試し斬り
「こりゃ昔、儂んとこに持ち込まれたもんじゃ」
筋骨隆々の出川◯朗みたいな風体のバッハさん。
冒険者ランクA級にして、リオレ三大クランのひとつ【鎚の響き】クランマスターのドワルブ族の爺さんだ。
まあ、260ウン歳の爺さんではあるが、見た目はまだまだ60代くらいにしか見えんけど。
「とんだ『鈍ら』を掴まされたとかでな。」
無造作に素手でその刃を押し付けるが、見た目の鋭さとは裏腹にバッハさんの掌は、全く切れていない。
「なんとか打ち直せんか、ちゅうてな 」
なんの装飾もない剥き出しの茎を掴んで箱から持ち上げて見せてくれた。
「ところが、コイツが全く火も鎚も通らんでな、 鑑定してもろても呪われとるわけでもないし、 そもそも刃が立っとらんわけでもない。 よくわからんいうて、お蔵入りしとったもんじゃ」
がはははっ、と豪快に笑っとるけど、鍛冶職人としてそれでええのん?
結局面白がって安値で買い取ったらしいけど、これ
どう見ても日本刀だよ。
撫で斬るように合わさんと、斬れ味は出ないんよ。
「どうじゃ? お前さんの言うとるのに近い見た目じゃろ??」
いや、近いというか、、そのモノですわ。。
「出処もよう知れんが、持ち込んだ商人は東方大陸の船から手に入れたとか言うとったかな」
へええ、東方大陸、ね。
あるんだ、そんなん。
東方ってのがまた、異世界あるあるだよな。
島国で武士社会とか何処となく日本を想起させるような設定の国とかだったりして。
「これ、目貫、 いや拵えって仮にでも出来ませんかね?」
「なんじゃ? 試しか?」
いや、だってそりゃ試したいやん。
トールさん、前の世界ではYouT〇beとかでよく見てたんだよなー。日本刀系。
いや、別にマニアとかじゃないよ?
なんかカッコよかった、くらいだからまあ、ニワカ勢だよ。 剣道すら学校の体育の時間でちょこっと習ったくらい。ほとんど素人。
でも今は、スキルがあるっ。
☆【剣使い】
☆等級 A
☆LV 20
☆剣を扱う時に常時発動
重量操作・体力増加・体捌き(オート)・威圧効果(大)・瞬脚
これ、ダガーで試してみたらさ。
今までの感覚よりも、すんなりと手に馴染む感じがして、まるで何年もダガーを専門に扱ってきたような感覚だったんだよな。
やったこともないクルクル回す取り回しとかの手廻りは勿論だけど、ナイフでの攻撃に繋げる効率のいい足捌きとか、身体そのものの捌き方なんていうのもまで無意識に動かせる。
動かせちゃうんだよ。
ちなみに、ハサミとか包丁はダメやった。
刃物なら何でもというわけでは、ないのよね。
これ、誰の基準なんだろね?
あとあの呪物ナイフは何故か剣として適応。
あんな強度も無いし、刃もついてないようなのが、なんで剣として扱われるんだろうか。
【両手剣】はあくまでロングソードとかのツヴァイハンダー限定だったのが、【剣使い】では剣として判断されれば何にでも適応されちゃいそうだ。
これって、あの謎に統合されたスキル【異世界知識】とか絡んでるんかね。。
ご都合主義万歳。
トールさん、この手のマンガとか映画、好きだったからなあ。
まあ、男の子なら、みんなそうか。
手に汗握るアクション刀剣バトル!
そうこうしてるうちにバッハさんもノリノリで柄の拵えを仕上げていってる。
さすがスキル【刀剣鍛冶】。
工房の引き出しからあり合わせの部材を集めて、あっという間に柄の部分を拵えてしまった。
「こんなもんか、。 どうじゃ?」
渡された日本刀。
見ためよりずっしりと重いけれど、握り込むと軽く感じる。バランスがいいんだな。
もちろん鍔は、無し。いわゆるドス状態。
殆ど無垢の柄だけど親指と人差し指、小指の掛かりはあって、何故かトールさんの握りにしっくり馴染む。
これが200年以上武具を扱ってきた職人の業ってやつか。すげー。
「 うん、よく馴染みます」
「ん。 中庭に行くぞ。」
そら、工房の中で試し斬りなんて出来んよな。
てかバッハさん、あんた何か仕事中だったんやなかったっけ? ええのん?
自由すぎんか?ドワルブ族。
工房の裏口から出たら、すぐに中庭。
といっても、まあ 資材置き場??
