『緊張』から、冷静さを取り戻すには 続き
・「アウェイ」を「ホーム」に変えるために必要な準備とは何か。
・目的達成における高い自己能力の自己評価とは何か。
・実績・経験によって「アウェイ」を「ホーム」に変えることがなぜ危険なのか。
この三つについて、順に説明していきます。
☑️「アウェイ」を「ホーム」に変えるために必要な準備とは何か。
アウェイを居心地の良いホームにするためには、とにかく「慣れる」ことが一番です。
人の脳は、自宅や職場、通っている学校など、見慣れたものが多い環境をホームとして認識しています。
しかし、見慣れないアウェイな環境には、
『行動を勝手にコントロールしてくる《《恐怖》》』や、
『時間と空間を超えて、勝手に予測・推論をした未来の映像を見せつけてくる《《不安》》』を覚えてしまう傾向があります。
ですから、初めての場所や馴染みのない場所でも、「見慣れている」と感じることができれば、居心地の良いホームにしてしまうことが可能です。
★イメージによる訓練が効果的
初めての場所で試験を受けたり試合をしたりするときは、事前に会場を下見することをお勧めします。遠方で足を運ぶのが難しいようなら、インターネットなどで会場の写真を見てもいいでしょう。
そして、リラックスした状態で、試験や試合などに臨んでいる自分の姿を、できるだけリアルにイメージしてください。
その際は、五感を使うことが重要です。
試験会場には、どのような匂いがあるでしょうか?
古い木造の校舎であれば、木の匂いが漂っているかもしれません。そこで深呼吸している自分の姿を思い浮かべてみてください。
音はどうでしょうか?
暖房の低い作動音、紙をめくる音、人の咳など——そうした細部まで想像します。
そして最後の仕上げに
「能力を発揮できて、喜んでいる自分の姿」など、ポジティブな感情をイメージする
ことです。
場や状況に慣れるためには、もちろん同じ場所に何度も行き、同じような経験を積み重ねていくのが一番です。
しかし、たとえ実際に行ったことや経験したことがなくても、リアルなイメージを頭の中で思い浮かべることができれば、脳はそれらを「見慣れた場所」「すでに経験したこと」として処理します。
このようなイメージの積み重ねが、未知の環境を「知っている場所」へと変え、『緊張』を和らげる助けになってくれます。
<<補足>>
開成中学校・高等学校では、東京大学へ進学する生徒の割合が約37%にのぼります。
もちろん、東大合格に向けた高度な指導や対策が徹底されていることが大きな要因でしょう。
しかし、もう一つ見逃せないのは「距離」です。
開成は東京大学から約3キロという場所にあります。生徒にとって東大は、遠い存在ではなく、日常圏内にある大学です。
そのため、東大は「特別な場所」ではなく、どこか馴染みのある場所として認識されやすい。
つまり、『緊張』を過度に引き起こす「アウェイ」ではなく、心理的に「ホーム」に近い場所になっている可能性があるのです。
そうした心理的距離の近さが、本来のパフォーマンスを発揮する土台になっているとも考えられます。
☑️目的達成における高い自己能力の自己評価とは何か
「目的達成における高い自己能力の自己評価」は、エフィカシーと呼ばれます。
このエフィカシーを理解するためには、まずゲシュタルトという概念を知っておく必要があります。
ゲシュタルト心理学で示された重要な視点の一つに、「人は物事をバラバラではなく、まとまりのある全体として認識しようとする」という性質があります。
人はそれぞれ、「自分はこういう人間だ」「自分はこのくらいの成果を出す人間だ」という内部のリアリティーを持っています。
それが、その人にとっての“居心地の良いホーム”です。
ところが、そのリアリティーと大きく異なる出来事が起きると、マインドは違和感を覚えます。
そして、そのズレを修正し、再び一貫した状態へ戻そうと働きます。
★例1:下がった場合
テストで常に80点を取っている学生がいるとします。
しかし、今回返却された答案には40点と記されていました。
これはその学生のゲシュタルトと大きくズレています。
「自分は80点を取る人間だ」という内部のリアリティーが崩れるからです。
このズレを放置することはできません。
無意識は慌てて秩序を回復しようと働きます。
その結果、次回は90点を取り、やがて本来のゲシュタルトに近い80点へと回帰します。
★例2:上がった場合
逆にいつも赤点ギリギリの学生が、ひょんなことから90点を取ってしまったとします。
一見すると良い出来事ですが、
「自分は40点の人間だ」というゲシュタルトを持っている場合、
この90点は“自分らしくない”というアウェイになります。
すると無意識は、その違和感を解消するために、
「やっぱり自分はこのくらいだ」という元の状態へ戻そうと、その学生は次のテストでは20点を取ってしまうのです。
↓↓↓
マインドは、
想定しているゲシュタルトから逸脱した状態を維持できません。
秩序を回復しようとする作用が働くからです。
外部の出来事と内面のリアリティーとのあいだに大きな隔たりが生まれるほど、
人は強いエネルギーを生み出し、その差を埋めようと無意識が作動します。
では、人は一生、同じ成績を行ったり来たりするしかないのでしょうか?
