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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第二章【交錯する画策】
21/41

21、彩るは戦いの色

 苗子が弾き返した氷の塊を、犯人グループはかわしてみせた。元々同一軌道上で返したのだ。受け止めきるのは難しくとも、かわすことはさして難しいことではない。王雅はそんな当然の対応に感心を抱くことなく、その間にも接近してくる犯人グループにその意識を集中させていた。防衛行動の際に必要なのは、敵陣に果敢に突っ込む勇猛さではない。絶対に自分の後ろには通さない、という確固たる意志と実行力だ。

「こちら蓮王雅! 犯人グループとの戦闘を開始します」

十数メートル離れた位置にいる黄川邦貴が伸ばしてきた腕を回避し、王雅はその腕へと掌からあふれ出す炎を直接叩きつける。しかし、その炎は邦貴の動きを止めるには不十分、不適切なものであった。金属製でありながら伝熱性の低い、これは恐らく、炭素カーボン素材を使用していると考えていいだろう。それならばと、王雅は左掌から雷を放つが、雷が貫く前に邦貴の腕は引き戻され、雷は地面を抉って消える。王雅は入れ替わりに突き伸ばされたもう一方の腕に対応しようと左手に雷を溜めこんだが、遅かった。

 左手を邦貴の腕に向けたころには、すでに邦貴の腕は王雅の懐まで迫っていた。王雅の腹に突き刺さった拳は、そのまま王雅を吹き飛ばす。その攻撃によって集中力を分散させられた王雅は、チャージ中の雷が霧散するのを歯噛みしながら感覚的に知覚する。その直後に、地面にぶつかったことによる腰への衝撃が襲いかかる。そのまま一メートル近く転がった王雅は体よりも先に顔を上げて追撃を警戒した。邦貴からの更なる追撃はなかった。その代わりに、他の犯人達との距離は当初よりも大分縮まってしまっていた。

「王雅君! 私が一気にいく!」

「頼む!」

愛が王雅の真横につけると、電気エネルギーを集約させる。それに合わせて王雅も左手に雷を溜めこむ。そして、王雅が直進型の雷を放つのと、電気エネルギーを集約変換させたことによるビームを発射する。混ざり合うことこそなくとも、互いの存在によって刺激しあった雷とビームは、それぞれ膨張していく。しかし、その二つの雷電は、犯人グループにダメージを与えるには至らなかった。岬が雷の進路上の水蒸気を氷にすることでその威力を激減させ、ビームの方はその予備動作の大きさから、予測回避が比較的楽に行えたためだった。

「そんなっ!?」

「愛、来るぞ!」

王雅がその注意を促すきっかけとしたのは、犯人グループのうち、最速でこちらに接近してくる茶雲流華の姿を確認したからである。茶雲家の血筋が得意としている能力、真空移動ヴォイドムーブと、足裏に仕込まれている全方向スライドシューズによるものだろう。スライドシューズは、球状の金属を専用の靴にはめ込むことで全方向へのスライド移動を可能にしたものだ。ただ、使用できるのはリボットに限られている。その理由は、スライド方向の調整の問題によるものだ。リボットならば、その強化部分で何らかの合図(頭なら思考、手なら拳を握る等)を行うことで、スライド方向やその回転速度、加速減速急旋回を全て行うことができる。もちろん、その際の姿勢制御などは、姿勢に関係する全ての場所を強化していない限り、使用者の実力に左右されることになる。そういう観点から見れば、ノーマルであっても、使うことは不可能ではないのだが、安全性の問題と保険が利かないという理由で、メーカーと日警総がそれぞれ「リボットのみ」と定めたのである。

 そして流華の真空移動ヴォイドムーブは、真空、つまりは、走行時に体に受ける空気抵抗を一切無視することができるというものだ。空気抵抗をゼロにするということは、攻撃時の空気抵抗を消すことによる威力上昇も見込める。

 一瞬のうちに愛の目の前まで迫った流華が、その右手を突き出す。拳の進行上の空気が消失し、絶対的な新空空間を作り出す。それによって抹消された空気抵抗は、直進する拳の速度を上昇させる。愛の予測を遥かに超えて、流華の拳は愛の腹部へと突き刺さる。しかし、愛も愛でただ黙ってやられるというわけではなかった。衝撃の勢いで地面を転がる中で電気エネルギーを溜めこむと、立ち上がりと同時にビーム状にして放つ。流華はそのビームを足のスライドシューズと真空移動ヴォイドムーブによって余裕を持ってかわす。

