ギルトの受付嬢
ワイワイがやがやと、そう広くない食堂はたくさんの宿泊客で混み合っていた。
その隅のほうのカウンターで独り。
手元のコインをモヤモヤの気体にしたり、戻したり。
用意された夕食のプレートを前に、トールはチビチビと市場で買った安酒のボトルを傾けていた。
この酒、イケるな。
陶製のボトルがカッコよくてパケ買いしちゃったけど、飛騨高山で飲んだドブロクみたいだな。
「お、リーズ! 元気してたかーーー?」
【運河の畔亭】看板娘のリーズが、そんなトールの視野の隅に引っ掛かる。
てか、不自然なほどここに居ますよアピしてくるよな。
なんかコッチから声かけないと埒があかん。
フツーに話しかけて来りゃええのに。
仕事はしっかりなのに、コッチ系はポンコツな感じかね。リーズさんや。
トール記憶で把握はしているが、このお嬢さんはトール氏にかなり気があるご様子だ。
とはいえトール氏的にはまったく対象外だったようで、近所の知り合いん家のこども、、くらいの認識だったようだ。
なんだよ、こんなのちゃんとしとかないから変に気を持たせちゃうんだよな。
トール氏もまだまだ若造だな。
関わっちゃったんなら、ちゃんと責任もっとかないとダメよね。うん。
「 ひ、ひさ、 久しぶりっねっ!」
ほら、耳まで真っ赤じゃん。
「あた、あ、 わたしは、もちろん元気よっ」
なんだこの中学英語の教科書みたいなやりとり。
初心か。
可哀想すぎてイジる気もおこらんよ、トールさんは。
「そーかそーか、リーズはいつも元気だもんな」
言いつつ、懐から小さな革の袋を出す。
トール氏が短い王都滞在中に買っていた、ささやかなお土産。
質は良くないがちゃんとキラキラ光る石がついた耳飾り。
この世界では一対じゃないのかね。
片側分だけだな。
しかし妙に色っぺえデザインだけど、こんなもんなんか?コレ。
トール氏、適当にあしらうつもりなのに、こんなガチめなん買ってるん?
まさか、ワンチャン狙ってた??
その割には酒場から回収してきた背嚢の中で潰れかけてたけど。
「え、これ王都の!? 」
ほら、めっちゃ喜んどるやん。
そらこんな子供にこんなキラキラのあげたら、ちゃんと大人扱いされとる思うやん。
ホントなら昨日の夜に渡しとくもんだったのにな。
トール氏、装備荷物ごと酒場に置いてくるんだもんな。。
「ありがとーっ! ね、これ着けてみてっ」
この辺り、宿屋の娘恐るべしよな。
距離の詰め方の天性の勘てやつ。
自分の耳に着いた飾りなので、自分では見えていないはずなのだが、リーズはその場でくるりと回って少し頬を染めた。
「ああ、似合ってるよ でもそれ仕事中邪魔じゃないかな?」
「んーー、かも知れないかな。 大切にとっておこうかしらっ」
そーだな。
大事にとっておくのはよいかもな。
その派手な耳飾りがホントに似合う色っぺえネーチャンになったら、また着けるといーぜ。
あ、そーだ。
アビイと女将さんにもお土産あったんだ。
あれ?そいやここん家、旦那おらんな?