——そんなことはないはずです。
現状を基準にするのではなく、
100点を取っている自分のゲシュタルトを先に設定すればいいのです。
その自己像に現実を引き寄せていく。
その鍵となる概念が、エフィカシーです。
★例3:片付けられない子供部屋
あなたは、男子中学生の子どもを持つ母親です。
今日もまた、同じことを怒鳴っています。
「ハル!
いい加減、自分の部屋を片付けなさい!豚小屋みたいに散らかして、みっともないでしょう!」
「豚はきれい好きだから、別にいいじゃないか」
投げ返されたその言葉に、反省の色はまったくありません。
ところが——
ある日のことです。
いつものように洗濯物を持って部屋に入ると、そこは見違えるほどきれいになっていました。
床は見え、机の上には何もなく、あれほど山積みだった服も片付いています。
言葉がようやく届いたのだと、じんわりと温かくなる胸を押さえながら、口をひらこうとした、そのとき。
「明日、部屋に彼女を呼ぶから。よろしく」
バタン。
廊下に取り残された母親は、
ただ、閉まったドアを見つめていました……。
↓↓↓
どうでしょうか。
これが、エフィカシーが作動した状態です。
ハルにとっての“現状”は、
「部屋は散らかっているもの」でした。
ところが彼女ができたことで、
「彼女と楽しい時間を過ごしている自分」という未来像が、確信として立ち上がります。
その未来の中では、
“部屋がきれいであること”が前提です。
すると、
内面のリアリティー(きれいな部屋)と
外部の現実(散らかった部屋)とのあいだに、大きな隔たりが生まれます。
今までいくら叱っても動かなかった彼を動かしたのは、
「自分なら彼女と楽しい時間を過ごせるに違いない」という確信でした。
意思の力ではありません。
無意識が、その差を埋めようと動いた結果にすぎないのです。
ここで整理しておきましょう。
ゲシュタルトとは、
「自分はこういう人間だ」という全体像。
エフィカシーとは、
「その未来は実現できる」という確信。
ハルは、
「自分なら彼女と楽しい時間を過ごせるに違いない」という未来のゲシュタルトを受け入れた瞬間、
すでに“きれいな部屋の自分”になっていました。
現実は、そのあとから追いついただけです。
エフィカシーとは、
ゴール達成に対する自己能力の自己評価のことです。
創作において、
人物を成長させたい、あるいは器の大きい存在として描きたいのであれば、
その人物に「現状の外側にあるゴール」を持たせてください。
そして、
「その未来は実現できる」という強い確信を与えることです。
人物は自らが確信している未来の大きさまでしか動けません。
エフィカシーを理論として理解するだけでなく、高める方法まで踏み込みたい方は、
『新版 コンフォートゾーンの作り方』を参照してください。
現状を書き換える技術が解説されています。
☑️実績・経験によって「アウェイ」を「ホーム」に変えることがなぜ危険なのか
過去の実績・経験を基準に思考する人物は、判断の拠り所を常に「すでに起きたこと」に置きます。その結果、現在も未来も、過去の延長線上でしか見ることができなくなります。
この思考は、新しい考えを排除しやすい。実績や経験のないものは“不確実”であり、“危険”に見えるからです。ゲシュタルトは常に現状を基準に秩序を保とうとするため、こうした人物はその秩序を「過去の成功体験」というホームに固定してしまいます。未知の変化や挑戦は常にアウェイとなり、受け入れられません。
物語において、こうした人物は意図せずして主人公の前に立ちはだかる“敵役”となります。行動原理は悪意ではなく、自己の確立されたゲシュタルトを守る無意識的な秩序回復です。
さらに、人生の最盛期をすでに過ごしたと感じ、過去を懐かしむ思考に陥りがちなため、未来に対して悲観的になり、現在を不平不満の対象としてしか捉えられません。
高いポジションにいる場合は、現状を維持しようとし、富や権力を自分のもとに集め、弱い立場の者を犠牲にしやすくなるのです。
今回は以上になります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ、気づいたことや感じたことなど、どんな些細なことでも構いませんので、コメント欄に残していただけたら嬉しいです。いただいたコメントにはすべて目を通し、お返事します。
あなたの作家人生を全力で応援します。
共に楽しんでいきましょう。
「感情」の解剖図鑑 苫米地英人
※本文を考える際に参照したものです。興味のある方は、ぜひあわせてご覧ください。




