第3話 夜の記憶
――アレッタは、夢を見ていた。
暗い天蓋に、ガタゴト揺れる座席。
窓越しに見る景色は暗く、なにも見通せない。
それは、薄暗い馬車のなかだった。
聞こえるのは、天井を打つ雨の音に、遠くでゴロゴロ……と鳴る雷鳴。
正面座席には、お父さまが座っている。
私の隣に座るのは、お母さまだった。
どこに向かうのかは良く判らない。覚えていない。
ただ、それは唐突に起こった。
突然の閃光。
それは薄暗かった窓を瞬間照らし出した。
馬がいななく声と、御者の怒号。
それに追い被さる、地を揺さぶるような……雷鳴?
そして床板がきしみ、傾いたかと思うと。
そこでいったん、意識が途切れる。
そして意識がようやく戻りかけて。
私は……窓から伸ばされた手に抱えられている。
あたりは、ざあざあ……と雨が降っていて。
私の全身も、私を抱える手も、したたる雨に濡れている。
目の前には、斜めになった薄暗い馬車の中。
お父さまとお母さまがいて。
ふたりの表情は……やさしかった。
けれども。
抱えられた私。
馬車のなかの、お父さま、お母さま。
その距離はどんどん開いていって……。
やがて馬車は、奈落の暗闇のなかに落ちていき。
見えなくなった。
「…………!」
私は目を覚ました。
寝汗がひどく……鼓動が高鳴っているのがわかる。
半身を起こして……息を整えようとしている私に。
ベッドの階下から、声が聞こえた。
「アレッタ……?」
声に続き、二段ベッド据え付けの梯子に手を掛けて現れたのは……リディアだった。
私は涙ながらに、リディアに抱きつく。
「また怖い夢を見たのかな……それじゃ一緒に寝よっか?」
「…………」
私はうなずいて、階下のリディアのベッドに降りて。
リディアに抱えられるようにして、その日は朝まで眠りました。
それでその夜は事なきを得たのだけど。
翌朝、今度は別の問題が起きます。
私とリディアは朝食を終えて、「朝の集会」に向かうところで。
マザー・マリセアが近づいてくる。
その表情はいつになく険しい……。
そしてマザー・マリセアは、リディアに向かって言います。
「今朝……おばあさんが亡くなったそうだよ。リディア……」




