貴方の求婚は迷惑でしかありません。わたくしは愛する人と幸せになります。
イデリーヌ・アフェル公爵令嬢は困り果てていた。
王都にあるイデリーヌの部屋の窓に、毎日のように、一人の金髪碧眼美男が現れるようになった。
彼は窓をコンコンと叩いて、イデリーヌに一輪の赤い薔薇を差し出すのだ。
「愛しのイデリーヌ。私との結婚を考えて欲しい。イデリーヌは理想の女性だ。私は君と結婚したいと思っている」
えええ?どうしてなんで?
わたくしはロイド王太子殿下の婚約者よ。
共に18歳のロイドとイデリーヌ。
来年には二人は王都の聖堂で結婚式を挙げる事になっている。
それは王国民全員が知っている事だ。
それなのに、一週間前からこの男が夜になると窓を叩いて、薔薇の花を差し出してくる。
深紅の薔薇の花を差し出しながら、結婚を申し込んでくるのだ。
彼の名は、ラディアス・レイド。
金髪碧眼の美しい男性だ。
歳は25歳だという。
一週間前から熱烈に夜になるとイデリーヌの部屋の窓をコンコンと叩いて、口説いてくるラディアス。
彼はS級冒険者としてバル王国でも名を馳せている男だ。
もし、イデリーヌがロイド王太子と婚約を結んでいなければ、アフェル公爵家の娘でなければ、胸がときめいたかもしれない。
S級冒険者の彼は、恐ろしい魔物を沢山退治している素晴らしい男性だ。
でも、現在のイデリーヌからしたら、迷惑でしかなかった。
だから、毎夜来ると言われた次の日から、父に頼んで護衛騎士を庭に配置してもらって二階の窓に庭から上がってこられないようにした。
だが、彼は護衛騎士をいとも簡単に倒して、二階の窓に現れるのだ。
「今夜も来たよ。イデリーヌ。護衛を配置するなんて、なんて恥ずかしがり屋なんだ」
窓を開けて深紅の薔薇を差し出すラディアスに対してイデリーヌはきっぱりと、
「恥ずかしがって等おりません。わたくしはロイド王太子殿下の婚約者なのです。迷惑です」
「照れているのだな。私に求婚されて喜ばない女などいない。イデリーヌは亡き母に似ているんだ。その栗色の髪に緑の瞳。私の理想の女性だ。だから私と結婚してくれ」
「貴方、わたくしの話を全く聞いていませんわね」
本当に困り果てた。
ロイド王太子殿下に相談することにした。
交流の王宮での庭での茶会で、
「実はラディアス・レイドが、わたくしの部屋の窓に毎夜現れて、求婚してくるのです。わたくしは貴方様の婚約者。迷惑だって言っても聞いて下さらなくて」
愚痴をこぼしたらロイド王太子殿下は、
「なんだ。くだらない。そのような事はイデリーヌの裁量で始末しろ。お前は未来の王妃なのだ。王妃になる女はこれ位の事を解決できなくてどうする」
と冷たく言われてしまった。
ロイド王太子の事は、幼い頃から婚約者と決められていた。
黒髪碧眼の王族らしい整った顔立ちをしている美男だ。歳はイデリーヌと同い年の18歳。
好きとか嫌いとかそんな感情もなく、ただただ、両親の言う通り、名門アフェル公爵家の娘として恥ずかしくないように、ロイド王太子と交流してきた。
ロイド王太子殿下がイデリーヌの事をどう思っているか全く解らない。
こうしてお茶を飲んでいても、何を考えているのか、解らない男性で。
冷たい返答にイデリーヌは困り果てた。
そして胸が痛んだ。
少しは心配して下さったっていいじゃない。
やはりわたくしの事なんてなんとも思っていないんだわ。
ロイド王太子は一言、
「毒をもって毒を制するのはどうだ?毒が鬱陶しいと思ったら、解毒剤をぶつけるのではなく同等な毒をぶつけたらいいと言っている」
「同等な毒?」
「ラディアスがS級冒険者で迷惑行為をやめさせたいのなら、S級冒険者を雇ったらどうだ。アフェル公爵家ならS級冒険者の一人や二人、雇える財力を持っているだろう」
確かに言われる通りだ。
ラディアスがS級なら、S級冒険者をぶつければいい。
ギルドを通して雇ったら、リリーという女性を紹介された。
