第5話 かがり火の夜
10月末日。
この日は、きたる『万聖節』の前日にあたり。
収穫祭の最終日でもある。
カリエンテ修道院、そして周辺の地域ではこの日、合同で収穫祭を締めくくる『感謝のかがり火』を行うのが恒例となっている。
『感謝のかがり火』とは、うずたかく積まれた穂束、そして収穫物の残りかすや、伐採した枝木、落ち葉など……に火をくべて。その年の収穫、恵みに感謝する行事で。
日が傾く頃に始まり、深夜にまでおよぶ。
日が落ちて。煌々と天をこがす『かがり火』を――僕、アレッタ、リディアは眺めていた。
周囲より一段高い土手に、アレッタを僕とリディアが挟んで座る……いつものスタイルだ。
アレッタとリディアは、拾った落ち穂をくるくる回して、遊んでいた。
念のため付け加えると、僕たちは『火の番』という職務を仰せつかっている。が、マリセアもそこまで固いことは言わないだろう……。
ついでに言えば。
僕とアレッタはこの後、とある『魔法の儀式』に挑む予定になっている。
リディアがいつもよりアレッタに構っているのも……アレッタの緊張を解く意図があってのことだろう。
夕暮れの余韻が消えて、星々の瞬きが全天を支配した頃に。
僕たちは、村人に『かがり火の番』を引き継いで。
僕とアレッタは、礼拝堂へと向かう。
リディアは天を仰ぎ祈りを捧げながら、僕とアレッタを見送った。
その夜の礼拝堂は、火の灯された無数の蝋燭によって……厳かながらも、神秘的な雰囲気に包まれていた。
僕とアレッタは、祭壇の手前まで進み。
アレッタにはそこで、跪いて祈りを捧げるよう指示する。
僕はさらに半歩、祭壇に近づいて。
前腕ほどの長さの杖を振りながら……呪文を唱えた。
そして。
『万聖節の前夜』の神秘性に支えられ。
祭壇の上に、二人の人影が舞い降りる。
それは、アレッタの父と母……あの日亡くなる前の姿のまま、時が止まったままの姿で現れた。
祭壇、その壇上を見つめるアレッタ。
その両目には涙が満ちて、溢れたそれは頬を伝う。
そして。
顔を伏せるアレッタの、その喉から……とめどなくむせぶ声が。
それは数日前リディアが祖母の死にあって見せたのと同じように。
幾年月を重ねてようやく堰は解かれて。
あの日、受け入れることができなかった思い。
心の声を解き放って。
「お父さま……お母さま……アレッタは……」
肩を震わせながら。涙が止まらない。
でも、これは悲しみの涙ではなく……。
「みんなの……みんなの、おかげで……生きています……!」
――ありがとう。
声にならなかった言葉が、ようやく、声となった。




