第4話:真・朝ご飯!【後編】
「このドレッシング、材料はなんでしょう?」
「恐らく人参ではないかと」
サラダにかけられたオレンジ色のドレッシング。その正体をミルタンさんと予想し合っていた。
まぁ、ぼくは全然分かんないんだけど。
優しい甘みとビネガーの酸味、そしてスパイスのピリリとした辛味がアクセントになっている。それがシャキシャキとした野菜の食感と合わさり、手が止まらない。
……つまり、とても美味しいってこと!
スープに続いてサラダもあっという間に完食してしまった。でも、食べる前よりお腹が空いた気がする。
「はーい! 焼きたてパンのサンドウィッチだよぉ!」
こちらの心境を全て見透かしたかのような登場。部屋中に満ちていくパンの香りに、前のめりになってお皿を覗き込んでしまう。
「中身はレタスとハム、それにチーズだけの簡単なサンドウィッチだけど、おかわりもあるからいっぱい食べてね!」
「このパン、プリ姉が焼いたの?」
「くっふっふ、あたぼうよ! 明け方に仕込んでおいたのさ!」
明け方から朝ご飯の準備をしてくれてたなんて……しかも、お風呂まで沸かしてくれてたんだ。
とてもこのサンドウィッチを『簡単』だなんて言えない。心していただかないと。
──サクッ
表面はさっくり、中はしっとり。バターの風味と表面に僅かにかけられた塩が、小麦の甘みと香りを最大限に引き出している。
シャッキリとしたレタスに、少し厚めに切られたハムの肉肉しさ、チーズのコク。まさに食感と味のハーモニー! そしてマスタードに加えられた蜂蜜の甘みが、このサンドウィッチの格を更に数段階引き上げていますぞ!!
……って、ミルタンさんが吠えていた。
ぼくにはミルタンさんのような感想は言えない。
でも、このサンドウィッチは──
「こんな美味しいものが……世の中にはあったんだね」
あまりの美味しさに涙が出てきた。プリ姉が苦労して作ってくれたことも相まって、感動もひとしおだ。
「も〜大袈裟なんだから! さ、いっぱい食べてね!」
嬉しそうに微笑むプリ姉を見て、ぼくも顔が綻んでしまう。お言葉に甘えて、ぼくたちは絶品サンドウィッチを心ゆくまで堪能した──。
☆
「「ご馳走様でした」」
「はーい! よろしおあがりー!」
結局、プリ姉が多めに用意してくれたサンドウィッチは全て食べきってしまった。デザートには、うさぎリンゴにヨーグルトの蜂蜜がけ。
身も心も満たされるとは、まさにこの事だ。
そんな中、ミルタンさんの表情は明るくない。食事中はあんなに盛り上がっていたのに、今は少しシュンとしている。
……ただ、その理由はなんとなくだけど予想できた。
昨日、プリ姉には大不評だったロヴァニア料理。きっと、ミルタンさんが手掛けた料理もあったのだと思う。
不評だった上に、プリ姉が作ってくれたご飯があまりにも美味しくて、きっと不甲斐ない気持ちでいっぱいなんじゃないかな。
ミルタンさん、プリ姉と凄く仲がいいから。だからこそ、余計に気にしてるのかも。
ミルタンさんが食後に淹れてくれた紅茶は凄く美味しくて、プリ姉も堪能していたから気にする必要はないと思うのだけど──
「ねぇねぇ、ミルちゃん」
「……あ……は、はい。なんでございましょう?」
「アタイ、飲み物用意するの忘れちゃってさぁ」
「はい」
「昨日、ミルちゃんが淹れてくれた紅茶……凄く美味しかった。だから──」
「え……」
「食後は、ミルちゃんの紅茶が飲みたいな!」
ぷるぷると肩を震わせ、目端には涙を浮かべて鼻を赤くするミルタンさん。
おもむろに立ち上がり、敬礼の如く胸に手を添える。
「お任せ下さい! すぐに淹れて参ります!」
足早に、けれど決して走らず、生き生きとした足取りでミルタンさんは厨房へと向かって行く。
ミルタンさんを笑顔で見送り、プリ姉は満足気に食器を片し始めた。
「さぁさぁ、紅茶が来る前に洗い物も済ませちゃおうかな」
「あ、ぼくが片付けるよ」
洗い物くらいできるはずだ。やったことないけど。
洗い物くらいしないとね。自信ないけど。
「いーの。ドレーくんが綺麗に食べてくれたお皿を片付けながら、次は何を作ってあげようか考えるんだから!」
プリ姉の優しさに胸が熱くなる。なんだか痛いくらいだ。
「昨日、いっぱい雑誌持ってきたからさ。それでも読んで待ってて!」
「うん。ありがとう」
ここはプリ姉の言葉に甘えることにしよう。
昨日、プリ姉が持ってきてくれた雑誌の数々。色んな種類の雑誌の中で、一際異彩を放つ分厚い雑誌。
……雑誌というより事典だね。
何故かその事典が異様に気になって、まるで誘われるように手に取り、ぼくはパラパラとページをめくり始めた──。




