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創作力、磨いていこうの会  作者: 茎乃ハル
感情を解剖する
5/11

『不安』とは、自分が勝手に生み出した未来映像

作家である私たちにとって、感情の発露やその構造は、理解しておきたい重要な分野です。

人は、何の感情も抱かずに一日を過ごすことはできません。

だからこそ感情は、物語をより深く楽しんでもらうための土台だと言っても、決して大袈裟ではないでしょう。


今回は『不安』という感情を題材に、その内側を解剖していきます。

ただし、どうか最初から「それはもう知っている」という前提で読み進めないでみてください。


私は学びには一つの法則があると考えています。


 学びの絶対量=(得られた成果)−(手放せなかったプライド)


ここであえて「絶対量」という言葉を使うのは、学びは相対的にどれだけ知ったかではなく、どれだけ自分の中に残ったかで決まるものだからです。


「それは知っている」

この一言は、一見すると経験や理解の証のように見えます。

ですが同時に、新しい視点が入り込む余地を閉ざしてしまう、とても危うい合図でもあります。

脳は安心できる場所に留まろうとします。

既に知っている、理解していると思えた瞬間、それ以上考えなくてもいい理由を自分に与えてしまうのです。


学びの量が増えない理由は、情報が足りないからだけではありません。

多くの場合、手放せなかったプライドが学びの入口を塞いでいるのです。


もちろん、純粋にエンタメを楽しむ時間であれば、学びを求める必要はありません。

ですがここまで読み進めてくださっているということは、

小説のクオリティを少しでも高めたい――

そんな思いを抱いて、ここに来てくださったのだと思います。


であればどうか肩の力を抜いてください。

「それは知っている」という内省の言葉は、ひとまず遠くへ放り投げて、

ここに書かれている考えや情報が、果たして自分の中に取り込む価値があるのかどうか。

その一点だけを基準に、吟味しながら読み進めていただければ幸いです。


私も、私が知っている限りのことを、

できるだけ噛み砕いて、そして面白くお伝えしていきます。

どうぞ、最後までお付き合いください。



☑️『不安』は、「将来、恐怖を感じさせられるような出来事が起こるかもしれない」と、予知すると現れる感情。


ここまで扱ってきた感情を振り返りながら、

それぞれがどの時間軸から生じるのかを整理しておきましょう。


・『悲しみ』『怒り』

⇨過去の出来事から生じる


・『恐怖』

 ⇨ 今まさに迫っている、あるいは直近の脅威

 (個人的には、もっとも厄介な感情だと思っています)


では、『不安』はどの時間軸から生じる感情でしょうか。

∴ 『不安』は、最低でも数時間後、長ければ数年後に訪れると予測された脅威に対して抱かれます。


お分かりいただけたでしょうか?


・『不安』

⇨時間と空間を超えて、《《勝手に》》予測・推論をした未来の映像


この《《勝手に》》という点がミソです。

これを紐解く鍵になるのが、

前々回の

「〜『怒り』の感情は、悲しみと紙一重〜」

で触れた 信念ブリーフシステム です。


簡単に信念ブリーフシステムを説明すれば、

「真実だと信じている」その考え方や価値観を形成する基礎です。


人間は何かを体験したり思考したりして、脳に何らかの情報が入ってくると、脳はそれを信念ブリーフシステムに照らし合わせ、評価します。


その結果、

「この情報が入ってきたということは、将来自分にとって、このような恐怖体験が起きる」

という推論を導きだし、脳は『不安』を感じるようになるのです。


かなり《《勝手》》ではないでしょうか?


Aという出来事が起きた。

だから次は、Bという出来事が起こるに違いない。


もちろん、実際にはここまで単純ではないかもしれません。

しかし、信念ブリーフシステムが因果関係のパターンで世界を認識しているのです。


たとえば――

川に赤いボールが流れてきた。

だから今度は、青いボールが流れてくるに違いない。

もしそうなったらどうしよう……不安だ。


端的に説明すると、こういう構造です。


果たして、これは暴論でしょうか?


一度そうした経験をして、

「次も同じことが起きるに違いない」と信じてしまった覚えが、まったくないと言い切れるでしょうか。


それほどまでに信念ブリーフシステムは根深く、『不安』は驚くほど容易に立ち上がる感情なのです。



★キャラクターの信念ブリーフシステムを把握し、

その人物が「何に対して『不安』を覚えるのか」を考えてみましょう。


ある傭兵の男がいます。

彼はかつて孤児でした。


孤児だった頃、笑顔で近づいてきた大人を信用し、ひどい目に遭った経験があります。

この体験は信念ブリーフシステムとして彼の中に刻まれ、

「笑顔で近づいてくる人間=危険」という因果のパターンを形づくりました。


成人した現在でも、その信念は無意識のうちに働いています。

彼は笑顔で近づいてくる人間を信用せず、自然と距離を取るようになっていました。


ある日、同年代ほどの女性が、やはり笑顔で彼に近づいてきます。

傭兵の男は反射的に警戒し、避けようとします。

しかし言葉を交わすうちに、少しずつ心を許し、彼女との会話を楽しむようになっていきます。


それでも——

彼女が笑顔を見せるたび、胸の奥に言いようのない居心地の悪さが立ち上がる。


傭兵の男は、それが「笑顔で近づいてくる人間=危険」という信念から生まれた『不安』だとは理解できない。

ただ理由のわからない違和感として受け取り、

そこから逃れるように、再び一人になる道を選んでしまう。


この例は、信念ブリーフシステムや『不安』という構造を意識しなくても、物語として成立させることは可能です。

しかし、それらを理解しているか否かで、物語は説明を超えて、そこに生きている人間として立ち上がっていくのです。


彼はこれまで、笑顔で近づいてくる人間を一貫して避けてきました。

にもかかわらず、この女性との会話は楽しい。

それでも彼女が笑顔を見せた瞬間、『不安』が湧き上がり、

自分の基礎となる信念ブリーフシステムへと引き戻されるように、彼女から距離を取ろうとします。


彼女が笑顔を見せるたび、胸の奥に言いようのない居心地の悪さが立ち上がる。

——この内的な揺れを描いているか否かで、

読者が物語から受け取る肌触りは、まったく別のものになるはずです。



途中になりますが、次回は

『感じる必要のない不安を解消する方法』から始めたいと思います。


あなたの物語にいる登場人物は、どんな信念ブリーフシステムに縛られているでしょうか。

ぜひ、一度掘り下げて考えてみてください。

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