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R‐ボットな人  作者: 織間リオ
第一章【オリオンコンピュータ】
1/41

1、『まさ』ではなく、『おうが』です

この作品はフィクションであり、登場する人名、地名、その他諸々は、

実在しても、一切関係ありません。

また、能力使用などによる人体や環境への影響に関しては、

作者の偏見と勝手な都合により、一部改変されている

可能性があります。ご了承ください。


 西暦二三四二年。人類の科学はここ百年ほどで飛躍的に進歩し、遂に自立式の『ロボット』と呼ばれる物を作り出した。更に、そのロボットの、高機能、高性能なところを、人間の体内に埋め込むという大事業にも成功した。つまりは、体の一部を機械化することによって、常人以上の身体能力や、特殊な能力を身につけることに成功した。機械化によってその命を救われた、という事例も、今になっては珍しいことではない。

 ただ、その飛躍的な進歩の上で、当たり前のように悪も生まれてしまった。日本の警察は頑なに今までのような機械化されていない人間だけを集めようとしていたために、そのような悪には手を焼いていた。つまり、警察は基本的に機能していないのだ。

 機械化した者は『リボット』と呼ばれる。リボットは、機械の使いまわしという意味のリサイクルとロボットを掛け合わせて生まれた名称だ。表面上は『ロボットの有効再利用』という意味でのリボットだが、それが言葉を語る上での奇麗事であることは誰もが分かっていた。

 機械段階には二種類あり、それぞれ四段階となっている。一つは、機械化進行段階リサイクレベル。これは、体内に埋め込まれた機械の質量や体積によって決められるレベルである。各段階にもそれぞれ名称があり、上から超機械化スーパー強機械化ハイレベル中機械化スタンダード弱機械化イージー。それぞれ、レベル何、と数字に呼ばれることもある。

 もう一つは、機械操作能力段階コントロールレベル。こちらは、その機械を埋め込んだことによって得られる能力の強力さを表している。ちなみに、先ほどの機械化進行段階と機械操作能力段階は必ずしも比例しない。こちらは上から、超操作者スペシャル強操作者ストロング中操作者ベター弱操作者ウィークの四段階。こちらもまた、レベル何という風に呼ばれる。ちなみに、機械化していない者は、無機械者ノーマルと呼ばれる。ピースメーカー等、緊急措置の為などの機械化も、この部類に入る。

 そして、両方とも最上位の者は双最強、ダブルSと呼ばれ、善しき人は崇められ、悪しき人は恐れられる。


 高校もまた、一つの高校内に、無機械科と有機械科という二つの科をおくことを法律的に決められており、俺こと、蓮王雅れん おうがは、黄昏第三高校無機械科に入学して一週間が経った。そして、放課後によく事情も聞かされぬままにとある部屋の前に連れてこられた。

 王雅達を連れてきたのは二年生の男だ。王雅の他にも、男一人と女一人が連れてこられていた。どちらも顔は知らない。故に名前も知らなかった。男が扉を開ける。ID認証によるセキュリティ式のドアだ。百年ほど前まではまばらにしかなかったこのドアもいまや、全ての学校での全ての部屋への設置が義務付けられるようになっていた。

「リーダー。ご使命の三人、連れてきましたぁ」

「ああ・・・・・・おつか・・・・・・」

「おっつー! で、顔見させなさい!」

中から爽やかそうな顔立ちの男子生徒と気の強そうな口調な女子生徒が顔を出した。

「それでぇ・・・・・・君が咲河春さきがわ はるちゃん」

「は、はい」

連れてこられた三人のうち、一番左にいた女子が慌てたように返事をする。気の強そうな女子生徒が今度は王雅の隣の男子生徒を指差して尋ねた。

「君が原野清司はらの せいじ君」

「はい」

男子生徒は脱力感多めに返答したが、何事にも無関心という感じはなく、先輩の前であるからというだけでこういう態度であると王雅は察した。

「で、君が蓮王雅れんおう まさ君だね」

「違います」

王雅はきっぱりと言い放った。王雅は、やはりかと内心呆れていた。この名前を、小中学校どれだけ間違えられたことか。この漢字の並びと、王雅が苗字と名前の間をあまり空けようとしないことが災いして、大抵初対面の相手には『まさ』と呼ばれるのだ。

「え? ちょっとぉ! 何関係ない子連れてきてんのよ!!」

「ええ? ちょっと君、漢字は、『ハス』に王様の『オウ』に『マサ』って書くよね?」

「はい」

「ほら、やっぱりこの子がマサ・・君ですよ! 由衣さん!」

「違います」

どうやら、連れてきたこの二年の男子生徒も、王雅の名前を勘違いしているようだ。これ以上話がこじれる前に、王雅はこの話に蹴りをつけることにした。

「俺の名前は、マサ・・ではなくオウガ・・・。蓮王雅です!!」

その場に長い沈黙が広まった。まさか、先輩達も自分達がこんな形で王雅の名前を間違えるとは思っていなかっただろう。先ほど由衣と呼ばれた女子生徒が腕を組み、そっぽを向いて言った。