まあ、家庭の事情だしな。。
後で渡しとこーっと。
商業都市リオレの西門街。
都市のほぼど真ん中を東西に突っ切るように走る大きな街道の西側を閉める門の周りに栄えた地区で、リオレの中では比較的下町っぽい扱いの街だ。
トールの定宿【運河の畔亭】や、ネコ耳獣人姉さんの営む酒場【愚者の掃き溜め】も、この西門街のなかにある。
ちなみに、
ギルド本部などの行政区があったのが中央街。
中央街は官庁舎や駐屯騎士団の施設、公園などであんまり人の暮らすエリアじゃあない。
反対の東側が貴族や大きな商会が集まる東門街。
リオレを中心とした領地を治める領主の館なんかも東門街にある。
トール氏もあんまり近寄らなかった高級住宅街な。
で、いまトールさん、その西門街のギルド支部に来てます。
「でわでわ、トールさんの分配分の明細がコレですね。」
受付カウンターの、この子。
いつでも笑顔で、まだまだ子供だろうに、偉いなあ。。
☆ライア・トーハン
☆種族 ヒューマン(女)24才
☆職業 ギルド職員(熟練度B)
☆体力 C−
☆魔力 C−−
☆耐久 C+
☆敏捷 D−−
☆知性 A+
☆運勢 B
☆加護 ―――
☆所持スキル 【事務全般】
いかんいかん、無意識で【ステータス確認】するクセがついとる。
これって、アレかね。された当人は何か違和感とか感じるのかね? どーなんだろ。
そういえば【ステータス確認】で見えてるこの細かいステータス値って、この世界ではどうなんだろ?
トール記憶に無い概念ってことは、この世界では体力とか魔力とかの値も大雑把な感覚的なものなのかなあ。
てか、ライアさん年上だったの??
しかも3つ上!
まじか、合ロリ属性?
どう見ても小学生くらいにしか見えんぞ。。。
種族、ヒューマンよな?
「 ?どうか、されました?」
「ん、ああ、や、 じゃあ500イルだけ小銭込みで、あとは口座にお願い します」
ちょっと失礼な事を考えてたら、顔にでてたかな。
ついついちょっと語尾が丁寧になっちゃうよ。
通貨単位は、結構シンプル。
ゼル銅貨、イル銀貨、ソル金貨。紙幣なし。
あとブラル白金貨てのもあるらしい。
100ゼルが1イル、100イルが1ソル。
結構単純。
庶民の感覚だとソル金貨以上なんか滅多に見る貨幣じゃない。だいたいイル銀貨がメイン。
日本だって庶民ならだいたい1000円札がメインだったでしょ? まあ、あんな感じ。1イル≒500円。
500イルは、ざっくり日本円で5万円くらいの価値かな。
トールさんのひと月分のお小遣い。
飲み屋で騒いだり、昼メシ買食いしたり、ちょっとした日用品を揃えたりちょっと無駄遣いしたりしたら、だいたいひと月で使っちゃう。
まあ、主に飲み食い代だけど。
リオレは物価も比較的安めな感じだから貨幣価値としては現代日本の感覚の倍くらいの価値か。
あと、ギルドは、、まあ異世界定番だな。
互助会のような組織だ。
商人ギルド≫冒険者ギルド≫職人ギルド≫≫その他モロモロギルド、という順で規模の差があって、
特に商人ギルドは国の司法立法行政にモロに食い込んでる。まあ、そりゃそーだよな。
世の中、ゼニが回しとるんやで。
冒険者ギルドと職人ギルドは、独立自主自律みたいな感じかな。
それぞれのギルドが運用する銀行制度みたいなのもあって、これが何気に便利。
さすがにATMはないから預けたり引き出したりはギルドの支部以上でないと出来ないけど。
感覚的には商人ギルドの口座が都市銀行だとして、その他が地銀や信金って感じかな。
「あ、そうそう、 俺、よく知らんうちに加護がついたみたいでさ、コレ貰ったからポーションとか割引で買えるんだよな?」
【教会の護珠】をカウンターに出してライア嬢に押し出す。
「?えっ? すごいっ、 トールさん、加護ついたんですか!?」
冒険者ギルドで扱っているポーション類は全て教会謹製だ。
教会絡みのものは、この護珠を持つ者はほとんどのものは無料か割り引きが適用される。
「 人徳ってやつかねぇ 」
偉そうに上から目線だけど、よく考えたらライア嬢って年上だったやん。
やべえ、人徳さがる。。
さて、懐も温まったし、ポーション補充してから街にでも繰り出そうかね。




