模擬戦(敗退)
「 あ、トールさん そのナイフカッコいい!」
次の日の朝。
【運河の畔亭】一階食堂のカウンターのいつもの席。
呪物ナイフを捏ねくりまわしてると、アビィが食後のお茶を持ってきてくれた。
まあ、このちょっとオドロしい拵えは、ちっちゃい男子の心をくすぐるよな。
「コレ、呪物らしいぞ?」
ほれほれ、手にとって見てみ。
「げっ、そんなもん、しまっといて下さいよー」
様々な呪物があるこの世界。
マジで洒落にならん被害を被るヤバいもんだっていうのは子供でもよく分かっている。
なので、アビィのこの反応は極々一般的なものだ。
呪物、ダメ絶対 なのだ。
お子様には怖いようなので、腰のベルトのホルダーに戻しておいてやろう。
あー、宿屋のお茶、渋いな。。
昨日はあの後もリザードマンを5匹ほど狩って戻ってきた。
合わせて7匹分。
コイツ全部吸っちまいやがんの。
しかも、魔石まで。
☆魔凰女ステリアの魔石(復活中)
☆等級 S−
☆LV ???
☆無念の最期を遂げ、呪いを発動し終え役割を果たした魔王族の魔石
まだまだ足らぬ、。更なる贄を、妾に捧げるのじゃぞ。
事務員神、ドコ行った?
なんか不穏当な自我が出てきてんぞ?
今のところ見た目は全く変化無いが、何というか妙なオーラみたいなのは強くなってきたかな。
こいつトールさんの稼ぎ、みんな吸う気やないの?
☆【気化】
☆等級 SSS+++
☆LV 5«new»
☆液体・固体・動植物・魔物を気体に変える事が可能
うん、完全に早熟タイプのスキルだね。魔物まで気化しちゃうとか、チート万歳だ笑
あ、事務員神いた。
しかしどーよ、コレ。
確かに笑うしかないなーー。あはは笑
これちゃんと公にしとくべきなのかな。
そのうちバレそうなんだけど。
ちなみに、昨日のうちにある程度検証は済ませてはいる。
動物、魔物は【気化】するとどうなるか?
基本的にほとんど形は変えずにそのまま気体化する。
そのせいなのか、その瞬間で動きが止まる。
で、斬れる。
ココ重要。斬れちゃうのよ。。
ヤバくない?
ただ、効果範囲というのかな。
かなり接近しないとダメなのが無機物、植物との違いだ。
あと、動きが速いのもダメ。
部屋の隅のネズミとか成功率2割もない。
感覚としては、カメラで対象物を撮る時に、ブレてたりピントがズレてたりすると、ダメという感じ。
はっきりと目で相手のほぼ全身を捉える必要がある。
その点リザードマンは、、カモだったね。
マトもでっかい訳だし。
もちろん、そのまま戻す事も可能だけど、長く気体化させたままだと、死ぬ。
で、斬ったり殴ったりかき混ぜたり放置したりして死ぬと気体化が解除される。で、そのままの形で、死ぬ。
かき混ぜた後とかめっちゃグロかった。。
つまるとこロングソードの破壊力が、要らない子になっちゃったのよね、、。
なんせ気体だもの。撫でるだけで一刀両断。
途端にイージーモード化してしまったよ。
剣術ロマン冒険譚 みたいなの想像してたら、フタを開けてみたら単なる俺TUEEE系だった。
まあ、ヘタレ現代っ子のトールさんホッとしてるんだけどね。
あーー、。
お茶、渋い。。。
そんな訳で、西門ギルド支部。
王都往復の護衛依頼の報酬で、しばらくは遊んでてもええのんやけどね。
トールさんは、根が働きバチのサラリーマン。
働いてないと、不安な小市民なのよね。
とはいえ、ソロで受けられるめぼしい依頼もない。
まあ、当然だわな。世の中そんなに甘くない。
掲示板はレートの低い常設依頼か、低ランク冒険者向けの採取や人夫依頼ばっかやな。
「おー、トールさんチスちース。」
相変わらず社会人としての言葉遣いがなってないぞ。チャコさんや。
「よお、昨日ぶり 」
なんだ、今日はひとりかい?
一応腰に短剣吊ってるけど、何となく出で立ち的にオフっぽいな。
「今日は休みかい?」
「ッス、。 ブルーダの魔力休みッスね」
なんだあの痴女、偉そうにしてたけど魔力休みとか抜けてんな。
魔法職が魔術を行使する場合、魔力量が減ったそばから回復するのだが、その回復量を上回る消費を続け、ある一定ラインを超えると回復量が桁違いに少なくなる。
燃費の悪い魔術を乱発するとかしないとそうそうなるものではないが、魔法職ビギナーがよくやるミスだ。
なにせこの世界の魔法。
MPとかの概念無いからな。
そこら辺の管理は、個人個人の感覚頼みだ。
「 、なんか、あったの?? 」
「や、ブルーダは偶に魔力使い切って回復させる、っての、やるんスよね」
あー、魔力量を増やす的な?
