表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

06話 招待状

「素晴らしい戦果だわ」


 デイジーがデビュタント舞踏会にて華々しく社交界デビューした翌日から。

 夜会やサロンや茶会の招待状が次々と我が家に送られて来ました。

 招待状はどんどん増えて止まるところを知りません。


 私は父とデイジーと一緒に、数々の招待状の確認作業を行いました。


 招待状は直接デイジー宛てのものもあれば、父や私を招待する体裁で「ぜひデイジー嬢もご一緒に」という形のものもあります。


「おお! 王弟殿下から夜会のお誘いだ。私宛だが、デイジーもぜひ連れて来て欲しいと書かれている。デイジー、一緒に行こう」


 ほくほく顔で父はそう言いましたが、デイジーは暗い顔をしました。


「……考えさせて……」

「王弟殿下の下の息子はデイジーと同い年でまだ婚約もしていない。これは、もしかすると、もしかするぞ! 行こう、行こう!」


 父は浮かれています。

 まあ、そうですよね。

 デイジーがもし王弟殿下のご子息と結婚したら、デイジーは国王陛下の義理の姪になるのですもの。


 デイジーが平民の私生児のままだったなら王族との結婚は望めませんでした。

 父がデイジーを公爵家の養女としたからこそ、出て来た可能性の芽ですから、自分の手柄のように思っているのかもしれません。


 教育したのは私ですけれどね。


「王族の催しに招待されることが周知されれば、デイジーの母が平民だからといって無下にする者はいなくなる。行こう、行こう」


 父にしては良い考えです。

 父は自分を良く見せることに熱心なので、そういうことには鋭いですね。


 デイジーの母親が平民であることは知られていますから、下に見ている者はいるでしょう。

 ですが王族と懇意であることが周知されれば、格が上がります。


 私も一年前には、デイジーの嫁ぎ先に男爵家や商家が妥当だと思ったくらいです。

 半分平民の血が入っていることはやはり足枷ですから。

 しかしデイジーは一年間で目覚ましい成長をとげて進化しました。

 安売りするなど、とんでもない話です。


「王族からも声がかかるとは、さすがは私の娘だ。私も若い頃は、社交界一の美貌の貴公子と言われていたものさ。招待状が山のように来ていた」


 父の自慢話が始まりました。

 私にはにわかに信じがたい父の武勇伝ですが、叔父が言うには本当の話なのだそうです。


 父は若いころは見目が良く、社交界で数々の浮名を流していたとのことです。

 今は決まった愛人の元に通う程度ですが。


「格式の高い家の催しに出席しておくのは、自分の価値を高めるために悪くない手よ」


 私はデイジーに助言しました。


「王族や公爵家の催しに出席すれば、デイジーは公爵令嬢として足元を固められると思うわ」


「それなら、私はリナリアお姉様が出席なさる夜会にご一緒したいです」


 デイジーがそう言うと、父はぱっと何か閃いたような顔をしました。


「ではリナリアも一緒に行けるように王弟殿下に頼んでやろう。リナリアが一緒ならデイジーも安心だろう?」

「……え、ええ、まあ、お姉様とご一緒できるなら……」



 ◆



 私はデビュタント舞踏会で、デイジーが皆の注目を集める様子を目の当たりにしました。

 しかしこの時の私はまだ、デイジーが異性の目にどれほど魅力的に映っているのかという事について、認識が甘かったと言わざるを得ません。


 デイジーが美しい娘だから声をかけたのだろう、くらいに思っていました。


 まさかデイジーが、異性たちを盲目にさせるほどの魅力を持ち、わりとありきたりに見える招待状たちの裏にかなり本気度の高い執着があるとは想像すらしていませんでした。

 彼らはすでに水面下では競い合い、争い合っていたのです。



 ◆



 王弟殿下が離宮で主催する夜会に、デイジーは私と父と一緒に出席することになりました。

 デイジーのエスコートは父で、私のエスコートは婚約者の侯爵令息ウィロウです。


 招待状に出席の返事をすると、王弟殿下のご子息バジル様がデイジーにエスコートを申し込んで来ました。

 しかし父は尊大に、得意気に、それを断りました。


「デイジー、素敵よ」


 王弟殿下主催の夜会に出かける支度を整えたデイジーの装いを私は褒めました。

 本当に美しいと思いましたので。


 デイジーのあどけない天使のような美貌に、ふんわりとした甘いローズピンクのドレスはとてもよく似合っていました。

 髪にも同じ淡いピンク色の薔薇の花を飾っています。


「ローズピンクが良く似合っているわ」

「リナリアお姉様のお眼鏡にかなっているでしょうか?」

「もちろんよ。今日のデイジーはまるで薔薇の妖精のよう」

「それは人間とは思えない異形だという皮肉でしょうか?」

「皮肉ではなくてよ。薔薇のように美しいという意味で言ったのよ」

「でも妖精って異形ですよね?」


 デイジーが消極的な発言をしているのは、初めての夜会に身構えているだろうと思い、私はデイジーを励ましました。


「そんなに身構えなくても大丈夫よ。デイジーはどこに出しても恥ずかしくない立派な淑女よ。それに今夜は私が一緒にいるのだから、難しい会話は私に任せてくれて良いのよ?」

「お姉様、絶対に離れないでくださいませ」


 デイジーは愁眉を顰めました。


「嫌な予感がするのです……」


 デイジーのその予感は的中することになります。


 波乱の幕開けでした。



最初は5話くらいで終わると思っていたのですが。

思っていたより長くなっています。

このあと事件があって、それを収集して、それで終わりなので、10話くらいで終われるんじゃないかなと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
リナリアは徹頭徹尾理性と損得勘定で家を盛り立て舐められない、という視点で動いてるから、欲に理性が負けてるバカがどこまでバカなのか予想できてないっぽいですね。 ほれ、そこにバカの見本おるやろ。そいつから…
面白いです! 義母や義姉妹仲も良好で、リナリアの指導でデイジーも貴族令嬢として真っ当に成長して順調なはずなのに、魅力的になりすぎたせいでこれから大変なことになりそうで、とても楽しみです。 姉妹で乗り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