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ウーバイの疑問

拙僧、祭祀教の司祭を拝命する修行僧である。


長らく王都の本部を本拠地とし、僧兵としての鍛錬を積み、神命を受け国内各所に赴く機会を頂戴しておる。


僧兵とは、今はもう廃れ途絶えた制度ではあるが、かつては民を守護し教義を固守する祭祀教の盾となる役目を負った僧侶の集団である。


一騎当千の僧兵部隊の存在は、外敵外部からの弾圧や脅威が絶えることがなかった時代には必要不可欠な力であった。

平和が長く続く今代においては無用とも思えるものではあるが、備えは怠る訳にはいかない。

武技の継承や研鑽は、ひいては末の代の信仰を護る為にもなると、拙僧は考えるのである。


まだまだ若輩弱卒の身ながらも、これも徳を修める日々の修養のひとつと言えるであろうな。



今回の任地は、王国東部交易路の要衝、リオレ。

王都ほどの規模はないが、水運で栄える活気あふれた主要都市。

行き交う民は、みな朗らかで明るく、神々の祝福にあふれた、心地よい街という印象である。


任期は二年を目処として冒険者として活動し、彼ら特有のその様々なノウハウを吸収するのが目的であるな。

と、いうのはしかし、あくまで表向きの発令であろう。

実際は教会内部のゴタゴタに、体よく利用されておるに過ぎん。

まあ、我が目的は果たせる訳であるし、遍く民や世の中にさしたる不都合もないのであるから、文句はないがな。



そのリオレの冒険者ギルドで拙僧に引き合わされたひとりの若者。

トール・エアリスと名乗るその若者の第一印象は、一言で評せば『違和感』であった。


冒険者ランクCの20歳の青年。

まったく、その通りの見ため。

冒険者登録できる12歳からだとすれば、8年めでC級は平凡か、やや遅めな出世といえるか。


得とする武具はロングソード。

戦場の乱戦でとにかく振り回して暴れるのが主な用途で、技より力の武具である。

冒険者の武具としては珍しいが、元軍属や傭兵くずれの冒険者なら不思議ではない。

リオレのC級冒険者では最強の実力で、主にソロで活動しているという話だったので、おそらくは拙僧と同じく中途登録の元兵士なのだろうと考えていたのだが。


実際に会ったトール殿からは、戦場のような修羅場をくぐり抜けてきたような者の持つ独特の影のようなものは一切感じ取れなかった。

ともすれば、街から一歩も出たことがない職人見習いのような、荒事とは無縁なタイプにも思えるほどに。


ごく希れに、普段はそういった素養を隠蔽している者もいるであろう。

なにをかいわんや、拙僧がそうなのである。

まあ、拙僧の場合は、、ニコニコ柔和にしておらなんだら子供たちがみな怖がってしまうからでは、、あるのだがな。

あと、教会上層部にも、でもあるな。


かくして、こういう手合いは実際に鉾を合わせてみないと判断がつかないものである。

すぐに拙僧は、このトール殿との手合わせを願い出たのだった。



互いに訓練用の武具を手にして対峙した時、トール殿は如何にも乗り気ではなかった。

然しながらそれは怯えや不安、恐れなどではない。

そういった負の感情は、かの御仁から一切も感じられなかったのであるな。


「手加減とか、ハンデとか、大歓迎なんですケド」


「はははっ、トール殿はリオレのクラスC冒険者最強と伺っておりますが??」


ともすれば単に『面倒くさい』という感情であったと、拙僧には感じられたのである。


自分で言うのも何をかではあるが、拙僧は祭司教の司祭などという御大層な地位にある者にしては、いささか怪しげな修道士である。


酒も飲むし、肉も食らう。

必要であれば殺生も厭わぬ。

美麗な司祭服などは身に着けたくもないし、上背もあり、筋骨も鍛え上げておる。

正しく『怪僧』という言葉が当て嵌まる見ためだ。


木製とはいえ棍を構える拙僧を相手どるのに、一片の不安も怯えも抱かないほどの者が、果たして最強とはいえC級程度の冒険者であろうか?

もしそうなのだとしたならば、拙僧の冒険者界隈に対する評価を改めねばなるまい。



そして拙僧の感じた『違和感』は、トール殿と一合交わしただけで、さらに深まることとなった。


「 やあ、さすがですなっ 初見で躱すとは!」


拙僧がいかに虚勢を張っても、口元を弛めるのが精一杯。

初手から全開で放った突きは、弱い木棍でもしなる事なく突き抜ける回転をかけた突き。


初見の剣士ならまずこの大きく伸びる棍の間合いに対応などできるはずがない。弾くのがせいぜいであろうよ。

よしんば弾けたとしても、握りの甘い片手剣ならば逆に弾き飛ばしてしまえるほどの突きである。


それを、あのどっしりと両の足裏をつけた構えから身を捩って躱したのだ。

伸びると分かっていなくては出来ない芸当である。


しかも躱した身体の崩れを利用して、引き戻す棍に合わせて流れるように間合いを詰めてきたばかりか、二の手の薙ぎを封じるかのように『構え側』に回り込まれてロングソードの間合いにまで跳んでくる。

