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迷いの森

明けて翌朝。

まだ陽が昇ってないうちから歩き始めて、すっかりと辺りが明るくなってきた頃、【迷いの森】の入り口へとやってきた。


まわりの荒涼とした灌木しかない荒野から、いきなり数十mに達するような巨木が聳える森になる。

どういう原理かよくわからんが、この世界のポップスポットは、いうなれば閉鎖されてないダンジョンのようなものだ。


そこまでの自然条件から、当たり前のようにガラッと変わってしまう。

ダンジョンと違って閉鎖空間じゃないから、どこからでも入れるし、出られる。

当然、中で湧く魔物も普通に外に出てくる。


でもやっぱりそのスポットの条件に合った魔物が湧き出す傾向があるわけだから、当然外の世界はその魔物にとっては厳しい条件ということになる。

まあ、この【迷いの森】とアラクネなんてのは、まさにその典型的な例だな。


3次元に豊富な足場と、程よく暗く遮蔽物がある環境は、アラクネの奇襲に特化した習性と合わされば本当に厄介だ。

だけどもこれが隠れる陰も立体的な動きを可能にする高い足場もない開けた場所では、ただの大きな的だよな。。




いやいや、そんな危ないトコに非戦闘員とか連れてくなよ、って思うじゃん?

それが、ねーー


「 トールどの。 出来ましたぞ」


ウーバイくんの手に握られてるのは、巨大な蚊取り線香だ。


「 !けっむっ! ごほっッ」


あかん、めっちゃ吸い込んじゃった。

急に近づけんなよ。


この蚊取り線香。正式には【虫除け香】といって、冒険者ギルドで作って売ってる。

一本=ゼル銅貨3枚。激安。


もちろんアノ除虫菊株式会社のアレとは違って、ぐるぐる渦巻きしてなくて、パッと見は松明みたいな感じだ。

松明なんだけど炎は出てなくて先端の赤く燃えてる所から大量の煙がでてる。

同じ虫除けアイテムで【虫よけのお香】て粉状のがあるんだけど多分あれと同じ成分で松明の形に作ってあるんだろうな。


「 うわははっ、やあこれは失敬。 では参りましょうぞ」


ホントにマイウェイな坊さんだな。

まあ、この【虫除け香】があれば、アラクネ対策は充分にできちゃうわけなんだけど。

さすが虫。お手軽。

とはいえもちろん万全ではないので、アラクネを討伐できるだけの力を持つ冒険者の護衛は必須だ。


ちなみにトールさん。

トール記憶でもほとんどこの【迷いの森】には来たことがなくて、あんまり地理に詳しくない。

一応ギルドでマップは手に入れてきたから問題はなさそうだけど。。

コレ、マップが適当すぎてほとんど勘頼りだね。


それでもそれなりに冒険者の立ち入りはあるから、踏み跡らしきものを辿っていけば何とかなりそうな気も、する。


うーん、。 

これまでの【西の渓谷】も【小鬼の森】もトール氏の経験をそのまま使えたからな。

ほとんど『知った道を行く』感覚だったんだけども、【迷いの森】にはそれが無い。

スマホどっぷりだったトールさんにはハードルが高いよな。

ほとんど見通しも効かない森の中。

しかも見えてる風景はドコ見ても同じ。

で、さらにほとんど高低差もない。

 

なんか、同じところをグルグル回ってても気が付きそうにないな。

 


