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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第二章【交錯する画策】
14/41

14、学園平和維持執行部隊

 オリオン会の一件の後、何の対策もなしに中間試験に挑むことになってしまった王雅達であったが、リボットである春や清司は有機械科だけにある実習試験の成績が良かったために、ある程度筆記試験の結果が奮わなかったからといって慌てる必要はなかった。

 しかし、無機械科である王雅はそうもいかない。成績の全てが筆記試験で決められるだけに、手を抜くわけにはいかなかったのだ。

「王雅君、試験どうだった?」

春がにこやかに王雅へと話しかけてきた。よほど実習の試験結果が良かったのだろう。今ならどんな不幸も感じないと言わんばかりの満面の笑みである。

「有機械科は実習結果を重視するだろうが、こっちは筆記の難しさが有機械科そっちの比じゃないんだぞ?」

筆記試験の教科こそ両学科共通とはいえ、内容は無機械科の方が格段に難しいのだ。

「何点だったの?ちなみに私は900点満点中755点。中々じゃない?」

「そうか。俺は872点だったが」

「は・・・・・・はっ? はぁっ!?」

春が王雅がなんでもないように呟いたその数字に驚きの声を挙げたが、王雅はそんな春を見ても、軽く流すくらいの器量を持ち合わせており、「そんな驚くことじゃないだろ」と余計なひと言を入れるようなまねはしなかった。

 オリオン会の一件の後、愛たちとは連絡を取ってはいなかった。第一、こちらは向こうの連絡先を知らない上、向こうも用がないから来ないのだろう。

 月日は流れ、すでに六月も終わろうとしていた。

「引退!?」

三年生の言葉に一番早く反応したのは清司だった。オウム返しに言った清司に対して、広が続ける。

「ああ。三年は六月には引退することになっている。ついては、新たな部長を決めたいと思っている」

 現在ここに所属している三年は、広、由衣、茂、将の四人。彼らが抜ければ、都市事件解決専門部は九人、実働部隊は五人となる。王雅が、愛たちに対して懸念していた、情報収集能力の高い茂が抜けることになると、匿名ならばばけるリスクは格段に低くなる。

 だが、ここまで頼りにしていた戦力が抜けるのは相当痛い。実働部隊も三人減る時点で、あまり大がかりな戦闘は行えない。

「マサ君、どうかした?」

「随分難しい顔してるぞ」

顔に出ていたのだろう。由衣と茂から気遣いの言葉をかけられたが、王雅は「何でもありません」と首を振り、また考え込んだ。この際、由衣の「マサ君」には目を瞑ることにしていた。訂正のしようがないのだと分かっているのと、いちいち反応するのが面倒になってきたというのもあった。

「元部長推薦、ということでは、俺は慎吾を次期部長に推薦させてもらう。まぁ、あくまで俺の推薦だから、強要はしない」

「え・・・・・・? せ、先輩? 何で俺が・・・・・・?」

(まぁ、妥当だな)

王雅は心の中で一人納得していた。バックアップチームや一年に部長を任せては、いざというときにまとめられるだけの力がないかもしれない。かといって、もう一人の実働部隊である貞晴を部長にするには、先が不安になると思っての事だろう。おそらく、次期部長は慎吾で正式決定するだろう。

 その時、部室のドアのセキュリティシステムが来訪者を伝えるチャイムを鳴らした。モニターに映っていたのは、二人の女子生徒だ。

『学園平和維持執行部隊だ! 開けてもらおう』

「この話はまた後にしよう。今は目の前の問題を片付けないとな」

王雅達一年にとっては、六月に三年が引退するという決定事項を今日伝えられた時点で、次期部長決定も十分目の前の問題なのだが、そんなことを言っていられる状況ではないことを、王雅はよく知っていた。

「学園平和維持執行部隊、二年、宮下雹南みやした ひょうな

「同じく、一年、田野木亜那たのぎ あな蓮王雅れんおう まさ、ご同行願う」

一年生の亜那が王雅の名を言い間違え瞬間、扉からもっとも遠いポジションにいたバックアップチームの花と二菜が肩を震わせて笑い出した。といっても、大声を出して笑うわけにもいかず、二人でお互いを抓りながら口から漏れ出す笑いを堪えていた。