そんなん、あるんや。
男とか連れ込んで精力搾り取ってそう。。
カミーユさんやチャコに悪い影響を及ぼしそうだな。
「てか、トールさん依頼探してんスか?」
「 まあ、な。 掘り出し物とかないかなーって」
「 ウケる。 なんスか掘り出し物って、道具屋スか笑」
隣に並んで掲示板を覗き込む。
コイツ、背ぇちっちゃいしおかっぱ頭だし、中学生みたいだな。
こんなでも冒険者で中堅まで上がって来れるんだから、スキルの恩恵ってスゴいのね。
「 ヒマなら、晩ご飯賭けてうちと模擬戦しましょーよー」
えー、斥候本職の短剣使いと器用貧乏のロングソード使いなんて、相性最悪やん。
構えてる間に懐に詰められて、はい終了の画しか見えんぞ。
コイツ、弱者のトールさんを嫐って遊ぼうとか、見た目よりかなり腹黒だ。
「 オレが勝てるわけないでしょー、無理無理」
「えー、だってトールさん、もすぐB級あがるんスよね??」
ふぁ、!?
ナニソレ初耳。。
「うちも、B級目指してるんで、C級最強クラスとどこまで出来るか腕試ししたいっスッ」
いや、ちょいちょい。
なんでトールさんがB級に上がる話になってんの?
てか、なんだそのC級最強て笑
トールさんよりもっと強いC級たくさんおるやん。
「 B級云々てさ、ドコ情報?」
「え、本部のゼクスさんが言ってましたよ? 来月の昇級試験受けるんスよね??」
いや、知らんし。
と、いうかゼクス。あの親父あれ本気だったのか。
適当にお茶飲んで誤魔化してたら、まさかの強制イベントかよ。
「おれ、知らないんだけど。。」
「あれぇ、でもカミーユさんも受けるんスけど、名簿にも確かにトールさん載ってたっスよ」
なにしてんの、ゼクスめぇ。
ちょ、まてや。スキルのとか目立ちたくないんよ。
すぐそばの受付カウンターで暇そうにしてる合ロリ属性の受付嬢ライアと、目が合う。
察するところがあるのか、乾いた笑みを返してくるのよな。
「 本部からの強制依頼、ということみたいですね。 トールさん、これ多分手を抜いても通るやつです笑」
そんなあ。。
冒険者ランクB級にあがると、斡旋される依頼が貴族絡みとか騎士団絡みとかばっかになるからな。
トール記憶でも碌なめに遭っていない知り合いが何人もいて、正直近づきたくないってなっとる。
「 ゼクスさんからのコメントが付いてますね。
えーと、『お前の監督官はオレがしてやる』だそうです。」
ちーーーーん。
オワタ。トールさんの気ままなC級人生。。
なんで異世界来てまで上司にこき使われる人生送らにゃならんのよ!
もちょっとのんびり、させてくれよぉ。。
よく考えみたら、対人戦は初めてだな。
もちろん、前世?の方の話な。
「自分、いつでもいーっスよーーーー!」
オカッパ頭の中学生もといC級冒険者、チャコさんが模擬戦用に刃引きされた短剣を振り回してぴょんぴょん跳ねとる。
なんやの?あの跳躍力。
バッタみたいやん。
☆チャコット・ワラビー
☆種族 ヒューマン(女)18才
☆職業 冒険者(ランクC)
☆体力 B
☆魔力 B−
☆耐久 C−
☆敏捷 A−−
☆知性 C+
☆運勢 C−
☆加護 ―――
☆所持スキル 【短剣】
敏捷A−−は伊達じゃないのね。。
自分の身長くらい跳び上がる中学生。
オリンピック選手でも聞いたことないわ。
西門ギルド支部の建物の隣には、解体場と倉庫、それと冒険者用の宿泊施設がある。
その宿泊施設の庭が、バスケットボールのコート一面程の広さの広場で、四方を頑丈そうな石壁で囲ってある。
冒険者たちに通称【訓練所】と呼ばれる模擬戦用の闘技場だ。
運河のすぐ脇という立地もあり、誰かが模擬戦をやり始めるとすぐに暇を持て余した港湾の人夫どもが冷やかしにやってくる。
見世物ちゃうで、ほんま。
刃引きしているとはいえ、金属の刀剣だ。
しかも、ちゃんとそれぞれの武器の標準的な重さも兼ね備えている本格派。
当たりが悪ければ即死すらしかねん。
そんな訳で模擬戦はギルドに申告して治癒術師も帯同してもらう。
なんちゅう世界や。
そら、観てる方は面白いよな。
リアル剣闘士やん。
トールさんも一応依頼を受けに来たからには防具とかは着けて来たけどさ。
トールさん、長得物の前衛職にしては軽装だ。
手甲に胸当てと鉢当て。以上。
防具と呼べるのはコレだけ。
どんだけ初撃偏重なのよ。。薩摩隼人かよ。
まあ、対するチャコさんなんて、その最低限の防具もないんだけどね。
革のライトアーマーなんて、ただの革製ベストだからな。
斥候の本職ともなれば、防具なんてガチャガチャ音が鳴るものなんて論外なんだろう。