ほとんど朽ちてそうな鎧の残骸とか、もとがもう何だったのか分からん鉄くずとか、木材とか。。
ちょっとは整理したほうが良いんでない?
控えめに言って『ゴミ屋敷』やで。
そんな中庭でも、真ん中はさすがに何もない広場で、何本か案山子のような木材が据え付けてある。
て、コレ斬んの? 結構ブッ太いけど??
そんな案山子達の一番奥のの前でバッハさんが止まってコッチを振り返った。
ああ、やっぱコレ斬るのね。
とりあえずイメージ通りに中段正眼に構える。
よく剣道の試合とかでやるアレね。
でも、なんか違うなあ。
コレじゃない気がする。
2歩離れて、左足前で半身。
左手はあごの前、右手は耳の横。
いわゆる八相の構え。
素人がカッコつけて刀を持つときにやる構え。
うん、コレが、しっくりくる。
トールさんのスキルが、そう囁く。・・気がする。
呼吸を整えて、切先を小さく回すように左手を握り込む。
右足をすりあげて、なぞるように左足も前に。
周りの音が消えて、空気がしん、となる。
一瞬の後。
息を吐いてから、刀を振り切っている自分に気がつく。
案山子の脇をすり抜けるようにして斬り抜けた後、しばらくしてから太もも程の太さの木材が、胴の部分からホロりと離れ、鈍い音をたてて地面に落ちた。
「 っ!んおおっ!? 斬りおったッ!」
言われて初めて斬ったことに気がつくほど、手応えというか、なんというか『抵抗』がなかった。
身体の各関節や筋肉も、何も動かしていないかのような感覚。
構えて、足を運んで、、意識したのはそこまで。
でも、手にはしっかりと感覚が残ってる。
「いやあ、斬れちゃいましたねえ。」
自分でもビックリだわ。
あんな太っといの、斬れると思わんから。
とはいえ、手に残った感覚はしっかりと覚えた。
日本刀は撫で引いて斬るとか読んだことあったけど、もっと自分の感覚を信じるなら、『抜けて』斬る感じだな。
うん、そんな感じ。知らんけど。
スキル万歳。
改めて握られた日本刀を眺めてみるが、モノを斬ったような跡というか、曇りみたいなものがない。
☆無銘の野太刀
☆等級 A+
☆LV 1
☆東方の刀鍛冶による習作
等級は高いけど、LVも1だし名称やコメントもあっさりしてる。
特別何かスゴいレアリティとかじゃなさそうだ。
「 間違いなく刃は立っとるのに斬れんかったのは、そういう事だったんじゃなあ」
あ。バッハさんも気が付いたか。
さすがA級。か
戦闘系のスキルじゃなくても、200年以上も冒険者の世界で生きてきた猛者だもんな。
この世界で一般的に流通している刀剣は、大なり小なり力技の剣だ。
切れ味というよりは、斬れ味。
敵兵の硬い鎧や魔獣の分厚い皮膚を叩き斬る武器だ。
そら、ぶっ叩く使い方なんかしてたら、日本刀のような薄く細い片刃の剣なんて、ひと目見て役にたちそうにない。
でも実は日本刀は、高度な技術と複雑な工程を経て折れず曲がらず鋭く斬り裂く事、に特化した斬撃武器なんだよ。
当然、使い手にも相応の業が必要っていうものだ。
・・・トールさんはスキルでズルしとるけどなっ。
でもコレ、いいなぁ。
欲しいなあ。
でもぉ、、お高いんでしょう?
「 あの俺、これ買います。」
え?
あれ?
ちょ、トールさん??
まさかの衝動買い!?
「 まあ、使えるもんじゃと分かったからには、売ってやらん理由がないしのぅ」
あ。
やっぱりそーいうもんなのね。
バッハさんはそこまで頑固な職人気質って感じのドワルブじゃなかったけど、さすがに得体の知れんモノは譲る気がなかったのか。
「 ちゃんと定期的に手入れに持ってくるんじゃぞ? ソレに使われとる鋼金には、ちと興味があるんじゃ」
あー、まあ。
そりゃトールさんも願ったりだな。
で? おいくら¥よ?
「たしか引き取ったのが10ソルくらいやったからなあ、 拵え込みで20ソルでえーか。」
え、、?
そんなんでええのん?
ごく一般的なロングソードで、だいたい10ソルくらい。
それを考えるとえらい安いな。
まあ、バッハさんが買い取った時は武具としての査定は0だったんだろうけど、。
えー、目貫とか鍔とか、あと鞘も必要だよな。
もう少し出せるから、こだわりリクエストしちゃおうかなあ。