 王雅以外の一年二人と茂は、やはりこみ上げる笑いをどうにかしようと、というよりは、笑い顔を来訪してきた二人に見られぬように背を向けていた。茂はくわえていたアメを噛み砕かないように苦労しているのが、背中ごしでも分かった。

「いいですが、その前に一つ言ってもよろしいですか?」

その言おうとしている一つが、間違いなく名前の訂正であると分かっている部内の者達は、すでにこの会話のオチ、というものが見えていた。茂はついにアメを噛み砕き、その上で咳き込んだ。先ほどは無反応だった貞晴は、「脳みそ足りてんのか」と言いたそうに、笑いというよりは苛立ちで体を震わせている。優子と緑もまた、「何故気づかないのだろう」と思ってすでに冷たい目で亜那を見つめていた。将はボルトを巻いていた手を止め、広は微笑ましい光景を見るかのような生暖かい視線を送り、由衣は呆れ気味に溜息をつきながら亜那の反応を待っていた。

「何ですか?」

やはり亜那はまだ自分が王雅の名前を言い間違えたことに気づいていないらしく、形式的に返答してみせた。王雅は、今日一番に感情がこめられた声を挙げた。

「俺の名前は、蓮王雅れん おうがです!!!」


 王雅が連れてこられたのは、学園平和維持執行部隊の尋問室だ。こういうところに入るのは、あまり居心地のいい気はしない、というのは誰もが持つ感想ではある。

 しかし、今回は違う。何せ尋問の最初が相手の謝罪から始まったのだから。

「先ほどは氏名を間違えるなどという失態を、申し訳ありません・・・・・・」

「まぁ俺は許しませんが――」

「許さないの!?」

「学園平和維持執行部隊が名前を間違えるなんて、学校中の笑いものになるんじゃないかと思いますがね」

「くぅ・・・・・・」

亜那が歯噛みしているが、王雅はそれを見て悦に入るようなことはなかった。誰にでも間違いはある、とだけは言われたくない。その間違い、失敗を皆無にした執行部隊、というイメージが学校中に定着しているのだ。単なる名前の間違いだけでも、執行部隊の情報整理能力が疑われることとなる。たかが名前を間違えたくらいで、と甘く見ていれば、妥協すれば、人はどんどん廃れていくのだ。

「でっ、でも・・・・・・!」

「やめろ亜那。彼にムキになっても返り討ちに逢うぞ」

「・・・・・・はい」

亜那は未だに未練があるような顔をしていたが、雹南からの命令には従わざるを得ないらしく、仕方なく更なる言及を諦めた。

「そろそろ本題に入っていただいてもよろしいですか?」

王雅が呆れたように彼女らを諭すと、雹南が頭を軽く下げて謝罪した後、話を始めた。

「すまない。では本題に入らせてもらう。無機械科一年、蓮王雅」

その肩書き(?)を耳にしたとき、王雅の中で一つの予測が浮かびあがった。

 無機械科でありながら、部活、しかも普通のスポーツ系部活ではなく、戦闘を行うある意味嫌われ者の部活に所属している、その理由。

「何故君は無機械科にいながら都市事件解決専門部あんなところに所属しているのかしら?」

ほら来た。

「単にスカウトされただけですよ。俺は自分から志願したわけではありませんし」

「では、強制させられた、と?」

雹南の表情は真剣でありながら、まさしく尋問によって真実を吐かせようとする尋問官さながらのものだった。

「強制、といえばそうなりますが、ここに入って後悔はしていません。むしろ、入ってよかったと思っていますから」

半分は本心だったが、半分は嘘だった。少なくとも、都市事件解決専門部シティヘルパーに入ってよかったとは思っていない。もし入っていなかったら、魔法の世界に触れる必要もなかったというのに。だが、それはつまり愛や火石との出会いもなく、魔法に関することを知らずに生き続けていたかもしれないのだ。もっとも、王雅の中では知ることと関わることは全くの別事なのだが。

