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創作力、磨いていこうの会  作者: 茎乃ハル
感情を解剖する
3/10

『怒り』の感情は、悲しみと紙一重 

『怒り』の感情は、どのような状況で生じるのでしょうか。

少し、その場面を想像してみてください。


案外、怒りが表に現れるまでの過程を辿っていくと、

それが高度な情報処理の積み重ねによって引き起こされていることが分かるはずです。


では、ひとつ例を挙げてみましょう。


あなたは朝、車を運転しています。

緑の濃い並木道を走りながら、今日一日の予定に思いを巡らせていました。


そのときです。

前方を、一台の自転車が突然横切りました。


心拍数が跳ね上がり、身体は一瞬で『緊張』に支配されます。

反射的にブレーキを踏み、幸いにも事故は免れました。


「よかった……」


胸の奥から、心底の『安心』が息となってこぼれます。


危機が去り、状況が落ち着いたその瞬間、

今度は煮え立つような『怒り』が頭を支配しました。


振り返るまでもなく非があるのは向こう側。

ところが、自転車に乗っていた相手はなぜか不機嫌そうな顔をしています。


「ふざけんな! お前が悪いんだろうが!

横断歩道もないのにいきなり飛び出してきやがって!」


思わず、声を荒げてしまいました。



――このときです。

状況を理解し、意味づけた瞬間に、『怒り』の感情が立ち上がったのです。


お気づきでしょうか。

『怒り』という感情は、出来事そのものではなく、

それを理解し、引き受けてしまったあとに現れる感情なのです。


あれ?

この話、前回の『悲しみ』でもしていなかったでしょうか。


——はい。その通りです。


『怒り』と『悲しみ』は、出来事の違いではなく、

その出来事をどう解釈したかによって分岐する感情なのです。


☑️『怒り』≒『悲しみ』


予想よりも低い評価を受けたとき。

あるいは、期待していた結果よりも悪い出来事が起こったとき。


それを《《不当》》だと解釈した瞬間、『怒り』が生まれます。

一方で、それを《《正当》》な評価だと受け取った瞬間、『悲しみ』が生まれるのです。


先ほどの例に戻りましょう。


もしあなたが、

「予定に思いを巡らせすぎて、上の空だったのかもしれない……」

そう考えながら、自転車に乗っていた相手の不機嫌そうな表情を見たとします。


それを「自分に向けられた正当な反応だ」と受け取った瞬間、

そこに生まれるのは『怒り』ではなく、『悲しみ』になるはずです。


<今回のポイント>

『怒り』と『悲しみ』は、出来事によって生じるのではない。

出来事をどう解釈したかによって、分岐する。



日頃から小説を書いている自分も、強く意識している点があります。

それは、キャラクターが『怒り』や『悲しみ』を発露させるそのタイミングが、本当に適切かどうかを、一度立ち止まって考えることです。


先ほどの例でも、

『緊張』→『安心』→『怒り』

という流れがありました。


もちろん、これらすべてを作中で逐一描写する必要はありません。

ですが、書き手である自分がこの流れを理解しないまま、読者に丸投げしてしまうのはとても怖いことだと思うのです。


作家と読者のあいだで解釈が少しずつ乖離し、最終的にまったく別のものとして受け取られてしまえば、たとえそれが意図的な演出だったとしても、感情の流れそのものを理解していなければ成立しません。

(感情の因果関係を作者が把握していないままでは、読者との解釈のズレは“演出”ではなく“破綻”になります)



★そして、これが最も重要な点です。

キャラクターの信念ブリーフシステムを、しっかりと考えておくこと。


信念ブリーフシステムとは、

そのキャラクターが「真実だと信じている」過去の考え方や価値観の集合であり、

それらがひとつのシステムとして、そのキャラクターの自我を形づくるものです。


ここで重要なのは、

**「真実だと信じている」**という点です。


私たちの生きる世界には、唯一にして絶対の正解など存在しません。

だからこそ人は思考し、解釈し、受け入れることで、

それぞれ異なる信念を形づくっていきます。


キャラクターも同じです。

その世界の中で経験を積み、解釈を重ねた結果として、

現在の信念が出来上がっているのです。


難しく聞こえるかもしれませんが、

よく考えてみれば、ごく当たり前の話ですよね?


感情を文脈の中で捉え、

仮に『怒り』が現れたときには、

「なぜこのキャラクターは、自分の評価が低いと感じたのか」

その背景を用意しておけばいいのです。


たとえば――


・彼は、どんなことで『怒り』、どんなことで『悲しむ』のか?

