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修道士は見抜く

【運河の畔亭】の昼営業は、正に戦場だ。

名前の通り運河沿いの通りに面した立地と、港湾作業従事者のニーズにあわせた手頃でスタミナ満点の食事提供がしっかりと噛み合って、宿泊業よりもこちらがメインと言ってよいほど流行っている。


そんな昼営業の店内を回しているのは、女将と娘のリーズ、そして通いの手伝いのオバちゃんの三人のみだ。

場所柄もあって彼女らの接客は丁寧とは言えないが、それでも温かく気持ちのよいもので常連客をグッと掴んで離さないものだった。


「リーズーーー、パン仕込み分終わるよ。 看板下げておいでっ」


厨房からの女将の声は、通りまで聞こえるような大声だった。


肩、胸、胴、お尻、太腿と全て等しく均等にふくよかな寸胴体型の彼女は、見た目通りのキップのよいThe女将といった風である。

ちなみにリーズの嫌いな女将の言葉第一位が『リーズはあたしの若い頃そっくりだねえ』だ。


「ねえ、せっかく窯大きくしたんだからもっと焼けばいいじゃない。」


「そんなことやってちゃキリがないよっ、。 これ以上働いたら体壊れちまう。何事も程々がいいんだよ。」


あれだけの回転数と、さらに持ち帰りや夜の宿の夕食仕込みの調理をたった一人でこなす女将は、それでもまだ余裕が有りそうだが、まあそれは【調理】スキルがあるからだ。

普通なら3人はコックが必要なレベルの忙しさなのだ。


リーズには、しかしそのスキルは遺伝しなかった。

それは弟のアビイに生えたのだ。

リーズのスキルは【家事全般】。

女性のほぼ六割に生えるといわれる、極々ありふれたスキルである。


スキルはこの世界の誰しもが必ず一つ持つと言われる神の祝福のひとつだ。

一般的に家系に沿ったスキルが発現しやすく、例えば騎士などの家系なら【剣術】や【騎馬】、船乗りが親なら【操船】や【羅針盤】などが多く見られるのだ。


スキルは使い込めば使い込むほどより上位のものへ進化していくのだが、ほとんどのヒューマンは一生のうちに進化を迎える事はないという。

寿命の長いアールブやドワルフなどは最低ひとつくらいは進化するようだ。


中にはレアスキルなどと呼ばれるより効果の高いスキルも存在するらしいが、リーズのような庶民にはそんなスキルは望むべくもないものだ。

きっとお芝居や教会の説話の世界の話なのだろう。


とはいえ、リーズはそんなスキルごときでウジウジするような性格でもなかった。


平均なら上等。


充分に満足していたし、この【家事全般】スキルは応用が半端なく効く点でものすごく重宝もしていた。

弟のアビイはもっと冒険者みたいなカッコいいスキルが望みだったみたいだが、そんなもの宿屋の息子にいきなり生えるものではないのにバカなやつだな、とも思っていた。


なので、リーズのとりあえずの目標は【お嫁さん】なのだ。

同年代の何人かは、もうどこかに嫁いでいっているという話も聞く。

婚期的にはまだまだ余裕はあるのだが、正直適齢の異性との出会いはあまりない生活だ。

宿の客である冒険者のトールは、そういった意味では、ぜひとも捕まえておきたい物件なのだ。


そう、最初はたしかにそんな打算的な感覚もあった。


しかしトールは、リーズのことなど恋愛対象にならない、という態度でまるで優しい兄のように接してくる。

それがかえって大人の余裕にも感じられ、次第に心から惹かれていくようになってしまった。


頼りがいがあって優しく、荒くれ者の多い冒険者のわりに紳士的で身形も小綺麗。

恋する乙女の脳内では、トールはどんどん理想の恋人としての地位を築きあげていったのだった。


冒険者ということもあり、たまに何日も宿に帰ってこないこともある。

そんな時には寂しくてさみしくて、つい弟に当たり散らかしたりも、する。

今回など特に長く留守にしていたので、さみしさもひとしおだったのだ。


だが、今回は長期依頼で王都に行くという話を聞いていたので、思い切って王都土産をおねだりしてみたのだ。

彼女にしてみれば、本当に思い切って頑張ったのだ。


もちろん、トールは快く承知してくれて、楽しみに待ってろ、なんて蕩けそうな言葉までくれたのに。


、、のに。


トールの護衛する商隊が、昨日の昼過ぎに戻ってきたという話はすぐに伝わってきた。

【運河の畔亭】はリオレ西門のすぐ近くなのだ。

大きな商隊の動きがあればすぐに伝わってくるものなのだ。


ああ、やっと逢える。

愛しいトールに。


、、、、のに。


待てど暮らせどトールは宿に戻ってこない。

もしや、、などと考えてしまい、伝手をたどって安否確認までしてしまったりもした。 普通に生きてたけど。


、、、、、、のにっ。


結局酔っ払ったトールが戻ってきたのは深夜過ぎ。

しかも起きて待っていたリーズなど軽くスルーして、自室に入ってベットにダイブしてしまった。


あれ?