ガシャリ、と小さな音をたててロングソードを正眼に立てる。重っ。これ、重っ。
いや、これどう考えても寸止めとか無理。
トールさんの愛剣、あれでも軽いほうだったのね。
ロングソードやバトルアックス、モーニングスターなどは一応振りかぶった時点で当たり判定らしい。
トールさんは懐に入られたら負け。
チャコさんは攻撃態勢に入られたら負け。
そら、そーやんな。
ゆっくりと柄尻を顔の横あたりまで引き上げて、重い剣先を斜め下に。
ロングソードで受けに回る時の基本的な構えだ。
てか、なんか壁の上からヤジが飛ぶな。
ちっさい女の子を虐めてるんとちがうから。
これからいいようにやられるの、こっちやから。
「んじゃ、いくっスよっ、!!」
チャコの声だけが残って、姿が消えた。
地を這うように猛然と距離を詰めてくる。
ロングソードのこの構えは、目線から下にさげた刀身の分が死角になるからな。
狙いはまあ、確かにそうなんだけど。
それじゃ、甘いんだよ。
距離を詰めたい超近接武器使いが、その経路がバレバレなのは潰してくださいと言ってるようなもんやからな。
絶妙なタイミングで、刀身をそのままの場所に置くように腕を伸ばして身体だけをサイドにずらす。
これで振りかぶったのと同じにいつでも剣を振れる状態だ。
そのまま牽制代わりに一発袈裟にかます。
懐に入らんと突っ込んできた勢いをステップで散らして、チャコはロングソードの剣閃から逆サイドへ。
コレもこちらの手のひらの上。
敏捷A−−を活かすんなら、もっとトリック入れにゃあかんよ。
このあたり、性格なのかね。
素直ないいコだ。
相手の動きが読めれば、動きの鈍いロングソードでも余裕で対応できる。
袈裟に振り切ったロングソードを軸に、その重さを利用して身体を振り回すように引き寄せてまた元の受け型に戻す。
柄尻を上に。剣先を下に。
剣の重さを最大限利用するのが両手剣ロングソードの真骨頂だ。
重さは攻撃力のためだけやないんやで。
「 盾持ちより厄介っスッ!」
ホラホラそこで動き止めない。
いかに相手の死角に入り続けるか、が超近接戦のキモでしょ。
て、余裕かましてたら、また消えた。
トールさんの構えが右側なのでそっちか、また下か。
って、左かいっ!
あわてて身体を入れ替えて左を刀身でガード。
ガツン!と刀身に衝撃が来ると同時に脇腹へも鈍い痛み。投石か!?
やるじゃん。ちょっと忙しくなってきたぞ。
赤毛の影がネコみたいな素早さで、そのまま背後へと駆け抜けて反転、。
背中のアーマーにまた衝撃!痛え。
これ石だから地味に痛いで済んでるけど、投げナイフだったらヤバイよね。
こちらも負けじと反転するも、完全に見失った!
! っ上かっッ!
剣の位置はそのままで、身体だけ引いて伸ばし弧を描いてスウェーさせる。
また沈む反動で一気に剣閃を跳ね上げたが、振り上げきったところで横に弾かれる。
視野の外だけど、多分蹴って避けたな。
完全に無意識の反射で避けてる、。
獣人族並みのレスポンスの良さだ。
跳ね上げた腕越しに更に死角に入ろうとする影が引っかかる。
よく動くなあ。ホントにネコみたいや。
これこのコ、スタミナどこまで保つんやろ?
軸足を切り替えて擦るように後退。
一気に視野が広がり、また正面にチャコさんを捉える。
振り出しに戻ったが、今のところ有効×2でチャコさんの優勢だな。さてさて。
「 やっぱ、トールさんやりにくいっス!」
性格ワルいからなーー笑
相手の嫌がるコトをとことん楽しめるトールさん。
そこらのワカゾーとは、中身が違うんよ。
てか、コレお互いに決め手がないな。
あのスピードがまだまだ維持できるんなら、トールさんがあのハイパー中学生を捉えるのは、正攻法じゃ難しいなあ。
「 そろそろ疲れてきたよ、切り上げよーや」
「えー、自分まだイケるっスよッ!」
ほら、そーいうトコな。
元気娘に付き合えるほど、体力有り余ってないのよこちとら。
「 はいはい、ギブな。 今日からC級最強はチャコさんで頼むよ。」
ガツンと重たい模擬剣を地面に突き立てて、潔く両手を挙げる。
「 ええええーーっ、なんスかギブってぇ!」
だってチャコさんや。
この手の模擬戦なんてさ、双方にかなりの実力差がないと絶対怪我するぜ?
危なっかしくて、トールさん耐えられない。
「とにかく、降参だ降参っ はい撤収。」
石壁の上に陣取っているギャラリーどもにも、しっしっ、と手を振る。
まさか賭けたりしてないよな?キミら。
「 むーー、 じゃ、賭けはうちの勝ちっスからねっ」
ん?
あ! 晩ご飯、賭けてたの忘れてたっ。