「ところで、俺をここに来させる理由とする情報源はどこですか?」

王雅は雹南に今回のことの理由を逆に問いただした。理由、情報なしに生徒を尋問室に連れて来ることは許されていないのだ。もともと、尋問室に連れて来ること自体強制的なものであるゆえに、正当な理由も情報もなしでは、いくら学校内のこととはいえ、いくら学園平和維持執行部隊スクールピースフルであっても(むしろ執行部隊ピースフルだからこそ)法にひっかかる事象だ。

「今回のことは階村真弥先輩からの情報です」

階村真弥。次期生徒会長。愛の姉である彼女が、今回ここに来ることになった情報源?

「そういえば、生徒会長は執行部隊の総指揮長も務めるんですよね」

「ん? そうだが」

現在はまだ生徒会長の座にはついていないが、次期生徒会長最有力候補の情報が信用されないはずがない。有機械科ではどうなのかは知らないが、無機械科では王雅が都市事件解決専門部シティヘルパーに所属していることは、有名とは言わなくとも、王雅のクラスメイトの大半くらいならば耳に入れている情報だ。

「次期生徒会長候補の情報がそんなに尊重されるものなんですかね?」

「言っておくが、彼女は次期生徒会長としてではなく、一生徒として情報を送ってきたのだ。それが嘘であれ真実であれ、確認する義務が私たちにはある。もっとも、あそこに無機械科の一年がいるという噂は前々から耳にしていたんだがな」

本題に話を返すのがうまい。こちらは完全に話題を逸らしたのだが、向こうはそれに答えつつ、話を最初へと戻してきた。

「それで、俺に聞きたいことはそれだけですか?」

「もちろんあるぞ」

できればあまり深いところまでは話したくはなかった。王雅がここに連れてこられたのが、無機械科でありながら、という理由の上のものならば、他の一年に同じようなことを聞くことはないだろう。

「君は、何か特殊な力でも持っているんじゃないか?」

「・・・・・・何故そう思います?」

できればこのことはあまり話したくはない。自分が持つ力のことを話せば、ややこしいことになるのは明らかだ。仲間内である部員たちにも魔法に関することは王雅の能力だけであるから、尋問という形でこちらでそれより先のことを聞かれるのは不味いのだ。

 だが、理由を逆に問いただしたのが不味かった。

「何も持っていないのにスカウトされるのはおかしい。それよりも、話を逸らすということは、何か持っている、ということか?」

ポーカーフェイスは完璧だった。実際、表情は崩れなかったし、疑わしき行動が顕著に出たわけでもなかった。

「持っていませんよ。無機械科でありながら、能力を持っているのは矛盾した話です。俺は基本的には雑用的な立場ですし、それこそ、スカウト理由も雑用要因だと思いますよ」

全くの嘘ではなかった。由衣あたりにはよく買い出しを頼まれるし、戦闘のデータ管理なども王雅は担っている。といっても、王雅が行うのは、部室にある共有コンピュータで戦闘報告書を作成するだけであって、実際にデータを保管するのはバックアップチームであるのだが。

「・・・・・・そうか。時間を取ってすまなかった。質問は以上だ」

「はい。失礼しました」

結局、尋問室でぶつけられた質問は二つだけだったが、こちらにとっての収穫は十分だ。相手は十分にあしらえたはずだ。向こうはこちらを尋問したところで実際のところ大した収穫はなかったに違いないだろう。

 だが、問題は、王雅がわざと残した矛盾に気がつくかどうかだ。

 雑用でありながら、こき使う部活に入ってよかったと思うか。

 この先、王雅の予測の範疇内で執行部隊ピースフルがとりうる行動は三つ。入ってよかったという方に矛盾をつけて、都市事件解決専門部シティヘルパーに対して部員をこき使わぬよう注意を促す。雑用という方に矛盾をつけ、王雅の戦闘参加の確信を得るために調査を開始及び王雅の能力を探る。もしくは、この矛盾に気づかずに、このまま時間が流れるか。

