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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第二章【交錯する画策】
17/41

17、リボットと魔術師

「これで分かったでしょ。力で私に勝とうとしてもダメなのよ」

先ほどの一撃によって完全に叩かれた。

 それにしても、と王雅は心中思った。よくもまあただの言い争いからこうまで戦い合うことができるものだと。

「愛、大丈夫か」

もちろん王雅のその言葉にも、その言葉に込められた気持ちにも偽りはなかった。だが、勝者がかける言葉がないように、敗者にかける言葉も不要なものであり、不用意な言葉はむしろ不快なものであった。

「大きなお世話よ」

「兄弟姉妹ってのはそんなに仲が悪いのか?」

王雅には兄弟はいない。だが、兄弟を欲したことは一度もなかった。多分、頼れる存在になったとしても、大部分の時間では邪魔のように感じてしまうだろう。自分はそういう男であると、変なところで王雅は自覚していた。

「階村先輩。少なくとも今回のことは、階村先輩との接点は少ないと思いますが」

愛からの返答を待たずに、王雅は真弥へと話しかける相手を切り替えた。愛はやはり不機嫌そうにそっぽを向いてしまったが、今の王雅が気にかけている暇はなかった。今はとりあえず目の前の不要な存在をどうにかして退けようと思ったまでだ。今の戦いを見て、今までのように、必ずしも魔術師>リボットという関係式が成り立たないことが証明されたのだ。魔術師としての愛の本質がこの程度なのかさらに大きいものなのかは王雅は知りようがないのだが、少なくとも力で真弥を退けるのはやめた方がいい、というのが王雅の中で決まった自分自身の意見だった。

「魔導師が関係しているんでしょ? だったら私と接点が全くないわけではないはずよ?」

王雅は嘘は吐いてはいなかった。先ほど王雅は「接点が少ない」と言ったのであり、「接点が全くない」とは言っていなかったのである。

「ま、どうであるにしても、私が関わっても損はないでしょ?」

「あるよ」

真弥が遠回しに話に参加させるように要求してきたが、その要求を彼女の妹が否定した。

「仮にも同じ魔術師である王雅君のいる都市事件解決専門部シティヘルパーと対立している学園平和維持執行部隊スクールピースフルに情報を流す時点で、信用できるわけないじゃない!」

「姉妹だとしても?」

「むろんよ!!」

愛が強くそこを肯定した。「仮にも」という部分に一瞬眉間をゆがませた王雅だったが、この姉妹の仲の悪さをなじるわけにもいかない。それは単なるやつあたりだし、すぐに切り返されて王雅を再び黙らせることになるだろう。

「行こう、王雅君。こんなやつに構ってられない」

「あ、ああ・・・・・・」

愛が踵を返して屋上から出て行こうとしたのを、王雅はぎこちなく追いかけた。王雅は屋上の入口(正確には屋上から退くので出口と言えばいいのかもしれないが)で真弥へ会釈して扉を閉めた。


 黄川蛇技殺害事件が全国に広まる前日に由衣は一人の少女と会話をしていた。会話といっても、実際会って話したわけではなく、通信端末ごしによる会話だったのだが。

 会話した少女の名は桃陽苗子とうよう なえこ十色機者リボットカラーズの桃陽家の長女にして次期当主となるはず・・だった少女だ。学年としては由衣の一つ下、つまりは慎吾や貞晴たちと同学年だ。機械化進行段階リサイクレベルレベル1にして機械操作能力段階コントロールレベルレベル4という奇跡的な力を持つ少女である。

このようなレベルを持つ人間は極稀なものであり、機械人重要保護対象として各国が欲している。なぜなら、将来、機械化進行段階リサイクレベルが上がるにつれて、機械操作能力段階コントロールレベルがレベル5以上になる可能性を秘めているからだ。

だが、この保護対象に選ばれることに負い目を感じていた彼女は、自身が権威におぼれて戦いたくないという一心ゆえに都市事件解決専門部シティヘルパー入ったのである。

しかし、彼女を入れ、当時の三年生が引退し、広を中心とした一、二年による新体制で挑んだ信濃組との戦いの中で、苗子は予期せずに人を殺めてしまった。そのことに恐怖を覚えてしまった彼女を銃弾が貫いたのである。

苗子の傷は幸いなことに深いものではなかったが、人を殺したこと、銃弾が貫いたときの痛み、力がありながら負けたという周囲からの蔑みの目。それらによって植え付けられた恐怖によって、苗子は完全に戦えるほどの精神力を失ってしまったのである。幸いなことに今は精神状態は回復しつつあるが、再び戦場に、というよりは、桃陽家としての位につくことはできないだろうと言われている。

「苗子」

『由衣さん・・・・・・どうしたんですか?』

画面の中に移る少女は儚げでも優しそうな顔をしていた。それが素で出ているものなのか作っているものなのかは、不安と焦燥に駆られている由衣には判断できるものではなかった。

