トールさんはロマンに生きる
そんなスキル検証をしながら歩くこと十分ほど。
裏路地から大きな広場へと抜けてきた。
【運河の畔亭】のある西の外れ側から古い市街区を抜けて、都市のほぼ中央。
商業都市リオレの行政区と呼ばれる区画に冒険者ギルドの本部は、ある。
リオレの東西にある大門にもそれぞれギルドの支部があり、普段なら宿から近い西門の支部を使っているのだが、今朝もらったメモの買取り官ゼクスは偉いさんなので本部にいる。
そうやってギルド本部前にやってきたトール。
いつもの西門の支部と違って本部はこじんまりとした石造りの商館のような造りだ。
現代日本風にいえば、まあ雑居ビルといった感じか。
主にギルド外部内部との折衝や交渉、その他事務処理などを主な業務にしているので、支部のような受注窓口や納品スペース、待ち合い設備などの雑然とした雰囲気や多くの人の気配は、ない。
「おう、トール。 待っとったぞ」
受付けでゼクスに呼び出されたことを告げ、通された応接室には、すぐに大柄な男が入ってきた。
「すまんな、茶も出さず まあ手短に言おう」
と言ってゼクスはトールの正面に座り、応接机の上にゴトリと小振りの煤けた短剣を置いた。
「ああ、ソレか。 わかったんですか?」
ここまできて、初めてトールは呼び出される要件を思い出した。
今回の護衛任務中で回収した冒険者らしき遺体の遺留品が、この短剣だ。
商隊進行ルートの索敵中に見つけた遺体。
激しい戦闘の痕跡の中で全身黒焦げになっていたひとつの遺体。
ほとんどの装備品が高熱で焼き尽くされたなかで懐深くに仕舞われていたためか、ちゃんと遺っていた短剣。
通常こういった遺体は、何かしらの任務遂行中であっても余裕があればしっかりと弔って埋めてやるケースが多い。
その場合遺留品は発見者に所有権が生まれる。
だが、その短剣の拵えにふと違和感を感じたトールは、任務の終了報告と共にギルドに提出しておいたのだった。
「まあ、結論からいえば、、こりゃさるやんごとなきご一族の縁の品だな」
ゼクスは目の前の短剣の柄頭の部分を指して、同時に懐から一枚のメモ紙を抜いた。
翼を広げた鷹に2本の杖と1帖の盾
なんとも謂れのありそうな紋章が描かれたそのメモ紙の図案と、柄頭の意匠が一致している。
「どっかのお貴族さま?」
「いや、国2つ挟んだ遠い異国の王族だ」
「、、、国2つ、て、ひょっとして?」
「ああ、そのひょっとするお国だな」
トール記憶にもしっかりとあるその遠い国。
魔族と呼ばれる魔力に特化した種族が治める人族の敵性国家、【魔凰国】。
「お前さんの報告では遺体はほぼ消し炭状態で性別年齢の判定も不可能、とあったな。」
「ああ、かなりの高温で焼かれたのか、周りの地面も石みたいに固くなってた。。 かなり高位の火炎系魔法でやられていたみたいだったな。」
魔族は、アールブやドワルフ、ヒューマンといったヒト種に姿形は似ているが、死ぬと魔石を体内に生み出す。
オークやトロル、オーガといった魔物と同じだ。
だがその魔族の中でも王族と呼ばれる者達の残す魔石は武具の形を取るといわれている。
「コイツはおそらく、魔王族の魔石だな」
そしてその魔王族の魔石を手にする者はまず例外なく深い呪いを受けるとも言われている。
「うえ、え、どおりで何かイヤな感じがした訳だ」
「まあ、鑑定の結果コイツはその呪いの類が抜けちまった空の容器みたいなもんらしいが、、」
ゼクスは短くため息をついて、まじまじとトールを覗き込んてくる。
「お前さん、、ピンピンしてるもんな」
トールは未だに少し妖しい波動を出しているその短剣を【ステータス確認】してみた。
☆魔凰女ステリアの魔石
☆等級 S−
☆LV ???
☆無念の最期を遂げ、呪いを発動し終え役割を果たした魔王族の魔石
あ、まだでもちょっと残ってるから取り扱いは慎重に、ね。 魔族は執念深いからね。
、、をいっ。
コレ大丈夫なんか?
ひょっとしてトール氏、これで死んじゃってるとか言わんよな?
「まあ、さっきも言った通り鑑定士の言うにはソイツはもう何の力もないただの遺物だ。害はないそうだ。」
ゼクスは手元のバインダーから小さな羊皮紙を抜き取ると、トールの前に置く。
「鑑定書な。ちなみに呪物扱いなんで買い取り除外品だ。遺族にでも渡してやれば謝礼が貰えたりしてな」
がはは、と笑いながら彼はそっと短剣と鑑定書をトールの方に押し出した。
普通のヒューマンなら一生足を踏み入れる事など叶わない遠くの敵性国家だ。
謝礼など貰える確率なんてゼロ%だ。
え、ナニこれ俺が持っとけてこと?
