エピローグ
週イチかニくらいで、がんばるー
ある朝、見慣れない天井が目に映った。
太く歪んだままのむき出しの梁に、漆喰のような壁。
ギシギシと軋むベットのような幅の狭い寝台。
肌にあたる布団は、いつもの柔らかい羽布団ではなく、硬くゴワゴワした質の悪い毛布だった。
「ゆめ、、じゃなかったのか。。。。」
どこにでもいる普通の会社員として都区内の安アパートで暮らしていた住田透、39才独身。
その夜も後輩の転勤送別の飲み会から帰宅して、シャツもそのままでベットに倒れ込むように眠りについた。
そして、夢を見た。
白い壁と床で囲まれた長い廊下。
その突き当りには事務机が置かれ、人の良さそうないかにも事務員といった風体の男が座っている。
「えー、、すみだとおる、、さん?」
手元の書類を見ながらその男はニコニコしながら問いかけた。
、ええ、そうですが、、ココは?
酔ってはいたが、潰れていたわけではないので意識はしっかりといていたはずだ。
確かに自宅のベットにダイブしたはず。
や、 ゆめ にしてはやけに
そう、夢にしてはやけにはっきりとしている。
確実に今、自分が起きて歩いてここに立っている自覚があったのだ。
「あぁ、みなさんそう言われます笑」
事務員風の男は、言いながらも手元の書類に何箇所もチェックを入れて何種類かのハンコをぽんぽんと押していく。
「はい、っと。 問題ないですね。
ついでにわたしの加護もつけときますね。」
何枚かの書類に全て目を通して、まるで入国管理のカウンターでのやり取りのように男は言った。
、、ついで、って加護ってありがたいもんだよね。オマケなの?
「次にすみださんが目覚めるのは、リオレという街の宿屋ですね。 職業は、、冒険者です。」
にこやかに、それでいて事務的に男は書類を差し出して透に渡した。
「なかなかによいステータスですね。 所持スキルは、、【気化】、、って、なんでしょうね笑」
え、いや、、あの?
「まあ、なかなかの物件ですよ? 年齢も少し若くなってますしね♪」
受け取った書類は、よく確認もしないうちにサラサラと音をたてて光の粒子になって透のみぞおちのあたりに吸い込まれていく。
「何度か私も顕現したことがある世界ですが、住み心地はよいとおもいます。」
「たまに理不尽に強い魔物とか魔族とか、好戦的なアールブとか居ますけど、まあ問題ありません。」
いや、問題あるかどうかは俺が決めることじゃないのかな?
これ、おれ間違ってる?
どんどんと進む話に戸惑い焦るのだが、そんな透のことなどお構いなしに男は自分の手元に残った書類をトントンと揃えて、角にホチキスを入れて脇の箱へと放りこむ。
「さて、あまり長くお引き留めしてもアレですし、とっととしちゃいます? 異世界転生。」
いや、軽いなっ。
もっとこう何かないんか?
魔王倒せとか、世界救えとかさ。
「あー、そっち系がご希望でした? そちらはもっと若い方にご紹介してる物件なんですが、、リスクも相応に高くなってきますよ?」
あ、リスクね。
いや、そうじゃなくてさ。
なんで俺が異世界転生とかしなくちゃならんのさ。
なんか重大な使命とかでするもんじゃないの?それって。
そうじゃなければさ、現世知識でチートうはうはとか、ハーレムルートとか、あるじゃん??
「まあ、すみださんのケースは、、ちょっと稀、というか、手違いというか、、」
あ?
手違い??
いま、手違いとか言ったよな?
そう言って目の前の机に手をかけようとしたのと、同時に透は自分の意識が軽くなっていくのを感じ、、
そして、今に至る。
「 トールさーーーん、朝、どーしますーー?」
薄い扉の向こうから子供の声が聞こえた。
宿屋の息子のアビイだ。
昨夜は依頼を共にやり遂げた仲間達と打ち上げで飲んで帰って、しばらく仕事は休みにする、と宿の女将に伝えておいた。
ゆっくりと寝かせておいてくれたのではあるが、仕度が片付かないので、しびれを切らしたのだろう。
朝食はアビイの担当だからな。
と、透はすんなりと状況が呑み込めている自分に気がついた。
あるのだ、記憶が。
住田透の記憶と、冒険者トールの記憶が。
「おー〜、悪いな、いま下りるよ、」
「じゃ、用意しておきますねーー 、あとギルドからメモ届いてますよー」
言いながらもすでに階段を下りて行ってるようなアビイの声も、それどころではない透には他人事のように聞こえていた。
(ステータス)
声に出さずに唱えると、透の前に半透明のボードが浮かび上がる。
当たり前のようにやっているが、もちろん初めてやったことだ。
だが、知っている。
全部わかっているのだ。
☆トール・エアリス
☆種族 ヒューマン(男)20才
☆職業 冒険者(ランクC)
☆体力 B−
☆魔力 C−
☆耐久 B++
☆敏捷 B
☆知性 A−
☆運勢 B−
☆加護 運命神の導き
☆所持スキル 【両手剣】【気化】【ステータス確認】【異世界知識】【無限収納】




