表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

02話 エンフィールド公爵

「お父様とお話がしたいの。お父様が帰宅なさったら私に知らせて」


 私はデイジーのために、仕立て屋と家庭教師の手配を使用人に命じました。

 そのついでに、父と話がしたい事を家令に伝えておくように言いつけました。


 私の父、エンフィールド公爵は、デイジーの実父であり養父です。

 私がデイジーの世話をするにあたり、当主である父に一応伝えておく必要があります。


 まあ、文句の一つや二つ、言ってやるつもりなのですが。


 すると、なんとその夜、家令が私に父の帰宅を告げました。


「お嬢様、旦那様がお帰りになりました」

「まあ、珍しいこともあるのね」


 あまり家に帰宅することのない父ですが、今日は帰って来たようです。



 ◆



「おや、リナリアか? 久しぶりだね。変わりないかね?」

「ええ、おかげさまで。お父様もお元気そうですわね」


 父に会うのは一か月ぶりくらいでしょうか。

 私は二言三言の挨拶を交わすと、さっそく本題に入りました。


「お父様、どうしてデイジーを虐待なさるの?」

「やぶからぼうに何を言うんだ。流行の遊びかい?」

「私は真面目な話をしていますのよ」


 私は少し憤慨しながら言いました。


「デイジーに私の服を与えたでしょう」

「ああ、そのことか。服くらいいくらでもあげれば良いじゃないか」

「どうしてデイジーに新しい服を仕立ててあげないんですの?」

「好きなものを仕立てるだろう」


「誰が、デイジーに、服を仕立ててあげるんですの?」

「仕立て屋だろう?」

「誰が仕立て屋を呼ぶんですの?」

「使用人が呼ぶだろう」

「誰が使用人に指示を出しますの?」

「母親がやるだろう」

「母親?」


 エンフィールド公爵夫人だった私の母は、私が十歳のときに流行り病で他界しました。

 以来、我がエンフィールド公爵家には女主人がいません。

 親族たちは父に再婚を勧めましたが、父は再婚を拒否して現在に至ります。


「デイジーのお母君ですか?」


 私の母は故人ですので、この会話で母親といえば、デイジーの母しか思い当たりません。


「そうだ」

「デイジーのお母君も我が家にいらしているんですの?」


 王都のエンフィールド公爵邸はそこそこの広さがあります。

 客人が滞在していても、私が会おうと思わなければ、顔を合わせることはありません。


 そもそも父と顔を合わせることが稀ですから。


「うむ。デイジー一人では不安だろうからな。母親も一緒に来てもらった」

「デイジーのお母君は、平民でいらっしゃるのよね」

「ああ、そうだ。不服かね?」


「たとえ平民でも、お父様のお客様であれば、一人や二人や十人くらい、いくらでも滞在なさっていただいて結構ですけれど。でも、お父様……」


 私は父を見据えて言いました。


「平民のお母君に、デイジーの支度が整えられますの?」

「支度くらいできるだろう」

「デイジーは服の一枚も仕立ててもらっていなかったんですのよ?」

「ははは……。リナリア、私をかついでいるのかね?」


 父は『その手には乗らないぞ』とでも言いたげに、余裕の笑みを浮かべました。


「服くらい、いくらでも仕立てられるだろう。カトレアだって服を着ているんだぞ?」


 いきなり、知らない女性の名が出てきました。


「お父様、カトレアさんとは、どなたですか?」

「デイジーの母親だ。カトレアは今までデイジーの世話をしていたんだ。出来るに決まっているだろう」

「それが出来ていなかったから、こうしてお父様とお話をしているのです」

「……!」


 父は目を丸くして、私に問い掛けました。


「何か問題があったのかね?」

「問題、大有りですわ」

「だが服くらい、使用人に任せればいいことだろう」

「それが出来ていないから、こうしてお父様に申し上げているのです」

「使用人に命令するくらい、誰にでもできるだろう」

「私は淑女教育で家政を習っていますが、使用人に指示を出すのも結構面倒なんですのよ」

「リナリアは頑張っているのだね」

「ええ、おかげさまで。でも今はデイジーのことです」


 私は父にはっきり言いました。


「お父様がデイジーになさっていることは、虐待ですわ」

「虐待などしていない。ちゃんと優しくしている」

「ねえ、お父様、デイジーの家庭教師をクビにしたと聞きましたが、どうしてそんなことをなさったんですの?」

「厳しすぎるとデイジーが言ったからだ」

「その後、新しい家庭教師を雇ったんですの?」

「雇っているのではないかね?」

「指示は出しましたの?」


「……」


「お父様?」


「……出した気もするが……出さなかった気もする……」


「もう! これだから!」


「だが、だが、リナリア、誰かが手配してくれているだろう?」


「デイジーが嫌がったら使用人は強く言えませんわ。デイジーはこの家の娘になったのですもの。使用人よりデイジーのほうが立場が上なのです。お父様が指示を出していなければ、デイジーの我儘が通ってしまうのです」

「我儘くらい、聞いてやれば良いじゃないか」

「それが虐待なのです」

「な、何故だね……?!」

「我儘にふるまって、恥をかくのはデイジーですから、デイジーが悲しい思いをするのですよ? お父様はデイジーを虐めたいんですの?」

「そ、そんなことはない!」

「娘に充分な教育を与えられなければ、家の恥にもなりますのよ。娘に十分な教育を与えない、酷い親だと、皆に言われますわよ?」

「な、何故?!」

「デイジーが教育を受ける機会を、お父様が奪ったからです」

「どうすれば良いんだ!」


 あたふたしはじめた父に、私は言いました。


「私がデイジーを教育します。デイジーのことは私に任せていただけませんか?」

「リナリアに任せる」

「引き受けました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
おま、公爵、アホだったんか!!(まあ主人公に断りなく平民の愛人を本邸に招き入れるあたりからアレですが) 領地経営とか政略とかの能力にステータス全振りなのでしょうか?娘に土下座しなされ…
あ〜〜〜家のことわからない父親あるある過ぎて……!! リナリアの母親は貴族の生活がなんたるかをまるで知らないのだから家の奥向のことなんかわからないよね〜〜子供の教育に何が必要で何を求められているのかも…
短編版から楽しく読ませていただいています。 父がよくある差別型とかじゃなくて愛情はあっても単に家政では役に立たんタイプだったの面白すぎですね。続きも楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