表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第2話 収穫の季節

修道院の朝は早く。

僕は眠気をこらえながら集会室での集まりに出席し。いまはマザー・マリセアの背後に控えている。

この「朝の集会」は、日課や連絡事項を共有する場であり。

マリセアは集まった修道女たちを前に、本日の予定、段取りの確認を行っていた。


そしてひとしきりの応答を終えたところで。

マリセアは背後にいた僕を呼び寄せる。


「ところで……。昨日よりこの修道院に来ていただいている、お客さまを紹介します――マスター・シュラインこちらへ」


マリセアは僕をとなりに立たせ紹介する。

僕はみなに向かい一礼をした。


落ち着かなげな雰囲気が広がったが、マリセアは先手を打ち咳払いをし、話を続けた。


「ゴホン……。マスター・シュラインは当院にも縁のある人物であり……失われし魔法の継承者、体現者でもあらせられる。これからしばらくの間、当院のお客さまとして迎えます。マスター・シュライン、ひと言いただけますか?」


僕はマリセアに続いた。


「しばらく滞在することとなります。みなさんよろしくお願いしますね」


僕は修道女たちのなか見つけていたアレッタに眼をやり……軽くウィンクした。

アレッタもそれに気づき、顔がほころぶ。

そして周囲がざわつくのをマリセアは制した。


「ゴホン! マスター・シュラインは気さくな方ですから、敬虔なる学びの相談は良しとしましょう。ですがくれぐれも失礼などありませんように!」



マザー・マリセアは言う。


「そして……マスター・シュライン? あなた良いときに来たねえ♪」


マリセアの楽しそうな物言い……少しばかりの寒気を感じる……。

だがその気味悪さは長くは続かず、答えはすぐに得られた。


このとき、秋は深まりをみせていて……修道院の様子は慌ただしい。

その季節は、実った作物を収穫する時期であり……近隣の農家から寄せられた作物の管理もある……。

つまりは「手がいくつ有っても足りない」時期なのだ。


僕も荷物運びの手伝い……そしてアレッタの様子をみる目的も兼ねて、そのふたりと作業を行うこととなった。


ひとりはもちろん、アレッタ。

そしてもうひとりは――リディアという女性だった。


「そこ、手が動いてないよ! せっかくの男手なのに、なんだいそのへっぴり腰は! もっとシャキッとしな!」


ぼんやりしている者には誰彼構わず、マザー・マリセアの叱責がとぶ。


――うん……「失礼がないように」とは。いったい何だったのか……。


「ごめんなさいね、マスター・シュライン。こんなのに、手伝わせちゃって……」


リディアは息も切れぎれに言う。その手には大荷物が抱えられている。

その後ではアレッタも、その小柄な体に相応な荷物を抱えて続く。


僕たちは午前中、納屋と礼拝堂の間を往復させられた。



そして正午。僕はようやく昼食にありつける……と神に感謝したい気持ちだったが。

実際に……食事するまでには『セクスト(正午の祈り)』つまり神への感謝を相応の時間強いられた。


そして僕はその日の昼食を忘れない。

『空腹は最高のスパイス』とは良く言ったもので……。

神への感謝に見合うだけの十分な満足感が得られたのだった。




そして昼食の後には、小休止の時間がある。

アレッタとリディアは、普段よく休憩している場所に、僕を招いてくれた。


その場所は『旧礼拝堂跡地』で。

ここを訪れる者は少なく、今日は良い天気なのもあって……食後にくつろぐには最適だった。


石造りのベンチ。僕とリディアが、アレッタを挟む形で座る。


「あははは……。慣れないとこの生活は、大変ですよね~」


そう言ったのはリディアだ。

アレッタは彼女の顔を見上げる。


「いやー参りました……明日は体がバキバキになってそうです」


僕がそう返すと……アレッタはリディアの手を取り……リディアの手のひらの上、指をすべらせた。


それでリディアは吹き出すように笑う。

リディアは、アレッタの頭に……もう一方の手で「めっ!」の仕草をした。


「うん? アレッタの言葉がわかるんですか?」


リディアは笑いながら……僕に頷いてみせた。


「ええ……。この子ったら『そんなんじゃやっていけないぞ』だって……」

「はは、面目ない……。体を動かすのは得意じゃなくて……」


うん。

マザー・マリセアの作戦は、僕をこの2人に馴染ませることだったのかもしれないが……僕の体のことは心配してくれなかったようだ。


アレッタは今度は僕に向き直り……袖を引っ張って。

そして、僕の前に手のひらを広げて……なにかをおねだりしている?


「ん、アレッタどうした? ……ああ、アレか!」


僕は懐から、例の便箋――紙飛行機を取り出して――アレッタの手に握らせる。


紙飛行機を手にしたアレッタは、跳ねるように立ち上がる。

そして踊るように一回転しながら……手慣れた手つきで紙飛行機を、空へと繰り出した。


遮るものもない屋外。

紙飛行機は悠々と青空を舞って……それでも最後は僕めがけて飛んでくる。

だが!……準備ができていれば当たりはしない!

僕が迫る紙飛行機をかわすと……アレッタは口に手をあてて笑った。


はしゃぎ声こそ聞こえなかったが、それは完璧な笑顔だった。



僕はもう暫く、アレッタのことを注意深く見守る必要がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