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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第一章【オリオンコンピュータ】
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2、日常と非日常

 半強制的に都市事件解決専門部シティヘルパーへと入部した王雅であったが、実際は普通の高校生となんら変わりはない。有機械科ならば違うだろうが、王雅は無機械科だ。習うことは他の普通高校と変わりない。普通に生活して普通の人生を送る、などというつまらなさ無限大の一生を過ごすつもりはなかったが、普通以上の生活は送りたかった。人生に対して投げやりになっているつもりはない。だが、それも結局は普通にしていない『つもり』の範疇であって、実際は日常という枠に捕らわれているのが今の王雅だった。

 普通は――嫌いだ。だから今普通の状態である自分自身も嫌いだった。

「おはよー、王雅!」

「ああ、おはよう」

同じ学級で生活することになった草部空斗くさべ くうとがあいさつしたのを確認した王雅は、すぐにその返事を返した。

 王雅は、人付き合いが悪かったり、社交性がなかったりするわけではない。だから、友達を作ることも難しいことではなかった。ただ、人とどこまでも馴れ合うのは好きではなかった。それは王雅が多くの金を持ち歩かない理由でもあるのだが。

「昨日はどうしたんだよ。急にいなくなったりして」

「いや、ちょっと連行されてた」

「なっ・・・・・・お前入学早々事件を起こしたのか!?」

その空斗の言葉に周囲の目が一斉に空斗と王雅に走った。

 空斗の予想外の声量に驚愕と同時に焦りを覚えた王雅は、すぐに弁解し始めた。

「事件は起こしてねーよ!! あと、声でかい!」

「おお・・・・・・悪ぃ」

王雅のとっさの判断で行われた弁明の甲斐あって、周囲の目はすぐに今までの位置に戻り、世間話に戻りだした。

 次なる一言を放とうとしたとき、ポケットに突っ込まれた通信端末が呼び出し始めた。この通信端末は、三、四世紀ほど前に誕生したと言われている携帯電話の発展型だ。その通称こそ通信端末ではあるが、実際には、通信だけなんてちゃちなものではない。連絡、情報収集、作業など、様々な機能を持つこの端末は、本当は多目的携帯型通信機器端末という、なんとも長ったらしい名前だ。

「ごめ、ちょっと待って」

空斗にそう言うと、王雅はその場を離れて発信者の名前を見る。春だ。王雅と共に入った一年のうちの一人である春から、わざわざ連絡を寄越すのは、何故か。今まで話したことも――春は有機械科だから話す機会などなかったからだが――なかったので、恐らく業務連絡だろう。ここは本当に非日常の部分だな、と王雅は呆れながらも春と接続した。

「もしもし」

『あ、王雅君? 昼休みに部長が部室に来いって』

やはり、と王雅は内心呟いた。業務連絡であることは間違いない。

「俺だけ?」

『ううん。さっき私も清司君に言われたとこだから』

少なくとも一年は集まるようだが、一体何をされるのだろうか。シティヘルパーが実際何をしているのか、王雅達三人は実際に目の当たりにしたことはなかった。一年が必ずやることになる登竜門か、それとも。

(何もなければいいんだがな・・・・・・)

『王雅君?』

「――ああ、分かった。昼休みな」

そこで二人の会話と通信は途切れた。



 昼休み。義務教育の間よりも、この時間は忙しない。ある者は勉強し、ある者は事務事を行う。他者と他愛もない会話をしているのは、教室内はもちろん、校内でもさして多くはない。黄昏第三高校も、同第一、第二には劣るものの、かなりの学力を必要とする進学校だ。黄昏の名を持つ者、その名に恥じぬ生活を。という、台詞を、何度も聞いたのは、王雅だけではない。

 先日部長の広から渡されたセキュリティパスのためのⅠDを登録してもらっていた。中には、部長の広、先日王雅達をここに連れてきた二年の慎吾、そして二菜と優子。王雅よりも先に、すでに春と清司は部室に着いていたらしく、春は二菜と雑談に興じ、清司はバツが悪いようにインターネットから収集したのであろう音楽を聴いていた。

「ようやく来たな」

「遠いですから」

有機械科と無機械科は、別の棟に分けられているため、その間を行き来するためには、移動タイプの能力を使うか、もしくは校内用の通路を通るしかない。そして、部室は有機械科の隅に位置するために、余計に時間がかかった。

「とりあえず、ここに来てもらった理由は一つだ。高垣」

「はい。今回、一年諸君には、一つのミッションをこなして貰うことになる」

 本当にこの三人でいいのか。それを試すためのミッションだろう。恐らく、これで才能なしと見られれば切られ、才能が有り余る者は優遇される。人はそういう差別の中で生き、成長していくのだ。