 絶対的なスピード。一撃離脱ヒットアンドアウェイによる確実な攻撃配分。愛は自分が不利な状況に追い込まれていることを悟っていた。打開策が見つからない。恐らくこちらの攻撃はその速さでかわされ、その攻撃の隙を突いて反撃を行ってくる。愛だけではなかった。防衛部隊は、その人数比と能力によって、互角以上の戦いを演じることはできなくなってしまっていた。これが、今まで二人の十色機者を手に掛けた者達の実力というものだろう。

 愛は作戦を変えることにした。自分を含め、味方にも危害が加わることになってしまうが、速さを無視した攻撃を行うことならできる。自己味方犠牲を払いながら同時に距離無視の攻撃。屋外に置いては多少威力の減衰は否めないかもしれないが、威力は十分に足りているはずだ。

全方位超音アスペクトソニックには、人並みの速さじゃ逃げきれない・・・・・・!」

その呟きの後、愛は周辺の空気を振動させる。運動エネルギーの矛先を漂う空中に向けたのだ。

 音は物体を振動させることによって発生する。気体、液体、固体に関わらずだ。そして、空気中における音の振動が伝わるのは秒速約三四〇メートル。光に比べればその速度は亀のようなものだが、人の感覚からいけば、それは逃れられない恐怖とでもいうものだろう。この音の速さは、つまり音速だ。走ってどうにかなるものではない。

 しかし、音による攻撃は流華には通じなかった。流華は自身の目の前の空気を一時的に真空状態にすることによって空気の振動を無効化したのである。

「少し考えたら分かることでしょうに・・・・・・」

流華の顔は嘲笑すらも称えていなかった。無表情と形容するのが一番近いと思われるその顔が意味するのは、無と隣り合わせとなった呆れのそれだった。

「あなたに私は倒せない。それは確定事項よ」

その言葉の最後が愛の耳に届いたころには、流華は愛の顔面数ミリのところまで拳を伸ばしてきていた。

 愛は左頬に今までで一番大きな衝撃を受けた。というよりは、顔だからこそ強く感じられたのかもしれない。流華が愛の顔に右拳をたたき付けると同時に左手で愛の背後を真空にする。そしてそのまま愛の体はほぼ横方向に吹っ飛ばされる。背後が真空になったことで、愛の体にかかる空気抵抗がなくなったのだ。

「ぐぁはっ!!」

空気抵抗がなくなったことで、通常時よりも速いスピードで愛の体は宙を走り、地面にたたき付けられた。

 愛は自分に後悔していた。かみ砕いて言えば、自分自身の愚かな思い込みに後悔していた。

 十色機者ではないとはいえ、魔術師のころからそれなりに名を馳せていた姉、真弥に負けたのは仕方ないにしても、次期当主候補でもない十色機者に負けたことは、魔術師としてリボットに遅れを取ってしまったと間接(事実だけ見れば、直接)的に同義なのだ。

 自分が、魔術師が負けるわけにはいかないのだ。こんなことで、こんなところで、自分の力のなさを実感したくない。自分は最強ではない。分かりきっていることだ。だが、そうしたある種の諦観と同時に、自分より何キロも先を走っているわけでもない相手に負けたくないという思いもあった。

 だから、愛は行動を起こした。圧倒的な不利状況であっても、するべきことは自分の中で決まっている。

 絶対的勝利。それが自分を高みへと押し上げる唯一のものだ。

「私が、ここで負けるわけにはっ!!」

両腕の先ーーその両掌へと電気エネルギーを集約させた、その時だった。

 曇りはじめた空、その狭間から閃光が走る。それも、かなり不自然なものだった。その雷が流華と愛の間に堕ちる。それも流華の方に近い場所。だが雷のエネルギーを利用する王雅や愛も、実際に落雷させることはできない。つまりこれは、ここにはいない第三者によるもの、ということになるのだ。

 そんなことを自身の中で推測しているうちに、流華に閃光が直撃する。それとほとんど時間をおかずに他の犯人にも堕ちていく。

「これは・・・・・・」

落雷に打たれた犯人達は次々とその場に倒れ込んでいく。たしかに落雷ではあるが、どうやら致命傷を与えるほどの電圧を保有しているわけではないようだ。犯人達は戦闘不能まで追い込まれただけであって、命が一瞬のうちに絶たれたわけではなかった。

「この力は一体・・・・・・」

王雅の口から驚愕の色合いを含んだ言葉が漏れる。愛は敵を警戒しながら王雅との距離をつめ、直接口頭で伝えることにした。

「王雅君。あれは魔術師にも魔導師にも、ましてやリボットにもできない」

「なら、あれは・・・・・・」

王雅にはまだあの力の「発動者」をまだ確定することができていないのだろう。だからこそ愛は、その答えを王雅へと告げる。

「どういうつもりなのかは知らないけど・・・・・・」

愛は、轟音が囁く雨雲を見上げながら言った。

「これは、超能力者によるものよ」


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