「だ、誰よ! 最初にマサなんて言ったの!」

「お前だろ・・・・・・」

呆れたように先ほどの爽やか系の男子生徒が言った。

「う・・・・・・ふん!」

そう言うと負けたように奥の方に言ってしまった。

「自己紹介がまだだったな。俺は赤木広あかぎ ひろ。この都市事件解決専門部シティヘルパーのリーダーをやらせてもらってる。で、さっきの女が長谷奈由衣はせな ゆい。副リーダーなんだが気が強くてな」

爽やか系の男は自己紹介と共に、奥に行ってしまった由衣の紹介もついでにした。

「あ、俺は高城慎吾たかぎ しんご

先ほど自分達を連れてきた男子生徒が片手を上げて自己紹介した。

「とりあえず、中入って。中のやつと、ここの紹介をするから」

先輩の言葉を断るわけにもいかず、王雅は黙って入った。隣の春と清司は返事をして王雅に続くように中へと入っていった。

 中は思っていたよりは広めの部屋だった。教室ほど広い空間ではないものの、そこは何か室内活動を行うには十分過ぎる広さを有していた。床や壁の掃除も行き届いており、清潔感が溢れている。

「ほんとは掃除ロボでも買えばいいんだろうけど、そんな部費は出してもらえんからな」

広が自嘲気味に肩を竦めてみせる。中には先ほど紹介された三人以外には五、六人の生徒達がそれぞれの時間を過ごしていた。先ほどの三人を入れて、男子が四人、女子が五人。

「三年部は、俺と由衣の他に、二人、男子がいる。あの窓辺で機械のメンテしてるのが、凪原将なぎはら しょう。うちの戦闘要員の一人。そんで、ここでアメ食ってるのが、神崎茂かんざき しげる。こいつはここでの情報収集が主な仕事」

 将の方は、転がっているいくつかの銃火器を分解して内部のチェックを行っている。その視線は一時たりとも銃火器からは離れていない。

 茂の方はアメを加えながらせわしなく手元のキーボードを操作している。現代において、ロボットが世間に乗り出してはきたが、基本的な情報入力を行うのはいまだ人間である。

「二年部は慎吾の他には、パソコンに向かっているあそこの四人の女子。右から、篠原優子しのはら ゆうこ木村花きむら はな吉葉二菜よしは ふたな国後緑くなしり みどり。このうち二人は無愛想だから、そこは上手くやってくれ」

「無愛想で悪かったわね!!」

今紹介されたうちの優子が反応する。広が頭を掻きながらやはり自嘲気味に言った。

「・・・・・・そのうち一人が地獄耳・・・・・・」

再び広を睨みつけた優子を見て、緑が呆れたようにため息をついた。

「二年はもう一人いるんだが、今、ミッション中でな」

「具体的には、ミッションはどんなことを?」

春がその口を開いて広へと質問する。広が「これから説明するから」と、席に座るように促した。王雅は、並んだ椅子の一番奥に座った。清司と春がそれに続く。

「基本的に俺達、都市事件解決専門部シティヘルパーは、黄昏高を中心に暴れてる方々をぶちのめす、っていうのが主な役割だ」

「でも、それは学園平和維持執行部隊スクールピースフルがやってくれるんじゃないスか?」

清司が質問を切り返す。そんな質問も待ち構えていたように広は話し始めた。

「俺らは、一方的に機械を破壊しにいく。ピースフルの方は注意だけで、手出しすることは基本的にできない。注意だけで直るやつがいたら、俺らも必要ないしな」

この人は自嘲気味な話をするのが好きなのだろうか。それとも、そういう話し方になっているだけなのか。真意は読めずとも、王雅は黙って話しを聞いた。

「実際、俺達の介入で黙るやつもいるから、一概に執行部隊ピースフルも俺達を取り締まれないのさ」

 さしずめ、お尋ね者のヒーロー、嫌われ者の正義の味方、といったところだろう。一応やっていることは人を正しているが、その方法は一概に正義とは言えない、という立ち位置にこの部はあるのだろう。

「お、お帰り。竹口達は抑えられたか?」

広のその言葉に振り返った王雅達が見たのは、右手に何かの機械の破片であろうスクラップの山を詰め込んだ箱を持ち上げていた男であった。

「片付けるなり執行部隊ピースフルがうぜぇ。ここにももうすぐ来んじゃね?」

「おっと、彼は長治貞晴ちょうじ さだはる。さっき言った二年の一人だ」

 王雅は、貞晴と目があった。自分はこの人を知っている。数日前、一人帰路に着こうと歩き出したところに現れた三人の上級学年の男達に囲まれたときに、貞晴と王雅は会っていた。

「んあれ? お前あんときの!」

「・・・・・・どうも」

王雅は一度軽く頭を下げる。広はすでに全てを心得ているようで、何も言ってはこなかった。王雅と貞晴が出会ったのは、王雅が自らのその力を放った時だからだった。


 王雅が一人、かばんを背負って家路に着くと同時に、三人ほどの男達に囲まれた。その胸には黄昏高校有機械科の二年を表すエンブレムを輝かせている。一方の王雅は無機械科の一年。普通に考えて恰好の獲物だろう。

