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かわいそうな欲しがり妹のその後は  作者: 柚屋志宇
本編

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23話 求婚者

「お姉様、バジル様とシスル王子殿下は来るでしょうか?」


 灰薔薇色(アッシュローズ)午後服(アフタヌーンドレス)を着たデイジーは私にそう尋ねました。


 これから私とデイジーは、父と一緒に王城へ向かいます。

 王家からデイジーにもたらされたアイヴィー王子殿下との縁談の返事をするためです。


「来ると思うわ」


 私はデイジーの装いを検分しながら答えました。


「特にバジル様は、デイジーに結婚を申し込んでいるのですもの」


 あの悪夢の夜会の後、バジル様からデイジーに結婚を申し込みがありました。

 しかしデイジーに求婚しているのはバジル様だけではありません。


 今やデイジーの元には、山ほどの縁談がありました。

 上は王族のバジル様から、下は男爵家の嫡子でもない息子や、騎士風情まで。


 木っ端貴族の息子や、たかが騎士が、私のデイジーに結婚を申し込むなど、身の程知らずも良いところですが。

 デイジーは公爵家の養女といえど母親が平民ですから、決して不釣り合いな縁談ではないのです。

 木っ端貴族の息子も騎士も、両親は貴族ですので。


 雑魚どもが大胆にもデイジーに結婚を申し込んだ原因は、父の決定にあります。

 父が「デイジーの結婚相手は、デイジーに選ばせる。デイジーには愛する者と結婚して欲しい」とあちこちで公言したことが原因です。


 つまりは、デイジーの心を射止めれば、デイジーと結婚できる。

 燎原の火のごとくその話が社交界に広がり、デイジーの元には結婚の申し込みが殺到することになりました。


 デイジーが好きに選ぶと言っても、現在のデイジーの行動範囲は上流の社交場ですので、結婚相手はおのずと上流の人物に絞られています。

 父の決定は、あながち間違った決定ではありません。


 ともあれ。

 デイジーに恋愛感情を持っている者も、エンフィールド公爵が溺愛する愛娘を政治的に欲している者も、こぞってデイジーに結婚を申し込み、デイジーの心を射止めて良い返事を貰うために、しのぎを削ることとなりました。


 ただし、オークリー公爵令息ルピナス様からの結婚の申し込みには、すぐにお断りの返事をしましたので、ルピナス様はすでに敗者として場外にいます。


 デイジーに求婚している有象無象の中で、身分の最上位は王族のバジル様でしたが、昨日からアイヴィー王子殿下が参戦して最上位に躍り出ました。

 アイヴィー王子殿下からの結婚の申し込みは、今日これからお断りするので、一日天下ですが。


「お姉様、国王陛下は、バジル様が私に結婚を申し込んでいることをご存知ないのでしょうか。ふつうは甥が結婚を申し込んでいる相手に、息子の縁談を持ちかけたりしないですよね」

「確証はないけれど。もしかしたらご存知かもしれないわ」

「貴族社会ではそれは非常識にならないのですか?」

「結婚を申し込んだだけで、まだ婚約をしたわけではないもの。横入しても横恋慕にはならないわ。立ち位置は同じよ」

「でもアイヴィー王子殿下は国王陛下の権力を使って出し抜こうとしているんですよね。卑怯じゃないですか」

「だからバジル様やシスル王子殿下にもお知らせしたのよ」


 私は昨日のうちに、アイヴィー王子殿下から結婚の申し込みがあったことを因縁のある方々に知らせました。


 アイヴィー王子殿下の元婚約者だったダリアさんの父ウィード公爵。

 シスル王子殿下の元婚約者だったアイリスさんの父ドラセナ侯爵。

 そしてシスル王子殿下とバジル様です。


 ウィード公爵とドラセナ侯爵は、娘が王子殿下に婚約破棄されたことで今や王家に反感を持っていますから、この縁談を不愉快に思うでしょう。

 しかし今日の私たちと国王陛下との話し合いは、非公式とはいえ王城で行われますから、ウィード公爵とドラセナ侯爵が直接乗り込んで来て横槍を入れることは出来ません。


 しかしシスル王子殿下とバジル様なら直接の横槍は有り得ます。

 彼らは国王陛下の家族で、王城はシスル王子殿下の自宅であり、バジル様の伯父や祖母の家ですから。


 シスル王子殿下とバジル様にこの縁談の存在を知らせたのは、ご存知でない可能性があると思ったからです。

 そして知れば、この縁談に反対してくださると思ったからです。


 彼らはデイジーの取り合いをしていましたので。

 アイヴィー王子殿下が彼らを出し抜くことに良い気持ちはしないでしょう。


 それに彼らは、困ったことがあったらいつでも言って欲しいと、デイジーに言っていましたもの。


 相手が国王陛下ともなると、王命を使われる可能性がありますので、使える駒は使っておいたほうが良いでしょう。



 ◆



「お父様、私も呼ばれたということは、私はアイヴィー王子殿下とお話をするのでしょうか」


 王城へ行くために馬車に乗り込むと、デイジーは父に質問しました。


「話くらいするだろう。わざわざデイジーを呼び出したのだ。顔を見ただけで、一言も話をしなかったらデイジーに失礼じゃないか」


「……」


 デイジーは少し目を伏せて、考えるような顔をしながら言いました。


「もし私の気持ちを聞かれたら、嫌いって、本心を言っても良いのですか? それとも、にこにこ笑ってはぐらかしたほうが良いですか?」


「デイジーの本心を言えば良い」


 父は堂々とした態度で、威厳を持ってデイジーに答えました。


「後の事は私に任せなさい」


 何かあった場合、父は私たちに「後は任せた」と言うだけですから。

 気楽なものですね。


 ですが、今回に限っては、良いでしょう。

 デイジーの完璧な笑顔では、遠回しにお断りしても、また誤解されてしまう可能性があります。

 一生を左右する結婚という問題にまつわることですし、自分の本心をはっきり言うべきでしょう。


 私はデイジーに微笑みかけながら言いました。


「デイジー、お父様の言う通りよ。多少の無礼は気にしなくて良いわ。本心で答えなさい」

「浮気者って言っても良いですか?」


 デイジーの具体的な質問に、私はにっこりと微笑みを返しました。


「ええ、いいわよ」

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― 新着の感想 ―
ある意味当然だけど、王太子、めっちゃ嫌われとる(笑)
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