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09話 葡萄酒事件(2)

「ダリアさん、お気遣いくださり感謝いたします」


 私はダリアさんに微笑んで答えました。


「少し休ませていただいているのですわ」

「まあ、珍しいこと」


 ダリアさんは意地の悪そうな笑みを浮かべ、憎々し気に私たちを睨みました。

 そしてダリアさんが引き連れてきた令嬢たちは、私たちを包囲するように周囲に陣取りました。


 ダリアさんが引き連れている令嬢たちは、第二王子シスル殿下の婚約者アイリスさん、公爵令息ルピナス様の婚約者ピオニーさん、騎士オレガノ様の婚約者エリカさんです。


 デイジーの囲いの常連の男性たちの、婚約者の皆様ですわね。


 まあ、お気持ちはお察しいたしますけれども。


 婚約者のお振舞いにご不満がおありなら、婚約者ご本人におっしゃっていただきたいところです。


「ここには男性がいませんから。『麗しのデイジー嬢』にはつまらない場所なのではなくて?」


 ダリアさんは歪んだ微笑みを浮かべてデイジーに嫌味たらしくそう言いました。

 デイジーは涼しい顔で答えました。


「女性の休憩室に男性がいないのは当たり前ですよね」


 デイジーのその言葉に、ダリアさんはあからさまにむっとした表情をしました。


 ドロドロした感情を顔に出してしまうなんて、はしたないですわね。

 それに比べて、私のデイジーの涼し気な佇まいの見事なこと。


「貴女は男性がお目当てでいらしているのでしょう。いつも男性を大勢侍らせていらっしゃるものね」


 ダリアさんが醜い感情をあらわにしてデイジーに言いました。

 ダリアさんの連れの令嬢たちは勝利を確信しているのか、デイジーを見下して意地悪くクスクス笑いをしています。


 デイジーは平然として答えました。


「お父様が付き合いがあるからとおっしゃるので……、ええと……」


 デイジーの回答が止まってしまいました。

 仕方なく嫌々来ている、などと本当のことを言ったら先方に失礼ですものね。

 でも上手い言い訳を思いつけないのね。


 実は今日は、いつも睨んでくるダリアさんの家の夜会でしたので、デイジーは出席を渋ったのです。

 しかし付き合いだからと父に言われ、デイジーはしぶしぶ出席していました。


 ウィード公爵家の顔を立てるために出席するという父の考えには、私も同意しました。

 王太子の婚約者であるダリアさんは次代の王妃ですので、ダリアさんの実家ウィード公爵家は未来の国王の外戚となります。

 付き合っておいて損はありません。


 まあ、すでに、その次代の王妃様ご本人に、デイジーは睨まれてしまっているのですが。

 それだけに尚更、招待に応じなければ他意があると思われてしまいます。


「ダリアさん……」


 デイジーを睨みつけているダリアさんに、私は言いました。


「妹はまだ社交に不慣れで、恥ずかしがり屋なんですの。私が代わりにお答えします」


 私がそう言うとデイジーは察して口を噤んで控えました。


「あらあ、社交に不慣れなようには見えませんことよ?」

「男性の扱いには随分と慣れていらっしゃるようにお見受けいたしましたわ」

「女性とは話せないというのかしら?」


 ダリアさんと連れの令嬢たちは口々にデイジーに悪口を浴びせかけましたが、デイジーは挑発には乗らずすまし顔で口を噤んでいました。


「妹をご心配いただき感謝いたします。妹はデビューしたばかりですので至らぬところもあるかと存じますが、どうぞよしなに」


 デイジーに代わり私が微笑みながらそう答えると、ダリアさんはキッと私を睨んで言いました。


「貴女の妹さん、本当に無作法で至らなすぎるわ。リナリアさん、貴女、姉ならちゃんと妹さんを躾てくださらない? 妹さんは男性との距離がおかしくてよ」


 デイジーが無作法?

 躾ろですって?


 私の全身の血がカッと沸騰しました。


 私はデイジーを徹底的に淑女として調教いたしましたが?

 私が手塩にかけて育て上げたデイジーにケチをつけようというのですか?

 醜い感情を露わにしたみっともない顔を晒している、躾のなっていないダリアさんが?

 どの口で?


