」

王雅の言葉に落胆する様子を見せた者はいなかった。むしろ、王雅が口にすることさえ無駄だというくらい、少なくとも広や苗子は分かっていた。この戦場の様子だけを見れば、突如乱入してきたと思われる超能力者は魔術師やリボットを味方したように見えなくもないが、その実、唯一の情報源である犯人のリボット達が倒された以上、彼らは風林火山とのパイプの役目を失うことと同義だ。火石の空間認識アウェアスペースを利用しても、その行動を深くまで知ることは難しい。超能力者はこちらに味方しようで、実際のところはどちらにもダメージを与えたのだ。

「戦力面では向こうに、情報面ではこちらに傷を作ったってことね・・・・・・」

情報の持つ力の大きさは、ここにいる者、というよりは、戦いに身を置いたことのある者のほとんどはよく分かっていることだろう。恐らく風林火山は、駒として動かしていた十色機者のリボット達を使い捨てたのだろう。わざわざ逃亡に成功した広と自分たちの駒を戦わせるようなことはしない。場合によっては共倒れになる可能性もあるのだ。

「今日はもう攻め入ることはないでしょう。もう解散しても構わないわ。あとはECRの方で何とかする」

「了解」

苗子の指示に対して、広は短く了承の言葉を返すと、一度敬礼して苗子に背を向けながら王雅に顔を見せずに話かけた。

「王雅。俺達は戻るぞ」

「はい」

王雅は広にそう返し、後に続いた。さらにその後に愛も続く。

 十色機者の象徴である大木が徐々に小さくなっていくのを視覚的にも感覚的にも捉えていた王雅は、この戦いで十色機者と超能力者というものをよくも悪くも思い知らされたと感じていた。表裏どちらの世界においても、強大な権力と力を持つ十色機者。部活内での立場こそ学年的に広が上でも、世間に出た時は苗子の方が大きな権力を持ち、広も頭を上げたりしない。そして、苗子もまた、年齢に関係なく、その時は広を呼び捨てる。

 愛より話には聞いていた超能力者ではあったが、その力の差も、今回の戦闘で大きな影響を王雅自身に残していた。自分たちがある程度応用を利かせることにおいて有利であったとしても、その所有する力を極限まで引き出して行使することができるということは、魔術師や魔導師、ましてやリボットよりも大きく有利に立つことができる点だろう。

「次は全て片付ける・・・・・・」

王雅はこの日、風林火山を徹底して叩くことを決めた。


 思わぬ介入を受けた魔導師、風林火山は一度撤退して、作戦を立て直せざるを得なかった。今回の作戦において手駒として利用してきていたリボット達を失ったこと、そして、その原因となったのが超能力者の介入であること。その二つは風林火山の四人にとって作戦に支障を来たすには十分すぎるものであった。

 今この場にいるのは、風鳴亮人かぜなり りょうと林木静夜はやしぎ しずよ火攻侵炎かこう しんえん山牙爪紗さんが そうさの四人。風林火山の異名を持つ四人は日本某所に密かに建設された地下基地において話を進めることとしていた。

「まさか超能力者が介入してくるとはな・・・・・・」

「報告によれば、超能力者は三〇キロ以上の距離から魔法を発動したようね」

舌打ちと共に負け惜しみとも取れるような台詞を吐いた侵炎に補足するように静夜が部下からの報告結果を他の三人に伝える。

「さすが特化型、ということですか・・・・・・」

それを聞いた爪紗が感嘆と畏敬の念を込めて独り言のように呟いた。特化型、というのはいうまでもなく、超能力者の俗称のことである。言葉の通り、魔術師、魔導師に比べて一つの能力を極限まで高められたその異質性から名付けられたものである。

「ここで超能力者は刺激するべきではない。もし今後仕掛けてくることがあっても、絶対に手を出すな」

ただ、そんな俗称をつけられるほどにいろんな意味で際立っている超能力者との戦いを好き好んで行おうなどという浅はかな行動をとるつもりは、亮人には微塵にもなかった。亮人は作戦の障害となる存在の排除よりも、作戦の実行の方を優先させるまでだ。「邪魔者は排除する」などという古臭い指揮を執るつもりはなかった。ただそれだけのことだ。

 しかし、司令、指揮というものは、全てが上手く運ぶようにはできていない。指揮官の言葉一つで戦局は良くにも悪くにも転がるし、下した指揮に、部下が納得しないということも、現場ではよくあることだ。特にここのように組織のエリートといって何の差支えもない者達が集まっている場所ならなおさらだ。

「それでは、もし遭遇しても、逃げろ、ということですか?」

爪紗はいつものように敬語で話しかけてくるが(爪紗は司令官である亮人だけでなく、誰に対しても、最悪でも丁寧語を使う)、その内容には多く反抗の色合いを含んでいることは、亮人以外にも明らかなものであった。