リリーは見かけは黒髪をおさげにした少女だが、S級の力を持っているとの事。
信じられなかった。
自分より背も低いし、どうみても可憐な少女だ。
リリーは、
「私に任せて下さい。必ず、追い返して見せます」
そう言ってくれた。
夜、ラディアスが窓をコンコンと叩いて、窓を開けたら、リリーがラディアスの首筋に剣の先を押し当てて、
「こんばんわ。ラディアス。久しぶりねーー」
「リリーっ。何でお前が」
「迷惑行為をしているっていうんで、雇われたの。迷惑なんだよ。さっさと消えな」
「何が迷惑だ。俺に言い寄られて嫌がる女なんていない。照れているんだろ。イデリーヌは俺の事を思って胸がときめいて眠れないはずだ。俺程の美男。あのロイド王太子と比べたって各段、上だろ」
「男は顔じゃありません」
「だったら、仕事が出来る男。俺は仕事が出来る。何体も魔物を倒して来た。ロイドに魔物を倒せるか?無理だろ。無理。女は強い男が好きだ」
「確かに強い男はモテるかもしれないけど。少なくともイデリーヌ様はあんたの事、いやだと言っているわ」
「本当か?イデリーヌ」
イデリーヌはここぞとばかり言ってやった。
「照れていませんし、恥ずかしがってもおりません。わたくしは貴方に付き纏われて迷惑をしております。わたくしはロイド王太子殿下の婚約者ですわ。だから、どうか二度と我が公爵家に現れないで下さいませ。いいですわね?」
きっぱりと言ってやった。
窓の外から声が聞こえた。
「リリー。屑の美男がいると聞いて受け取りに来た。こいつか?」
リリーが声を張り上げて。
「変‥辺境騎士団の皆様方。屑の美男がこちらにおります。簀巻きにしてお持ち帰りになって」
ラディアスは二階の窓から飛び降りた。
下に変…辺境騎士団の四天王、情熱の南風アラフ、北の夜の帝王ゴルディル、東の魔手マルク、西の三日三晩のエダルが揃ってラディアスを囲んだ。
変…辺境騎士団は屑の美男をさらって教育することで有名な騎士団だ。
アラフが腰の剣を抜きながら、
「S級冒険者を連れ去るだなんて、リリーも無茶な事を」
ゴルディルも大剣を手に、
「だが、屑なんだろ?嫌がる女に付き纏う馬鹿は教育しねぇとな」
マルクが数本の触手を背中から生やして、
「さぁ、大人しく俺達と一緒に行こうか?」
エダルも剣を構え、
「抵抗するか?それともおとなしく観念するか?」
ラディアスは笑って、
「お前ら馬鹿だな。俺は強い。さぁかかってこい。皆、ぶっ倒してやる」
四人が一斉に襲い掛かった。ラディアスは背中から大剣を抜き、四人を相手した。
S級冒険者の剣さばきに、アラフの剣は軽々と跳ね返され、ゴルディルの大剣もがきっと音がして折られた。マルクの触手が切り刻まれ、エダルの剣も軽々と跳ね飛ばされる。
変…辺境騎士団の四天王がまるで歯がたたない。
イデリーヌはリリーと一緒にその様子を見て、
「どうしたらいいの?あの人達、やられてしまったわ」
リリーも窓から飛び降りて。
「だったら私が相手するわ。ラディアス」
リリーは剣を構える。
ラディアスは不敵に笑って、
「顔見知りだからって遠慮しないぞ」
そこへ悠々とロイド王太子が近衛騎士達と共に現れた。
窓からイデリーヌは見ていて驚いた。
ロイド王太子はラディアスに向かって、
「私は確かに美しくないかもしれない。強くもないかもしれない。だが、強い者や賢い者に頼ってこのバル王国を発展させ、王国民達を幸せにする責任だけは持っているつもりだ。イデリーヌは私の婚約者だ。いずれバル王国の王妃になる。私にはイデリーヌが必要だ。お前に渡す訳にはいかない」
イデリーヌは思った。
自分は必要とされている。いつも何を考えているか解らないロイド王太子。自分に好意があるかどうかも全く解らないまま。そうよね。政略で決められた婚約者ですもの。
だけれどもサビシイ。
もし、自分が公爵家の娘に生まれなかったら?
