バースくんは、チョロい
「 ほう、これはなかなかだな。」
焚き火の明かりの向こうで、キャンデラさんの顔がゆれた。
「しかも、まっさら新品とはねえ、」
彼の手にある生成り革のボディバッグを羨ましそうに見ているのはクラン【民の護り手】のメンバーの男だ。
☆バース
☆種族 セリアンスロープ(男)21才
☆職業 冒険者(ランクC)
☆体力 A+++
☆魔力 E
☆耐久 A
☆敏捷 A
☆知性 C
☆運勢 B−
☆加護 ―――
☆所持スキル 【獣化】
はい、獣人族きたよ。
飲み屋のお姉さんのイースもそうだけど、獣人の名前って最後にスがつくもんなのかな。
街中でも何人か確認してみたけど、みんな〜スだったなあ。
てか体力スゴいな。
S級冒険者のキャンデラさんより+が多いぞ。
スキルの【獣化】も気になるな。
素でウ◯ヴァリンみたいな感じってことは、モフモフの狼とかになるのかな。
ステータスをみる限りは、完全な脳筋バカだ。
狼じゃなくてイッヌみたいな感じ。
きっと子供の頃はコロコロしてて可愛かったんだろうなあ。
「 ははは、ラッキーでしたね」
とりあえず、誤魔化しとこ。
キャンデラさんからボディバッグを受け取ると、元のように背中にタスキに掛けた。
これで冒険者界隈で噂になれば【無限収納】も誤魔化しやすくなるしな。
「まあ、アイツら何でも集めて貯め込むからな」
獣人のバースくんが、むしりと干し肉を噛みちぎって酒で流し込む。
よく噛んだほうが味が出て美味いのに。。
イヌっぽいから生活習慣も近くなるんかね。
ハムハムうっくん、はワンコの食べ方だよね。
このバースくん。
トール記憶によれば【民の護り手】の中堅といったところか。
ちなみに【民の護り手】はパーティー単位の集まりではなく、クランそのものが巨大なパーティーだ。
依頼の適正に合わせてその都度パーティを編成して派遣する方式だな。
バースくんはその隊長格という感じ。
今回も新人研修の一隊を率いて明日から【小鬼の森】に籠もるとのことだ。
キャンデラさんは、たまたまついて来ただけのようで、明日にはリオレに戻るらしい。
こうやって手厚く冒険者を育成していくことができるのも、大手クランならでは、だな。
「そういえばお前、来月の昇格受けるんだって?」
バースくん、俺くんにはトールという立派な名前があるのだよ? お前呼ばわりは、今の時代社会人としてどうなのかね??
あ、ここ、異世界だったわ。
「オレも受けるんだよ、、賭けるか?」
キミには見えてないだろうけど、隣でキャンデラさんが含んで笑ってるぞ。
多分このヒト、ゼクスの親父さんが仕組んでる八百長レースの事情を知ってるんだな。
てか冒険者、賭けるの好きね。
「いやいや、初挑戦ですからねー笑」
ココはちょっと乗っておこうかな。
キャンデラさんも頷いてるってことは、やっちゃってもオッケーってことだよね?
「試験といっても何やるのかも知らなくて、、」
「けっ、オレは3回目だからなっ それじゃお前不利だからハンデやるよ」
バースくん、、知性Cとはいえ迂闊がすぎるぞ?
あ、そーいうトコかな。2回落ちてるの。
キライじゃないぞ、キミのソユとこ。
「えっ、いいんですか? じゃー胸を借りちゃおうかなーー」
しゃ! 知性Cはチョロいぜ。
「ハンデは、どう付けるんだ?」
キャンデラさん、妙に乗ってくるな。
てか悪いコト考えてるカオしてんなーー。
あんたのトコの隊長さんですよ?
「んん、そーすねぇ、 じゃあオレはスキル封印でやってやるよ」
「なるほど、ではバースはスキルを使わずに合格なら勝ち、トールは合格なら勝ちという訳だな」
すごいまとめにくるな。
キャンデラさんて、こんな人だっけ?
