第7話:同盟成立
ミルタンさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ぼくとプリ姉はガリさんが来るのを待っていた。
『手を組む』……その返答をしなければならない。
ぼくは皇帝になる。
ミレイアを生き返らせる為に。プリ姉に特ダネを提供する為に。
だから──
「いやはや、お待たせしております」
柔和な表情で入室してきたガリさん。ぼくと目が合うと、少しだけ驚いた表情をしてから、にっこりと微笑んだ。
「ほっほっほ。ドレイク殿、たった一日で随分凛々しくなられましたな」
ぼくの心境の変化が、表情に出てしまっているのだろうか。ガリさんには、ぼくがこれから言おうとしている応えが分かっているのかもしれない。
「ガリさん、ぼくは皇帝を目指します。だから、お願いします。ぼくに力を貸してください!」
「同盟成立ですな。このガリノミア・レイス、全身全霊でドレイク殿をお支えする事を誓いましょう」
固く、そして熱い握手を交わす。ガリさんの手から伝わってくる熱が、先程の言葉が全て真実なのだと教えてくれる。
皇帝によって滅びゆくロヴァニア帝国。その中で、国を救うために立ち上がった愛国の公爵。
先の見えない戦いの中で、これほどまでに頼もしい仲間ができたことが本当に嬉しかった。
「ところでさぁ、もしドレーくんが断ってたら、ガリ公はどうするつもりだったの?」
「ほっほっほ。沈むと分かっている船に乗り続けるのはごめんですからな。国外に逃げる手筈は、既に整えてありますよ」
「愛国心とかないんかい!!」
うん、頼もしい。
今の言葉もきっと本心なのだろう。
決して誤魔化すことをしない、偽りのない言葉。だからこそ──
「ガリさん。ぼくに何が起きたのか……それを全てお話ししたいと思います」
☆ ☆ ☆
「……なんと、まさかそんなことが。いや……なぜ敗れたはずの貴方が生きているのか。それを考えれば、今の話で全て合点がいきます」
ぼくは包み隠さず、全ての事をガリさんに話した。
「かつて呪術書において、肉体と魂が万全であれば死者の復活も夢ではないと見たことがありますが……いやはや、神の御業と言うほかありませんな」
神との邂逅、契約、そして復活。にわかには信じ難い出来事ばかりだけど、ガリさんは納得してくれたようだ。
「我らが守護神タイロスとの契約。それは、もはや神託と言っても過言ではありません。ドレイク殿、貴方には是が非にでも皇帝の座に就いていただかねば」
今のガリさんの言葉に、少し違和感を覚えた。
まるで、当事者ではないような……。
「あの、神託って……」
「神には、神託を執行する代行者が一人いるのです。さしずめ、ドレイク殿がタイロス神の神託者なのかと思いましてな」
「ガリさん。あなたが、タイロス神の神託者じゃないんですか?」
ぼくの言葉に、ガリさんは目をギョッと見開いた。そして手と共に激しく首を振るのだった。
「め、滅相もない! わたくしは、ただのしがない公爵でしてッ」
しがない公爵がいるのかという疑問はさておき、ガリさんの慌てようは本物だ。嘘をついているようには見えない。
プリ姉もそう感じているのか、黙ってぼくたちの会話を聞いている。
「ぼくは、てっきりガリさんが神託者なのかと……」
「そう思っていただけたのは光栄の至りですが、わたくしはそのような大人物ではありません。他の大国には、堂々たる神託者が名を連ねています。ですが……」
ガリさんが、この後に発した言葉。
それは……このロヴァニア帝国に渦巻く陰謀を露呈させる、真に迫った言葉だった。
「はたして、タイロス神の神託者は存在するのでしょうか?」
「……え?」
「わたくしには、そうとしか考えられないのです。此度の騒動、タイロス神はかつてのロヴァニアを取り戻す為に、ドレイク殿と契約を結んだ。そうでしたな?」
「はい、その通りです」
「そこに疑問が生じるのです。今のロヴァニアは、タイロス神の望む姿ではない。では何故、神託者は何も行動を起こさなかったのでしょうか?」
……確かに。
神の望む国を創る。それが神託者の存在意義なのだとしたら、そこに矛盾が生じてくる。
でもタイロス神は、神託者は既に存在するから、ぼくは神託者になれないと言っていた。
そこに嘘をつく意味は?
タイロス神には、何か別の目的があるのだろうか?
「プリメッタ嬢、貴女はどう思われますか?」
「こればっかりはタイちゃんに聞いてみないとね〜。でもね、前にルジーちゃんが言ってたよぉ」
「ルジーちゃんとは?」
「アタイの親友だよぉ。神様ってのは利己的な存在で、自分の存在を保つ為なら、子供でも犠牲にするクソ野郎の集まり。ってね」
「じ、実に信心深いご友人ですな……」
ルジーちゃんの言葉が、妙に胸に引っかかった。
神様という存在が、もし本当に利己的な存在なのだとしたら、その思惑の中で、ぼくたちは何を選ばされているのだろう。
タイロス神が何を望み、何を見据えているのか。
今のぼくには、まだ分からない。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
ぼくにはもう、『皇帝を目指す』という道しか残されていない。
この選択が、どんな未来へ繋がっていくのか。
その答えを知るのは、きっと──ずっと先のことだ。