とはいえなんとか目的の自生地までは、ほぼノーミスで踏み跡を辿ることができたようで、、


「おお、あれですなっ!」


そこは周りと比べると少しだけ巨木の間隔が大きく、柔らかな陽差しが差し込んでいた。

まだ朝の、斜めから入ってくる光線が幻想的や。


朝露に濡れてキラキラと光る瑞々しい葉をたくわえた魔草は、それ自体が輝いているかのようにも見える。

しん、と鎮まりかえった森の空気がぴーんと張っている感じが、ますます幻想的。


一緒に来た錬金術師のふたりも、少し見とれていたのか荷物も下ろさずに突っ立っていた。


「いやはや、壮観ですな。 神秘的でもあります」


うん、そーだね。

これは前世では、なかなか見られない景色だ。


あかんあかん、観光で来とんのとちゃう。

お仕事おしごと。


「じゃあ手筈通り、ウーバイは退路の安全確保でお願いしますね」


もしもアラクネに襲われた時、囲まれてたらアウトまっしぐらだからな。

退路はしっかりと確保しておく必要がある。

トールさんは護衛半分、荷物要員半分。

下処理が済んだ魔草をマジックバッグに入れていく必要があるから、ふたりの錬金術師の側で待機だ。


「承知いたしましたぞ。 トール殿もお二人をお頼み申します」


ズカズカと今来た踏み跡を戻っていくバトル坊主。

うーん、頼もしい。

これがソロとパーティーの違いだよな。

出来ることの厚みが違ってくる。


トール氏は何でソロに拘ってやってきたんだろう?

残されてる記憶にも、その辺りの理由を推察できる要素は、ないんだよなあ。


そうこうしてるうちに錬金術師のお二人はテキパキと作業を始める。


一本づつ丁寧に地面から2〜30センチくらいの所でハサミで切り、十数本を束ねて切り口を足元のコケを剥がして覆い、布で包んでいく。


なるほどなあ。確かに冒険者の摘み方はもっと乱暴だし、切り口の保湿とか考えないよな。

まあこんなやり方だと嵩張るから持ち運びも難しいわけだし。。


てか、さすが本職。

手際が早いはやい。

あっという間にいくつも束が出来上がっていく。


でもまあ覚えておけば、これなら出来そうだ。


「やっぱり根こそぎは、ダメなんですね」


あたりを警戒しつつ、話しかけてみる。

手伝いたいところだけど、そこはちょっと自粛しないとな。

あくまで護衛が最優先。


「 ああ、何枚か葉を残しておけばまた生えてくるからね。 あと、ナイフの切り口は裂けてしまうから、やっぱりハサミだね。」


ふむふむメモメモ。

なるほどね。 やっぱ本職のヒトは違うな。

トール記憶では、バッサバッサ解体ナイフで裁いてたな。ちーん。

ハサミか。。 そんなに高いもんじゃないからリオレに帰ったら買っとこう。 あと、布地も何かと使えそうだからな。ボロいのでいいから手に入れておくとしよう。


後で休憩の時とか他にもいろいろと聞いておくか。

これはこれでメシの種になりそうな感じだし。


布で巻かれた束をぽいぽいと無限収納に放り込む。

あ、コレ結構忙しいぞ。

周辺の警戒と併せてだから、サボってるヒマなんか無さそうだわ。





もうそろそろ休憩でも、っていう頃。


「 ぬうんっ!!! 」


ウーバイの野太く気合の入った声が響いてきた。

続けてバキバキッと木が砕ける音とガサガサと藪を払う音が重なる。

なんか、やってんな。

虫除け香は途切れてないけど、あくまで予防策でしかないからな。


とりあえず出来上がってる束をまとめて収納。

錬金術師のふたりも、あわてて撤収してきてくれている。


「撤収ですか!?」


「はいっ! ウーバイに合流します!」


【無限収納】からロングソードを引き抜いて握る。

後に続く二人を瞬脚の範囲に入れつつウーバイの元へ。


うわ。

アラクネでっけ。

何食ったらあんなんなるんよ。。

一体は地上でウーバイと睨み合ってて、もう一体は巨木の幹から綿菓子みたいな糸を吐いてる。


きっも。

そして、グロい。。


でっかい虫って、あんなにキモいのね。

この世界、ちょいちょいコッチのイメージと違うことしてくるけど、コレはど直球やな。


こっちに気付いたウーバイくん。

軽く視線を寄越して頷く。

うまく踏み跡から外れたところでやり合ってくれてるので助かる。

グッジョブ坊主!


てかあの鉄棍、ヤバいな。

振り回す速度と有効な範囲がバカみたいに広い。

加えて【オーバーヒール】持ちだからな。

多少消耗しても自分でリカバーできるとか、とんだチートやんけ。

二体のアラクネがアレを突破出来るとは到底思えない。


虫除け香の煙をたなびかせて、トールさんら三人はとっととその場を離脱していった。

ごめんね、ウーバイくん。キミの事は忘れないよ。


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