「言いたくないならいいけど・・・・・・十色機者リボットカラーズは、必ず、長男、もしくは長女が次期当主となることが決められているのよね?」

「はい。だから、次男、次女以降は、どこか別の家系に嫁がせるんです」

十色機者リボットカラーズのそういうしきたりによって、十色機者は永続的な力を持つことができているのだ。

 このしきたりは十色機者以外で知る者はほとんどおらず、由衣たちがそう言ったことを軽く聞くことができるのは、非公式に桃陽家と結託しているからだ。

 十色機者に関する秘密事項及び、桃陽家の持つ情報を提供する(ただし、外部への漏洩は禁止)代わりに、桃陽家の緊急事態の時は友軍としての出動を義務づけられている。もし、桃陽家の情報を漏洩した場合は、桃陽家の総力を挙げて潰しに来る、というのがこの結託関係の内容だ。

 この結託は、リーダーである広の誠実さと淀みなき目のおかげで結ばれたものである。

 もっとも、今回、その広の様子がおかしい故に連絡したものなのだが。

「もし、その一番上がいなくなれば、その下の兄弟が継ぐってことね?」

「はい、そうなります」

黄川家の次期当主である黄川蛇技が殺害されたというニュースが国中に広まったのはその次の日である。


「初日の君達の活躍によって、黄川邦貴君が緊急的に次期当主の座についた。だが、ここからはそう簡単にはいかない。十色機者はここから守りを固めてくる。以前赤木君が言ったように戦術を決めていかなければならないだろう」

「一つだけ質問させてくれ」

そこで広は口を挟んだ。話を遮ったということにはなるが、作戦を進めるための意見とすれば受け入れられると広は思っていた。

「異論があるのか?」

「質問だと言った」

広は挑戦的な目で見返したが、向こうは感情的になることなく質問を認めた。

「ここから先、十色機者の次期当主の殺害を続ければ、真っ先疑われるのは権力に目が眩んだ俺達に嫌疑がかけられる。そうなればむしろ動き回ることができなくなる。

「その点ならば問題ない。我々の方でプランを続行する」

つまり、自分達がやられたところで、彼らには何の影響もないということだろう。自分達の目的を達成することさえできれば、そのための犠牲も必要なものと割り切るということだろう。

 彼らの中では、自分達は作戦遂行のための駒。それも捨て駒。彼らの応対はまるで、戦国時代の戦国大名の立ち居振る舞いのそれに似ている、といっても語弊はないだろう。

「そうか・・・・・・」

「それと言っておくが、君達と我々は対等な立場にはない。初日にそう言ったはずだぞ? 君達の目的達成まで、我々が君達を支配するとな」

恐らく、自分達の目的、つまりは十色機者リボットカラーズの後継者を変更させることの達成は、彼らの目的の達成とイコールで繋がるのだろう。こちらはハイリスクハイリターンであるのに対し、向こうはローリスクハイリターンな作戦なのだ。

「君達の自由はもうないんだぞ。次期十色機者の後継者」


 その日呼び出されたのは、青森家の当主である青森美郷あおもり みさと。広の予想通り、先日の事件を受けて護衛がつけられている。かなりの人数だ。やはり以前広が危惧していたように、生半可な作戦ではこちらが全滅する可能性が大きいのだ。

「一気に叩く!」

そう言って飛び出したのは黄川邦貴だった。黄川家が揃って持つ能力、伸縮双腕ストレッチアームは、能力名通り、両腕をそれぞれ伸び縮みさせることができるものである。伸ばした時の腕の皮膚部分は肌の色に塗装した金属によってできたものである。一方、内部の方は、実は腕部分の骨格を取り除いている。長距離に腕を伸ばした時、既存の骨は簡単にその許容量キャパシティを超えてしまう。そこで骨を全て取り除き、代わりに鎖を連想させる金属を埋め込んだのである。

 その腕は内蔵された金属が許す限りに伸ばすことができる。最大は20メートル。伸ばしている際、中途の金属部分はEカーボンを採用しているため、そう簡単に切断することはできない。 美郷の腹部に邦貴の拳が突き刺さる。美郷の危険を察知した護衛者たちが一斉に攻撃を開始してきたが、だれもその攻撃に当たることはなかった。

 結局、青森美郷を殺害するのに、そう長い時間は必要なかった。

 広は悩んでいた。このままこんなことを続けていいのか。広はまだ、実際に手を出してはいない。正確には、手を出す前に他の者達が倒してしまうのだが。確かに自分は十色機者の次期当主、赤木豪の弟だ。しかしそれと同時に、自分はまとめるべき者達がいる。都市事件解決専門部シティヘルパーとしての自分がいる。

 豪の弟として殺戮を続けるのか、都市事件解決専門部シティヘルパーとして殲滅するべきなのか。

 広は、一人悩んでいた。


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