呪物なんだよね? そんなもんそっちで処分しとけよマジで。。
これ、初めての【無限収納】行きで、いきなり永久封印ものだな。うん。
部屋とか置いといたらなんかうなされそうだわ。
ちなみに鑑定書に書かれていたのが、、
☆魔王族のカラ魔石
☆等級 S
☆呪いを発動し終えた魔王族の魔石
短剣として使用するには強度不足
あれ、? なんか淡白。。
【ステータス確認】のとちがうな。
名称も名前らしきものが入ってないし、等級もプラマイ表記がない。
あと、あの事務員神らしきコメントもないな。
「、で、魔凰国がらみは中央への報告義務があるからな。お前の名前で報告書をあげることになる。」
さらにバインダーから数枚の紙を抜き取り、トールの前に並べた。
それぞれに署名欄があるので、これにサインを入れろという意味だろう。
「まあ、特にどうこう言われる事はないだろうが、一応これでこの話しは、終いだ」
署名が終わる端から用紙を回収して、ゼクスがひとつ咳払いをすると、部屋の扉がノックされた。
妙齢の御婦人が静かに入室して、ふたりの前にそれぞれ茶器を置く。
「で、ここからは別件だ。」
ゼクスが茶器のフタを取ると、とたんに茶葉のよい香りがあたりに漂った。
いい葉っぱだな。 いいのか貰って?
「この前の話、どうなんだ?」
ゼクスは椅子に深々と座り直してトールをチラリと見据えた。
「、んー、? て、ああ、あれ。。」
「王都のギルド職員のクチだぞ? もう何年もランクCで燻ってるお前さんには過ぎた話だと思うんだがなあ、」
冒険者ギルド職員は、常に人手不足だ。
このリオレのギルドも勿論だが、規模が更に大きい王都のギルドなら、なおさら。
そして現場経験があり、識字計算ができて交渉力も企画力もある人材となると喉から手がでるほどに欲しい貴重な存在なのだ。
でもなあ、王都。。
アビイにも言ったが、あんまり好きじゃないんだよなあ。
まあ、トール記憶なんだけどさ。
なんていうか、程よい田舎のこの街が性にあっているんだよな。
地方に転勤していく後輩が、実は羨ましかったんだよなあ。
都会生まれの都会育ちだったからか、こういう程よい地方に癒しを感じるのさ。
「それ、別に急ぎじゃないんでしょ?」
トール記憶では、確か勧誘を受けた時に『将来』と言われてたはず。
「まあ、人手不足は常の事だからな。」
ゆっくりと香りを楽しむようにゼクスはカップを傾ける。
いや、ホントこれいい香り。
何処で売ってるんだろ。
「お前さんは下のモンの面倒見もいいし、上からの評価も高い。 俺はな、ランクCで飼い殺しとくような勿体ない使い方は、したくねえ。」
「使い方、て。 ちっとは言葉を選ばないのかね」
まあ、粗野ではあるが飾らない物言いは、嫌いじゃないけどね。
「王都が嫌いなら、リオレでも歓迎するぜ?」
「そうですねぇ、トールさん来てくれたら私たちも少しは楽ができそうですし」
お茶を持ってきてくれた御婦人も、ゼクスの後ろでにこやかに微笑んでいる。
面識はないけど、多分元受付嬢とかだよな?
俺、そんなにギルドに貢献してたっけ?
20歳そこらの若造を、随分買ってくれるやないのさ。
「もちょっと冒険者で、頑張りたいかなぁ、、なんて思ってるんですけど、、ねぇ」
なんだかよく分からんうちに異世界に放り込まれてきたわけだけどさ。
まだ全然そのあたり満喫?しとらんのよね。
トール記憶も全力回避を示唆してくるしさ。
俺、たぶん適応力とかある方だし、何となくやっていけそうな気がするんだよね。
「そう思ってるんなら、ランクアップ試験なんで受けねえんだ? CとBで待遇も収入も格段に違うのは知ってるだろ?」
なんだよ粘るなあ、この親父。
カネやないんよ、カネや。
トールさんはロマンに生きるんだよ。
うだつの上がらない万年ランクC冒険者が活躍するするのが、いーんだよ。
まあ本音を言えば、B級は面倒くさい。
貴族や騎士団なんかとも繋がりができる分、厄介な仕事が多くなるんだよ。
さんざトール氏が見てきたから知ってんだぞ。
「まあ、職員蹴るんなら、昇級しろ。」
とりあえず、美味いお茶貰ってヘラヘラしてこの場は誤魔化して済ますにかぎるな、こりゃ。
てか、このお茶マジで美味いな。
今朝宿で飲んだお茶、あれただ渋いだけだったんだな。
あーー、リーズかー。
忘れてたなあ。。
どうすっかなぁ。