「金か何かもってるだろ? ちょっと俺らにくれよ」

「俺、金はあまり持ち歩かない主義なので」

事実だった。王雅は財布の中に大量のお金を持つのは、どこか邪魔臭い気がしていたのだ。しかし、向こうはそんなのをこちらの言い訳であると考えてか、胸倉を掴んでくる。王雅は動揺はしなかった。こうなることは、もとより予想がついていたからだ。

「ちょうどいいな。ここでの身の振り方を教えてやるよ」

「なら教えていただきますよ」

そう言うなり、王雅は、右手の掌から炎を溢れさせ、こちらの胸倉を掴んでいた機械臭のする腕を握り締めた。相手はその熱を感じ取ってこちらの胸倉から腕を離す。瞬間的に熱せられた機械の腕は、緊急廃熱を開始し、しばらく動かすことができない。これは所有者の意志を全く受け付けないものだ。

「なんだこいつ!?」

無機械者ノーマルじゃないのか?」

男達の動揺も無理はないだろう。こちらは、その反応さえしてもらえれば十分なのだ、そうすれば、向こうが動揺している間にもさっさとこの場を立ち去ることができる。

「! おい、逃げるな!」

 ・・・・・・わけではなかった。仕方なく襲い掛かってきた男達の方を振り返った王雅は左手を握り締めた。先ほど胸倉を掴んだ男はまだ排熱が終了しておらず、動けずにいたために、残りの二人が襲い掛かってきた。

「熱いのとしびれるの、どっちがいいか?」

「知るかんなもん!!」

二人がその拳を振り上げてこちらへと振り下ろしてくる。王雅は握り締めた左手を真っ直ぐ前に突き出すと、勢いよくその左手を開いた。そこから高電圧が放出され、二人の男に電流を流し込む。機械はその電流にショートし、男二人は成す術もなく倒れこむ。

「・・・・・・」

王雅はそのままゆっくりと歩き出す。廃熱を完了させた男が立ち上がると、歩み寄る王雅とは正反対に、ゆっくりと後ずさりをする。王雅はその口を開いた。

「熱いのとしびれるの、どちらがいいか?」

「そ・・・・・・そんなの俺が知るかっ!!」

王雅は顔を上げると、その男を見つめる。そして、先ほどの炎とは正反対なほどに冷たく言い放った。

「独り言ですよ」

そう言うと、王雅はその右掌から炎を噴出した。男は成す術もなく、先ほどの男達のようにその場に倒れこんだ。


 その戦闘の様子を、貞晴は目撃していた。貞晴は脚と目を機械化していたため、その能力で王雅の胸のエンブレムを見て驚愕した。まさか、一年、しかも無機械科。有機械科なら、電気エネルギーや火炎放射を行ってもなんら不思議には思わない。しかし、生身の体でそんなことをするとなると、今まで迷信と思われていた――正確には、今も思われ続けている――ことを信じざるを得ない。

「魔法だってのかよ・・・・・・」

貞晴は迷信を迷信と決め込むわけでも、ましてやその迷信をどこまでも信じるような性格でこそなかったが、そんなことには今まで些かの興味もなかった。

「とにかく、連絡しとくしかねぇか・・・・・・」


「他の奴には言ってなかったが・・・・・・」

王雅が貞晴に一礼すると同時に広が立ち上がり、他の部員達に向かって言い出した。もちろん、王雅が無機械科であることは、少なくとも現在この部に所属しているものは心得ているし、隣にいる一年の春と清司も、王雅の胸のエンブレムを見れば無機械科であることは一発で分かる。問題はその先。

「王雅は何故だか知らんが魔法まがいのものを使えるらしい」

別に隠す気は微塵にもなかったから、言われたからといってどうということはないが、さすがに静まった部屋の中で告げられると、何となく荷が重い。話の種となっているのは自分だが、と言い訳じみたことを心中で思ったところで、この空気が変わるとは思えないし、思わなかった。

「へー」

「そーなんだー」

これは予想通りといえるのか、それとも予想外なのか。部員達はどう反応していいのか分からないのか、それともそもそもの興味がないのか。広としても王雅としても、驚かれるか、「まさかー」と小馬鹿にしてくるかと思っていたのだ。

「そこで、王雅は実働部隊の方に組み込むことにする」

「了解。実働部隊のリストに加えておきます」

二年でパソコンに向かっている木村花が応え、素早くコンソールを叩き始める。さして時間をかけないまま、花から登録完了の知らせが届く。

 その時、王雅ははっとして気づいた。自分が勧誘ではなく、半強制的に入部を決められていたことを。清司と春もまた、恐らくは戦闘向きの能力を持つゆえか、王雅に引き続いてもうほとんど自動的に登録されていた。

 この日、王雅は――半強制的にではあるが――都市事件解決専門部シティヘルパーの一員となったのであった。


拙い文章ですが、これからよろしくお願いします。

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