「そうだ」

「このまま放置すれば、いずれ障害になるのは明白なことです。作戦にこれ以上の支障を来たしては・・・・・・」

「山牙。わざわざこちらの戦力を減らすようなことをしてどうする」

「私たち四人が連携攻撃を仕掛ければ・・・・・・」

「すぐに片がつくと?」

「はい」

爪紗は四人の中で一番規律正しくあるが、一番エリート意識が高い。戦闘において負けること、逃げることは自分の中ではありえないと定義している。実際、超能力者に介入された時も、観測班からの超能力者の位置も特定されてない段階から、ほぼ闇雲に超能力者の発見及び桃陽苗子の討伐に向かおうとしていたのだ。むろんそれは無謀なことである。少なくとも侵炎や静夜は撤退の意向を示していた中で、たった一人で立ち向かおうとしたのだ。亮人以外の人間が司令官であったとしても、その司令官は止めに入ったはずだ。

 むろん、それが彼女以上の実力を持っていたら、という理由付の上での話だ。亮人は、力ずくで彼女を止める以外に方法が見つからなかったのだ。口で言って聞くようなタチではないし、むしろ喋っている間にも爪紗はその足を進めるのだ。力で止める他ないだろう。

「特化型の超能力者だ。そう簡単には倒せん」

「倒せます」

「瞬殺にしても長期決戦になったとしても、こちらが消耗することは必然的だ。そこを魔術師に付け込まれる可能性がある」

この会話の中の亮人の発言は、人によっては後ろ向きな発言ばかりする司令官だと思う者もいるだろう。だが、これは戦略的に見れば正しい選択であると亮人は確信していた。データと経験、そして自分自身の司令官としての勘が、そうであると定義しているのだ。

 だが、爪紗の方はその定義を真っ向から否定した。

「超能力者を倒した勢いでいけます」

「確かに気力、気合、気迫といった精神的な部分も戦闘において大事な要素だ。だが、気力と体力は必ずしも比例するものではない」

「医学的には、風鳴司令官の言うことは否定できます」

(医学的・・・・・・か)

そこで亮人は、一つの賭けに出ることにした。下手をすれば自分自身の威厳すら失う賭けではあるが、やってみる価値はあるだろう。

「なら、気力に満ち溢れている今のお前なら、俺も倒せるだろう?」

「・・・・・・!」

「風鳴さん、それは・・・・・・」

静夜が訝しむような声で呟いたが、亮人は気にすることはなかった。そして亮人は、爪紗がこの問いかけに対してどのような反応をしてくるのか大方予想はついていた。少なくとも、この程度の煽りに逃げ腰になるようなやつではない。それは爪紗の欠点ではあるが、逆に強さでもある。

「はい。できます」

予想通り、もっと言えば、亮人の期待通りの解答。亮人は不敵な笑みを浮かべながら、さらに続けた。

「なら、試してみるか?」

その笑みは、嫌味成分が含まれたものと形容するにはあまりにも爽やかなもの。だが、その笑みは爪紗から見ればおそらく挑戦的な笑みだと見られただろう。自信に満ち溢れた笑み。それが、亮人が作り出した笑みだった。

「その勝負、受けて立ちます」

四人の中で一番話の流れについていけなくなってしまっていたのは侵炎だった。亮人と爪紗が口論を続ける中、すでに仲裁にさえ入るタイミングを失ってしまっていた。その侵炎もそろそろ会話に混ぜてやるか、という亮人の同情といたずら心が亮人の脳に働きかけた。

「火攻、模擬戦会場の手配を頼む」

「え、あっ、はい!」

それで我に帰ったように体を一瞬震わせた侵炎は、速足に作戦会議室を出ていった。

「司令、一つ提案があります」

侵炎が作戦会議室を飛び出た直後に、爪紗が口を開いた。せっかく同じラインまで話を合わせたのに、これでまた侵炎が話についていけなくなるな、と心の中で再び侵炎に同情した亮人であったが、今は目の前の「提案」に耳を傾ける方が先だった。

「何だ?」

「もし司令が勝ったら、私はあなたの命令に絶対に従いましょう。しかし、これで負けたなら、これからは私を風林火山の司令官としておいていただきたいのです」

つまり、爪紗はこの勝負に、司令官としての座をかけろ、というのだ。それはつまり、亮人の司令が不満であると、自分が指揮を執るべきだと言っていることと同義だった。

「作戦中の司令官の変更は認められない。もし交代するならば、この作戦の終了後、ということになるが、それでも構わないな?」

「・・・・・・構いません」

やはりそのことは脳内にはなかったのだろう。一瞬迷いの表情を見せた爪紗であったが、そこは持前の気持ちの切り替えの早さで振り切り、はっきりと了承の言葉を亮人へと返した。

『司令。模擬戦会場の手配、完了しました。三十分後、屋外模擬戦会場にお願いします』

「分かった。ごくろうだった」

話においていかれている侵炎からの通信が届いた。亮人はそれに短く了承と労いの言葉をかけてすぐに通信を切った。

「では、また後で会おう。山牙爪紗」

亮人は爪紗に目を向けぬまま作戦会議室を後にした。


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