まあ、排他的なアールブ族の割には砕けたヒトなのは確かだけどさ。
「へへっ、お互い負けた方はイース姐さんのトコで奢りだからなっ」
単価、安っす。
酒場【愚者の掃き溜め】は大衆酒場だからな。
店主のネコ耳獣人のイースさんも元冒険者だから、冒険者界隈ではギルドの食堂に匹敵する溜まり場となってる。
あ、掃き溜めか。。
バースくんひょっとしてトール氏が酒に弱いの知ってるのかな。奢りでも大した量は飲まんだろとか。
甘いな、トールさんはウワバミですのよ?
現役バリバリの一線級営業マン舐めんな??
この前の爆食中学生の借りは、バースくんで回収しておこう。
なんせ、トールさんの負けは無い訳だし。
はい、てなわけでっ翌日っ。
何故かっキャンデラさんにっ連行されてバースくん一行のっ殿につけてます。
どこにっいるかって?
もちろんっ、【小鬼の森】だよっ。
ゴブリンっ、飽きたからもうっ、お腹いっぱいっ、なんだけどっ、なあっ。。
「 どうだ? マジックバッグは?」
隣を歩く(といってもすごい速いけど)キャンデラさんがっ、息ひとつ乱さずにっ、話しかけてっ、くる。
いやっ、こっちは結構っ、いっぱい目でっ、歩いてんすけどねっ
「やっぱり、身軽で良いですね」
あかんっ、喋るとっ、しんどいっ、
なんなん?コイツらのペースっ
「だろう? 、お前も晴れてマジックバッグ持ちだな。」
ちなみにっキャンデラさんは当然っマジックバッグ持ちでっ、腰のっちっさいポーチがっそれだ。
アレでっ、小さな家一軒分っ、くらいの容量がっあるらしいっ。
「やーっ、俺なんてっ、まだっ、まだっですよっ」
「なーんだお前、息あがってんな?」
バースくんっ、よそ見しながらっ器用にぴょんぴょん跳ねてっ、からかうのはっ、やめてっ
くそっ、体力オバケめっ
これ、あの背嚢背負ってたら絶対死んでたっ
でもバース隊の新人冒険者くん達は、アレと同じくらいの背負ってるな。
まあ、みんなヘバッてるけどさ。
と、その時。
先頭左後方に尾けていたバースくんが急に停まった。
ケモミミがピクピクと動くと、ハンドサインで新人くん達が一斉に荷を下ろす。
隣のキャンデラさんの目が、はるか先のブッシュの濃い斜面の上を睨んだ。
え? なんかいるの??
相当距離あるけど。
いや、全くわからん。。
さすが獣人の索敵能力とランクSの超センス。
あ、【ステータス確認】してみたら見えたわ。
まあでも、そこに居るって知らなけりゃ見ないしな。 本職には敵わんということだね。
☆ゴブリンの群れ(小)
☆脅威度 C
☆非認知状態
「 まだ、気付かれてないですね。。」
乱れた息を何とか整えて、腰のロングソードに手を伸ばすが、キャンデラさんは抑えるハンドサインをよこした。
「 トール、アレが見えるのか?」
「や、何となくですよ」
やり取りの向こうではバースくんが新人をふたりほど連れて静かに藪の中へ消えていく。
すげーな、バースくん全然音がしないぞ。
イースさんもそうだったけど、肉球か?
肉球なのか??
「新人研修だから、な。 」
あ、そーでした。トールさんには回ってこないですよね。
じゃ、なんでおれ連れてこられたんだろ?
「これが片付いたら、リオレに戻るぞ」
あれ?そーなの??
てかリオレまでも、ご一緒するんですか?
「 正直、ゼクスのゴリ推しかとも思ったが、アレが見えてるならまあ、合格だ。」
なんそれ?
トールさん、品定めされてるし。
おれ、何がそんなに評価されてるん?
トール氏、結構やり手だったんかな。
まあ正直、色々と面倒が多そうな昇級だけどな。
この際だし、なるようになるだろ。
たぶん。。。
異世界転生って、もっとこうテンプレ的ご都合オッケーな感じかと思ってたけど、意外と現代日本の社会と同じでさ。
なかなか思うようにはいかないもんだなー。
運命神の導き、もっと仕事してくれよ。