 至らないと言ったのは、謙遜しただけに決まっているではありませんか。

 私のデイジーはどこに出しても恥ずかしくない一級品の淑女に仕上がっていると自負しております。


 私はついイラっとしてしまい、微笑みを深くしました。


「それは殿方におっしゃってくださいませんか。婚約者がいながら、妹に近付いてくる殿方の多いこと、多いこと。皆様とても積極的に親切にしてくださるので、あまりのご厚遇にこちらは戸惑っております」


「……っ!」

「……!!」


 ダリアさんたちは一斉に顔を歪めました。


「先程もアイヴィー王子殿下が、妹の手を握ってくださって、あまりの光栄に妹は泣きそうになっておりました。身に余る光栄でしたのでご遠慮申し上げたかったのですが、王子殿下の積極的なご好意を辞退することは難しく、それで化粧直しをするという口実でここに逃げてまいりましたの」


「貴女の妹が男性たちを誘惑しているからでしょう。平民風情が調子に乗って」

「婚約者のいる男性と親密にするなんて、卑しい平民は節操がないわね」

「所詮は平民。とんだ阿婆擦れね」

「男に媚を売るしか能のない下品な平民を社交界に出して、恥ずかしくないの?」


 ダリアさんたちは怒りの形相で言いがかりをつけて来ました。

 男性たちが積極的にデイジーに近付いてくる様子をご存知のはずですのに。


 それに、どさくさに紛れて、私より身分の低い者が私に向かって大きな口を叩いています。


 ダリアさんは公爵家の娘で、アイリスさんは侯爵家の娘と言えど第二王子の婚約者ですから良しとしますが。

 公爵令息の婚約者でしかない伯爵令嬢のピオニーさんと、たかが騎士の婚約者でしかない伯爵令嬢のエリカさんがどうして私に対等な口を利いているのかしら。


「妹にはいつも私や父が付いておりますこと、皆様もご存知でしょう? 妹が私たちの許可なく誰かに声を掛けることはありませんわ」


「影で何かしているのでしょう!」

「そうよ、平民ですもの」

「裏で何をしているか解ったものではないわ!」


「有り得ません。貴族の娘であれば一人で勝手に出歩くことなどないと、皆様もご存知でしょう? それとも皆様はご両親に内緒でお出掛けなさっているの?」


「そんなはしたないことするわけないじゃない!」


「ならばお解りでしょう」


「でもその娘は平民でしょう!」

「平民ならはしたないことをするのではなくて?」

「汚らわしい愛人の娘だもの」


「デイジーは出自は平民ですが、エンフィールド公爵の正式な養女ですので現在は貴族です。貴族の娘だからこそ、国王陛下がデビュタント舞踏会の招待状を送ってくださったのですわ。国王陛下がお決めになったことにご不満がおありなら、国王陛下に奏上なさったらいかが?」


「……っ!」

「……!」


 私が国王陛下の名を出すと、ダリアさんたちはくやしそうに顔を歪めて黙りました。


 デビュタント舞踏会の主催は国王陛下です。

 デイジーがそれに招待されたということは、国王陛下がデイジーを貴族の娘とお認めになっているということなのです。


「ダリアさん、それにアイリスさん、ピオニーさん、エリカさん……」


 私は令嬢たちの名を一人一人呼んで言いました。


「貴女方が、国王陛下に叛意をお持ちだったなんて! 驚きましたわぁ。なんて恐ろしいのでしょう。どうかご冗談だとおっしゃってくださいませ……!」


 私が、大げさに怯えている演技をしながらそう言うと、ダリアさんたちは自分たちが何を言っていたのかを理解したらしく顔を強張らせました。


「ち、違……!」

「変な誤解しないで……っ!」

「冗談よ……!」

「言葉の綾です……!」


 ダリアさんたちは分が悪いと思ってか、話題を切り替えました。


「あ、貴女たちが! その娘に勝手な外出を許可しているのでしょう!」

「そうよ! あのエンフィールド公爵の娘ですもの!」

「野放しにしているのでしょう!」

「影でコソコソと媚を売り歩いているのではなくて!」


「父が遊び人であることは否定しませんが。いくら父といえど、未婚の娘を傷物にして価値を下げるような馬鹿なことはいたしません。そのような不利益なことをするはずがないでしょう」


 私が常識を口にすると、ダリアさんは半ば叫ぶようにして言いました。


「アイヴィー王子殿下を誘惑して、王太子妃の座を狙っているのでしょう!」


これ10話じゃ全然終わらないです。すみません。

執筆は11話まで進んでますが、まだ事件を書いてます。

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― 新着の感想 ―
なんか、普通の悪役令嬢ひっさしぶりに見るなぁ(なろうに浸かり過ぎ)
どんどん伸びる現象だ…… 面白いから読者的には嬉しいけど……w デイジーからしたら来んなよ気持ち悪いだもんな……本音を外に発信できないのはつらいね
お姉さま強い 好き
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