リーズ、逢いたかったよ とか

いい子にして待っていてくれたかい とか


あれ??

あれれれ?



なんなのよっ! もうっ!!

トールのばかーーーーーーーー!









「あれーーーー、 トールさんだーー」


のんびり市場を歩いていると、後ろから声がかかる。

どこかのんびりと間のびした声。

やたらと語尾をのばす喋り方は、トール記憶にもはっきりと残っている。

立ち止まって振り向くと、この街では見慣れた祭司教の修道服に身を包んだひとりの女性が大きな荷物を両手いっぱいに抱えてこちらを見ていた。


「、?  て、あれーー?  トールさんですよねーー?」


商業都市リオレの祭祀教会の修道士ウィオラさんだ。

修道士、とはその名の示すとおりに道義道理を修めるための精神身体を鍛える修行をしている者の総称。

大小様々な宗教宗派はあれど、いずれもその末端に近い部分を構成する人たちだな。

お寺のお坊さんとかに近いかも知れん。


「やあ、ウィオラさん  スゴい荷物だね」


背中に大きな籠、両腕で大きめの紙の包みをふたつ抱えて、小さなバスケットまで下げている。

買い出しかな?

さらにいえば、抱えている紙包みの向こう。

大きな紙包みに負けず劣らず主張の強い膨らみが、修道服の向こうでボヨンボヨンしてるやで。

お美事なモノをお持ちのお方である。


いや、あかんあかん。

バチがあたる。


「 なんかー、ちょっと見ないうちに感じかわってませんかーーー?」


お、鋭いな。

なんだ修道士特有の、何か見える的なやつか?



☆ウィオラ・ストレイ

☆種族 ヒューマン(女)21才

☆職業 修道士(熟練度B)

☆体力 E−

☆魔力 B

☆耐久 F+

☆敏捷 F

☆知性 B−

☆運勢 A−−

☆加護 地母神の癒し

☆所持スキル 【ヒール】



それ系のスキルとかは無さそうだな。

単に勘が鋭いのかね。

てか、でたっ 異世界定番の【ヒール】っ

何気に初めて他人に【ステータス確認】してみたけど、人物にはあの事務員神コメントはないのか。

まあ、知りたくもないヒミツとか見えちゃってもこまるだけだよな。。


「そりゃ、ひと月も街から離れてたんだから成長だってするさ。」


とりあえずその荷物、一個持ってやるよ。

あ、もちろん紙包みの方な。

トールさんは、紳士なんだよ。

けっしてご立派なお胸に興味なんてないのよ?


って、重っ。

なんだこりゃ、イモ??


「ふぃぃ、助かりますーー  自分でヒール掛けながら歩くの、実は大変だったのーー」


「買い出しかい? 大変だね」


「まだーーー、あと一カ所ーーー、寄るとこあるんですけどーーー、」


なんだよ、こちとら任務明けでヒマなんだからそれくらい付き合うよ。

トール記憶で教会関係者には世話になってるのは知ってるからな。

決してその修道服の下に隠されたブルンブルンの巨乳に目が眩んでたりはしないからな。 

眩んでたりはしないからな。


く、眩ん、、でるかな?

まあこのウィオラさんは冒険者ギルドにポーションの納品とかにもたまにやってくる。

のほほんとした口調と、何よりその豊かなお胸で、冒険者の男どもに密かに人気がある。

トールさん?  まあ、好きかなぁ。くふ。


「てか、見ため俺そんなに変わったかな?」


あかん、煩悩を振り切らなくてはっ!

落ち着けトール。すーはーすーはー。


話し方とか、雰囲気とかトール氏と比べて違和感とかあるのかね?

この辺りは自分じゃ全くわからんしな。


「ーーんーー、見ためじゃなくてーー、たぶんなんですけどーー」


大量のイモが入った紙の包みを抱えたトールの横や後ろをチラチラ見ながら、ウィオラは目を凝らすようにしてしばらく考えるように黙る。


なんか、これはこれで照れるなぁ。

そして、


「トールさん、なにかーー、加護ついてますよーーー?」


あー、なるほどね。。




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