「明日、学校裏を拠点にしてる柿崎組の一派を壊滅させろ」

それは、王雅たちに向けてシティヘルパーから正式に言い渡された、初めての命令ミッションだった。

 二菜が「こっちきて」と手招きする。王雅、春、清司はその手招きに応じて二菜の担当するパソコンの画面を見つめた。そこには、その拠点位置が示されていた。拠点とされている倉庫の周辺には、赤い点がいくつか見られる。

「一派をまとめているのは管田直人くだた なおと。この日を狙って、一網打尽にするの」

「その時、全員がそこにいるんですか?」

春が二菜に質問を出す。二菜は別ウインドウを開いて再度説明を始めた。

「この日は、彼らの定期会議があるの。ちなみに、今日は管田が柿崎組の総会に出席しているの」

「じゃあ、今日でも良かったんじゃ?」

清司がもっともな意見を述べる。今このときに押さえつける、もしくは後をつければ、向こうの本拠地の居場所を割り出すことも不可能ではない。

「総会場の周辺区域は、警備の目が厳しい。迂闊に手を出せば、返り討ちに遭う」

「つまり、管田達一派全員だけがいる明日を狙う――ということですか」

「そういうこと。定例会議に出席するのは十五人。警備についているのはその倍くらい」

 つまり、王雅達はどんなに警備の網を掻い潜ろうと試みても、二十人以上は相手にする必要がある。なるべく警備の目を潜り抜けられれば、ある程度戦闘は楽になるはずだ。

「あと、警備のやつらも全部倒してもらうからな」

背後から広が口を挟んできた。予想もしない命令に、王雅は顔をしかめた。それは実質、一斉にではないにしろ五十人近くを、たった三人で相手するということだ。

「もし、警備の目を掻い潜っても、中の者に呼び出されて挟み撃ちにされれば、一斉に大人数を相手にすることになる」

広が続ける。言ってることはもっともだし、納得できる理由だった。反論のしようがなかった。王雅の考えはあっさりと破られたが、その考えには賛成することにした。

「三箇所同時攻撃を仕掛けて、敵を分散させ、各個撃破して、殲滅する」

「了解」

王雅は画面を覗き込むために曲げていた腰を伸ばした。

「明日の昼休みに、最終打ち合わせを行う。遅れるなよ」

少なくとも、王雅は自分がどの程度遅れてしまうのかは分からなかった。「遅れるなよ」とは、自分に言った言葉だろうが、王雅自身、道のりというのはどうにもならない。

「――分かりました」


 その夜、王雅は一人、部屋の中で自らの右手を見つめていた。脳内にイメージした炎が現実となって小さな火を手の中に発現させる。王雅はそれを握り締めて炎を消した。自分のこの力が、一体どこから始まったのかは分からなかった。ただ、物心ついたときにはすでに、右手に炎、左手に雷の力を宿していた。

 自分は、異様な存在。この科学一色に染まったこの世界には、決して染まることの出来ない異分子。そして、この力を使う理由など、あるのだろうか。何の為に、この力を授かったのだろうか。

 自分は、何の為に生まれてきたのか。

 自分は何故、この力を授かったのか。

 自分がこの力を持つ意味は何なのか。

 その答えを、いつか必ず掴んでみせる。それは、中学生のころ、この力に苦悩し始めたときから思い続けていたことだった。

 無機械者ノーマルとして中学に通っていたとき、うっかりこの力を発動させてしまったために、親友だった者は重度の火傷を負った。その事実に混乱とショックを受けた王雅は、その力を暴発させ、雷でそのクラス全ての者達に少なからず影響を与えた。その親友を含めた、王雅以外のクラス全員はそのまま病院に搬送され、全員が揃うまで一ヶ月以上かかった。

 彼らが戻ってきてから、王雅は異分子として扱われた。それは、客観的に見れば、「いじめ」だ。無機械者ノーマルとリボットの間の差別もまた、激しくなった。教育委員会がノーマルを保護するための規制を行ったせいで、より一層対立が激しくなったのは言うまでもない。

 以後、その学校にはどんなに近くても生徒を入学させる親はいなくなり、その数年後、廃校となった。今やその中学出身者は白い目で見られた。そして、王雅もまたその一人であった。一応の関係こそ築いているが、向こうはそこまで王雅のことをよくは思っていない――王雅はそう確信していた。

(全部、この力のせい。全部――)

自然に左手が握り締められていた。その左手からは、僅かに稲妻が走っている。

「くそっ!!」

ドン、と壁を叩くと、その部屋の明かりは全て消えた。


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