咄嗟に立ち合いを仕切り直さねば、あの肩に担ぐような見たこともない構えからの重さと速度の乗った袈裟斬りが襲ってくるのは容易に想像できた。


「トール殿は、これまでに棍術は?」


「 いやあ、知識くらいですねぇ」


知識。。。


それだけで、こうも防がれてしまうものではないのであるが。

ならばっ、と 威力と速さは劣るも範囲が拡がる振れる突きを放ったのであったが、これをもトール殿はロングソートの長い剣身を巧みに滑らせて殺してしまう。

そればかりか、さき手に力が籠っていないのを見透かすように、引き込むように弾きを入れてくる始末。

先ほど拙僧が繰り出した突き技を、さしたる技もないロングソードで同じように返してこようとは。、。


拙僧の膂力で踏み止まらなければ、あれで勢いのままにたたらを踏んで無防備を晒していたに違いない。


なんとか無理やり棍を戻して直後の突進からの斬撃は防ぐことができたが、この立ち回りの対応力の鋭さは何なのであろうか。

知識だけ、知っているだけで、代々研鑽されてきた僧兵の棍術が無力化されては、たまったものではない。


とにもかく、体勢を整えて、、と仕切り直そうと脚を引いたその一瞬をトール殿は見逃してはくれなかった。


攻撃速度がのりにくい構え側への牽制にまんまと引っかかり、あっと言う間に間合いに入られる。

同時に飛んでくる袈裟掛けの一撃には合わせて止めることができたが、まるでそこに剣を置いて回転するかのような斬り上げで棍をかち上げられた次の瞬間には、、。


激しい激痛が脇腹へと突き刺さり、呼吸が止まり体中の汗が噴き出す。

薄れる意識でも、懐に入り込んだトール殿をなんとか棍に絡めようとするも、それすら見越していたかのように瞬時に間合いをとられて逃してしまった。


懐に入られれば確かに棍は弱い。

だがそれはトール殿のロングソードとて同じこと。

それが、あの様なロングソードの動きなど、見たこともましてや、想像したことすらなかった。

あれは拙僧の知る所の、野蛮で力任せなロングソードの剣技では、ない。

もっと洗練された、そう。

しっかりとした定型の型がある剣の業であった。



最後の脇腹への一撃は、斬撃が見えなかったので恐らくは柄当てだったのであろう。

いや、ここは集中しなくては【ヒール】が掛けられぬ。前もって【オートヒール】を掛けておかなんだことが悔やまれる。

内府の臓もそうだが、骨も何本か折られておる。息が苦しくて今にも崩れてしまいそうになるのを必死で繋ぎ止めた。


棍術に関してはひと角の者と自負しておった拙僧。

それがまさかロングソードを相手にこれ程までに手も足もでないとは。





後日、トール殿と通称【西の渓谷】へと赴いた折。

かの御仁はいくつかの手の内を拙僧に明かしてくれた。


まず特筆すべきは、スキル【気化】。

拙僧、浅学にてそもそも『気化』というその言葉でさえ聞いたことがなかったのだが、水が乾いて無くなる時に目に見えない空気になっていくのだ、という。そういう自然現象なのだ、と。


トール殿はおそらく、いにしえの錬金術にも嗜みがお在りなのだろう。

非常に興味深いご説であったが、半分も理解できそうにもなかった。


簡単に言えば、トール殿はその『気化』という自然が起こす現象を意のままに操る事が可能だ、ということである。


形あるモノを、形なきモノへ変える神の御業。

そう。

これはごく最近、かの御仁に宿った御神運命神様のご加護による能力と推察される。

われらの地母神様のご加護による【ヒール】のようなものであろうか。


実際に見せて頂いたが、なかなか理解が追いつかないものであった。

トール殿によれば、【ヒール】のほうが理解し難いようだが、あれは『祈り』なのだ。

強く『祈り』そして『願い』、叶えば『感謝』し、そしてさらなる『祈り』へと至る。

いわば【ヒール】は御神の慈悲の代行にすぎない。


ああ、話しが逸れたであるな。

信仰の話になると、拙僧とまらんからな。



次なるは【ステータス確認】。

これも運命神様のご加護の賜物のようだ。

何も教えていないのに、拙僧のスキルが【オーバーヒール】であり、その詳細まで知っておるということは、どうやら本物といえよう。


教会や各ギルドにある鑑定板の、さらに少し詳しく鑑定可能なスキルというのもの。

曰く、我らヒトならば鑑定板の事項に追加して、体力、魔力、耐久、敏捷、知性、運勢の大まかな度合いが分かる、とのこと。


なんでも、拙僧は耐久値以外は全てトール殿より上で、冒険者でいうA級相当のステータスらしい。

教会の鑑定板では修道士としての階位とスキルのレベルしか測れないので、武術の強さの程度が知れたのは、有難いことである。

クラスA冒険者ともなれば、軍や貴族からも指名で依頼を取れる強者ばかりである。

拙僧にも、それらと肩を並べられる程の武が備わっておると言われれば、これまでの修行の甲斐もあったというものであるな。



ん?



その拙僧を、手合せで圧倒したトール殿は、、いったいなぜゆえC級なので、あろうな。。。


んん??



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