 どの行動を起こすにしても、王雅は一番に尋ねるべき者がいた。


 王雅のいなくなった尋問室では、雹南が深刻そうな目のままで机に視線を落とし、腕を組んだままじっとしていた。

「あの・・・・・・宮下先輩?」

「いるんでしょ、階村」

「あら、やっぱり分かる?」

壁に隠れていた階村真弥が姿を現した。一番驚いたのは亜那だった。

「な・・・・・・いつから・・・・・・?」

「あなた達が彼を呼びにいったすぐ後かな~」

「さ、さすが気配霧散ヒントディフションですね・・・・・・」

「あら、亜那ちゃん。彼はどうやら気づいていたようよ」

「ああ。完全にあれはお前の気配を察しての言動だろう。気づいていないのはお前だけだぞ、亜那」

「すいません・・・・・・精進します」

亜那がこの場に居づらいような気持ちになってしまったのは、上級生二人に完全に置いて行かれていることに関してのものだった。

「それにしても、お前の情報はどうも理解ができないな」

「魔法に関すること?」

「それ以外に何がある」

雹南はそれこそ理解できないといった表情で顔をしかめたまま、机を見つめ続けていた。

「私たちには、知らないことが多すぎるのよ。自分のことも、他人のことも、世界のことも」

真弥は少し寂しく、悲しそうな目で雹南と亜那をそれぞれ見つめた。


 王雅は愛と火石を屋上へと呼び出した。

「単刀直入に言わせてもらう。階村真弥は魔法に関することを知っているのか!?」

王雅は切羽詰まった表情で愛を問い詰めた。愛は珍しく鬼気迫る表情で詰め寄る王雅に驚きこそしたが、答え自体は、少しも慌てた様子のないものだった。

「知ってるもなにも、お姉ちゃんは元々魔術師だし」

「魔術師からリボットになったということか?」

「そ。まぁリボットになった時点で、魔術は一切使えなくなっているけどね」

王雅はある意味あっけにとられていた。今回王雅が呼び出された情報源が真弥であることがどの程度の人間に広まっているのかは分からない。だが、真弥が元魔術師で、少なからず魔法側の事情を知っているとしたら、情報の流出の危険性は極めて高くなる。三年引退で都市事件解決専門部シティヘルパーへの干渉が楽にできるようになったと思っていた矢先にこれだ。これでは、むしろ執行部隊ピースフルの方に情報が先に行きわたってしまう。そうなっては、こちらは情報的にいろいろと不利になってしまう。そこでさらに情報収集のエキスパートである茂が引退するとなれば、完全に情報に関するアドバンテージは執行部隊むこうがわが持つことになってしまうのだ。

「階村先輩が魔法に関することの情報を流出させる危険があるのに、何故野放しに・・・・・・」

「お姉ちゃんは元々、魔術師とリボットの結託関係を結ぶために、魔術師をやめてリボットになったの」

「魔術師とリボットの結託・・・・・・それも魔法側の都合か?」

「簡単に言えばそう。魔術師わたしたちは戦力の拡大を図るためにリボットへの干渉をこうして始めている」

そこで王雅の中に一つの疑問が浮かび上がった。

「階村先輩は、強力なリボットの集まりである執行部隊ピースフルに目をつけ、情報をリークしたということか」

「え! お姉ちゃん流しちゃったの!?」

「し、知らなかったのか!?」

驚愕が驚愕を呼ぶおかしなことになっていたが、王雅はそれで話の矛盾と合点の両方を見出した。

 戦力拡大といっても、姉妹間でこうも意思疎通ができていないということは、本当は同時に行動せず、真弥は単独のうちに勢力を拡大させていることになってしまう。それに、愛や火石が都市事件解決専門部シティヘルパーへの接触を試みている段階で、ある種対立関係にある学園平和維持執行部隊スクールピースフルに情報を漏らす。

 一体、真弥は何を考えているのだろうか・・・・・・。


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