普通に恋をして、好きな人と結婚して、一生愛し愛される生活を送って。
ラディアスが熱烈に薔薇を差し出して、結婚を申し込んで来たけれども、心はちっとも動かなかった。
迷惑だと思った。
わたくしはロイド様に愛されたいのだわ。
ロイド様とバル王国の未来を導いていきたい。
だからロイド様どうか、お願い。
必要なだけなの?わたくしの事を愛してくれないの?
貴方の心が欲しい。貴方に愛されたい。愛されたいの。
イデリーヌは叫んだ。
「わたくしはロイド様を愛しております。ロイド様以外と、結婚したくありません。ラディアス、貴方の求婚は本当に迷惑です。今すぐ消えてっ。わたくしの目の前からいなくなって!」
思いっきり叫んだ。
ラディアスは青い顔をして、
「俺は迷惑だったのか?俺はイデリーヌと結婚したかった。母に似ていて理想の女性だったんだ。だから俺は」
ロイド王太子は、
「私だってイデリーヌの事を必要としている。いや、必要としているだけではない。私の隣はイデリーヌでなくては嫌だ。ついつい厳しい事を言ってしまう。私達はバル王国を背負わなくてはならないから。ああ、もし、私が王太子でなくても、イデリーヌ以外は嫌だ。私はイデリーヌの事がずっと昔から好きだ。君の努力家の所も何もかも全て。イデリーヌ愛している!」
涙が零れる。
ここが二階でなかったら、ロイド様の胸に飛び込むのに。
ラディアスは、変…辺境騎士団の連中を睨みつけた。
アラフが剣を再び構えて。
「お前は屑だ。屑の美男だ。だから連れ去らねえとな」
ゴルディルも、両手を組みぽきぽきと鳴らしながら、
「だから観念しろ」
マルクもエダルもやる気満々だ。
ラディアスはハハハハと笑って、
「お前ら命知らずだな。まぁいい。そこまで言うならイデリーヌ。お前の事は諦める。迷惑をかけたな。それじゃあな」
アラフ達が追いかけようとしたら、あっという間にラディアスは姿を消した。
ロイド王太子が二階の窓にいるイデリーヌの顔をじっと見つめている。
リリーが、
「ほら、お邪魔虫たちは、ここにいちゃ駄目よ」
アラフ達は、獲物は消えてしまって、ため息をつきながら、その場を去って行った。
イデリーヌは二階から降りて行き、ロイド王太子に抱き着いた。
ロイド王太子が抱き締めてくれた。
「イデリーヌ。無事でよかった」
「わたくしを心配してこちらに来てくださったのですね」
「当然だ。君は私の婚約者なのだからな」
幸せだった。ロイド王太子の腕の中でイデリーヌは幸せを感じた。
ラディアスはあれからイデリーヌの前に姿を現さなくなった。
イデリーヌが一年後、ロイド王太子と結婚するときに、詫びだと祝い金が届いた。
彼は彼なりに反省をしているのだろう。
イデリーヌは今は幸せだ。
隣に愛するロイド王太子がいるのだから。
大勢の人達に祝福されて、美しいウエディングドレスを着たイデリーヌは愛するロイド王太子と共に教会の広場で手を振るのであった。
変…辺境騎士団にて
「屑の美男も強いとさらえないよな」
「全く。今はあいつは別の女を追いかけているらしい」
「触手で仕置きをしたい」
「三日三晩が疼いているぞ」




