トンボ帰りは通じなかった
最初なんで、もう一本
☆トール・エアリス
☆種族 ヒューマン(男)20才
☆職業 冒険者(ランクC)
☆体力 B−
☆魔力 C−
☆耐久 B++
☆敏捷 B
☆知性 A−
☆運勢 B−
☆加護 運命神の導き
☆所持スキル 【両手剣】【気化】【ステータス確認】【異世界知識】【無限収納】
この世界は、剣と魔法と魔物が存在する。
あの白い廊下でハンコを押していた男。
あれはいわゆる神と呼ばれるもので、住田透を現代の日本から、全く別のこの世界に転生させた。
あの時は読む前に消えてしまったが、光の粒子になって透に吸い込まれたあの書類にすべてが記載されていたのだ。
そして吸い込まれたことによって、その全てが透の意識に浸透したのだ。
(この、加護の運命神ってのが、あいつか。?。)
大層な肩書からは想像できないほど軽薄な印象しかないあの事務員が、運命神とは。。
この世界、本当に大丈夫なのか?、?
「どーしたんすかー? ぼーっとして」
一階の食堂は、朝も遅いこの時間はもう透しかおらず、がらんとしている。
用意された朝食を摂りながらも、透は目の前のステータスボードを眺めていた。
「 ん、おお、 寝すぎたかな、」
まるでゲームの画面のように浮かんでいるこの半透明なボードは、アビイには見えていない。
というか、この世界ではステータスを個人で確認することはできない。
それは各職種ギルドや教会にある魔導具でしか見ることができないもので、そうやたら確認できるものではないのだ。
透には【ステータス確認】というスキルがあるから、できているということだ。
「 護衛依頼、長かったすもんね、、てか王都の話とか聞かせて下さいよーー 」
「 それがよ、トンボ帰りだったからなぁ」
「?トンボ?? って?」
「 ん、ああいや、とって返してひと晩しか居なかったからな、」
トンボはうまく変換されないんだな。
【異世界知識】ってのはどういう条件なんだろうな。
ご都合よく何でもうまく回るわけでもないようだ。
「えー、でもこれまでだって何度か王都には行ってるんすよねー?」
トールはこのリオレという商業都市の冒険者ギルドに所属する冒険者だ。
【ランクC】は、まあ中堅といったクラスである。
基本的に特定のパーティーやクランには属さずにソロで活動するタイプの冒険者だが、たまに懇意のパーティーに補助要員として誘われたりすれば長期の依頼も受けたりもする。
今回は往復約一ヶ月の商隊護衛依頼に助っ人で参加していたのだった。
「まあ、なあ でも何かゴミゴミしててなあ、、メシもそんなに美味くないくせに値段は倍近くするし、、」
「なんだよー、おれでかくなったら王都にでるつもりなんだからさーー、もっといい話ないのかよー」
トールの定宿の【運河の畔亭】の末の息子のアビイは、最近色気ついてきたのか盛んに王都だの独り立ちだの口にするようになってきた。
まあ、現実を知らない子供の憧れってやつだ。
彼にはしっかり者の姉がいるのだが、その彼女にそれとなくアビイのその気を削いでくれと頼まれているトールは、いつもこうやってはぐらかすのだ。
とはいえ、王都のメシがイマイチなのは本当だ。
「俺はさ、リオレが好きだな。 メシは美味いしネーチャンもキレイだ。」
硬いが、しっかりと詰まった味わい深いパンを頬張る。
穀倉地帯も抱えるリオレは昔から製粉技術も発達してる。食文化も多彩だ。
「てか、おまえまたパン焼くの上手くなったな」
アビイはまだ子供ではあるが、この宿の製パンを担っている。
トールが宿を空けていたこのひと月で、また一段味がよくなっていた。
「あー、母ちゃんが窯を入れ替えてくれてさ、やっぱでかい窯は焼き上がりいーんだよなーー」
にっししし、と白い歯を見せて照れたように奥へと引っ込んでいく。
まあ、あれなら当分は独り立ちは心配しなくても大丈夫なんじゃないか?
まだまだ子供だ。
と、それよりステータスの検証だよな。
まあ体力とかの値はさておき、やっぱりスキルだよな。。。
スキル、多くね?
トール記憶によれば、この世界の平均的なスキルってひとり一つなんだよな。
何気に5つもある。。。
なんだ? チートか??
俺TUEEEEEてやつか?
てか元々【両手剣】だけだったはずなんだけどな。
あとの4つは、、コレこの世界標準的に表に出せなさそうな気配だよな。。
【異世界知識】とかストレートが過ぎるし、【無限収納】とか【ステータス確認】とかもヤバそう。。
何気なく、本当に何気なく【ステータス確認】してみたアビイの作った手元のパンに飛び出た半透明のボードが、これ。
☆アビイのパン
☆等級 B++
☆効果 腹持ち・耐久補充(中)
、、、実質【鑑定】やん。
モノのステータスが判別できるとか。。
いや、【鑑定】スキルは別にあるらしいから、その差はよくわからんけど。。
これ魔力C−とかあるけど、一回使って幾つ消費とかあるのかね?
まあ、これも検証しないとな。
そもそも、このアルファベット表記も何処まであるんだろか?
たぶんBの上がAで、その上がSとかだよな。
それぞれ−と+があるから相当細かい区分けだよね。
【無限収納】とか、使い方もよくわからんけど感覚的には今は空っぽ状態なのは、わかる。
これもトール記憶にないスキルだもんな。。
あの事務員神、なんか適当にハンコぽんぽん押してたけど、、これあのハンコがこれなんかな。。。
あと、【気化】ってなんやねん。
事務員、失笑してたよな?
神様が失笑するスキルってどうなんよ。。
そーいえば、元々のトール氏は何処行ったんだろうか。。
おれ、ホントに住田透だよな?
なんか自信なくなってきたなあ。
ひとしきり思案に暮れているが、手と口はしっかりと動いてすっかりと朝食は平らげている。
住田透時代よりも若返っているからか、肉体労働が故か、結構な量をペロリとである。
「あー、そーいや、ハイこれ」
アビイが空いた皿を片付けながら机の上に一枚のメモを置いた。
差出元は冒険者ギルド。
正式な書類ではなくメモ書きで、文字のクセは買取り官の親父のものだ。
『鑑定依頼の件で聞きたいことがある 本部ゼクス』
いや、なんだろ?
変なモノ渡したっけ??
あの親父、強面でいかにもな感じで苦手なんだよなあ。
食後の渋いお茶をふーふーしながら、こちらもひとしきり思案するのだが心当たりは、ない。
「あとさー、ねーちゃんがなんか今朝から機嫌最悪なんだけど、、トールさん絡んでないよね?」
自分用にもお茶を淹れてアビイが正面の椅子に座った。
付け足したように言ってはいるが、実際の本題はこれなのかな?という半眼である。
彼はお子様なので渋味を和らげるためにハチミツをくすねて入れているのを、実はトールは見抜いているのだが。
「、、 んー、? 」
言われて、しばらく
「! っあ、やべっ、荷物ッ」
こちらには思い当たる節があった。




