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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第四章:死闘オルドフェルム
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第10話:アーギルの戦士【中編】

「バルドリク、グレイ。出ろ」


 衛兵から告げられた突然の言葉。

 変わらぬ幽閉の日々を過ごしていた二人の戦士にとって、この言葉はまさに青天の霹靂だった。

 意味が分からず、グレイは首を傾げ口をあんぐりと開いている。


「はぁ?」

「いいから出ろ」

「……どういうことだ?」


 警戒するバルドリクの質問を無視し、衛兵は淡々と檻を解放していく。


 試合が決まった可能性を考慮するバルドリクであったが、それはないだろうと高を括った。

 なぜなら、一度だけ行われた試合でグレイが、対戦相手を圧倒的な実力差で惨殺したからだ。ロヴァニア人との試合は考えられない。


(我ら二人を同時に出房……私とグレイを戦わせる気か?)


 だが、この考えもすぐに消えた。

 バルドリクの鉄輪は初期の二つだが、グレイは一つ。もしバルドリクが降参すれば、グレイの鉄輪は無くなり自由となる。そのような結果を、貴族が望むはずがない。


「隊長いきましょう〜。出ろって言ってますし」

「あぁ……」


 思案するバルドリクを急かし、グレイは気だるそうに衛兵の後を付いていく。

 何かが起ころうとしている……そんな予感に胸をざわつかせながら、バルドリクも後に続き歩き始めた──。



 ★   ★    ★



 衛兵に案内された通路──バルドリクにとっては初めて通る道だが、グレイには覚えがありボソリと呟く。


「闘技場の入場ゲートじゃんか」

「なに?」


「そのまま進め」


 そう言い残し、衛兵は歩を止めた。

 訝しみながらも、言われるままに闘技場へと進んでいく。


 久しく感じていなかった太陽の光。その明るさに似つかわしくないほど、闘技場は静寂に包まれていた。

 観客が一人もいない異様な静けさ、そして──


「やぁやぁ。お待ちしていましたよ」


 手を広げ、友好的な雰囲気を纏いながらこちらへ歩いてくる恰幅の良い男。そしてその後ろを、老齢の執事が追従している。


「わたくしの名はガリノミア・レイス。そして、こちらが執事のミルタンです」


 その身なりから、ガリノミアが上流階級の人間であることは容易に想像できた。

 バルドリクは思考を巡らすが、憎むべき敵の出現にグレイは不快感をあらわにしている。


「おい、おっさん。俺らになんの用だよ?」

「実は、貴方たちと取引をしたいと思いましてね」

 

「取引だと?」

「えぇ、実は──」


 バルドリクの問にガリノミアが答えようとするが、それを遮るようにグレイが前へ躍り出る。

 パキパキと指を鳴らし、明らかな殺意をガリノミアへと向けている。


「お前らロヴァニア人と取引なんかするわけねぇだろ。とはいえ、せっかく闘技場に来たんだ。ついでに死んでいけや」

「グレイ、待てッ」


「隊長、こいつらは口先ばっかのクズ共だ。何が戦いの国だ、ぶくぶく太りやがって……ひき肉にしてやるぜッ」


 ロヴァニア帝国の在り方を嫌悪するグレイにとって、ガリノミアの容姿は殺意を増幅させるに十分な理由だった。

 主の危機に、後ろに控えていたミルタンがグレイと対峙する。



「ジジィのゴーレムがいるとは驚きだぜ。ま、自分じゃ戦えねぇクズにはお似合いだがな」


 皮肉を込めたグレイの挑発に、ミルタンの眼が鈍く光る。一触即発の状況……だが、ガリノミアは穏やかにミルタンの肩を叩き、自らが前へと躍り出るのであった。


「ミルタン。どうやら、彼はわたくしをご所望のようです」

「御主人様、よろしいのですか? 」


 闘技場での殺人は不問に処す。対峙した時点で、それはもう決闘なのだ。この免罪の場では、公爵という地位に守られることもない。

 だが、ガリノミアは全てが狙い通りだと言わんばかりに、笑みを浮かべている。


「だからこそ闘技場を場に選んだのですよ。下がっていてください」


 主人の命に従い、ミルタンが大人しく後方へと引き下がる。

 挑発したとはいえ、これはグレイにとっても予想外の出来事だった。無言のままに首を傾げる。


「できるだけ早く商談に移りたいのです。すぐに始めましょうか」


 まるで物怖じしないガリノミアに違和感を覚えながらも、グレイはこれを絶好の機会と捉え、腰を落とし構えをとった。

 

(このデブが特権階級なのは間違いない。なら半殺しにして、カティナ様の交換材料にしてやるぜッ!!)


 次の瞬間、飛び出したグレイが、その強靭な指でガリノミアを引き裂こうと振り上げる。放たれた獣爪の如き攻撃が、ガリノミアの顔面へと襲いかかる。



 ……だが、その攻撃をガリノミアは最小限の動きで躱した。そして──


「がッ……ッ……!?」


 肉厚な拳が、グレイの腹部へとめり込んでいた。そして、前のめりとなったグレイの後頭部を掴み取り、そのまま勢いよく地へ叩きつける。

 それと同時に左腕の関節を極められ、ガリノミアの膝が背を押さえつけている。

 


「貴方は勘違いをしています。堕落し、加護は薄れ、かつての力は見る影も無くなった。ですが、それでもなお……『ロヴァニア帝国は大国』なのですよ」

「くッ……」


「アーギル紋は強力ですが、弱点もあります。丹田や脊髄といった魔力が集約する箇所に打撃を受けると、一時的に麻痺状態となる。特に貴方のような、身体と紋が一体化していない若者はね」

「お、おっさん……何もんだよッ」


「ただのしがない公爵ですよ」

 

 拘束を解き、立ち上がったガリノミアは疲弊した表情で溜息をつき、噴き出た汗をハンカチで拭っている。

 解放されたグレイは即座に立ち上がり構え直した。その様相に、ダメージは感じられない。


「貴方から油断と慢心は消え去り、わたくしはこの有様です。次に戦えば、わたくしは負けるでしょう。さて、続きをご所望ですかな?」


 あくまで紳士的な態度に、グレイは苛立ちを隠せず歯を鳴らした。だがすぐに、腕を下ろし不機嫌なまま顔を背ける。


「……いや、いい。おっさんの勝ちだ」


 このグレイの言葉に、ガリノミアは満面の笑みとなり手を打ち鳴らした。


「ほっほっほ。勝敗の如何に関わらず、戦いの結果は素直に受け入れる。貴方は実に『ロヴァニア的』ですよ」


 ロヴァニアの公爵として賛辞を送り、ガリノミアはバルドリクと視線を交わした。

 バルドリクに交戦の意思はない。静かにガリノミアへと歩み寄り──


「話を聞きたい」

「かしこまりました。では、商談を始めましょう──」

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