ep.1
惑星Mars。
人々はこれまで自然や他の生命と共存し、豊かに暮らしてきた。しかし、どのような時にも脅威がある。
─災魔─3000年前にこの惑星に突如として現れた災厄。厄介なことに人間が持ちえぬパワーと耐久力、さらには能力や種族など個体差がある。
人類はその脅威に立ち向かうため、あらゆる技術を駆使して抵抗してきた。
MARSは旧マーズ帝国を基盤とする軍事国家であり、惑星Mars随一の戦力を誇る国家だ。持ち味は個性豊かな兵士層だろう。
誰もが一度はその勇姿に憧れ、自分も彼らのような”主人公”になろうとする。
───3526年 夏───
「ロゼル、居るのか?」
ドアをノックもせず入ってくるのは義父のニックだ。
「…ったく、電気も付けずに漫画なんか読みやがって。ホレ、晩飯だ。早く来ねーと冷めるぞ。」
「はいよ。」
ロゼルはいつも通り適当な返事をした。
ロゼル・スミス。時年度からMARSへ入団することが決まっている。
彼は重い腰を上げ、リビングへ降りるとそこには見慣れたいつも通りの風景が広がっていた。
「ロゼル、こうやって一緒に飯を食うのは当分先になるだろうな。」
「あぁ。そうだな。…なぁ親父、俺は何でMARSに入れた?」
「そりゃあ…もう分かってるだろ。これまでのお前の成績を見込んだ、グローリー総統の推薦だ。」
「…親父のコネじゃ?」
「それは無い。何度も言ったよな?俺にそんな権限はまず無い。入団志願者は毎年20万人の募集に対して100万人が競い合い、過酷な試験をくぐり抜けてやっと入隊出来る。総統か大将の特別推薦でもなければ、お前のようなケースはありえない。」
「…正直、何かがおかしい気がするんだ。」
「何がだ?」
「…俺、ずっと弱くて運動も苦手だったのに、10代に入った途端に急に身体が動くようになった。今回の特別推薦も…あまりに出来すぎてる。何か裏があるんじゃないかって思うんだ。」
「あのな…お前は自分に自信を持て!!」
ニックの表情は、いつもとは違った険しいものだった。
「俺はな、ロゼル。お前を誇りに思ってんだ。思春期に運動神経が良くなる?大抵はそんなもんだろう。過剰に心配するな。お前はそれなりの技量があるから、推薦されたんだ。」
「そうかな。…なんか、少し自信を持てた気がするよ。ありがとな、親父。」
「気がする…な。忘れんなよ。」
義父・ニックはMARSの少尉を務めている。
MARSには伝統的な階級が存在し、トップに君臨するのは全ての指揮を管轄する総統。その下に将官、佐官、尉官が並び、兵士はその下からスタートする。
実力至上社会と似た構図だ。
夜の静寂が街を包み込み、眠りについた建物の間から冷たい風が吹き込む。そんな中、ベランダで一服するタバコの煙が、心のざわつきをかき消してくれた。国を支える兵士になるなんて、思いもよらなかった。莫大なプレッシャーに対して、逃避するようにタバコを吸うことしか今の彼には出来なかった。
「何だよ、まだ起きてんのか。」
ニックもまた、喫煙者だ。
「親父。」
「ん?」
「親父は、MARSに入って良かったと思ったことはあるか?」
「……そりゃあ…あるだろ。MARSに入ったら、とにかくお前のやりたいようにやれ。他人と同じことをしていてはダメだ。」
「そうだよな。今日はもう寝るよ。おやすみ。」
── 翌日 ──
「おいロゼル、起きろ!」
俺はどうやら、寝坊したらしい。
「…おはよう…」
「お前、おはようじゃねえよ!初日から遅刻してどうすんだ!そんな奴が、優秀な兵士になれるのか?早く準備しろ。」
「すまんすまん、もう準備は出来てるから。」
「…ったくよぉ…もうあと15分もしたら出るぞ!」
ロゼルは期待と不安を胸に、今歩き出す。