・彼にとって、絶対に越えてはならないラインはどこにあるのか?

 ——その判断は、どんな情報をどう解釈した結果なのか?

・彼はなぜ日頃から珈琲を嗜むのだろう?紅茶ではいけないのか。

 ――親が珈琲派だったからかもしれないし、そこには歴史的な背景があるのかもしれない。


考え始めるときりがありません。

だからこそ、重要度の高さで取捨選択していくのが現実的です。


彼が日頃、どんな景色を見て生きているのか。

彼にとって何が重要で、何が取るに足らないのか。


そこだけは、書き手である私たちはできる限り把握しておきたいところです。


少し脱線気味にはなりましたが、

僕自身、とても重要なことだと感じたので書かせていただきました。

かなり端折って簡単にまとめていますが、

もし「もっと深掘りしてほしい」という声があれば、喜んで続けたいと思います。



では次に、『怒り』をコントロールする方法を紹介します。


☑️怒り自体を起こりにくくする

怒りの原因となるような出来事が発生したときは、目を閉じて瞑想したり、深呼吸したりさせましょう。そうすることで副交感神経が活性化し、体がリラックス状態になってセロトニンが分泌されやすくなり、怒りの感情が起こったり、増幅したりするのを抑えることができます。


☑️思考を司る前頭前野を活性化させる

前頭前野が活性化すれば、感情を司る扁桃体を含む大脳辺縁系の働きは相対的に弱まります。

つまり、怒りを抑えるには、より抽象度の高い思考へ意識を切り替えることが有効です。


前頭前野を働かせる方法はいくつかあります。

・「自分にも原因がなかったか」と内省する

・「同じことが起こらないためにはどうすればいいか」と対策を考える

いずれも、感情から一段距離を取る思考です。


もう一つが、「復讐の方法を考える」です。

自分を怒らせた相手に対し、どのような復讐をすれば、一番効率的であるか考えるのです。手の込んだ復讐方法であればあるほど、抽象度の高い思考をしますから、怒りの感情を増幅させる大脳辺縁系が抑えられます。


ここで、ひとつ注意点があります。


「復讐の方法を考える」というアプローチは、

思考の抽象度を上げるという点では、確かに前頭前野を使います。


ただし、復讐をテーマに扱う場合は、特に慎重になる必要があります。

というのも、

強い怒りや恨みに支配された状態では思考能力そのものが低下しやすいからです。


脳の構造上、

「強い怒りに囚われ続けている状態」と

「高い知性を安定して発揮している状態」は、両立しにくいのです。


怒りに支配されたまま取られた行動が、多くの場合、望ましい結果をもたらさないのも、冷静な判断力が低下しているためです。


そのため、常に怒っているのに、切れ者であるというキャラクターを描く際には、細心の注意が必要になります。


読者に

「怒っているのに、なぜこんなに冷静で賢いんだ?」

と違和感を抱かせてしまえば、没入感は簡単に損なわれます。


もし描くのであれば、

・怒りが一時的に抑圧されている状態。

・怒りそのものが演技である。

など、構造として説明できる設計が不可欠でしょう。



ここまで読んでいただけた皆さんであれば、

『怒り』という感情が、『悲しみ』と紙一重であることは、

すでにお分かりいただけたかと思います。


最後に、ひとつ有名な例を挙げてみましょう。


カエサルのあの有名な言葉。

「ブルータス、お前もか」


この言葉を発した瞬間、

彼が抱いていたのは、おそらく『怒り』ではなく

評価の崩壊によって生まれた、深い『悲しみ』でしょう。


信じていた者に裏切られた。

理解が追いつかず、意味づけがまだ終わっていない状態。


しかし、もし彼が生き延び、

ブルータスの行為がどれほど計画的で、どれほど残酷なものであったかを

理解し、引き受けたとしたなら――


その瞬間、

『悲しみ』は『怒り』へ、

『怒り』は『恨み』へと、姿を変えたかもしれません。


出来事は同じでも、

解釈が変われば、感情は変わる。


そしてその変化が起こるところまでを書き切ったうえで、

その先をどう受け取るかは、読む側に残しておけるような物語を書いていきたいものです。


今回は以上になります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


もしよろしければ、気づいたことや感じたことなど、どんな些細なことでも構いませんので、コメント欄に残していただけたら嬉しいです。いただいたコメントにはすべて目を通し、お返事します。


あなたの作家人生を全力で応援します。

共に楽しんでいきましょう。


「感情」の解剖図鑑 苫米地英人

※本文を考える際に参照したものです。興味のある方は、ぜひあわせてご覧ください。

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